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フェンリルの挽歌~狼はそれでも狩りがしたい~  作者: 火魔人隊隊長
オオカミのいない日の即興曲
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9話 我々の課題

前回:――緊急の仕事?あれ面倒なんだけど……――

 ヴァン殿が居ない、というのであれば、夕食は誰かが用意するのか、気になるのはおかしくは無かろう。しかし、ユータ殿を除く全員が、厨房に集まったのは、私としては意外である。


「フム……ヴァンがここに、レシピを残すと言っていたが、全員それが目当てであろうか?」

「いや、アタシはそんなもの、知らないんだけど……」

「みゅう、一昨日話したんだよ……それに、孤児院のわたし達は、料理なんて全然教えられて無いんだよ」

「せやな……それを見れば、少しくらいはウチらも、料理出来るんや思っとったんやけど……」

 マリア殿達は、その心算の様だが、他の者は首を振る。


「ワタクシ共は、いつも通りに調理しようと思っておりました。むしろ、ヴィンセント様がいらっしゃるとは思いもしませんでしたが……」

「うーん……前から、何かできればって言ってたし、ヴァンから料理教わってたじゃない?それなら、不思議じゃないかな……私は、お母さんからちょっと教わっていたけど……ヴァンほどじゃないし……」

 厨房の広さは充分であるが故に、自然とここで話し合いが持たれる。さて、誰が料理をするのであろうか。


「出来る限り、私も何か貢献をと思うのではあるが……」

「ヴィンセント様は、その様な事をなさらずとも宜しいのではないですか?」

「せやけど、やろうと思うんはおかしくないやん」

「だけどさー、ハルたちの事信じてないみたいで……」

「うーん……いつも、頼りきりになってるから、気になるんじゃない?」

「みゅ……わたしももうちょっと、料理できるようになりたいんだよ……」

「じゃあ、全員でやれば良いじゃない。やっちゃダメな理由も無いでしょ?」


 マリア殿の言葉で、全員が談義を一度止める。しかし、皆少々落ち着きが無い。ハルやエイダは、家事で多くの負担を受けているのである。

 また、全員で分担をしていこうという話をしていたのであるが、その内容でこうも議論をする事になるとは、思いも依らなかった。


「では、今日は出来る限り、皆で調理する事としようか。何分、広さは充分なのだ。ならば、拒む理由も無かろう」

「ねー、ヴィンセントさまはなんで、りょーりしよーと思ったの?」

 考えを纏めたのではあるが、ハルはやはり、納得のいかない様子である。


「私も、少々2人に頼り過ぎな所があるのだ。故に、自立を妨げているとも思えるのでな。2人の負担を、少しでも軽減できるのであれば……そう思っての事だ」

 私の言葉に、少なからず暗い顔をする2人は、言葉を失っている。彼女達からすれば、今まで通りに仕事をしていただけなのであろうが、彼女達も既に冒険者、従者では無いのである。

 それはつまり、私に献身的になる必要などは、無いという事でもある。しかし、それは彼女達の、気持ちを軽んじる事でもあるのやも知れない。


「私は、2人の事を大切に思うからこそ、何かを成したいのだ。だが……申し訳ない」

「って、うわ……みんなどうしたんだよ、厨房に全員揃って……」

 エイダとハルに謝罪している時に、ユータ殿までやってきた。

 面白い事に、皆が最も集まる部屋のそばに、皆が最も集まらない部屋があるのである。しかしその部屋に、恐らく一番縁遠い者までやってきて、全員集まったのである。ヴァンの話では、彼もまともに包丁を握った事が無いらしい。


「ユータこそ、どうしたの?料理、出来そうにないと思うけど……」

「え、いや……今日、誰が作るのか気になるじゃないか……だって、あいつが居ない時は、エイダとかやってたのに、最近みんな、ヴァンに教えられてたし……」

「うーん……分かるような、分からないような……」

 アリス殿の言葉で、しどろもどろになっている彼は、それでも厨房の中に足を踏み入れる。彼は、調理する心算は無い様なのである。ならば来なくても良かったのではないのだろうか?


「それで、何を作るのかな?みんなで決めるんだよ」

「せやな……何がええんやろな?」

「確か……ここに乾物があるって……何、これ?」

 話している間に、戸棚を開けたアリス殿が、何かを見つけた様だ。見た事の無い食材でもあったのであろうか。


「これ……餃子の皮か?何作ってるんだよ、あいつ……乾物じゃないだろ、これ」

「ユータさんが知っているという事は、前世界の料理の材料でしょうか?判らないのであれば、下手に使わない方が宜しいのでは……?」

「だねー……バカじゃ作れそうにないもん」

「ちょっと待って流石にバカにしすぎじゃないかそれええ!ぼくだって餃子くらいできるよちょっと材料があれば誰だって」

「以下略」

 何やら、随分騒がしくなってきた物である。先程までの、不快な空気は何処へやら、穏やかな空気に変わり始めた。


「ほな、何が必要なんか、教えてくれへん?材料って何なんや?」

「え、そりゃ……ひき肉とか、ニラとか?」

「ニラって何?そんな動物、この世界に存在しないよ?」

「「「やっぱり……」」」

「えええ!それはぼくは悪くないだろ、動物じゃないよ!何なんだよ、もう!」


 全員、彼には期待していなかったのであろうか。事実、悪い評価を受けているユータ殿ではあるが、それは嫌味ばかりでは無いようにも感じる。これも、愛嬌なのであろうか?


――――――――――――――――――――――――――――


 ヴァン殿が帰ってきたのは、翌日の早朝らしい。全く眠っていなかったのか、直ぐに部屋へ向かい、部屋で眠っていたらしい。


「ミギャアアア!やめてえええ!」

「ふみゃあああ!?」


 奇妙な悲鳴が、2つ程聞こえてきた。我々はその声で!彼が帰っていた事に気付いたのである。部屋に向かってみると、何やらヴァン殿の部屋で、ミーシャ殿の首根っこを掴んでおり、ミーシャ殿は藻掻いている。


「なんで俺の部屋に入ってくる!お前の部屋はあるだろお!」

「ふみゃああ!ごめんなんだよー!」

「ミーシャ……アンタ、何をやってるのよ。自分の部屋があるでしょ……」

 一体何が元で、このような事になったのであろうか?ミーシャ殿はそのまま、ヴァン殿からマリア殿へと渡されている。まるで荷物のように扱われている。そして、そのまま連れて行かれた。


「ヴァン、一体何が在ったのだ?ミーシャは……」

「分らん。けど、俺が寝ていたら、いきなりのしかかってきたんだ。襲うとかっていうよりは、抱きつくだけのつもりだったようだが、何をしたいのかがいまいち分らん」

「ふむ……確かに少々奇怪な行動であるとは思うが……」

 確かに、彼女はたまに理解しがたい行動をする事がある。一体、何を想って行動したのであろうか?


――――――――――――――――――――――――――――


 彼らの一悶着は、少々解決が難航しそうな雰囲気である。何しろ、ミーシャ殿は寝ぼけたまま、トイレの帰りにヴァン殿の部屋に入ったらしいのだ。

 少々理解しがたいが、本人としてもあまり覚えの無い状態らしく、自身の部屋の心算で入り、ベッドに潜り込んだ処、あの騒ぎになったらしい。


「みゅう……そんなつもりはなかったんだよ。ごめんなさい……」

「ああ、もういいからさ。辛気臭い顔やめろって。なんでこうなるんだよ……」

 朝食の席で話し合いをした処で、流れは判ったのではあるが、しかしこれで解決に至るとはあまり思えない。彼は嫌っているようには見えないのだが、歓迎しているようでも無いのだ。


「もういい、この話は終わり。それでいいでしょ、ミーシャ」

「みゅう……」

 マリア殿も、怒り心頭と言った様子ではあるが、それはどちらかというと、ミーシャ殿よりヴァン殿に向いている様である。事実、今も彼を睨みつけている。

 ヴァン殿が言っていた、共同生活にあるトラブルと云う物の1つであろう。確かに、必ずしも水の合う者同士ばかりでは無いのだからして、当然の結果やもしれない。

 とはいえ、仲間なのであるから、険悪な状態というのは解消したい問題でとあるのだが。


「じゃあ、今日の仕事に行こうよう……もう充分だろ?」

「ユータに仕切られると……違和感、あるよね……」

 それぞれが、何やら想う処があるようだが、それは何なのであろうか。少なくとも、ユータ殿は透けて見えそうなものだが。


――――――――――――――――――――


 その日の仕事でも、何かを考えるような状態は、それぞれ続いていた。やはり、悩みを持った状態で下水道の仕事となれば、辛気臭くもなろう。

 全員が少しづつ、入れ替わりながら仕事をするように取り決めていたものの、気持ちは早々切り替えられない時もある。それでも何とか、数時間の探索をした後に地上に戻れば、先に外回りを行っていた者達は先に帰っていた。


「今日は収穫は多くないなあ……角ウサギのヤツ、3匹しか出てこなかったし……」

「……いや、それはおかしくないか?いつもなら出ないんだぞ?ヴァンがいると魔物が寄ってくるみたいじゃないか……変な匂いでもついてるのかよ……」

「うーん……匂いとかじゃないと思うけど……それに、結構稼げたんじゃないかな……」

 ホーンラビットならば、3匹で追加報酬にて銀貨3枚。それ以上に稼げたのだという事は、間違いなかろう。

 ヴァン殿はいつもの収入が多い為に、余りそう思っていなかったのであろう。最も、彼自身はそれを理解している筈なのであるが。


「とにかく、今日の感じから言えば、ユウタは剣術はましになったけど、盾の魔術に頼り過ぎだから、頼る機会を減らせよ。リリーはそろそろ発展系のアーティファクトに着手していいんじゃないか?」

 外周探索の合間に、それぞれの研鑽をするように考えてはいたのだが、彼にはその研鑽の様子を見て、思う所があったようだ。


「エイダも詠唱はスムーズだけど、そっちに気を取られて弓が疎かになっていたな。単独になった時にスキを突かれる可能性があるから、前に出すぎないようにした方がいいだろ」

「そうですね……ホーンラビットがこちらへ来た時、少々危険を感じました。盾を出していただかなければ、危なかったかもしれませんね」

「ぼくは……あの障壁とかが使いやすいから使ってたんだけどね……」

「あれを使い過ぎているから、バッテリーがマナ切れになってもしょうがないって意味だよ。実際、ずっと張ったまま戦おうとしていたじゃないか。それに、使わなくても充分な状態なんだよ。ちょっとビビり過ぎだ」

 実戦でも何かを掴めるのはあるだろうが、しかし外周探索で実戦がそうある訳でもない。にも関わらず、さも当然のような流れで戦闘をしていたようだ。


「みゅう……羨ましいんだよ……」

「そう?アタシは嫌だな……危険な目にあって、なんであんなグチグチ言われなきゃいけないのよ……」

 話している内容が真逆な2人だが、恐らく最も必要な2人なのでは無かろうか?私もまた、彼と戦術の話をする機会を伺っているのである。しかし、あまり多く機会を持てないのではあるが……。


 随分と、課題が多そうである。ここ数日でも、解決すべき事案が多く見えてきた。そして、これからも出てくるのであろう。生活でも、戦闘でも。


精霊のボヤキ

――昨日朝方に帰って来たのに、よくやるねぇ――

 まあ、仕事ですし。

――だからって猫に起こされて……――

 まあ、迷惑だね。

――ホントに?――

 ……すやぁ…………

――寝たフリすな!

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