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フェンリルの挽歌~狼はそれでも狩りがしたい~  作者: 火魔人隊隊長
森の追跡者の輪舞曲
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14話 騒動

前回のあらすじ:主人公イッちゃってる。

「ぎゃああ!人狼だああああ!」


 ん?またか。ちょっと久しぶりに普通のウサギ狩りしただけなのに、街道近くを通った行商人にちらっと姿が見られたらしい。

 ウサギを咥えて起き上がってみると、100mくらいだろうか。離れたところに行商人がビビりながらこっちを見ている。

 何かを取り出してこちらに向けて、放った。が、距離があるので大きく外れる。

 クロスボウみたいだ。太くて硬い矢みたいなものが木に当たっている。ここは幻覚使って、逃げときますか。


――あれ当たったらシャレにならないもんね――

 幻覚を俺に重ねるように作り、本体は木の裏に隠れる為に、一度幻覚と同時に走り出す。途中で本体は隠れつつ、そのまま幻覚が2匹3匹と増えてその行商人の近くまで走っていく。

 怖がりなんかにそんなことすりゃあ、まあ反撃受けるわけだけど。その行商人ビビっちゃってるのか、クロスボウが幻覚にすら当たる気配がない。

 そして、そいつのすぐ近くまで幻覚が来た時に俺も走り出し、茂みに隠れながらその場を去る。

 同時に幻覚はオレンジの炎となって消える。


「たまにこういうことになると、その後大体山狩りか冒険者が増えるんだよな。めんどくせ」

――だねぇ、いったんここのアジトも放棄かなぁ――


 そうなるだろう。せっかく見つけたよさげなアジトも、危険があるのなら離れるしかないだろう。

 この森は結構大きい。平原も岡も山も、覆いつくすような森だ。それでも草原と荒野に囲まれているから、森に隠れながら隣国に逃走とか、できないのがネックだけど。

 捜索って言っても、広すぎる森を全部探す訳でもないし。火を放つ訳でもないから何とかなるだろう。


「とりあえず、撤退準備。撤退の後、新しいアジトを決める。見つからなければ、今までのどこかで安全な場所に移動。ただし第4は除く」

――りょうかぁい。あそこは岩塩拾う場所だもんね――


 俺の方針に納得するイフリータ。実際、この後、人が群がってくるのは決まったようなものなのだから仕方ない。何度かあったし。

 とにかく、走って離れていく。これに尽きる。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「はぁ?人狼が襲って来たぁ?」


 去年から何度目だろう。詳しく聞くと、ちょっとすれ違ったとか遠くに見えただけの白い犬型獣人を見ただけで、必ずこの騒ぎになる。


「本当なんだ!俺にぞろぞろと寄ってきて、一斉に襲い掛かって来たんだ!討伐してくれ!」


 一所懸命といった具合に膝をついて行商人がわめき、ギルドのカウンターフロアに響き渡る。珍しく好戦的に見える内容。

 でも、納得できない事がある。


「……で、あんたはなんで無事なのよ」

 いきなり呼び出されたアタシは、疑問と一緒に疑いの目を行商人に向ける。


「そりゃ、バリスタで抵抗したんだよ。それでもあいつ、すり抜けて一気に近づいて、襲い掛かるところでいきなり消えやがった!」

「どこのホラー話よ、それ」


 攻撃をすり抜けて、近づいたら消えるって。レイスかなんかじゃないなら、

「幻覚魔法でも使われたんじゃなぁい?ちょっとからかわれただけとかさぁ」


 実際、今回の被害も皆無。「人狼」問題の大体が被害なしで、驚かされただけ。

 ある時は背中に氷を入れられた。ある時は焚火が消えた。ある時は、飲んでたスープがいきなり凍った。ある時は読んでた新聞が燃えた。その程度。

 あの子は随分イタズラが好きらしいけど、被害を出すって程じゃない。


「とにかく、捜索はしてみるとしても生け捕り。あれは人狼じゃないから殺したら罰則、それでいいね?」

 被害が出ないからと言って、何もしなければ住人との軋轢もできるし、手は打たないといけない。これに納得しない奴らもいるけれど。


「なんであいつを殺さないんだよ!あいつは人狼だぞ!」

「ケンジ、あんたはまた……」

 紅玉をはめ込んだ額当てをつけている青年……にしては小柄な男がわめいている。

 実際に、一番あの子との遭遇の機会が多いのも彼なのだけれど、殺すことばかり考えている。その割に結果は散々だけど。


「この間、氷の彫像になってたのを助けてあげた恩は、忘れたわけぇ?首から上はきれいに凍らずにいたけど、動けなくて随分寒そうだったじゃなぁい」

「う、うっさい!ちょっとあの時は油断しただけで!」


 アタシ達が彼を見つけて逃がしてしまった後、こいつらとも会っていたらしい。しかも、こいつらもアタシ達同様、イノシシの狩りの邪魔をしたらしい。

 その結果が、首以外全身氷の彫像。一瞬で凍り付いたらしいけど、多分あれ、一日経ったら溶けるようになってたんじゃないかと思う。その前に解除したけど。

 火で炙っても溶けない氷だったらしく、こいつらは解除に手間取っていた。


「油断も何も、封印の効果が付いた氷だって気づけないでいる術師に人任せな男どもじゃぁね……1人だけ凍ってない妖精の子がいたけど、その子も愛想尽かして離れたんでしょ?」

「あ、あいつは臨時のパーティだったし……」


 なんにしても、こいつは編成には入れられない。

「アンタはすぐ殺そうとするから、ダメ。仕事にならないの。勝手に討伐の仕事立ち上げて自分で狩りに行くなら、また謹慎だからね」


 無言で睨んでくるケンジ。こいつの父親もあたしと同じ、ギルドでも強い力を持つ者だってのは分かるけど、こいつはそれを鼻にかけている。自分の実力でもないのに。


「ちらっと人狼って言葉が耳に入ったからって、これ見よがしにあの子殺して、名を上げようとか考えるのやめてよね。アンタ、そんなんばっかやって3等級に上がったんじゃない」

 実際、こいつの今までの昇級も疑わしい。出したとされる成果の割に、仕事の内容が釣り合っていないように見える。証拠がないから強く叩けないけど。


「そ、そんなつもりねぇ!大体俺は……!」

 言い訳しているケンジはもうほぉっておいていいでしょ。


「エリナ君、ちょっとよろしいかな?」

 下らないやり取りにギルドマスターが割り込んでくる。冒険者ギルドなんて言われてるこの場のトップ。実力はもちろん、政治方面に関して充分理解し対応できなければ就けないイス。


「代行の君に話がある。来たまえ」

 小人族のその小柄な雰囲気からは想像できない威圧を、一瞬だけアタシの横に向けその言葉を放つ。ケンジは刃を突きつけられたような青ざめた顔をして固まった。


「分かりました。リサぁ、いこぉ」

「ハイハイ」

 今の今まで、行商人の頼みをクエスト内容として整理し、書き上げていたリサが、立ち上がってついてくる。

 当然、討伐ではなく捕獲にしているはずだ。危険動物じゃないんだし、話せばわかるヒトなんだから。


「入りまぁす」

 ギルドマスターの部屋に2回ノックしてから入る。ドアは開いているけど、一応。


「ドアを閉めてくれるかね。問題のある仕事なんでね、あまり聞かれたくはない」

「基本的に、アタシらが動く仕事ってぇ、問題のある仕事だけじゃないですかぁ」


 真剣な表情のギルドマスターに対して、少し茶化す。と言っても、事実でもあるんだけど。なんでもアタシが出てたら、他の奴らの取り分無くなるし。


「まあまあ……聞きたまえ。最近、この街の周囲にある森のどこかに、ゴブリンの巣ができたらしい。」

「ゴブリンの巣?どっかで繁殖してるって事でしょ?それは3等級以下の仕事ぉ。ケンジにでもやらせておいてぇ」


 真剣なギルドマスターの言葉の内容が、あまりにも身に合わない内容。大概巣とか言っても10匹なりいればできるものだし、増えても少し人員を割けばすぐに潰せる。

 これが大部隊っていうのなら、別だけど。


「既に半年、巣の捜索は行われていたんだ。ケンジ達もそちらに割り振られていたんだが、まあ、知っての通り。余計な仕事を作って並行して行い、謹慎になっている」

「それはアタシのせいじゃない……」

 それは分かっているらしく、マスターも頷いてはいるが、含んでいるものもありそう。


「とにかく、見つからないんだ。巣があるだろうという状況に対して、ゴブリンの出処が不明なまま。これをどう思う?」

 ありえない。もし、あるとしたら……

 たまにこの世界にある、空間のゆがんだ場所や結界の領域に巣がある場合。

 或いは、何かしらの魔術で転送したり、もしくは錬金術などで増殖している。普通じゃ考えられないやり方で。そんなことをして、意味があるのかも分からない。

 あるとしたら……


「それで巣の捜索をアタシ達に?」

「分かるだろう?巣のある場所は、『森の中』なんだ」

 今まで優しい笑顔を崩さなかったギルドマスターが、少し怪しい感じの目をする。そういう事か。


「分かりました。この仕事、ギルドマスター代行として責任をもってやらせていただきます。必ず成果出しますから。どっちも」

 マスターもあの子は生かしたい、と考えているようだし……もしかしたら『活かしたい』の間違いかもしれないけど。とにかく殺す気はないみたい。


「行くよ、リサ」

「ハイハーイ。失礼しましたー」

「ウム、しっかりね」

 あたし達はギルドマスターに見送られて部屋を後にする。準備のためにやることもあるけど、気になるのは……


「どうしよぉ……獣人君、魔物の巣の近くで生活してるってことだよねぇ?見つかったら死んじゃうかもぉ……」

 自室に戻ったアタシは、取り乱している内心の不安を言葉にした。本当にどうしよぉ……?


「ほーら、取り乱さないで。みんなが見てないからって、慌てすぎー」

 そんなの、ムリ。いつもは気を張っているとは言え、気心知れたリサには、隠し事はできないんだし。って言うか、わかって。


「とにかく、準備しないとぉ。獣人君へのお詫びのお肉でしょ、服と、帽子と…………アクセサリーとか気にいるかなぁ?」

「ちょっとー、あの子へのプレゼントは準備しなくていいでしょ?テントとか食料優先。異常事態なんだから、根気を入れて探すつもりで準備して」

 獣人君へ上げるつもりで買っていたものを、リサが避けていく。納得いかない。


「あの子も隠れるの上手だし、最初の被害は、突発的で相手も札付きだったから刑罰の対象にはならなかったけど、『倒し』ちゃってるし……あの子は多分大丈夫だから。でも、ご飯は多めに持って行かないとね」


 リサもあの子を気にしてはいるんだろう。こういう時は、あたしより冷静だ。とにかく、あの子の安全を確保しないと。


 ゴブリンはヒトより弱いなんていうヤツはいるけれど、実際にはほぼ互角。

 奴らは基本的に武器を手放さないし、毒を使うこともある。短絡的に攻撃してくるけど、躊躇がない。闇討ちもしてくる。

 数が増えれば、小さな町の結界なんかも壊される。小さいからその分、人間に対する攻撃の仕方じゃ、当てにくい。3匹いたら、熟練1人でも殺される可能性があるほどだ。

 そんな奴らを、あんな子供が倒せるはずが……


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「――インフェルノォ!――」


 例によって例のごとく、産廃先輩は緑色から黒い色に変わって、赤々と炎を上げている。それでも何匹か取り逃したようだ。


「ゴファ?!」

 うん、良いから散れ。歩いてるだけの俺にケンカ売ってきたお前らが悪い。平和にすれ違うなら攻撃はしないんだ、俺は。

 やられる前に、ヤルけどな?


「――メテオドライヴ――」

 ソフトボール大の大きさの火球が10個、俺の周囲に生成されてそのまま飛んでいく。そして連続で当たって産廃先輩達はそのまま倒れた。


 大精霊がいつも打っている雪玉は、これを属性変換し、更にいじったものだ。

 本来なら氷塊のはずで、ファイヤーボールの劣化版のこれと同じ威力を出せるはず、なんだけどやりすぎちゃダメだろうって事で、氷塊じゃなく雪玉にしている。

 尚、この技を作ったのは、最初にスラムで襲われた時で、それ以来使っていなかった。


――相変わらずすごい連射だねぇ、威力少し弱いけど――

「俺はそれより、この惨劇の方がすごいと思うよ。今回はゴブリン15匹だろ?

 いくらゴキブリレベルの害虫って言っても、一昨日も10匹近くいたのに。一瞬で黒い死体が大量生産って。俺、いつから〇ースジェットになったの?」


 ただでさえ薄暗いのに更に暗くなっていく森の中、異様な惨状を自分が起こしたとは、信じがたい。いや、やったのは知ってるけどね?

 こいつら、剣術とか棒術とか知らなさそうな下手糞な振り方してるし。小学生のスポチャンやってる子供の方がまだキレいいだろ。


「こんなゴミにもならないゴミより、アジトと飯の心配しないとね」

――あ、でもこいつら着てるのって金属ヨロイじゃない?胸当てっていうの?――

 確かに、ちょうど欲しかったから、頂いとこう。

 これでアレが作れそうだ。小銭も持ってたようだ。前に拾った胴鎧と合わせて紐に括りつけ、改めて山へ登っていく。


 この辺りは確か……

――最初のアジトのあたりだねぇ、またバナナ食べる?――

 たまに見かけるバナナ。あれ以来結構気にいってるイフリータは、期待しているようだ。それも考えて、今日はあそこに泊まろう。

 もちろん、他のアジト探索も並行して続けるが。


「それにしても、ホント産廃が増えたよな。あいつらどうしたんだ?」

――巣でもあるんじゃない?あたし達が攻撃しても実入りないし、意味ないからなるべく離れとこぉ――


 それは賛成だ。君子危うきに近寄らずってヤツ?なるべく離れとこう。そう思いながら、さっき狩りとった猪を背負い直した。


 安心して料理したいんだが、誰か来るとか、ないよな?


 エリナさん(金髪ギャル)は要はサブマスです。役職名は違いますが。

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