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フェンリルの挽歌~狼はそれでも狩りがしたい~  作者: 火魔人隊隊長
ダンジョンのソナタ
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17話 ダンジョンは死んだ?

前回:――3人が知った、色々な真実――

「ダンジョンが、死んだって何よ……」

 ダンジョンって、生き物じゃないでしょ?死んだって、おかしな発言なんだよ。


「厳密に言えば、ダンジョンの流行はもう最低の位置まで落ちている、という事だ。その理由っていうのが……」

「おお!あの一家だろ、グリーンバーグ!3代続くダンジョン攻略一家!」

「あいつら、やってくれるよなー……全世界のダンジョン食い荒らすなんて……」

 ヴァンくんが説明してくれているのに、近くの席から横やり入ったんだよ!みゅう!にらんでやる!


「あいつらのせいで、俺の夢もパア……」

「何言ってんだよ、まだ望みはあるだろ?冒険者続けるなら……」

 にらむ前から、しょげちゃった?


「要約すれば、あいつらの話している内容になる……もう少し詳しく聞くか?」

 マリアちゃんは固まって、答えられないみたいなんだよ。みんなも、どうするか困ってる。


「ヴァン、詳しく教えろよ……死んだって、食い荒らすって、何なんだよ。ありえないだろ」

 頼りないヒトが聞いてる……うるさいから、いつも通りなのかな。


「ああ、死んだと言われ始めたのは、去年。

 世界最難関と言われ、1階層を抜けるのも普通は無理と言われる魔造ダンジョンが、500階層のコアのある場所まで攻略され、消滅したからだ。それを為したのが、グリーンバーグ一家だ。


 そもそも、ダンジョンには3種類ある。


 人工ダンジョン。特定の者が、自分の財宝を隠す為に作った、文字通りの人工のダンジョンだ。

 殺人トラップが多く、魔物は少ない。居ても、生物系統ではない。ゴーレムやガーゴイルなんかだ。イレギュラーで、マニコイドやスライムは居るけどな。


 次に自然ダンジョン。人為的な手は加わっていないから、トラップが無い。生態系が成り立っているのも特徴だ。

 逆に言えば、強い魔物が浅い層にも当たり前にいるし、弱い魔物が深い層にもいる。魔術などの影響で歪みができ、そこに出来上がるのではないかと言われている。


 最後に、魔造ダンジョン。これが一般的なイメージのダンジョンだ。だが、勘違いされている物でもある。

 ここに、お宝があるというイメージは多いが、実はほとんど存在していない」


「「「はあああ!?」」」

 最後の一言は、信じられないんだよ。みんな一斉に叫んじゃった。


「ちょっと待って、それって……そういう所に、強い武器とか、お宝はない訳?一攫千金の夢は?」

「それについては、あるとも言える」

「どっちよ!」

 ……確かに?


「ただし、ダンジョンが作った物じゃない。

 そもそもおかしいと思わないのか?なぜ、わざわざダンジョンが、人間を観察して、おびき寄せるように、人間の好む武器を作って、渡して、その人間を殺させる魔物を造る?というか、いつ観察する?

 ……できるとしても、効率が悪すぎるんだ。ダンジョンがそんな事をする意味も分からない。損な事をするんだぞ?


 それだったら、魔物なんて造らず、金塊だらけにでもして、寄って来た人間を、串刺しにでもすればいい。

 魔物がいれば、ヒトの装備が固くなる。攻撃が通らないかもな。

 魔物を内部に飼うなら、そいつらのエサはどうする?魔物は飯を食わなくていい訳じゃないぞ?あいつらも、基本的には普通に生きているからな。


 魔造ダンジョンという物は、魔物を生みだす物ではなく、魔物を呼び寄せる物なんだ。

 そして、そこにある装備は全て、誰かの()()なんだ」

「イヒンって……なーに、エイダ?」

 ハルちゃんの所でコソコソ始まったけど、置いといていいよね?


「つまり、俺が不用意に行って、そこで死んだ場合、俺の聖剣を始め、ストレージにある()()()()が残る。

 当然、金もだ……誰がそれをやるか、話す必要はあるかな?」

「スライムか……成程。洞窟の奥などなら、湿り気は充分。そして、飢えれば人を襲う事もある」

「そう。そして、死んだヒトの遺品が、そのダンジョンの宝なんだよ。作るとか、必要ないんだ。

 奥に行けば行くほど、強い魔物がいるっていうのも、嘘だ。その方が盛り上がるから、夢があるから、吟遊詩人なんかは狙って歌っている。

 奥に行けばその分激しい戦いになるから、強い魔物がいるというよりは、生き残った魔物が犇めいているだけなんだ」

 どういう事だろう?みんな首をかたむけてる。


「ダンジョンの魔物が、縄張りを作って、食い合っているだけなんだよ。

 一時は、瘴気を食べるのが魔物って思われていたから、ダンジョンが作っていると思われていたんだが、ダンジョンに挑戦したニンゲンや迷い込んだ動物が、魔造ダンジョンが出す悪性活性マナに当てられて、魔物化している。

 それをやっているのが、いわゆるコアなんだ。


 そして、その仕組みを初代グリーンバーグが読み解き、研究。

 子供と共に攻略に挑み始めたのが、40年前。

 初代が亡くなり、入れ替わりに3代目が生まれ、その3代目も5人いる状態で、仲間を募って世界中の魔造ダンジョンを攻略していったんだ。世界に数十はある魔造ダンジョンも、40年の内に9割は無くなった。


 そして、去年。4つある最難関の内で、最大難易度の呼び声の高いダンジョンが攻略された。

 そこまで来て、グリーンバーグ2代目はこう言ったんだ。『深層に行けば行くほど、お宝なんてありはしない。腐った魔物の死体と、骨、石ころばかりだ』と。

 それを嘘だと思って、多くの者が彼の後を追い、その残骸となった空洞を見て、絶望したそうだ。

 グリーンバーグ2代目は未だに、持ち帰った財産と武器を保有したまま、そのダンジョンの前に居るが、彼に会って奥に案内された者達が見る光景が、ただの骨と、ガーゴイルやゴーレムの砕けた跡。そして、狂暴化したスライム。宝箱の1つすら、無い。


 だが、真っ当な思考をして、考えてみろ。……洞窟の奥深く。光も水もない場所で、草も生えない

――真っ当な生物は、いるか?


 居るとしたら、細菌や微小な虫の類。そこで大型魔物が生活する必要は、あるのか?……無いんだよ。

 そうなれば、魔物はコアに呼び寄せられていた、或いはコアに変異させられていただけで、そいつらに殺された者達の持ち物、或いは変異した奴の持ち物が、転がっているだけ。

 そんな状況でも生きられる、光もいらない魔物……スライムとかなんだよな。水は、他の生物が持っている分でも、充分奴らは生きられる。あいつ自体が、タンクなんだからな。あいつらは、金属はお嫌いなんだそうだがな?


 はっきり言って、既に他のグリーンバーグの攻略隊が他のダンジョンに向かっている現状、残りの最難関も、陥落は時間の問題だと言われている。


 残りの2種類にしてもそうだ。人工の場合、トラップなんかで足止めを食らうけど、一度攻略してしまえば、宝は無くなる。トラップについても、半端な物は無いぞ?


 物語にあるような、水攻めとか、天井がゆっくり降りてくるとか、球転がしなんて、一切無い。ジワジワ攻めるのが、迫力があるから、盛っているんだ。

 ピットホール……串刺しの落とし穴とか、落ちてきた事すら気付けないまま潰される天井、気付いたら既に真っ二つにさていれる横ギロチンの道……逃げ道の無い必殺トラップのみだ。

 話では、ヒョウ爺はこれを壊すのが得意だったそうだ。もちろん、見抜くのもね。


 あと、この手の場所には、スライムすらいない可能性がある。生物が、皆無っていう事だ。さっきもチラッと出た、ゴーレムやガーゴイル。これが配置される程度だ。

 奴らなら、食いものはおろか、空気も水も、必要ないからさ。稀に、ネクロマンサーが仕掛けたアンデッドの場合もあるけどな。

 お宝は、可能性は僅かにあるが、金持ちが死んで不自然に遺産が少なければ、直ぐに噂になる。作っているかもしれないってな。そうなりゃ、多くの冒険者が死に物狂いで探すだろう。そして見つけたら、そのまま奪いにいくよな。


 自然ダンジョンについては、簡単だ。自然にある物が、お宝。以上。まあ、一縷の望みではあるのかもな。その奥にしかいない生物がいれば、それは他ではお目にかかれない物だろうから。


 総合的に見て、言える事は1つだ……ダンジョンは、もう流行遅れ。死んでいるんだよ」


 ……ヒョウ爺が得意なのが、トラップだっていうのは、聞いていたんだよ。怖いトラップ、たくさん壊してきたって。

 でも、ほとんど無くなってるし、思ってたのと違うんだよ。うわぁ……なんか、がっかり。


「聞いていた話とは、少々趣が違う物だが……入った事のあるダンジョンと云うのは?」

「師匠と一緒に入ったのは、人工ダンジョン。既に攻略済みで、それもグリーンバーグの手によってだ。

 ヒョウ爺がグリーンバーグの一派だった、っていうのが情報の元なんだけどな。妙な壁画が奥にあるからと言われて、行ってみたんだよ。


 天井が落ちてくるトラップを、俺の氷塊とエリナさんの石柱で抑えて、リサさんが真っ2つに斬った……ロイほどじゃないから、割ったが正解か。

 槍で串刺しとか、カッターで斬ろうとする道は、俺が氷の道を作って抜けたな。

 壁が動く場所は、リサさんが、思いっきりぶっ壊していたし。

 ピットホールは全て解除済みだったけど、踏んで起動する位置が確実に穴の中心で、前後30mくらいの穴に串がたんまりと置かれていたな」

 ……?ぜんごさんじゅーめーとるが、ひらいて、くしざし……?どうやって、解除するの?


「……って、そんなの無理でしょ、無理無理!どうやって解除するの!」

「え?俺と同じ跳躍の術式を調整したり、空気を固体化させて足場にするような、ちょっと器用な術師に踏ませて開かせて、そこを固定させていたらしいよ?」

 ……ヴァンくんも出来るんだよ。うわぁ……。


「ヴァン、それって……入ってきたやつ絶対コロスマンだよな?」

「ユウタ、言い方古くないか?昭和ほどじゃないけど」

 頼りないヒト、何言ってるのか、わかんにゃい。


「因みに、壁画には見た事の無い文字や、精霊文字が書かれていた。たまに聞く事のある、神代のダンジョンかも知れないそうだ。

 ずっと昔、13神族が神としての力が強かった頃のダンジョンとか……胡散臭いと思うけどね」

「うーん……ヴァンも、その一族の1人、だよね?」

 みんな、普通に会話してるけど、理解するだけでいっぱいいっぱいなんだよ…………マリアちゃんは、理解したくなさそうなんだよ?


「あちゃー……そんなダンジョンばっかなんか……ほな、ウチらに行ける場所ってあらへんのかね?」

「みゅ!行ってみたいのに、みんな壊されちゃうし、お宝無くなっちゃうなんてイヤなんだよ!」

 夢も希望も無くなっちゃうんだよ……みゅう。


「……グリーンバーグの奴らも、数か所壊す気が無い場所がある。ただ、お宝は、期待するなよ?」

 ヴァンくんの一言で、みんな顔つきが変わった。何だろう?


「まず、有名な初心者ダンジョンは、全て壊さないつもりらしい。そう呼ばれるのも、致命的な怪我をする事なく、地上に送り返されるからだ。子供でも入れるダンジョンもあるくらいだしな。俺も1度入った。


 次に、攻略以前の問題の場所。つまり、見つかっていないダンジョンと自然ダンジョン。

 先に見つけないとどうしようもないが、見つける事が困難だったり、知られていなかったりで、発見されていない場所が、数カ所ある。そういう所でも、殺人トラップがある可能性もあるから、3等級以上推奨は間違いないだろうな。

 自然ダンジョンは、壊す云々以前の問題だ。攻略もされていても、自然だからね。生態系を無理に壊す意味がない。


 最後に、一般にはダンジョンと認識されていない、誰でも知っている場所。

 『暗黒大陸ギガラシア』。便宜上、大陸ではあるけど、ダンジョンとしても認定されている。流石に彼らも、魔物の大陸には行きたくないらしい」

 最後はムシしよう。誰だって、ムリなんだよ……うん、ムシ。


「……でも、それって……アタシらには……関係ない……って事じゃない…………」

 マリアちゃん、ようやくしゃべったと思ったら、放心しすぎてちょっと泣いてるのに、表情が無い。まぶたも動いてないんだよ。


「未到達ダンジョン、遠目に見れる所なら、あるぞ?」


 ふと、マリアちゃんが動いた。ヴァンくんのこの言葉、マリアちゃんが見れる夢の、最後の希望なのかも知れないんだよ……遠くから見るだけなの?


「南部のワイバーンの巣窟になってるリアス式海岸があるんだが、その近くの森に、遠目から見えるピラミッド型の遺跡がある。

 「ダンジョンではないか?」とは言われているんだが、残念な事に、誰も到達していない」

「フム、何故に?」

 ヴィンセントさんも興味ありすぎて、言葉少ないんだよ…………今日、ヴァンくんばっかり喋ってるんだよ?


「空間が歪められているんだ。原因は不明…………と長らくされていたんだが、実は5年前に、探索隊がおかしな石柱を見つけたらしい。たった一度きりで、それ以降その石柱の位置を特定できなかったらしいんだがな。


 グリーンバーグの一団も何度か探索しているが、見つけられない。幻のダンジョンの1つと言われているんだ。まあ、場所が場所だけに、行きたがる奴も、2等級以上なんだが……」

「結局階級かー!……近くに行けないの、それ。せめて、見つけたら報酬とか……」

「多少近くになら行けるし、報酬ならある。ダンジョン発見報酬、最大2百ガル。あと、歴史ある文献だったり、石碑だったりが少しでもあれば、報酬を上乗せした上に、歴史にちょっと名前が載る。


 ある場所自体は、超危険地域指定されているけど、必要な道具が充分あって、護衛になるヒトが居れば、冒険者や研究者は誰でも行ける。超危険地域に入らなければ、遠目に見える。


 ……言っとくけど、発見者になろうとか思うなよ?過去500年、指を咥えていたヒトが何万と居たんだ。踏み入れても、魔物に食い散らかされる可能性がデカいんだからな?」

 ヴァンくんは、自分が言った事を後悔しているのかな?でも、もうみんな興味津々なんだよ。わたしも行ってみたいんだよ!


「最大、2百……へへへ……」

 マリアちゃんが眼を金貨にしちゃってる……どういう特技なんだろう?


「……ヴァン、一度、遠目で見るだけでも。出来るなら、近づいてみて、挑戦してみようではないか?これこそ、冒険であろう!」

 ヴィンセントさん、すごいやる気になってるんだよ!もう、この勢いは止められないんだよ!


「ハア……ヴィンセント、勇み足は気を付けろよ?……場所は『森海(しんかい)』。森が深く、陽の光が殆ど届かない、深海のようだからそう言われる。

 出てくる魔物は、通常の物とは全く違う。1級危険生物キメラ、マンティコア、『黒蛇』の3種が主だ」

 ……興奮していたみんなの顔が、最後の辺りで凍り付いた。


「知ってるかな?黒蛇、世界3大魔獣に数える奴もいる程、凶悪な魔物。エレメントドラゴンやケルベロスと、ほぼ同等の存在だ……石柱を見つけた精霊術師の女性も、そいつに喰われたそうだ」

 ……行くのやめようかな?!


精霊のボヤキ

――吟遊詩人って、何でそんな嘘ついてるの?――

 いや、その方が盛り上がるでしょ。楽しませる為に、嘘つくんだよ。

――嘘ついても、楽しくないでしょ――

 精霊さんはね。ヒトは嘘と中傷が好きなんだよ。

――はぁ……糞ね、人間って――

 こらこら、そんなこと言っちゃダメ……あれ、いつもと逆になってる?

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