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フェンリルの挽歌~狼はそれでも狩りがしたい~  作者: 火魔人隊隊長
オオカミのいない日の即興曲
162/430

21話 捜索

前回:――怪しんでいる全員、狼を探し始めた――

 ギルドにて情報収集をする事にはしたものの、誰から聞くのかを、考えなければならない。極秘事項に関わる事柄である。

 先ず、上位の者は知っていたとしても、応えられはしまい。そして、応えるとしても、あまり有益な情報では無い可能性がある。逆に、下位の者は知っている可能性は、先ず無いと言っていい。


「さて、誰に聞きましょうか?内務の者にしても、あまり簡単に、語ってくれそうには思いませんし、信用問題にも関わる可能性もあります」

 ギルドのエントランスに来た段で、エイダが私に小声で訊いてくる。


「ねえ、そんなに気にする必要ってないんじゃないの?だってあいつの居場所を確認するだけだよ?」

 ユータの考える事は、分からなくはない。しかし、そう慢心していられはしない。


「我々の行動は、場合によっては懲罰もされかねない行動であるのは、理解しているのかね?機密に触れれば、如何なる事になるか想像も付かない。

 場合によっては、命の危険すら有り得るのではないか?」

「……え?いつからそうなってたんだよう!」

 一度、酒場の方へ移動する。喧騒の中で小声で話せば、あまり他人には聞こえはしまい。機密事項に関わる事柄であるなら、あまり聞かれる訳にもいかないのである。


「いつってー……さいしょからでしょ?」

「はあああ?!」

 ユータ殿は、全く想像していなかったのやも知れない。しかし、機密になるという事は、場合によっては、知った者の命が狙われる事も有り得る。それ程の危険があるからこそ、機密になる場合も有るのだ。

 即ち、関係の無い者が危険に晒されないように、伏せて居るのである。


 勿論、全てがそうな訳では無い。利益や名誉の為に隠匿をする事は、少なくは無いのである。己が優位性を失わんとするが故に、隠しているだけの事だ。不自然でもなければ、理解できない訳でもない。

 注文を取った後、ユータ殿にこれらを説明する。そして、理解が及んだのか、ユータ殿はテーブルに突っ伏して仕舞った。


「……そんな事を、ぼくらやってたの?それってマズくないか……?」

「一体、如何なる理由で隠しているのかは、判然としていない。そうであっても我々は、彼の安否を知ろうとしていたのだ。

 当然、知られたくないと考える者であれば、命を狙う者も現れよう。しかし、そうだからと言って、退いて良い訳でも無いのだ。彼は、我々にとっては仲間で、街にとっては重要な存在でもあるのだ」

「いや、言いたいことは分からなくないけど……」


 まごついているユータ殿は、事ここに至って、危険に片足を突っ込んでいるという事を、理解したらしい。しかも、ヴァン殿がどこに居るのかを知れば、その危険は、より大きな物となる可能性はある。


「ダントン殿は昨日聞いた限りでは、あまり深く知りそうに無い体で話をしていたが、実際には知って居るのではなかろうか?」

「ワタクシもそう思います。もしやすれば、彼が何か関わっているのかもしれないのでは?」

「え?ぼくにはそんな風に見えなかったけど……」

「ふわー……やっぱりバカには分からないんだー」

「えええ!なんでぼくだけ分からないみたいになってるんだよ?!おかしいだろそれええ!」


 しかし、事実彼だけが、怪しんでいなかったのではなかろうか?少々、ダントン殿は不自然であったのは間違いないのだが、ユータ殿は共に居て、気づく事が出来なかった様だ。


「ハルたちは、先ずダントン殿に当たってくれ。我々は、内務の者達に当たってみよう。明確ではなくとも、何か気になる事があれば、それを全て報告する事。良いだろうか?」

「一体、何を報告するというのだ?昨日も随分ヴァンの事を気にしていたようだが」


 話をしていた処で、ダントン殿が会話に割り込んでくる。いつの間にやら、我々のテーブルの傍に来ていた様である。彼は、昨日に続き、目元にクマを作っている。


「昨日と言い、今日と言い……ちょっと不自然だぞ、お前たち」

「ダントン殿こそ、寝不足でしょうか?最近お疲れの様ですが、休息は足りておりますか?」


 私の言葉に、怪訝な顔つきの彼は、意味が分かっている筈である。そして、我々の行動を不審に思っていると言う事は、我々の事を監視しているのやもしれない。

 事実、直接的に言葉にしていないと云うだけで、彼はこちらの行動を、確かに意識しているのである。遠回しに、自ら語っている訳である。


 その様な事をすると考える理由も、我々がヴァン殿の仲間であるから、と云う事が原因である。ギルドからすれば、彼の存在は重要なだけでなく、要注意人物でもある筈なのだ。彼自身ではなく、社会の中に置いて、なのだが。

 その彼が行方不明になり、かつダントン殿は、連日夜通しで仕事をしているらしいのである。その上で、我々の行動まで意識するのであれば、関係ないでは済まされない。


「おれの体調は気にしなくてもいい。それと、ちゃんと仕事しておけよ?ヴァンも、その事を気にしていたんだからな」

「彼と話したのですか?昨日は会っていないという話ではなかったでしょうか?」

「ん……?ああ、あの後、ちょっとな。それじゃ、俺も仕事上がりだから、部屋に戻るぞ」


 目線を逸らし、泳がせて、頭を掻いている。どう考えても、不自然と言わざるを得ない行動をしている。そして、幾らかこちらを監視している目線を、ギルドに来た時から感じる。やはり、思い過ごしではなさそうだ。


「とにかく、出来る限り情報を集めよう。さあ、行くとしようか」

 話している間に来た食事をかき込んで、分かれて調査を開始する。最も、そうと気取られる事の無いように、気を配らなければならないが。


――――――――――――――――――――――――――――


「こっちは全然調査が進まなかったです……アイツのにおいがする場所が、格子が付いている換気用の窓みたいで、中に入れそうにもないし、その前にある箱が重くて動かせないんです。

 他の場所に道が無いか探すって言ってましたけど……」


 報告の場に来たマリア殿は、この様な内容を話してはいるが、挙動は大袈裟だ。話よりも、そちらの方が、気になってしまう程である。


「フム……こちらも収穫と云う程の物は無い。話を聞いた者達は、ヴァンを見てもいないらしい。内務官の者も、口を揃えている。少なくとも、ダントン殿が少々不審である事は、間違いないのだが……」

「ぼくも一度、ダントンの部屋まで行って聞いてみたんだ。流石に、ヴァンがどんな仕事してるのかを聞くわけじゃないけど、どうして連絡もしないのかって。

 師匠の手紙には、すぐに返事書くアイツが、何も言わないで居なくなるのはおかしいからさ」

「へー……あいつ、筆がマメなの?意外……」

「して、返事はどうであったのだ?」

 聞いてみると言っても、あまり踏み入って話せる訳でもない。そうなると、殆ど答えは決まっている様なものだ。


「やっぱり、話せないの一言で終わったよ……返事を書けない状況なら、ダントンとも会ってられないんじゃないかなって思うんだけどさ……」


 そうなるのが見えているとしても、彼も退くに退けなかったのであろう。しかし、全員前進できていないという報告で、終わってしまった。予想していた事ではあるが、何も無しでは終われない。


「取り敢えず、予定通りにマリアは、我々と行動して欲しい。情報が少しでも集まらねば、先へは進めまい」

「そうですね!頑張りましょう!」

「……リリーが言ってたのが、よく分かる豹変ぶりだよね」

「はあ?!」


 ユータ殿は余計な一言を言った為に、又も豹変した彼女に睨まれている。あまり気にしてばかりもいられないので、私はそのまま踵を返し、ギルドへと足を向ける。

 エイダならば、何か情報を入手しているやも知れない。彼女との会話は、自然と話している中で、気が付けば、誘導をされる事がままあるのだ。彼女の言葉の巧みさは、舌を巻く力量である。


 ギルドへ帰り、エイダ達と合流してみても、あまり情報は無かったらしい。しかし、狩人の部署へ行ってみた事で、ハルが入手した情報を聞いた。関係のある事なのやも知れない。

 その話は、次の集合の時に話す事となった。


「狩りの部署では、ヴァン殿が今までに助けた、獣人の奴隷が多く配置されているらしい。冒険者側よりも、倍程は居るそうだ。最も、裏方ばかりで、あまり表立って仕事をしないそうなのであるが」

「そうなんか……せやけど、それが一体何なん?関係あるんかいな?」

「リリー、これってつまり、今までどこに行ったか分からなかったあの子達が、あそこに居るかもしれないっていう事でしょ?それに、それ以外の人だって、みんな助けられてるっていう事じゃない」

「ヴァンが今まで極秘の仕事って言って、帰ってきた後に奴隷を助ける仕事だった事はあったよ?もしかしたら今回もそうなのかもしれないけど、そうだとしたら手を出しちゃダメなんじゃないかな?」

「そうであろうな。フム……彼がどこに居るかは凡そ分かり、確認は出来ないものの、話に上がらない辺り、流血等はしていないのではないか?そうなれば、直接危険ではないにしても、奴隷などの監視などをしているのやも知れない」

「……せやな。それやったら、あまりこれ以上探らん方がええんやないか?ギルドでも、怪しい目を向けとる奴が、居るんやろ?」


 各自、彼の安否を気にしてはいるのだが、この辺りが限界と思っているのやも知れない。


「一度ギルドに戻り、新しい情報が無いのであれば、今日はこれで一度退くとしよう。ミーシャはアリスと共に帰ってくるという打ち合わせになっているのだ。見極めは2人の判断になるが、限界を超える訳にも行くまい」

「その前に、こっちの報告もええか?あの建物の、間取りが分かったんや。アリスが魔術使うて、中の反応を探ったんやと。それで見取り図を作ってくれたんや。今はミーシャが持っとるんやけどな。

 中に居る人にまでかかった訳やないから、どこに誰が居るんか解らんのやけど、確実に人が居るのは間違いなさそうやと」


 しかし、間取りが判ったと言っても、何が変わると云うのであろうか?やはり、前進と云うには、乏しい。それでも、何も無いよりはマシかも知れない。


 これと言って成果が無い為、意味の無い日を送って仕舞った様に思える。この後、エイダ、ハル、ミーシャの3名が何かを得る事が無ければ、情報を集めるのは、ここまでになる。

 流石に連日、この様な事をし続けていて、生活ができる訳でもないのだ。明日は通常通り、仕事に戻る事となろう。


 そう考えていた時、マリア殿が大きな声を上げた。

「え……ちょっと待って、何これ!」


 リリー殿のカバンから顔を覗かせていた、例の映像用アーティファクトが、光を出している。それを取り出したリリー殿は、血相を変え、直後全員が覗き込み、同時に息を呑む。


 そこには、信じがたい光景が映っていた。


――――――――――――――――――――――――――――


 建物の周りは、スッゴク汚い。いろんなゴミがあるから、壁があっても、どこに入り口があるのか分からないくらい。でも、アリスちゃんが作った地図で、入れそうな場所が見つかりそうなんだよ。


「ミーシャちゃん、そろそろ時間が近づいてきたよ……もう、戻ろう」

「みゅ……あとちょっとだけ、こっちにちょっと、ヴァンくんの匂いがするところがあるみたいなんだよ」


 少しだけでも、情報を集めたいんだよ。それに、ヴァンくんがどうしているのか、気になるんだよ。寂しくないのかな?怪我とか、してないよね?みゅう……気になる。

 草をかき分けたら、壁に穴が開いていて、そこから匂いが漂ってくる。はまってた鉄格子が、はずれて落ちかけてる。ヒトが、ギリギリ入れそうな大きさなんだよ。


「みゅう……ちょっと、行ってみるんだよ!」

 わたしは、せまい穴の中に入ってみた。ほこりっぽい空気が、奥の方から流れてくる。送風の魔法とか、使ってるのかな?


「え……ちょっと、ミーシャちゃん?待って……」

 アリスちゃんには悪いんだけど、やっぱり気になる。

 それに、地図もある。この建物の中を、全部見通せるんだよ。きっと、迷子にならないと思う。


 ブライトは使えないから、ライターで明かりをつけて進む。風で揺れて消えちゃったりするけど、ちょっとだけでも地図が見えれば……地図じゃないって、リリーちゃん言ってたっけ?後でもう一度、なんて言うのか聞いてみるんだよ。


 ちょっとづつ進んでいって、音で周りの反応を感じてみる。なんか、地下に部屋があるみたいなんだよ?通気口が、下に向かって空いてる。でも、ちょっとおかしいんじゃないかな?


 普通、地下に施設を作らないんだったよね?空気が悪くなるからとか、法律が難しいとか、下水道があるからとか、雨がたくさん降ったらそこに水が溜まっちゃうからとか。だから、ちょっとした倉庫くらいしか、普通は作らない。


 空いてる通気口から、下を覗いてみる。大きい、丸い、部屋?真ん中に広くて四角い台があって、たくさんの石の椅子が、周りを囲んでる。もうちょっと移動してみるんだよ。


 少し進んだら、分かれ道に来た。左の方から、ヴァンくんの匂いがする。


「みゅ?他のヒトの匂いもするんだよ。声も聞こえてきたんだよ?」


 ヴァンくんの匂いのする、通気口を覗いてみる。そこに、確かにヴァンくんがいた。やっぱり、ここにいたんだよ。声をかけたいけど、ゴクヒ任務だから、ここにいる事バレたらすっごい怒りそう……?ヴァンくんの様子が、ちょっといつもと違うんだよ?


 いつもだったら、仕事したり、料理したり、武器を手入れしたり、おにくをクンセイしたり、書類をセーリしたり、ほし肉を食べてたり……?お仕事とおにくの事ばっかりなんだよ。


 でも、今はボーっと立ってて、何もしようとしない。何も、考えてないみたい。口も開きっぱなし?そういうのは、ユータがやるんだよ。エントランスのソファで、よくやってるんだよ。


「ククク……無様だな……貴様が、こんな目に会ってるなんて、誰も思うまい。貴様の師が居ない事を恨むんだな」


 誰かが、一緒の部屋に居るんだよ。なんだろう……誰かの声に似てる気がする?ギルドで、聞いた事がある声?気のせい?

 そういえば……アーティファクト、使ってみよう。音が出ないように、ポケットからそっと出して、ボタンを押す。ガラスの部分を向ければ、その先がリリーちゃんの持ってる道具に映るって言ってた。

 ……ヴァンくんが、どっかの国で使われてる物を、マネして作ってたんだっけ?それを、リリーちゃんが、マネして……マネばっかりなんだよ?便利だけど。


「はっ!ナイフを投げているってのに、避けもしないのか!愚かなのだな!」


 わたしが見てない間に、何か音がしてたと思ったら、ヴァンくんナイフ投げつけられてるんだよ?!確かに避けようとしてない……でも、中ってない。

 もう一度投げたナイフが、ヴァンくんの顔の前で止まった。飛んで来たナイフを、手で掴んで止めたんだよ?!


「ちっ……でも、まあ……これだから、闘技場で戦闘しても、問題ないと思ったのだが……まさか全く攻撃しないで、倒されるとはな……使えない」


 声の人は、わたしからは見えないんだよ。でも、アーティファクトには映ってるかな?そしたら、きっとリリーちゃん達は見てくれてるんだよ。もしかしたら、ヴィンセントさん達も見てるかもしれない。


「次こそは、勝てよ。お前を飼ってやってるのは、私なのだぞ!」

「……Yes,Sir」

 声がようやく聞こえたけど、元気がない。でも、やっぱりヴァンくんなんだよ。いつもと違う気がするけど……。


 違うところ、分かったんだよ。赤い、首輪が付いてる。それと、精霊さんが、いつもいる頭の毛のところに、居ない。


「……ドレーにされちゃったの、ヴァンくん?」


 わたしが呟いた声は、通気口の闇に、消えて行った。


精霊のボヤキ

――うわぁ……来ちゃったよ、猫のヤツ。ああ、もう……どうして来ちゃうかなぁ……?

 これは仕事だから、気にしなくていいって言えればいいんだけど、契約していないと聞こえないしなぁ……

 少なくとも、猫は光とか闇に適性があるくらいだから、あたしは契約できそうにないかなぁ……

 ねぇ、誰か契約……いや?あ、そう。しょうがない、偵察を打ち切ってあいつのとこに戻ろう……――

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