23話 ダンジョン
前回:――未到達に到達!やったね――
「ここには、生物らしい匂いが全くない。恐らく、生きている物は、ヒトはもちろん、動物、魔物、もしかしたら、昆虫に至っても、いないのかもしれない」
ヴァンくんの言葉に、わたしも匂いを嗅いでみる。
フンフン……あんまり良く分かんないけど、確かにヒトの匂いは、みんなの匂いくらいしかない……あとは、知らにゃい。
「それに、精霊文字を使っていたのなら、最低でも2千年以上は前の建造物でいいんだろう。
しかし、空間歪曲の範囲と効果、期間、性質なんかから考えれば、神代の遺跡の可能性があるな」
ヴァンくんは馬車のそりを壊して、中の石畳に馬車を入れて、建物に近づく。
トリさんは何かボーっと見ているけど、大丈夫かな?みんなも、それに合わせて一緒に近づく。
「しんだいって何ー?ベッドのこと?」
ハルちゃん、感がいいらしいのに、とぼけてるのかな?ヴァンくんに走りよって見上げる顔が、ちょっと、カワイイ。
「昔、神様と言われた奴らが居たんだそうだ。13神族はその神の末裔、なんて言われてるけど……んなアホな事は無いだろうと思うんだよな」
「ヴァンさん、貴方もその末裔の1人なのでしょう?なのに、それで宜しいのでしょうか?」
みゅう!そういえば、そうなんだよ!やっぱり、凄いんだよ!……あれ?
「ねえ、それって……こいつが居たから、ここが開いた……って事?それは有り得ないんじゃない?」
マリアちゃんも同じ事考えてるんだよ。でも、絶対そうなんだよ、信じるんだよ!流石なんだよ!
「ヴァンくん、自慢して良いんだよ!」
「自慢は傲慢。それが呼ぶのはヒトの不満。良い物じゃないんだよ」
みゅう、詩みたいになった……吟遊詩人もできるのかな?
「それより、中がどうなっているのか分からないから、お前らは入るなよ?中が本当にダンジョンなら、経験の無いヤツが入った場合、即死トラップに当たることもあり得るからな」
「フム、ダンジョンの経験がある者が確認をして、安全かどうかを判断する、という事か。危険が無ければ、中を探索する事も叶う訳だな」
みゅー……入ってみたいんだけど……コワいのは嫌なんだよ……でも、ヴァンくんと一緒に、行きたいんだよ。
「ねえ、アタシらは本当に入っちゃだめなの?だって、入れれば……」
「経験や知識がどれくらいある?
初心者ダンジョンだって、普通に攻略するなら、最低でも1週間はかかる。それで、簡単なトラップを見抜けなくて、階下に落とされるとか、よくあるんだ。
他にも、幾らでもネタはある。俺だって、確実に分かるわけじゃないから、さわりしか見れないんだよ。
その前に、ちょっと飯にしよう。そろそろ昼時だし、敷地の中は魔物が寄れないようになっているみたいだけど、何か探索できるものもあるかもしれないしな。
あと、洞窟とかあっても、入るなよ?ダンジョンだけでなく、俺がやっていたような、空気が無くなっている状態である事もあるからな」
空気が無いって……黒蛇の?みゅう、昨日の皮をはいだ後の、黒蛇を思い出しちゃったんだよ……思っていた以上に、お刺身がおいしかったんだよ。ちょっと、おさかなみたいだったし。
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「ここまで来て、ダンジョンに入れないなんて、絶対にありえないでしょ?だって、あたしらはダンジョンに挑むために、冒険者になったんだから」
ヴァンくんが、バーベキューって言うのをしてから、建物の中に入っちゃった。
その後、マリアちゃんがリリーちゃんとわたしに、内緒話を持ちかけたんだよ。
他のみんなは、周りの探索をしてて、わたしたちの行動を気にしてないと思う。今、建物の陰に3人で隠れて話してる……隠れなくても、良い気がするんだよ。
「せやけど……勝手にやったら、どうなるか分からへんやろ?それに、どないに難しいんか、分からんやないか?」
リリーちゃんは、ちょっと気が乗らないみたい。ダンジョンは、情報大事なんだよ。
「そうだけど……トレジャーハンターを目指すアタシとしては、ここは退く事ができないの。ミーシャ、アンタは?」
……お金の事は、生活するだけあれば、まだいい。あるだけあれば、もっといい。
でも、今は……
「わたしは、ヴァンくんと一緒に居たい。怒られて、嫌われるのはヤなんだけど……」
「なんであんな奴の事を!?会ってからまだ、ちょっとしか一緒にいないじゃない。それに偉そうにしている割に、アタシらと一緒に行動しないんだし。
今は、ダンジョンに挑むかどうか、なの!」
「……やってはみたいけど……ヴァンくんの話だと、初心者のダンジョンはあるんだよ。まずは、そこから始めても良いかもしれないんじゃないかな?」
それでもう充分な気がするんだよ。いつになるのか分からないけど……それに、お昼ごはんの時に、発見者報酬がもらえるかもって話したから、無理をしなくても良いんだよ?
「だからって、ダンジョンはもう殆ど消えて行ってるんだよ?!見つけたここも、いつか壊されるかもしれないじゃない!」
「せやけど、ウチらには経験が無いんやで?無理しても……」
「無理してでも、ちょっとくらいやらないでどうするの!?一生できないかもしれないじゃない!」
みゅう、ケンカになっちゃったんだよ……?
「ケンカは、ダメなんだよ?だから……」
「ああ、もう……良い、分かった。アタシだけで行ってくる……じゃあね」
怒って、勝手に建物に入って行っちゃった……本当は、寂しがり屋のくせに。
「みゅう、怒りんぼ」
「せやね。しゃあない。行こか?」
「……そうだね。3人、一緒なんだよ」
孤児院で出会ってから、今までずっと一緒にいてくれたんだから、これからも一緒が良いんだよ。
……だから、中で会っても、怒らないで欲しいんだよ、ヴァンくん。
わたし達は、マリアちゃんを追って、中に入った。
中は広間になっていて、マリアちゃんがどこにいるのかすぐに分かった。壁際に居て、座り込んでいた。その広間からは、色んな方向に、道が繋がっている。
「マリア、勝手に行くんはズルいんやないか?いつも自分が、3人一緒って言うとるのに」
「だって……」
「やっぱり、寂しがりなのに、強がりなんだよ」
ちょっとベソ掻いて、すねてる。そういう所が、好きなんだよ。
「ダンジョンのトラップ、どういうのがあるか、覚えてる?わたしは難しくて、あんまり覚えてにゃいんだよ」
立ちどまったマリアちゃんの所に、2人で近づいて、ちょっと笑う。
やっぱり、本で読んだだけじゃ、ちょっと無理。あの本だって、ヒョウ爺から借りたものだし、もう手元にない。
「なんでや、シーフ。アンタやシーカーが何かでけへんと、ダンジョン攻略なんて夢のまた夢やで」
「しょうがないわね。アンタたちは、アタシが居ないと何も……」
話ながら、少し先に進んで……失敗したことに気付いた時には、遅かった。
気が付いた時には、3人の悲鳴と一緒に、暗闇の中に落ちてった。
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ここはダンジョンで間違いない。
跳躍魔法を使って、空中に浮いたままあちこちを確認しているが、トラップの仕掛けになる魔方陣、わざとらしいスイッチ、目立ちにくいスイッチ。嫌らしいことに空間探知型のスイッチまである。
大抵のトラップは空間なんて気にしないから、跳躍魔法を使っていればトラップには掛からないが、ここはちょいちょい矢が飛んできたりする。
――あんたが気が付くの早くて、全部かわせてるのがすごいと思うけどねぇ――
オオカミは伊達じゃない。そう言う事だ。ともあれ、ここまでくれば、大体レベルは推定できるだろう。情報はこれで……
……何か聞こえた……?
――ねえ、今聞こえたのって……――
……ちょっと戻って、確認するか?まさか、中に入ったとか言う訳ないだろ。
いくらあいつらがダンジョンをやりたがっていたとしてもさ、外で何かトラブルがあったのかもしれないんだし……ダンジョン攻略に必要なのは何か、分からないでもないだろうし。
それに、言ってあったはずだ。生態系の無いダンジョンもあるって。ここには、生物の気配は、無いって。
――さっき、鳥系のガーゴイルなら居たけどねぇ――
そう。だから、空間収納も持たない3人が、食材も持たず、中に入って生き残る可能性は、ほぼ、ゼロなんだから……
入り口に戻ってきたら、あいつらの匂いがするって、どういう事だ?まさか……
「ヴァン!良かった、戻ってきたんだ!」
アリス、何となくだけど……言いたいことが解る。遺跡、もといダンジョンの入り口にまで寄ってきて、何かを訴えようとしてる。
多分、予想している事を。
――うん、それ以外ないでしょ――
「ミーシャちゃん達が、中に入ったのが見えたんだけど、どこにいるか分かる?」
「はい、そうだと思った」――うん、そうだと思った――
精霊さんと俺の声が重なり、頭を抱える。そりゃそうだろう。声に気付いて帰ってきて、匂いがして、目撃証言は、要らないよね。あいつら、情報も経験も、食料もなく、どうやって攻略するつもりだったんだ?
ダンジョンに入って、いつでも出れるとか、考えていないよな?
――初心者ダンジョンでも、テレポートを用意しなきゃ出れなかったよね?――
そう……そして、救難信号用のアーティファクトが作られる前は、行方不明者が結構居て、死亡事例は多かったらしい。救難信号用アーティファクト、あいつら持ってるのか?受信機無いけど。
それに、ペンライトくらいの明るさの生活魔法、ブライトくらいしか、あいつらは明かりを作れないはずじゃなかったか?
探索の仕方全く考えてないだろ。ダンジョン内が明るいなんて、誰が言ったんだ?
魔造ダンジョンですら、内部を明るくする装置置くなんて、攻略側への配慮する所は全く無いそうだが。松明らしい匂いも、微塵もしない。
「ああ、考えてもしょうがないな。とにかく、行って連れ戻してくるけど……」
「ヴァン、お願い。ヴァン以来、初めてできた友達なの……ミーシャちゃんたちを、必ず連れ戻してきて!」
入るなと注意していた遺跡の敷居をまたいでも、熱を込めて、手を掴んでまで、お願いしてきた。アリスにしちゃ、随分本気だな。そんなに、仲良くなったのか。
――誰か、忘れられてるんじゃない?――
ああ、うん。そして、奴はそれが運命。ヴィンセント達は誤差だ。それはともかく。
「……行ってくる。この巻物を、馬車の真ん中に敷いて、待っていてくれ」
アリスに、テレポートの術式を書いた巻物を渡す。2つでワンセットの物だから、片方が開かなければ、転移術式は発動しない。
ああ、なんでこんな事になるんだろうなあ。次から次へと……やっぱり、来るんじゃなかった。のんびりと、いつも通り狩りをしていればよかったよ。
匂いを辿り、3人の後を追う。脇道に入ってすぐ、床に残った匂いが消える。探れば、そこには深い穴。ピットホールじゃ無いようだ。
――開けてすぐ、串刺しぃ、じゃなくて良かったねぇ――
……精霊さん、コロスヨ?
――え、本気で怒ってる?いつもの……うん、ゴメンネ――
はあ……ここを降りなければいけないな……
精霊のボヤキ
――ところで、どうやってあたしを殺すの?――
そう言えば……命あるの?
――あってないようなものかな?――
ならば仕方ない。たんまりとあの芋虫を……
――それはやめて、解った、ゴメン!――




