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フェンリルの挽歌~狼はそれでも狩りがしたい~  作者: 火魔人隊隊長
森の追跡者の輪舞曲
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15話 エモノ

前回のあらすじ:産廃が量産されています。公害ですね。

 幻覚魔法陽炎とイフリータの隠蔽の併用は、かなりの効果を発揮した。

 多分半年くらいじゃないだろうか、すれ違う冒険者は俺の事をただの猪としてしか見ず、またアジトについても陽炎をかけた革で覆った事で、ほぼ発見されなくなっていた。

 おかげで俺も少し安心して生活できてはいる。まあ、まだ気は抜けないが。


 最初と2番目のアジトはかなり手ひどく荒らされていたし、3番目にはエルフがたまに来ているようだった。だけでなく、DQN達まで来て俺の残していた道具を壊して回ったらしい。

 4番目についても同じ、岩に隠れた調理器具や道具、ついでに周りにあった花なんかも、全てペシャンコにされていた。

 が、現在使っている第6・第7までのアジトは発見はおろか、周囲にヒトが寄ってきていない。

 スラムとその2つを往復する形で、現在は生活している。


 現在第6アジト。この洞窟も中から水が湧き出ていて、川に直接流れ込んでいる。

 現在3期目の燻製機の製造に着手中。原材料・ゴブリンのヨロイ。自分でも少し引いているが、それでもできるのだからしょうがない。

 魔力を操って、熱を上げ、半ば無理やり溶接するなんて、出来るかどうかわからなかったが、やってみればできるもんだ。ガラスと言い、副材料とかなしでなんでできるんだ?

 なお、1号機は第5に移設した後、DQNが発見したらしく壊された。煙が漏れていた出来損ないで廃棄予定だったから問題ないのだが。2号機は第7アジトだ。


 燻製機を作る理由について。今まで木を組んで革を被せたり、洞窟を使ったりしたが、出来に関してはいまいちだったからだ。煙や熱の調整ができた方がいいという事で、作っている。


「しかし、最近角ウサギがほとんど出なくなったな。少しのほし肉を作るのが関の山って感じになってきた。食事分が足りないとは……」

――干し肉優先ってのはどうかと思うけど、まぁ、前よりましに食べ物取れてるし、いいんじゃない?それより、角煮作りなさいよ――

「あれ、イフリータさんはまったんすか。そんなにいい出来とは思ってなかったけど。改良の余地あるんですよ、あれでも」


 なんだかんだ言って、ちょいちょい猪やら野鳥を狩り、料理を少しづつ作ってはいる。保存食用のソーセージやベーコンも、いい具合に熟成させて燻製機に入れているので、味は上がっている。

 だが、燻製したことで一番味が上昇したのは角ウサギの干し肉なんだが……それが作れないのは問題なのだ。なるべくストックを作っておきたいし。


「折角うまい作り方分かったってのに、これじゃなあ。とりあえず、燻製機はここまでにして、狩りにでも行きますか。ついでに食材持って移動だ」


 ベーコンやソーセージ、ウサギの干し肉、一昨日作った野鳥のコンフィをウサギの革で覆い、更にそれを氷で覆う。

 背中に張り付けておけば、どれだけ走っても落ちはしない。いつぞやみたいに叩き落されるなんてことも、ないだろう。っていうか無しにしてくださいホント困りますお願いします。


 ありうる危険としたら、猪として狙われた時。

――そん時は任せなさぁい――

 いざという時の精霊頼み、あざまっす!


 俺は酷い大雨の中を突っ走る。滝行でもしているのかというほどに濡れそうだ。いや、大精霊が雨が当たる前に蒸発しているから俺は濡れないけど。

 そして、湯気を利用して陽炎をさらに濃くして完全に姿が消える。

――その代わり、また角煮よろしくぅ。前のはほとんど食べられなかったんだしねぇ――

 ああ、確か第1アジト。

 猪を狩り取って料理した後、数日移動して帰ったら、凍り付かせていた角煮やベーコンを平らげているエルフ達に会ったんだったよな。なんか言い合いしていた。ダメでしょとか、うまかったからとか。

 うん、拾い食いはダメでしょ。いや、俺のアジトなんだから盗み食いか。ショック受けながら離れたところから隠れて見ていたけど。

 結局その後帰ったら、食えるもの全滅だったんだよな。


「はぁ…………ん?また襲撃された馬車か?」

 街道に不自然に止まった幌馬車。また馬がいない。はて、この数か月で10回以上見ている気がする。

 近づいてみると、見覚えがあるクロスボウが転がっている。これって、前に幻覚でイタズラした馬車だろうか?


「おっ。パンがこんなに。チーズもあるじゃないか。しめしめ」

――火事場泥棒は……ああもう、さっさとしてね。悪いことはダメなのに――

「マジメだなぁ。でも、放置されたままの方が不憫でしょう。そのうち食べられなくなっちゃうんだから」


 その後にも、同じようにやられたらしい馬車が見つかった。

 本当に異様に多い。一体何なんだ?盗賊とかのにおいはしなかったし産廃のにおいはしたから、奴らだとは思うが。

 馬車でそのままひき殺すとか、できないのだろうか?前世の俺がされたみたいに。


――アンタ、前世をアイツらと一緒にしてない?――

「あー、特定の人物からは、ほぼ同格として見られていただろうね。産廃まではいかなくても、粗大ごみって言われていたし」

――……誰から?――

「両親。あ、実の生みの親ね。義理の家族とかはいないから」


 俺の言葉に絶句している大精霊だが、俺からしてみればこの程度、どうということはない。

 ちなみに、ジョークとかで言っているのではない。あの家族は本心として言いきっていたのだ。虐待って言える状態でもあった。

 で、それが不幸かというと、不幸っていうにはちょっと足りないくらいだった。世間体を気にしていたので、あちこちでやられた事を言うと、半端に嫌がらせが止まる。虐待『気味』だったのだ。本当に半端だ。


「だから、存在否定は当たり前だね。俺が才能無い奴だとは言え、何でも殴りながら取り上げる母親とか。正直つまらない家族だった」

――それが本心からの言葉って方が、驚きなんだけど。マジで不幸って思ってないとか、どういうことよ?――

「上には上がある、以上」


 他に何と言えばいいのか。この程度で不幸とか、笑える話だ。死にそうになってないだけ、随分マシ。人を下に見るのは嫌な気分ではあるが。

 むしろそれで普通の人からも、本当に不幸な人からも、睨まれる状態だったのは何なのか……?

 中間管理職の気分。家庭の話なのに。


 何はともあれ、さっさと移動するに越したことはない。奴らはまだ近くにいるかもしれないが、俺の事は見えないだろう。

 冒険者もさすがの雨の中、しかも夕方なので、今の時点でかなり暗い。しかし、月のない夜の森の中は黒一色で塗りつぶされるようなものだから段違いだろう。

 変な漫画とかはそんな状態で何mも先のヒトをしっかりと見ていたりするんだが。それができると信じてる奴らもいた。一寸先は闇って言葉を知らないらしい。或いは、一寸の距離か。その辺はどうでもいいか。


 ほぼ闇しかない世界に染まり始めた森の中を、俺はいつものように進む。恐怖なんてないし、むしろ、

「ギュアギュウウ」「ブア」

 奴らにとっては、俺の存在の方が恐怖になって欲しいくらいだ。能無しらしく突っ込んで来た。攻撃、当てられた奴なんて今までいないのに。


「――イグニッション――インフェルノ」

 ……無理だった。恐怖を感じる前に、爆散してしまった。ちなみに、爆散したのはゴブリンのみで、ご都合主義の焔属性で奴らの持っているものは爆散していない。


「あ、でもこいつら使えるもん持ってねえじゃん。やっぱ産廃先輩だわ」

――エイヘイサーン、ここに悪い子いますよぉ――


 なんだかんだで、大精霊さんノリがいい。比較的マシなダガーを一本だけ拝借して、俺はその場を去った。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 一度スラムで用事を済まして移動して、第7アジト。

 本当にただの洞窟でしかない。ここに来て1週間。何匹かの角ウサギが久しぶりに出てきて、干し肉に立候補してくれた。出会った瞬間とびついてくるなんて熱烈歓迎が過ぎる。

 モテる男はつらいよ。

――変なこと言ってないで、さっさと作りなさいよぉ――


 また角煮を作っている。これ、大精霊には随分と気に入られたもんだ。どうやらかなり良質なマナが抽出されるとかなんとか。

 とは言っても、すでに完成したんだけどね。後は温め直すだけ。どうせなら他の調理法とかできればいいのだが。


「できたは良いけど、可能なら保存用の肉をとれないかな。もう少ししたら夕方だし、雨も少し止んできてる。

 この辺で狩りに行きたいんだが。どうせ夜にはまた強い雨が降りそうだしね」


 なんにしても、今はどうにも狩りが不調になってきている。

 どうやら、森の動物がだんだん減ってきているらしい。減り方が最近加速してきた。明らかに異常がある。

 それは森をいくらか回って見ていても同じだ。ちょくちょく行商人の馬車や、村人の荷物のようなものが落ちている。

 中にはパンとかも入っているので、頂いたりはするのだが。それでも足りなくなり始めた為、最近はヘビや芋虫にも手を出し始めそうな状態になっている。

 やはり、俺が狩りすぎたのだろうか?そんな小さな森じゃないのだが。多分だが、四国くらいの範囲はある気がする。……もっと広いかも?


 なにはともあれ、今日の狩りも不調で、また馬車を見つけた。パンは……ごっそり入ってた。チーズも1塊と言えばいいのか。デカくて丸い奴1個とは驚きだ。黎明期のスイス銀行に預けられたのも、こういうものかな?

 リュックもあったのでこいつも頂こう。リュックに全部積めていけばいい。


――ん?なんか近づいてきてる?――

「え、足音なんて全然しないのに?ニオイはまあ雨で判りづらいけど。撤退するか?陽炎マジック」

 革をかぶりながら、少しおどけて幻覚を発動させる。そして馬車から降りてシゲミに入ったのだが、その時に気付いた。


 確かに、何かがいる。息を潜めてこちらを伺い、獲物を仕留める為に射程圏内までゆっくりと、近づいている。

 これは狩りをする獣だ。俺のナカマであり、そして今、『俺を獲物』として考えて近づいている。


 幻覚と隠ぺいでごまかしながら離れるしかない。俺の偽物を俺に複数重ねて出現させ、奴が動く瞬間に5方向に逃げてごまかす。

 動きがありそうだ……今!


 次の瞬間、俺は全速で走りだし、同時に4匹の俺がかく乱に動く。

 これで、

「これでワイの事、ごまかせるん思ったんか?」

 似非関西弁が真横についてきていた。


 猫っぽい顔で、黄色と黒の色。俺の走ってる速度は、彼からしたらランニング。そりゃそうだ。

 だって、俺は狼でも子供で、相手はチーターだもん。彼がしゃべり終えた刹那、首根っこを掴まれた。


 …………つかまれた?

「おら、捕まえたでぇ」

 ……捕まった?え、食べられるかと思ったんだけど、ってそうじゃなくて。えぇと。

「イイイイイィィィヤアアアァァァァァァァァ!」

「おっ、こら暴れんなや。ひどい事しぃひんって」


 おま、どこの大阪弁だ?よくは知らんが混ざって……じゃなくて、

「いやあああああ!殺さないでぇぇぇ!」

「せやからそんな事せん言うてるやろ、落ち着き」

 本当だろうか……?しかしウソはない。うん、彼には。


 しかし、近づいてくるお仲間さんは違うようだ。またいつもによって、いつものごとく、DQN達だ。今日は何かを布でくるんで背負っている。


「よし、よくやった。リィンで有名になるだけはあるじゃないか。それじゃ、さっさとその人狼を殺せ!」


 おい、DQN。お前どこの何様だ?完全にこの人の方が上手だろう。多分、実力も地位も。

 きっとこの人は空気中にかすかに感じるニオイで、俺を本物と断定したんだろう。見た目が猪でも、猪のにおいじゃなかったのだろう。或いは他の臭いの強いもの。あ、チーズとか?


「おいおい、これは人狼ちゃうって。それにそないな事言うたら俺かてそうやん。何言っとんの、お前?」


 このヒトは雇われなんだろう。人狼って言うよりは人猫とか言った方がいいけど。

 確か前はフルアーマーがDQNについていた。森に来る格好じゃねぇ!って内心思ってたけど、このヒトは完全に森に生きていける格好だ。チーターは荒野だろうけど。

 なんでこう、メンバーがころころ変わるかね?


「あうぅぅ……」

 全力で可哀想な子犬アピールをしてみる。効果のほどや如何に。


「ほらぁ、この子かて、こないびびっとんやないか。殺すとかやめぇ。何なら、ワイが連れて帰るでぇ」

 あ、この人いいヒトかもしれん。それなりに効いてる。雨に濡れた子犬をつれた不良みたいな人だ、きっと。連れて帰って欲しくないが。


「そんなことするくらいなら、俺の奴隷にでもするさ。どうせ殺すけどな!」

 流石ぶれないねぇ3流やくざみたいだ、DQN。全然かっこよくないし、ガチの極道者に会ったらすぐにちびるだろうに、こいつ。


「おい、それをワイの前で言うんはどういうつもりや?ケンカ売っとんのかボケぇ!」

 なんか、キレたらしい?キレた理由は分からないけど。


 でもそろそろ、頃合いの様子だ。このチーターさんには悪いけど、俺はここでやられる訳にはいかないし、チーターさんについて行く気もない。


 って事で

「――点火(イグニッション)――」

 俺は体を燃やす。熱がったチーターさんが手を離した瞬間に、氷属性へ変更。


「いりゃ!」

 抜き取ったダガーでチーターさんの足を一刺し。からの

「アイスエッジ!アキレスさんって英雄、知ってるか?知らないな?俺の前世にあった話だもんな!ハッハァ!」


 アキレス腱の由来をちょっとだけ示唆してDQN達の該当部分を切り刻んだ。

 女の子は1本、男は2本。奴らがそれをされたと気づいたときには、すでに距離は離れている。どちらにせよ、奴らは歩くことも立つこともままならないが。

 ついでだからちょっと術式追加で撃っておこう。アイスフィールドだ!


「つぅ!やりおったなクソガキィ!」

 ちょっと本気で、でもどこか楽しそうな怒声が俺の後を追ってきた。

 追ってきたのはそれだけじゃなかったが。俺の太ももを、鋭いなにかがかすめた。矢だ。


――アンタがDQNって言ってる奴がバリスタ持ってたみたい。石弓のデカい奴――

 なんでそんなもの持ってるんだ?って考えてる場合じゃない。今は逃げないと……


―――――――――――――――――――――


 何かヘンだ。

 そう感じたのは少し走ってアジトに近づいていたころだ。息が上がる。目がくらみ始めた。熱が出てきたようだ。体中が痛い。体が重くなったように感じる。平衡感覚が狂い始めた。手足がマヒしてきた。


 矢をかすめただけだ。外傷は他にない。特におかしなものを口にしたわけでもない。

 そうなると、矢に何か仕込まれていたんだろう。毒、か?


 なんとか第7アジトに戻った時には、ほとんど体が動かないくらいになってきていた。

 毛皮をかぶり、陽炎の幻覚の種類を変える。岩に見せるようにするためだ。

 そして、何とか作っていた干し肉などを口に放り込む。

 ポシェットに入っていた花が、口の側に落ちた。花弁の多い、オレンジ色の花。

 大精霊がどうやったのか、角煮を口元にまで持ってきた。全部食わせようとするな、とは思うのだが、口もうまく動かせない。


 そして、気を失うように俺は眠った。


 それから3日、生死の境をさまよう事となった。明滅する意識の中で、なんとか生きていることを感じていた。


8話、ほんのちょこっと修正しました。他愛の無いことなので、意味はあまり無いですが。

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