10話 自己紹介
前回:――猫が犬と同居?決定です――
「フム、そういう事なら仕方あるまい。我々としては、特に問題は無い」
ヴィンセントさんはなんだかスッゴクあっさり受け入れた。心広いんだ……本当に簡単に、許可出したんだよ。
お屋敷の中に入って、食堂みたいな場所に通されたけど、教会にあった食堂くらい広い?……みゅう、なんて言えばいいんだろう。とにかく、こんな広いと落ち着かない……みんなが座っても、まだ半分も席がうまってない。
「しかし、宜しいのでしょうか?いくらマスターの指示とは言え、貴方は5等級の冒険者なのですし……少々辻褄が合わないのでは?
建前としては、マスター代行の立ち位置であるとは、理解しておりますが……」
むらさき色の髪の人が、なんか悩んでる?みゅう、一番言いたいのは、わたし達なんだよ。
「その辺も、マスターの考えに基づいての判断だ。決定は決定だし、どうにかなるものじゃないよ」
「そやかて、心配にもなるやん。うちら、きちんと監査受けた事になるんか、それで」
「うーん、ヴァンなら大丈夫なんじゃないかな?8年間も弟子をやっていたんだし、ギルドの皆とも結構仲良いんだし。仕事の事も、色々教えてくれるでしょ?」
でも、前の監査だとあまり教えてくれなかったんだよ?
「……何しろ、こいつらの前の監査が、ロイだからなあ。無言で仕事や訓練を進めていく性で、後進育成ができない奴で定評あるから……その前に、何でロイにやらせたのか、って話だよ。全く」
……うわぁ、なんでそんな人に教えられて、大丈夫にされたんだろう。いい加減だなー……。
「とにかく、これから一緒にやっていくことになる仲間だ。自己紹介と使える技能くらいは、教え合わないとな……
俺は、大体の事は詩で広まってるよな?後は、馬車やあの村で見せたものがほとんどだ。精霊術師兼剣士。
次、ヴィンセント」
みんな知ってるから、いっせいに頷いた。そうだよね。あとで聞きたいことをたくさん聞こう。
「ヴィンセント・ハートフィールド。剣と槍、盾を使う。水の魔術は多少扱えるが、他は生活魔法レベルだ。障壁もあまり得意ではない。
12歳の頃より3年ほど王都の学園にて学び、主席も取らせて頂いた。戦略などについても、相応の学がある。この辺りか」
「あのねー、ハルはハルだよー。格闘が強いの。んでねー、武器はギンローのくれたやつ。ヴィンセントさまとラブラブなんだよー」
みゅ……テーブルの下からいきなりブロンドの小さい子が出てきた。移動してきたのかな?さっき、キッチンにいたんだけど……?
「申し訳ありません。この子は奔放でして。彼女の親はハートフィールド領の労働奴隷で仕えている庭師と給仕、ワタクシはエイダ、執事と給仕長の娘です。ヴィンセント様に幼い頃より仕えています」
「エイダもラブラブって言えばいいのにー。もうみんな知ってるんだからさー」
……みゅう、なんかちょっと、感じ悪い。みんなの顔も苦笑いなんだよ。
「……ワタクシは魔術と弓を使わせていただいております。特に、結界と遠隔魔術、付与術式を得意としております」
「え、付与って、エンチャントの事?刻印じゃなくて?」
なんか邪魔ばっかりされてるんだよ?この人がかわいそう……。
「ユウタ、邪魔はするな。それと、刻印も付与もエンチャントだ。物に魔術をかける事をそう呼ぶってだけだよ。そして、次はお前だ」
「ええ……うんまあ、ぼくはイガラシ・ユウタ。ヴァンの前世の国の日本から来た日本人で剣と盾を使うんだけど盾に結界と障壁が使える機能があってそれから剣はアダマンタイトでできていてそれで」
「以下略。アリス」
「ちょ、何だよそれええ!ぼムグゥ……」
なんか分かりづらい話し方されたと思ったら、途中で止められて顔に氷を張り付けられた。
「さっきも挨拶したけど、アリスです。魔術を使います。得意なのは、媒介を使った術式と流体術式です。動植物の知識を親に教えられているから、そっちの方面も役に立てるかな……」
……みゅう、この子も魔術師。戦いは見てたけど、やっぱり魔術師がいると違うんだよ。しかも、3人。わたし達には、リリーちゃんがいるんだけど……錬金術だから、違うんだよ……。
「ほな、うちから行こうか?リリー言います。錬金術師……なんやけど、あまり道具造るための物持っとらんから、ボチボチやっとります」
……道具、作れないとあんまり有利にならない……でも、本気出したら凄いんだよ、多分。
「アタシはマリア、シーカーで、武器はナイフ。特技っていうか……戦いはあまり得意じゃないかなー」
「しーかーって、なにー?ヴィンセントさま、わかる?」
みゅ?知らないヒトって、居るんだ?結構みんな知ってると思ってた。
「フム、私も余り詳しくは聞いた事が無いが……シーフ職の一種だったか?少々勉強不足だったか……」
……このヒト、確かシュセキって言ってたよね?それって、頭いいって事だよね……知らない?
「知らなくても当然だ。ダンジョン攻略班にいる、敵やトラップの探索、地図の作成、敵などの追跡を主とした職種。
シーフやレンジャーの変化形って言えば、近いだろうな。そして、普通の冒険者ギルドにはいないものだよ……ダンジョン攻略を目指すつもりだったのか?」
「そうよ、悪い?アタシ達は3人で、ダンジョンに行って、一獲千金狙うんだから」
……みゅう、最初はそういう目的じゃなかったと思うんだよ。お仕事選ぶときに、色々話聞いていてそうなったんだけど、最初はダンジョンの話じゃなくて……何だったっけ?
「ほら、ミーシャの番。早くしなさいよ」
「みゅ?!ミーシャです。シーフやってます。スラムに住んでました。えっとー、わたし達は、孤児院で仲良くなりました……こんな所?」
びっくりして、慌てちゃった。ちがう事考えていたから……でも、何を考えてたんだっけ?……みゅう?
「孤児院……あ、あああああ!」
いつの間にか、顔から氷が外れた頼りないヒトが、いきなり叫び始め……あれ?
「そういえば、このヒト……」
このヒトのヘンな顔、どこかで見た気がする。だれだったっけ?
「あ、いや……あの、ええっと……」
「何よ、どうかしたの?ミーシャ、こいつの事知ってるの?」
みんな、困惑してわたし達と頼りないヒトを交互に見てる。
「ああ、そういう事か。もしかして、お前が殴った奴ってミーシャか?」
なぐる……なぐる?
「ふみゃああ!このヒト、何年か前に、わたしを叩いたヒトだ!何か分からない言葉をしゃべって、叩いたんだよ!」
「え?それってどう……ああ!王族の方に話いって、牢に閉じ込められた、アイツ?!え、死んだんじゃなかったっけ?」
「ちゃうて……死んだんやなくて、冒険者になる言うて連れてかれたっきり、冒険者ギルドから出て来んかったやろ?それで、死んだんかもしれへん、言われとったんやて」
「扱いヒドイな!それに、悪魔憑きって言われてたらしいけど、それって3人がやったんじゃないのかあ!」
「「「それは知らない」」」
指さして、よく分からないこと叫んでる。悪魔憑きって、なんかおかしな魔術か呪い掛けられたヒトだよね?……違ったっけ?
「うそだああ!ぜったいオバァ……」
また顔に氷はりつけられた。いつもこうなのかな?
「ユウタ、あの時お前を悪魔憑き呼ばわりしたのは、他のヒトだ。厳密には、シスターだな。
牢に飯を置きに来る度に、血走った目を向けて髪を振り乱して、錯乱しながら、何かと話しているように見えたと話していた。それ以外は、見開いた眼をどことなく動かしながら、指を咥えて蹲っていたんだよ。
否定するなよ?俺も見ているんだからさ」
……うわぁ。そんな風になってたんだ。なんでそうなったんだろう?
「ウプァ……だ、だってコワかったんだから仕方ないじゃないか大体お前だって酷いんじゃないか助けておいてそのままサヨナラなんて人間のする事じゃなムグゥ……」
……うん、いつもこうなんだ。3回目だけど、誰も止めない。わたしも、もう慣れた……この氷、よく見ると変な顔。目が垂れ下がってて、口が前にニューって伸びてる。
「まあ、なんだ。このバカが迷惑かけて申し訳ないね。悪い奴じゃないんだが、見たとおりのバカでウザい奴なんだ。適当にあしらってくれ」
友達に言う言葉じゃないんだよ……仲悪い……訳じゃなさそうなんだけど。
「ユータさん。貴方は女性を何だと思っておられるのでしょうか……顔に氷が張りついたくらいで、済むと思わない方が宜しいですよ」
エイダさん、だったかな?ちょっと本気で怒ってるみたい。ずっと昔の事だから、わたしは気にしてないんだけど……
「ユウタの代弁をすると、その時は何が何だか分からなくて、周りが見えていなかったから、自分が何をしているのか、自分で理解できていなかったんだよ。
こっちの世界に来てすぐ、冒険者に出会って、ナイフ投げつけられて、3日彷徨って、途中生えてる草食って下痢になって、脱水症状になっていた所を俺に拾われて、孤児院に連れていかれたんだ」
「それ、理由になる?……まあ、自分がどこにいるのか分からないっていうのは、怖いだろうけど。ちょっとアタシは理解できないなー」
「うーん……だよね。自分が何をしてるのか分かってないなら、落ち着かないとダメだよね」
みゅ?茶髪の子……意外と、味方してくれる?……油断させようとしたって、ダメなんだよ!
頼りないヒト……ユータってヒトの顔の氷が取れたけど、シュンってしてる。
「でもなぁ、確か3年前の事やない?そない怒らんでもええんとちゃうか?ミーシャも怒っとらんて。なあ?」
「うん、あのヒトは変なヒトだから、仲良くなれないのは悲しかったけど。あのヒトがこのヒトだとは、思わなかったんだよ。さっき変な顔するまで、同じヒトに見えなかったし」
「それってぼくの顔がヘンだって言いたいのかよう、なんなんだよそれえー!」
だって、ヘンな顔になるんだからしょうがないじゃない。ヘンな顔は、ヘンな顔なんだよ。
「ああ……そろそろいいかあ?先に進めよう。このバカは、構えば喜ぶ変態だから、ほっとけ」
「ちょっと待って、ぼくはエムブぅ……」
また……もういいや。
「とりあえず、3人の武器や職種は、大体分かった。ミーシャもシーフって言うからには、ナイフとかだろ?」
わたしが頷くと、みんな考え込んだ……にゃにか問題あるのかな?
「フム、そうなると、立ち位置が少々不安定な気もするのだが……3人は今迄、どのような連携を取られてきたのだろうか?戦闘で壁として前に出る者が、全く居ない状態ではないか」
……それは…………何とかするしかないんだよ。
「全くでは無いが、盾は期待できないからなあ。ナイフ使うからには、格闘や柔術を理解しているよな?」
「え……ええと、あまり得意じゃない、かなー……」
「みゅ……わたしも……」
それって必要ないって、マリアちゃんが断固拒否してたんだよ。女の子には必要ないって。
「プアァ……ゼェ、ヴァン、ナイフって、格闘とかいらないだろ?」
「ユウタ、剣だって、鼻頭や金的を潰しにかかるのは必然だと、何度言えば分かる?それよりリーチの短いナイフが、使わない訳が無い。
後ろに回って、動脈を斬るとか、普通だろ?それをスムーズにやるなら、柔術が使えた方がいい」
……普通、なのかな?ぞっとするんだよ。
「然り。ヴァンが云うのは暗殺術などの定番だが、その様な使い方をせねば、ナイフのアドバンテージは皆無」
「でも、ダンジョンとかなら狭いから、剣は振り回せないでしょ!」
マリアちゃんはそれを理由にして、ナイフにしてたんだもんね。わたしは、最初からダガーやナイフがいいんじゃないかって言われてたんだけど。
「サーベルやフルーレ、エストックなんかの刺突を意識した武器は、狭いとか関係ないだろ?大振りに振るなんてバカな使い方、格好つけの演武でしかしないんだからさ。
現実の剣術は、もっと小ぶりだ。テコの原理で斬り上げたりするんだからさ」
なんか頼りないヒトが、顔を背けたんだよ?マリアちゃんも、ビックリしてる。
「ウム、槍にしてもそうだ。振り回す必要などないし、堅実に盾と槍で戦えると思われるが……演舞は、無駄に派手と思っていたよ、私も」
……そうなんだ。じゃあ、ナイフにしない方がいいのかな……?
「やるとしたら、ダガーとレイピアの二刀流がいいんじゃないか?」
「ちょ……なんで勝手に決めて……?」
マリアちゃんはやりたくないみたい。でも、この間の戦いでも、わたし達活躍できなかったんだよ。それなら、考えた方がいいかもしれない。
「みゅ、わたしはどうするといいかな?ナイフより、でっかい武器にした方がいい?」
2人はわたしを見て、また考え始めた。
「獣人由来の身体能力にナイフ、悪くは無いんだろうけど……」
「……私も確実に仕留める為の、スティレットは持ってはいるが、ナイフやダガーを専門に使う訳でないからな……」
得意じゃないのかな。それだったら、やっぱりでっかい武器にしようかな?って思ったけど、
「スローインダガーは持ってるか?」
ヴァンくんがそんな事を聞いてきた。
「…………にゃにそれ?」
……知らにゃい。
「いや、ナイフ投げくらいは分かって欲しいけどさ……確か、コボルド討伐の時も、あまり動けていないって話だったよな?それだったら……」
「いや、だから!なんでアンタらが勝手に決めるのって聞いてんのよ!
アタシは絶対、剣とか持たないからね!ナイフだけで充分だから!ミーシャも、変えなくていい!」
……ヴァンくんが言ってた、ナイフ投げ……カッコいいかもしれないんだよ。何でマリアちゃん、そんな怒っちゃうかなー?
結局、マリアちゃんが嫌がって、この話はおあずけになった……。
精霊のボヤキ
――草食べて下痢とか、最初言ってなかったんだよね――
本人は気付かれてないつもりだったんだろうけど、俺の鼻にはしっかり臭い届いてたからね。気づいたのは馬車に着いた時だけど。
――ユーシャって、何でこんな汚いネタ多いのかな?――
さあ?




