16話 That’s dumb
前回のあらすじ:チーターの速さは伊達じゃなかった。ここ、森……なのに
どれくらい時間が経ったろう?
目も意識もかすんで、感覚が判らない。今、昼だという事だけが判る。天候どしゃ降りか?口に少し、肉が残ってる。角煮だ。仕方ない。食べたくないけど、食べなければ死んでしまう。死んでしまえば、会いたい人に、会えない……本当はずっと一緒に居たい……
「少しは動けるようになったぁ?」
……誰だ?誰かそばにいるらしい。大精霊、すまないが……。
「その大精霊が顕現してるんだよぉ。本当はこの姿、好きじゃないからあまりやりたくないんだけどね。今のアンタを守るくらいはできるよぉ」
ちらりと、俺の被る革の隙間から覗き見る。どうやら、縮れた長い毛の、筋肉質な女性のようだ。しかもデカすぎる。巨人だ。背筋がすごい。
なるほど。それなら顕現するときに、どこぞのキャラみたいにロリータにでもなりゃいい。
「ロリータって童女?それいいかもねぇ。少し筋肉質でも服装を整えれば判らないだろうねぇ」
……ノリノリだな、そういうこともできるんか。それより、顕現していても、俺と心で会話できんのか。
「今近いからねぇ。でも動かないで。誰か来る。多分アイツら」
あいつら?って一体……
「うひゃああぁぁ!もぉ、ホントひどい雨ぇ。いきなり強くなるんだもん」
「あ、ごめんなさい……雨あがったらすぐ出ていきますのでー」
あ、エルフの2人。
「いや、問題ない。こちらもたまたま通りがかってここに来たまで」
イフリータさんキャラ変わって……違う変えてるのか。ゆるふわっぽい性格が話し方から消えてる。
「あの、見かけない方ですねー。どちらからいらしたんですか?」
ブロンド、話したがりなのか?それとも情報を聞き出すためのフリなのか?
実際、顕現イフリータさんは立ち上がれば2,5mはあるんじゃないかって巨体だからなあ。しかもゴリマッチョ。そりゃ目立つわな。だから嫌なんだろうけど。
「あぁ、確かにぃ。巨人族とかこの辺いないし、珍しいよねぇ」
あ、マジに巨人族いるんだ……ってそれ友好的なの?普通に話してていいの?
「個人的な、修行だ」
え、それ漫画じゃん!格闘漫画じゃん!
「あー、巨人族って修行好きって言いますもんねー。そういう事なんだー」
なんで納得したの、あなたは!
「まあ、まだまだ強くなりたいので」
どこの戦闘民族ですか、イフリータさん?
「でもぉ、力ばかりじゃだめですよぉ?こっちも鍛えないとぉ」
金髪、こいつ大精霊だから。自分の頭指さしてバカにしてるけど、言われるほどじゃないから。
「エリナ、それ、私の事?」
「え、ああ……ちがくってね、そのぉ……」
仲間ディス乙。ブーメラン乙。そう言えばいいのかな、これって?
片やびしょ濡れのドレスアーマーを着たプラチナブロンド。片や全く濡れてないギャル服の金髪。
……ってお前濡れてないならなんで雨宿りしてるの?へそ出しモモだしで寒いから?そしてなんで仲間にその魔法かけてやらないの?実は仲悪いとか?
「仲間割れは、ダメだろ」
ああ、俺のユルフワな感じのお友達が渋くて漢らしい変身戦闘民族(女)になっていく……話し方も片言になりかけてる…………
「ごめんねぇ、リサぁ」
「もー、エリナったらホント」
なんかしょんぼりしているプラチナブロンドと謝る金髪。なんだ、この2人の関係。実はドロドロ、とかじゃないのか。つまらん。
「もう、雨が上がってきたようだな」
「あ、ホントだー。よかったー」
よしいけ、はよいけ、さっさといけ。
「ところでぇ……この辺でぇ、獣人の子供とかぁ見なかったぁ?」
しつこい金髪。そんなんじゃ嫌われるぞ?もう嫌ってるけど!
「向こうで見た気がするが、それがどうした?」
大精霊様、ウソ……ではないね。DQN達のいた方角だ。少し前にいた場所だもんね。なるほど、彫像に雷撃させるんですね?
「あ、ありがとー!」
「じゃぁねぇ!」
なんだったんだ、あの2人。スコールというかゲリラ豪雨な感じの雨で一気に来て、嵐のように去っていった。
大精霊が顕現していなかったら、いろいろヤバかったかもしれない。ここは巨人族女性の仮宿って事で勝手に納得してたけど、いなければ確実に角煮の残り喰われてた。
「アンタ、心配するところがそこなのぉ?ブレないねぇ」
あ、俺のユルフワお友達帰って来たー、おかえりー。
ってそれは置いといて、段々思考が安定してきたので状況確認。今、倒れてから何日目だ?気を失ってからも意識が戻ったり消えたりしながらなんとか生きてるのは分かっていたが。
「3日。今日で4日目」
で、まだ手足がしびれてるんだが、これはどういうことかね。分かるかい、大精霊?
「毒でしょうねぇ。アタシは解毒とか知らないから、根性で生き延びてねぇ」
精霊が根性論を説くとはこれ如何に?あれからDQN達の動向は?
「ここへは来ていない。制約上、あんたからは一定以上離れられないから、あたしは水汲みくらいしかできないんでねぇ」
制約はよく分からんが、奴らは見える範囲へは入っていない、か。
ならばここは見つかってはいない。むしろ当面ここを安定してねぐらにできるってことだ。いや、エルフ達が来ないとは限らないか。
様子見をして、いつでも逃げられるように支度をしておくべきか。
「だねぇ、いつあいつらが来てもいいようにしておかないと」
とにかく腹減った。角煮頂戴。四の五の言ってられない。角煮全部食ってでも回復して、それからまた肉をとりに行く。
それから俺は2日安静にしていた。結果、干し肉のほとんどを消費して食材の在庫が無くなった。
直ちに回収せねば。ヴァン、いっきまーす!
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「精霊が顕現できるってのも知らなかったけど、まさか、ゴリマッチョ巨人だとはね」
――なによぉ、文句ある?――
俺の発言に元気のない返事。今は普段の光の塊になって、俺のアホ毛に座ってる。座ってる、でいいんだよね?乗ってるんだし。寝そべってないよね?どっちでもいいけど。
「どっちにしても、心強かったのは間違いない。本当に必要だったらまた顕現してもらいたい」
――えー、いやなんだけどぉ――
「そうは言っても必要に迫られれば、四の五の言っていられなくなりますよ。ほら、例えばこのブルーベリー。1人より2人の方が効率よく回収できます。どうです、奥さん?」
――遠慮します――
「ショボーン」
――なぁに、その変顔。ムカつくぅ――
なにはともあれ、俺は全快した。もし、精霊がいなければ、確実に死んでいただろう。これには感謝だ。
ここまでずっと頼りっぱなしになってる気がする。逆に言えば、俺の無力さがひどく感じられる。まだ6歳、いや、もう少ししたら7歳なんだった。この森で生活して1年半経っている。
子供で、森の中で生きるなんてそれだけでも大したもんだと思うが、命狙われながらなんて大人にだって普通は絶対不可能だ。
そう考えればがんばってる方だが。
それ以上に
「大精霊さまさまだな、イフリータ」
――当然。感謝なさぁい――
「だから、顕現……」
――却下――
このお願いは、なかなか通らなさそうだ。
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「で、この惨状はどぉいうわけぇ?」
あたしの前には、いつも通りケンジの姿がある。……いつも通りっていうのは語弊があるかもしれない。
「だから、人狼を殺しに来たんだよ!わかるだろ!」
「あの子は獣人だって何度言ったら分かるの?」
「だから、獣人は人狼だろ?」
これもいつもの通りの返し文句。いい加減うんざりする。でも、今回はいつも通りにはいかなかった。
「おう、それはワイも人狼やから殺すっちゅうことやな、それでええんやな!」
リィン共和国特有の訛りを話す猫系の獣人が、本気で怒っている。けど、状態から言ってあまり怖いとは思えない。
「エリナ、これ、やっぱりあの子がやったのかなー?」
全員地面に座り込んで氷漬け。
しかも以前は時間制限付きだったのに、今回は時間制限がないみたい。全員足も怪我をしている。獣人のヒト以外は踵の上の腱、ね。狙ったのかな。
「多分、ね。術式の形式からして、制限時間はその時に決めるみたい。まぁ、あまり細かく縛っちゃうと自由が利かないからこうしたんでしょうねぇ。
術式に中途半端に時間が書かれてるけど、結ぶ前に途切れてるから、掛けてる最中で何かあってそのまま放ったんでしょ」
「それならバリスタやな、その後いきなり氷が出てきてワイら縛ったんやから。
まさか、こないな事になるとか思わんかったわ。もうこの国に応援よこすの、やめるよう上にかけ合わせてもらうわ」
そうなるでしょうね。その時はこのバカ息子とそのバカ親を縛り上げて吊るすだけだけど、後処理が大変ね。
「これで良し、後30分したら溶けるから」
「は?そんなにかかるんですか?」
青いローブ……ソーリだっけ?がずいぶん驚いている。
「私言ったじゃん。これ無理に割ったりしたら、私達の体どうなるか分からないよって。それであえて時間かけてくれてるの!」
「だからってなんでだよぉ。ああもう、槍ならいつも通り、一気にあんなガキンチョ串刺しなのに!」
理解できているのはマリーって子だけねぇ。それに引き換え。
「ロビン、あんた串刺しってどういうこと?」
多分、いつも通りって言うのも嘘だろうけど。毎回やられてるし。槍使いが弓を持つこと自体おかしいでしょ。
「は?そんなんあのガキンチョ」
「アンタがされたいの?すぐそばのそいつに」
言い訳する弓使いもどきのロビンに、すぐそばの氷像を指さして示唆する。
あの子はこの術式にわざとらしく書き残していた。
「この術式はヒトは首まで、それ以外は頭まで凍らせる術式なんだけど、意味わかる?」
説明すら必要無い筈の事を、わざわざ口に出してやる。
反応したのは嘲笑うようなリィン弁。
「そらつまり、ヒトは殺さんがゴブリンは殺すって事やないか。この状態見て分からんなら、知能はゴブリンと一緒やな」
そう、今彼らはゴブリンの氷像に取り囲まれている。後から来て迂闊に氷に触れて、ゴブリン達も凍ったんだと思う。
アタシ達は凍らないよう、保護用の結界を纏っているから凍らないけど。
彼らは足を切られていることを考えても、凍っていなかったら、死んでいた。もちろんそれは「彼らが凍っていなかったら」だけではなく、「ゴブリンが凍っていなかったら」という意味もなんだけど。
彼らもゴブリンも凍っていなかった場合、足を切られた彼らが取り囲んでいるゴブリンに蹂躙されていたのは目に見えている。男はエサに、女はハラミ袋にされる、っていうのが定石。
生き残るなら、ムリな回復術をやるしかない。そんなことしたら体がどうなるか分からないけど。
「あんたらがここにいるゴブリン、総数48匹殺せるって言うんなら、目をつぶってあげていいけど。それならアタシ達と一緒に動きなさい。できないなら6か月間謹慎です」
半径10mの範囲にひしめいている氷像48体。それだけの数が一度に狙ってきた訳じゃないだろうけど、この数は確実に異常。仕留めた方も、だけどね。
こんな滅茶苦茶に難しい仕組みの現象、高位の魔術師でもできるのは少ない。
触れたものを片っ端から凍らせる。けど、ヒトは氷で覆い、魔物は芯から凍らせる、そんな条件付き。お人好しなのか、なんなのか。
「え!そんな……」
驚くソーリ。謹慎の事でだろうけど、この話は一度さえぎられる。
「これ、違法毒物使ってない?」
リサが足元に落ちてたバリスタの矢を拾いながら言う。それのにおいは独特だからすぐ分かる。
「致死性毒物オルラン、禁止薬物を使用したってだけで、充分でしょ。首にしたっていいのよぉ。そしたらどのギルドでも、冒険者なんて言えなくなるからぁ」
荒くれモノが多い冒険者、なんて言われるけど、犯罪者が多い訳じゃ無い。
荒れていても、決して犯罪はしないのが冒険者で、ヒトの物を盗んだり、頼んでもいない竜殺しをしたからと金をせびって脅したり、有名になったからと女を襲ったりした奴は切り捨てられ、犯罪者になるだけ。
実際そうなるのは、教えても変わらないバカだけなんだけど。
「ふざけるな!俺のオヤジは代行だぞ!偉いんだぞ!」
「アタシも代行よ?文句ある?」
親の威光を振りかざしても、意味がない。それだけじゃ、偉くはなれないよね。貴族とかならまだ、話は別だけど。
「どうせなら、代行の息子じゃなくて『落ちこぼれ貴族の末っ子の息子』って言ったらぁ?」
実際に彼の家柄は地方領主、しかも没落ぎみだもの。しかも親が勘当されている。それで焦っているのかもしれないけど、やり方が間違っている。今なら揉み消してあげられるけど。
「なんやそれ!貴族やさかい、払いはええっちゅうんは嘘かいな!」
この獣人さんは騙されて、いいように使われたみたい。こいつら、資産無いし。散々な結果ね。後でいくらか握らせておかないと。お酒の方がいいかなぁ?何がいいかは後で考えよう。
それにしても、ホントメチャクチャ。嫌になる。
「あんたらの処分は帰ってから正式にギルドから通達します。それまで謹慎。いいわね?」
特別凄んでおく。同時、威圧の為に少し、魔力を展開する。
「逆らおうってんなら、ケンカでも決闘でも買うわよ?あたしに勝てるんなら、だけど?」
「ああ……そう言えば、3大賢者が代行やっとる言うんはあんたの事かいな。こりゃ、どでかい魔力やわぁ。お前ら、おとなしくしときぃ」
ビビッて青くなってる4人に獣人さんは注意してる。ホント、獣人って人格者多いのかな?
あの人もこんな感じがだった気がする……。
タイトルについて、「雑談」と読めるようにしたかったんだけど、適当に翻訳かけていたら出てきました。「それはバカです」という意味らしい。はい、俺ですね知ってますorz




