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フェンリルの挽歌~狼はそれでも狩りがしたい~  作者: 火魔人隊隊長
ダンジョンのソナタ
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22話 森海探索

前回:――鳥のせいで移動中にみんなダウン――

 樹の高さはこれ以上伸びないっていうくらいに、高く伸びてる。多分、これ以上高い樹は無いんじゃないかな?

 てっぺんが見えないくらいに高いし、途中から生えている枝が、視界をさえぎってる。

 足元は、深い木の葉や枝が腐ってるみたい。足で踏むたびに、ジワジワと水が染み出てくる。森の海って言うのもよく分かる。木が多くて、光が届かない。

 わたしたちは、そんな暗闇の中を、馬車を降りて、少しづつ移動してる。


 ジワジワと、イヤな雰囲気が近づいているのが分かる。結界の外を今、何かが通り過ぎた。

 馬車にかけられた結界が、魔物除けの薬剤の煙をこもらせて、少しづつ周りに漂わせてる。その籠っている煙は、松明の掲げられた馬車の中の、金属製のお盆から出てる……このお盆が、わたし達の生命線なんだよ。


「そろそろ薬剤が無くなってきた。足してくれ」

 氷に被われたヴァンくんがかけた声に、リリーちゃんがバッグからビンを取り出して、お盆の中にビンの中の粉を入れてる。もう1時間、この状態。


 またチラリと、黄色い姿が結界の外を通り過ぎた。


「ねえ、これ本当に大丈夫なのよね……?ちゃんと、薬効いているんでしょうね!」

「焦らんくても、こっちに来いひんていう事は効いとる言う事やない。それより、こっちで合っとるんやろうな?」

 マリアちゃんは籠っているちょっと臭い薬剤の効果を、リリーちゃんは石柱のある場所を気にしてる。

 唯一の、建物へのヒントになるのが、その石柱だから、それを探そうって話になってるからなんだけど、見つかるのかな?


 こんな森の中を通れる馬車があるのも不思議だけど、ヴァンくんは、フォーゲルだから馬車の重さを軽くできて、馬車に彼の魔術でソリを履かせれば、ある程度は問題ないって言ってた……普通になら、通れないって事だよね?


「何しろ、探索中に偶然見つけた後、戦闘しつつ移動していたらしいからな。石柱を見つけた術師も戦死して、どこにあるのか、正確に分からないそうだ。

 約1日余分な日程を設けたのは、行き来の時間や探索の時間を考慮して作った余裕なんだからさ。来てすぐ見つかるなんて思うな。腰据えて探すんだ。たった1時間しか探索していないんだぞ?」


 もう、1時間なんだよ。まだ朝方で、これから日が昇ってく時間なんだから、先も長いんだけど。ちょっとづつ、黄色い影が増えてきたんだよ。あれは、何だろう?


「そろそろ囲まれ始めた様ですけど、結界の中が煙っているのもあって、少々見えにくいのですが、何が寄ってきているのでしょう?」

 エイダさんも気になるみたい。


「……キメラだね。マンティコアだったら、体が紅いけど、キメラはいろんな色があるから。今、右の個体は緑だったけど、左の方は黄色と青。全部、ちょっとづつ色が違うんだよ。

 そうなる理由が、子供を宿したときに食べた生き物の種類で、生まれてくる子供の形や色が変わるからなの……人とワシ、馬の肉を食べたら、人の顔で馬の体、ワシの羽を持って生まれてくるんだって」

「ちょ、それってキメラっぽくないじゃないか?」

 アリスちゃんが説明してくれたのに、頼りないヒトが分からないことを言ってる。


「ライオン、ヤギ、蛇の頭って言うのは、ゼウスだのなんだのの話だろ?どっかの画家が、いろんな形で画いたり、彫刻家が身体を自由にくっつけたりしたのもある。

 キメラ自体、合成獣っていう言われ方もしていたじゃないか。そのニュアンスだろ」

「ええー、それはSF……」

「どうでもいい……」

 ヴァンくんに否定されて、マリアちゃんに呆れられてる。確かに、どうでもいいんだよ。また、数が増えた気がするんだよ?


「キメラの数が多くないだろうか。これはまさか、狙ってこちらに来ているという事であろうか?」

「否定はできないな。薬剤が切れるまでは入って来ないと思うが、薬剤が切れた瞬間に結界を割って入ってくるつもりなんだろう。一応、少しづつ薬剤効果が、外に出るようにしているんだが……」


 でも、確かに結界が、半透明の状態で守ってくれているんだよ。

 少しづつ、結界ごと馬車が動いて、森の中を進める……そういえば、この結界が通れるくらいの道が、ずっと続いてるけど、どうしてなんだろう?


「あ、やべ」

 ヴァンくんが何か言ったと思ったら、結界の上に、樹が倒れてきた。結界に弾かれた樹は、そのまま横に流れるように、ズレてく。

 何で急に?みんなビックリして、固まっちゃったんだよ。周りにいたキメラも驚いて、暴れながらちょっと離れてく。


「すまない。倒す角度を間違えた。簡単にはいかないな……」

 ヴァンくんが謝ってるんだよ?ヴァンくんは悪くないんだよ!


「ちょ?!今のあんたが?どうやって……ってまた、魔術とか言うんだよね……」

 みゅ?


「……うーん……何となく、おかしいと思ってたんだよね。馬車の通れる道、普通森の中にあるわけないもんね。どうして馬車のまま通るのか、ちょっと不思議だったの」

「大方、空間歪曲か、火炎魔術で焼き払っていたんでしょうね。貴方なら、火炎魔術でしょうか?音もなく焼くんですね……」

 魔術師さんは、何か通じるものがあるのかな。道も平らなんだよ……道も焼いたの?


「残念、空間歪曲。モードフロストで、剣を出しながら、道を整えつつ、樹を曲げる様にしているんだよ。そろそろ、探知魔術でも使っておくか?」

 ……森に入る時に体が氷に覆われたけど、そういう事だったんだ?馬車の上の方を見たら、剣が動いて何か書いているんだよ。


 それに、たまに遠吠えをして何かを探しているみたい。音の反響で、何があるのかを探知できるって言うけど、そんな事で分かるなんて、すごいんだよ。


「ねえ、さっきから何回かやってるけど、本当にそんなんで探せるの?何も見つかってないじゃない」

 みゅう……マリアちゃんは納得していなみたいなんだよ。


「俺だけじゃない。エイダもアリスも、それぞれ探知を掛けているんだ。エイダのはマナの流れ、アリスはマナの反響と視覚強化で、俺は音響と嗅覚、聴覚だ。

 現状、10m先まで見通せないから、馬車にかけた松明の明かりと、探知魔術の効果で探すしかないんだよ」


 ……本当に暗いこの森は、目が探知の基本になるヒトには恐怖でしかないんだよ……わたしも夜目は効くけど、あんまり遠くが見えないから、ボヤっとしかわからないんだよ。

 魔術しか、探索する方法が無いのかな?


――――――――――――――――――――――――――――


 結局、森の探索をしていて、1日かけたけど、ぜんぜん石柱らしいものが見つからなかった。

 夕方になるまで、明るくなったような気がしなかったし、夜になる今でも、ぜんぜん明るさが変わらない。でも、もう夜なんだよ……?


「よし、終わったぞお。中に入って、出口を岩でふさごう。中に居た奴は、旅立った後だから気にしなくても大丈夫だ」

 洞窟の前で、何かをやっていたヴァンくん。結界の外は、紅い何かがウロウロしてる……マンティコア?みゅう、戦いたくないんだよ。

 みんなぞろぞろと、洞窟の中に入って、馬車も入れていく。洞窟を見つけて、その中で休もうっていう話になったから、ヴァンくんが中を、何かしていたみたいなんだけど……?


「きゃああああ!」

 マリアちゃんが、何かを見つけたのか、叫び声をあげた。


「な、なななな……」

「だから、旅立った、もとい、死んだ後だから大丈夫だ。いくら黒蛇とて、空気がなくなれば死ぬしかないんだって。ついでに言うと、こいつは焼いていないから、さばけば貴重な素材だらけだぞ」

「そ、素材って……」


 声の方に来たら、体長20mくらいのヘビが、とぐろを巻いたまま死んじゃってたみたいなんだよ……かわいそうな、そうじゃないような?死んじゃってなかったら、わたし達が死んじゃってたんだよ。


「確か、黒蛇の革は高級なバックに使うんだよね。ワタシはちょっと、よく分かんないんだけど……」

「ウム、これだけあれば、相当な金額の物になろう……まさかだが、これを、売るのかね?」

「ええ?ヴァンだってこんなもの、売らないよねえ!」


 アリスちゃんの意見に賛成なんだよ……こんな恐い生物の革を、バックに使うなんて、分からないんだよ…………ヒトの方が、怖くなってきそうなんだよ。


「まあ、今朝も少し剥いできたしなあ。こいつの肉も、刺身で食えるんだったよな……」

「食べる話じゃないだろ、何なんだよう!」

 みゅう、ヴァンくんには食べる事以外、興味ないのかな?


――――――――――――――――――――――――――――


 夜の間に、マンティコアはどっかに行っちゃったみたい。洞窟の入り口を岩の魔法でふさいで、匂いもほとんど外に出てこないから、いないと思ったのかな。

 岩が少しだけ隙間空いてたし、夜の間に魔物除けを焚いていたみたいだから、その匂いが臭くて、離れたのかもしれない。


 そして、翌朝。岩の魔術を溶いて、外に出た後、ヴァンくんが遠吠えをした後に、移動を始めたんだけど……

「あん?なんかあるぞ。樹木じゃない、人工物の何か……」

 何回かやってた遠吠えで、ヴァンくんが何かに気づいたみたい。


 少し方向を変えて、周りにいた、赤い影が遠のいて行った後に、その場所についた。少し開けた場所にある、白くて少し透明で、水晶のようなカタチの石碑。

 何か、書いてある。


「あれって……」

「間違いないであろう。ヴァンの言っていた、探索隊が見つけた石柱という物ではないか?書かれている文字が、少々奇怪だが」


 馬車からはなれて、みんなで石碑に近づく。白いような、少し透けている石碑は、光のほとんど届かない森の中で、輝いている。

 何が書かれているのか、みんな分からないかな?


「ヴァン、これって……」

 ユータが、何か知ってるの?ヴァンくんが教えたのかな?


「ああ、精霊文字だ。素材は……クリスタル系統で、魔石とは違うみたいだ。書かれているのは……在るべき場所へ還る者へのみ、この路は開かれん。神と精霊の真名に因ってのみ、鍵は作られん……何だ、そりゃ。つまり……」


「うーん?ヴァン、読めるの?……ユータ、説明してくれる?」

 石碑を調べ始めたヴァンくんの代わりに、ユータが答えるみたいなんだよ?大丈夫?


「あ、あのさ。ヴァンと師匠の旅の目的が、昔の人が残した石碑から、知られていない魔術の形態や様式を調べる事だったんだってさ。

 その中に、異世界から人を呼ぶ方法って言うのがあったんだって言うからなんだけど。


 その文字の中に、精霊文字……つまり、共通言語になる前の、全然違う文字が使われていたんだってさ。

 文字通り、精霊なら読めるって言うから、ヴァンの精霊が翻訳してくれるみたいなんだけど……」

「ああ、おおよそそんなところだ。仕組みは理解できた……開くぞ」


 説明が大体終わったところで、ヴァンくんが立ち上がって、石碑に手を当てて、マナを流したのかな?

 赤いマナが、石碑の文字に流れ始めた。


――次の瞬間。空間が揺れた。


 文字通り、地面じゃなくて、空間。足元がふらつかないのに、空気が揺れて、振動して、衝撃みたいなものが出来て……


「ああ、どうしてこう……俺の行く所には、おかしな物が置いてあって、俺しか、触れないのかな?何回目だよ、こういうの」


 呆れるヴァンくんの、その奥に……白い世界が、広がっている。


 足元には、白い石でできた、石畳。

 広場の中心には、白くて大きな、三角の遺跡。

 ところどころ、草が生えて、つるが絡みついている。

 全部が、光り輝いていて……キレイ。


「これが……森海の」

「未到達、ダンジョン……そう、なんだね。ヴァン」


 突然現れた、白い、キレイな、その空間に見とれながら、みんながヴァンくんに聞く。


 彼は、黙ったまま、頷いた。


「フ、フフフ……」

 マリアちゃんの目が、金貨の形になってるんだよ……雰囲気、台無しなんだよ。


精霊のボヤキ

 神と精霊の真名……何だ、そりゃ。

――あんたとあたし、とか?――

 つまり……って、このスタチュー、首飾りのクリスタルと同じじゃないか?

――あ、ここの刻印、マナ流せる仕組みだ――

 マナってそっちかい……何だ、このピンポイントの仕組み……ご先祖、何やってるんだ?

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