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フェンリルの挽歌~狼はそれでも狩りがしたい~  作者: 火魔人隊隊長
森の追跡者の輪舞曲
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19話 ――Get Ready――

前回のあらすじ:脅迫という名の交渉。毛根狙うのはやめて……

 いつもなら赤く燃えるだけの俺の炎が、不定期に爆発を繰り返しながら青白く燃え上がる。


 これはいつもの倍のリスクを払う代わりに強化された、切り札。少しだが、身体能力も上がる。強敵と張り合う為のものとして、開発した。

 少しづつだが、自分の体を焼き始める。


「そんなんで強くなったと思うなよ、ガキィ!いつもの氷の方がつええんだろ?そっちで来いよ!」

 真面目に相手してもらえていたと思っているらしいDQN。お前如き、真面目にやってやるほどの価値あると思ってんの?

 そのガキに手をひねられて泣いていた、赤子の癖に。


「――マグマドライブ――」

 言葉をかけてやることすら意味がない。奴らには攻撃で応えてやることにする。

 俺のまわりに出来上がった炎の球、計10個。それを一気に大精霊が飛ばし続ける。

 絶えることはない榴弾の速射砲。今までは焼け野原はまずいと影響を考えて、使用を抑えていたが、今はそれは気にしない。秒間10発の火球が奴らに降り注ぐ。

 同時、彼らの周りの植物が爆発し、炎上する。


「ちょっと、なにこれ!?一個はファイヤーボールより弱いけど、こんなに連続で撃つ術式なんて聞いたことない!」

 偽魔導士、お前の世界が狭いだけだろう?あるんだよ、実際に。


 しかし、対策は考えていたようだ。どれだけ火球を撃っても、防がれ、そらされている。結界らしい。戦う前にかけていたようだ。


「はっ、この程度なら!おりゃああ!」

 飛びながら兜割を狙うDQN。バカみたいに空中に飛んで突っ込むと、足をすくわれるぞ?


「アイスシールド、ストラクタイト」

「ガバッ!ゲェ……」

 突然現れた氷の盾に顔面から突っ込み、体勢を崩した所で、下から鍾乳石のような氷の槍が突き上げ、鎧の背面をへこませる。

 当然、空中で崩した体勢からの復帰は難しい。


「インフェルノ!」

 一気に接近し、全マナを注いだ一撃を鳩尾に打ち込む。不思議と流される感覚と、反射する感覚があった。

 恐らくそれが奴らの結界だろう。爆炎の影響と周りの燃えてる炎を大精霊が回収し、マナを回復させる。


「ゴボッ……」

 DQNが血を吐いたようだ。

 ざまあねぇ……しかし、産廃どもと違って体が吹っ飛ばなかったのは誉めてやる。鎧は砕けたみたいだがな。


「嘘、リフレクションとマジックコート、流体結界まで組み合わせてこれ?」

「中に溶けた鎧が飛び散って……ウソ……」


 魔導士は自分の防御が破られたこと、僧侶は症状が信じられない様子だ。一方、弓士はというと、

「よくもケンジをぉ!」

 槍を振るって突進してきた。めんどくせぇ。

 いつものヘタな弓と違ってマシな動きをしている。こっちが本職か?訳分からんが、笑える。


「アイスエッジ、ソードダンス!」

 普段なら単一属性の “点火” 。

 しかし、現在の強化状態 ”Ready” であったら、全てが使える状態になる。だから、氷の盾や剣も使えるわけだ。

 複合状態であるが為に、リスクが倍に上昇する。だが、故に使える技は多岐に渡る。


「クオッ!ちっくしょう……なんだこれ!」

 勝手に振るわれる氷の刃に苦戦しているようで悪いが、それで終わらせてやらない。俺にはこれもある。


「陽炎、影法師」

 陽炎で俺の姿が消え、複数の俺の偽物、『影法師』が現れる。

 全員で鉈を抜き、一気に駆け寄る。幻覚でかく乱している上に、どこに俺がいるか分かっても、氷の刃を無視する訳にもいかない。

 その間にも、そこかしこから火球が現れ奴らに牽制を打ち込む。


「ぐっそ、ふざけやがって!」

「やめてっ、もうだめぇ!」

 僧侶が回復させたのだろう、DQNがバリスタを構え、打ち込む。打ち込んだ先の俺の分身が炎となって消え、また違う場所から現れる。


「クソ、手伝え!」

 なんとか剣10本を抑えていた弓士は、槍を構え直しながら下がった。


「ストームウォール!これなら!」

 どうにかなると思っているのか?奴らのまわりに竜巻が起き壁になる。

 それに巻き込まれた影法師がかき消され、氷の剣が砕け、吹き飛んで地面に突き刺さる。火球ももみ消されるが、奴らの動きも封じられた。


「アイスフィールド!」

 地面に氷が侵食する。奴らの防壁は風。つまり、地面の下には効果がない。

 凍った地面から、

「「「あ゛あ゛あ゛あ゛!」」」

 氷の刃や槍が突き出たら、逃げられない。

 それで終わらせてやるものか。今回は氷像じゃない、その理由を教えてやる。まだ仕込みが残ってる。


「エクステンション――ツンドラ!」

 突き出た氷の刃と槍から、さらに棘が伸びるように氷が突き出し、奴らを串刺しにする。同時、更に悲鳴が上がった。

 これで動きはほぼ止まっただろう。風の防壁も弱まってきた。俺もそろそろ肌のやけどの痛みがきつくなってきたが。


「クッソ!」

 氷の棘に突き刺さってほとんど動けないDQNがバリスタを放ってきた。俺の右足を貫いたようだ。少しは根性あるじゃないか。褒めてやるよ。無駄だがな。


「ソードダンス」

 9本の氷の刃が結界の内側に躍り出て、奴らを切り刻む。ついでだ。


「ストラクタイト、エクステンション」

 男2人の「シンボル」に鍾乳石が突き刺さり、氷が「部位」に浸食して

「…………クラッシュ」

 砕け散る。

 喜べ、男ども。これでお前らは宦官になった。急所じゃなくなったぞ?声にならない声が上がった気がするが、気にしない。


 そろそろ仕込みも完成したようだ。ちょうどいい。体中の痛みが激しくなってきた頃合いだ。

 地響きと共に、風の防壁が完全に消失した。


「な、何?」

 魔導士は声を震わせながら言った。そうだろうな、地震に慣れてる日本人とかならともかく、慣れていない地域の人には、地面の揺れはこの世の終わりのような感覚ともいわれる。

 実際に、お前らは終わると思うがな?


「お前ら、どこで戦ってたか、分かっているのか?」

 ここで謎解きをしてやろう。ミステリーじゃないけど。そもそもそんなむつかしいこと、考えられもしないし。


「そこの森の開けた場所、その先は崖だ。

 そしてお前らを襲ってる刃。一本減ってたのに気づいたか?その刃が地中に斜角70度で氷の壁を生成。

 半面すぐ傍で俺の炎も、同じ角度で地面に浸食している。土の一部は、ドロドロに溶けているだろうな?木の根も焼切ってるはずだ。

 熱での、『クラフトマジック』って言ったっけ?得意なんだよ、俺。コッソリ伸ばしてたのに気づいたか?


 さて、問題。片や全てが凍り付くほどの冷気の壁、片や土を溶かすほどの熱気の流れ。

 これが地中で斜めに隣り合わせで存在すると、何が起きると思う?」


 地中にも少量ながら、水分は含まれる。それがいきなり凍り付いたり蒸発したり、なんてしたら。

 起きるだろう事は急激な温度変化による爆発、振動、ズレ。それが地響きの原因。

 木の根は焼切られる。氷の壁は少し表面が溶ける。氷の浸食は河に向かって、下がっている。その上にはドロドロに溶けた地面。

 程よく滑るだろう。上にある地面ごと、な。


「後、教えておいてやる。そこの崖の下は河だ。運が良ければ、生き残れる。そうなることを祈りな」


 直後、地響きが止み、崩れ始めた。氷の大地を解除する。このまま奴らは土砂と共に、河へ落ちていく。


「チックショー!」

 DQNがわめく中、俺は踵を返して駆け出し、崩壊から免れる。

 直後、脇腹と臀部に衝撃が走り、俺の背負っていた鉈とポシェット、リュックが切り落とされ、くくっていた弓矢と共に、崩壊に飲まれた。

 どうやらバリスタや魔力の矢を撃たれたらしい。それでも、自分が崩壊に飲まれるわけにはいかない。なので、走り続けた。


 彼らは、100mはあるのではないかという谷河に、落ちていく。それを見ながら、腕から生えている氷の爪を切り離し、河へと落とす。ある魔術を込めて。


「ぶはあああっ!」

 崩壊が止まり、土砂に巻き込まれず、運良く生き残ったらしい4人。しかし、運は画策された作戦の元には意味をなさない。

 元々、この辺りで考えていた作戦の想定の結果だ。規模は小さいが、実験もしていたのだ。


「良く生き残れたじゃないか。もっとも、それが意味を成すとは限らないがな?」

 俺は崖の上の岩から声をかける。


「何を言って……?ん!?」

 俺の言葉の意味を、反論の間に気付いたらしい。

 そりゃそうだ。奴らには既に、氷がまとわりついているのだから。

 奴らの周り、川の端から端までの一帯を、無期限で凍らせた。解除だけでも少し苦労するだろう。

 巨大な氷塊と土砂崩れにせき止められた水は、段々溜まっていき、溢れる。山に降った雪や雨で増水しているんだから、当たり前だろう。


「お前らを溺れさせるには充分だろう。己の罪を理解して、水底に沈みな」

 水死という、死刑を執行する。


「ちくしょー!これで勝ったと思うなよ?!」

 ちっちぇえなぁ、DQN。


「子供相手に、勝ったも負けたもあるのか?挑んだ時点で、お前らの負けは確定してたんだよ。

 まして、イタズラで散々やられてたやつらが何を言ってんだ、ゴミども?」


 大人気ない事、この上ない。この程度のゴミには解らないだろう。所詮産廃どもと同じレベルなんだから。


「ちぐ、ゴボゴブァ――――」

 それ以降、彼らの声は聞こえなかった。


 俺はそれを確認し、失ったものと、体中を這う痛み、そして、恐らく訪れる「ソレ」を理解して、


「WOWOWOWOOOOOOOOOOOOOOW!!」


 勝鬨となる、遠吠えを上げる。多分だが、最初で最期の。奴らの撃ったバリスタは、以前かすめただけで命の危機に落とされた。それが3本突き刺さっている。

 恐らくは、ムリだろう。それでも……


「出来れば、最期に……会いたかった…………」

 愛おしい、会いたいあの人を想い。

 自分を愛してくれた、あの人達を思い返し。

 涙を流しながら、アジトに向かう。


 第6アジトは、すぐそこだ。ほとんど時間はかからない……はずだ。本当は、俺はできれば、戦いたくなんて、なかったんだ。なのに……


「イフリータ、悪い。迷惑かけっぱなしで、何もできなかった」

――そんなことない。アンタは頑張った。頑張ったよ――


 大精霊は、最期まで、俺の味方でいてくれた。これは前世と違うものだ。

 それでも、やはり前世と同じものもある。大精霊を除けば、俺の人生は孤独で終わるのだ。


 おれはやはり、そうなのだ。


 一匹オオカミは、世で言う程、カッコいいものなんかじゃない。

 群れから追い出された、ただの弱者。ヒトから疎まれ、蔑まれ、嫌われる。

 ただの負け犬と同じ。


 俺は……野良犬。


――――――――――――――――――――――――――――――――


 生きるのも、辛い。

 死にたいわけじゃ、ない。

 でも、息をするのも辛い。


 それでも、運が良ければ生きられるかもしれない。もし生きられれば……いや、それはもう、無い。自分で判る。

 もう、もたない。


 ようやく、本当にようやくたどり着いた。俺のアジト。


 もう、ここで誰にも知られず、終わりの時を迎えよう。

 そう思いながら、水が流れる洞窟に足を踏み入れた。


「ちょっと、何これぇ!?ホントおいしいんだけど!」

「エリナ、ダメだって。これは……」

「でも、ご飯無くなっちゃったし、我慢できないよぉ!」


「…………は?」

「え……」

「あ……」


 エルフの2人。何故、ここにいる?


 ようやく、俺は帰って来たのに。意識も朦朧として、体の痛みも限界で、体温は大精霊が保ってくれているはずなのに、寒さに震えて、血が流れすぎているのに。


 なんで、ここにいる?

 それにそこにあるのは、


「おれの、――――肉……」

 干し肉、ベーコン、ソーセージ。それは…………。


 膝が折れて地につき、水飛沫をあげた。足元は、水が流れていてそれなりの深さがある。


「なん、で…………」

 涙が、頬を伝う。それは、大事な――――。


「あ、これは、その……ちがくってね?」

「待って、エリナ。様子がおかしい」

 慌てる金髪を制して、俺を見ているプラチナブロンド。この2人には勝てない……いや、そんなの、どうでもいい。


 ――――もう、無いんだ。


「あ………………」

 もう、これ以上は、ムリだ。

 苦しすぎる。


 そうだ。それがいい。そうしよう。

 ポケットに入っていた、ナイフを震える手で何とか掴む。


「もう、死にたい」


 そうだ。死のう。それが、一番、良い。自分で終わらせよう。


 愛してくれた母さん、ごめんなさい。だいすきって言ってくれた姉弟、元気でやれよ。父さん、ゴメン。ナイフ、間違った使い方するよ。

 でも、もう無理だ。それに――――


 震える手で、俺はナイフを首に当てた。


 しかし、もう手に力が入らなくなったらしい。ナイフを取り落とした。俺は首を切れなかった。

 ……でも、それも関係ない。


 俺は力なく前のめりに倒れ、足元に広がっていた水の中に倒れ込んだ。俺の意識は、体と共に、水中へと沈んでいった。


 もう、目覚めなくていい。それが、俺の意識の最後の、心からの言葉だ。誰にも、あの人にも伝わらなくて、良いんだ。


 それが、一番、良いんだ。きっと。


 書いてて思った。ほんとにこれで土砂崩れするのか?実験……うん、できないね。地面を溶かすってのがまず無理。実験できない。空想は化学じゃないね。

 あと、2章も完成したので投稿予約しました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今回の展開マジで好き 自分が守ろう、保護しようとしてたのに、自分のせいで主人公にとどめさすのが好きすぎる 今までのクソな登場人物達にイラついてたけど今回のが好きすぎてもうなんか最高
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