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フェンリルの挽歌~狼はそれでも狩りがしたい~  作者: 火魔人隊隊長
森の追跡者の輪舞曲
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11話 すれ違い

前回のあらすじ:角煮作って、イタズラした。……平和ですね。

 最近の様子。雨は相変わらず降り続けている。雨脚は強い。


 まず、夜に森を通っていた時の騎士団の様子。

 たまに街道をゆく行商人やら、農民やらが俺を見たらしく、人狼狩りをするつもりで入ってきたのは間違いない……のだが、誰もその姿を見ず、やる気をなくしているらしい。

 森の中での野営中の隊員の愚痴を盗み聞きした限りではではそうらしい。全員じゃないだろうが。

 森で隊列を作って訓練しているとかではないようだ。自衛隊みたいなことはしないんだな。


 それから一応、第3アジトの安全確認結果。

「あぁ、もぉ。3日だよ?あの子ホントに来るのかなぁ?」

「んー……ここ、あの子の住処、でいいんだよね?まさかもうどこかに移動しちゃったとか?」

 うん、金髪エルフ達はここにいた。


 現在陽炎の幻覚と大精霊の隠蔽の魔法重ね掛けをして、風下、距離50mくらいの位置の崖の上で様子見。

 小声で話してるようなんだけど、それでも聞き取れるって動物スペックすごいね。聞き取れるのぎりぎりだけど。

 狼基準の身体能力、結構そのまま持ち合わせているらしい。それでも個体差はあるだろうし、それぞれを照らし合わせると他の動物の方が優れていたりはするんだけど。

 前世もこんなスペックの体だったら良かったのに。


「しっかし、ホンットあいつむかつくぅ」

「ちょっと、落ち着いてー」


 どうやら、雪玉をぶつけられたりしたことを根に持ってるんだろう。怖い怖い。

 なにしろ、雰囲気も、使っただろうチカラの影響も、あのヒト達は、他の冒険者に比べて段違いだ。

 多分ファイヤーボールとか言って出すのは、どこぞの戦闘民族の元気の塊みたいなでかい威力なんだろうね。もしかしたら星一つ吹っ飛ばすかも。

――それは考えすぎじゃない?――


 とにかく、俺はそこを離れる。ここにいて安全とは思えない。

 次、第4アジトの採掘場に戻ってみよう。……とこういう時に、木の枝を踏んだり、誰かに見つかったりするのって定番だよね?

 例えばゴブリンとか……

「ギャ?」

「――Bang――」


 ホントに出たよ。一瞬で頭飛ばしたから大丈夫だろうけど。たいして音も出なかったし。しかも、今回は1匹なんだな。

――いつも4・5匹でワラワラしてるもんね――

 出るのは、週2回とか、だよな?


 産廃レベルで弱いからいいけど、いちいち襲ってくるからうっと惜しい。結局、見かけたら瞬殺した方がいいんだろう。角ウサギは毎日って具合なのに。

 昨日はヘンな角のシカとか見かけたし。鹿の角に、一角獣っぽい角。2種類もあるって、なんだあれ?足もなんか形おかしかったような?今度狩り採って、観察してみたいね。


「ねー、今あっちで音がしなかった?」

 ヤバい、見つかったか?

「雨の音じゃなぁい?まぁたひどくなりそうだしぃ」

 今は戦闘態勢じゃないからか、気にされていないようだ。今の内にさっさと離れよう。


 で、第4アジトに戻ってきたのだが。

 そのアジト、正確にはアジト周辺。雨で流されて、においはほとんどなくなってるが、多少の足跡が残ってる限りで言えば、山狩りの騎士団が来ていたのだろう。少しばかり荒らされていた。

 幸いにも隠していた塩漬け肉は見つかっていない。


――ここでお肉の心配ね……――

 食うものがなければ、ですよ。それに作りたかったものがあるんだから仕方ない。それを作るために、食べるのガマンして塩漬けしたんだ。

 とりあえず、第4アジトの入り口は塞いでおく。くり抜いた岩石を入り口に置いて、見た目をカモフラージュすれば分かりづらかろう。


 俺のマナを燃やす火を出して、明かりを確保。マナを燃やしているから、洞窟の中で使っても酸欠にもならない。ってどれだけご都合……うん、いいやもう。


 石の樽を引っ張り出し、塩漬けの腸と、ハーブ類と一緒に塩漬けしていた肉を出す。

 熟成は進んでいるようだ。その肉をテーブルにしている石の上に出し、


「ここで――点火(イグニッション)――モードクック」

――あんた、躊躇なく使うようになったね――

 大精霊は何か気にしているけど、それはいいとしよう。


 肉を、氷で作った包丁で、ミンチにしていく。ハーブ類と一緒に叩き続ければ、味も均等に染み渡るだろう。

 ミンチが出来上がったところで塩漬けの腸の塩抜きをする。

 同時に、作りたかったものをウサギの革で作る。って言っても、革に穴開けるだけだが。なんていう名前だったか忘れたけど、生クリームとかを入れて絞るやつ。


――あんた、忘れちゃダメでしょ――

「人間忘れる生き物。仕方ない。前世でこれ使ったこと全くってくらいないし。お菓子作りとか、誰得?くらいにしか思わなかったから」

――お菓子作りにこんなの使わないでしょ?――

 お?この辺はこの世界じゃ違うのか。ケーキとか、シュークリームとか、無いのか。別にいいけど。甘党のヒトがこの世界に来たら大変だろう。


 できたものに、ミンチ肉を入れて、塩抜きをした腸に肉を絞り出して詰める。

 それでできるものって言えば、誰しも判る、ソーセージだ。

 作り方が原始的かつファンタジーが含まれているが、気にしちゃダメだ。気になるけど。


「あとは、これとベーコンにする奴を吊るして、燻製にしておけば、完成だね。もも肉……ハムの方はどうなってる?」


 マナで燃える火に、手ごろな木材を投入、煙でいぶし始める。

 場所が洞窟なので、入り口を塞いでおけば煙が充満するから燻製にできるはず。

 外に出る前にハムの様子を見ておく。一緒に燻製することになるが、仕方ない。吊るしていなかったので、一部悪くなっていた。そこは削っておこう。


「足一本分のハムとか、まるごとかぶりつくの夢みたいだな……フフフ」


 壁面にロープを打ち付け、肉を吊るし、一度アジトを抜け出す。当然、入り口は塞いでおく。

 火のある場所に木材を大目に置いてきているので、勝手に燃え上がって洞窟内に煙が回り、燻製される……はずだ。

 正確なやり方じゃないのは分かっているが、四の五の言ってられない。


――できるといいねぇ――

「出来なきゃ困る。出来てもらう」


 言っててなんだけど、自分が処理した肉に、無理難題を吹っ掛けた気分だ。実際やり方が乱暴ではある。

 とにかく今の内に、周囲の安全確認と、出来れば食料の調達をしたい。もう一度、俺は森へと駆け出した。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 今日もどんよりとした雲が空を覆っているようで暗い。雨も本降りではないけれど、絶えず降り続けている。


「ねー、もう1週間経つけど、あの子本当に帰ってくる?」

 リサも限界が来た、ということなのかもしれない。


「あぁ、そうね。流石にここまで待って帰ってこないんじゃ、住処を放棄してるのかもぉ」

 他の仕事もあるし、食料についても、もう足りなくなる頃合いだ。

 どちらにしても、ケンジ達がそろそろまたやらかす頃だろうし。その事態収拾のためにも動かなければいけない。


「…………エリナ、もし、だけどさ」

 リサが不安そうにその綺麗なプラチナブロンドの長い髪を指でいじり俯きながら、

「彼がここにいたら、なんていうかな?」

 もうずいぶん昔に亡くなった人を引き合いに出す。


 彼がアタシ達に残したものの事を想えば、確かに気になることではあるけど。

「大笑いして、バカにしてくるでしょうねぇ」

 実際彼は、そういう人だった。最初はその態度にムカついてたけど、段々、引き込まれていった。不思議な人。


「多分、同じフェンリルの一族だよね、あの子。助けられないのかな、あの時みたいに」

「そういう考えはやめて。絶対にさせないから」

 そう心に決めている。


 だから何としても早くあの子に私たちの所に来てほしいのだけど、今どこにいるのかも掴めない。


「昔と同じ末路は、絶対にさせない」

 改めて言葉にした決意に熱い気持ちを持たせて、アタシ達は一度、西の都に帰る事にした。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「イッキシ!」

――ダイジョオブ?風邪?――

 唐突なくしゃみに反応する大精霊。


 しかし、おおよそ花粉とかそのあたりだろう。大精霊の加護のおかげで、現在シトシト降っている雨で冷えることもないし、濡れもしない。体温のコントロールすらしてくれる。


 俺は、出来上がったハムやベーコンなどを、猪の毛皮に包んで移動中。

 革も一応なめしたので、このまま毛布みたいに使えなくはない。と言っても、あまり質感がいい感じではない。

 やはりそれは仕方のない事だろうけど、しっかりとした処理の方法を知らないからこうなったんだろう。


「どうであれ、あのアジトはまだ使えるけど、やっぱり他も開拓していかないとね」

――だねぇ、段々あいつらも、こっちの動きに慣れてきたんじゃない?――

「そこの対策は、アジトを増やすことと幻覚魔法の上達、迎撃システムの充実に充てるしかないんだろうけど」

――迎撃の方は充分じゃない?実際結構足止めできてるし――

「ヒトはそれを慢心という。油断大敵だよ」


 かと言って、そうポンポンアイディアが浮かぶわけでもないのだが。

 そうしている間にも

「――点火(イグニッション)――モードフロスト、アイスエッジ」

「キュイィ!」

 危険はいくらでもやってくるらしい。いつもの事だが。


「また角ウサギか。今回も1匹だし、ここで休憩にして食っちゃおうか」

――サンセーイ――


 言うが早いか、事務的な戦闘を終えて、すぐに解体に取り掛かる。やはり慣れてきたのもあり、解体にかける時間はほとんどかからない。

 そして、そのまま火をつける。肉そのものを燃やすような形で。


 見た感じで言えば、

「これはぁ、肉のぉ、松明ヤァ」

――プッ、クスクス――

 またツボに入ったらしい。


 自分でも随分な調理法だとは思う。火にかけるとか、炙るとかではなく、そのモノを手に持ったまま、燃やす。魔法ならでは、だろう。

――あんた以外できる奴いないよ、それクスクス――

 大精霊さんまだ笑ってる。前世でもきっと、ハンドパワーなヒトとかナーウなヒトならこんなことできただろうに……できるよな?


「しっかし……この角、生きてる時には硬いのに、死んだ後は柔らかくなるって、何だ?先が鋭くて、道具に使えるかと思ったのに何にも使えやしない」

 突進時には木でも岩でもぶち抜くのに、解体した後はふやけたようにしなる。何に使えばいいんだ?


――しかもそこ、食べれないし、すぐ腐るしね――

 ……これでも魔物だってんだから驚きだ。ここからちょっとした道具なりなんなり、できてもいいと思うのだが。


――そういえば、あの2人組のエルフだけ、追手の中じゃやたら強い気がするんだけど、全然攻撃してこないよね?――

 大精霊は気にしているだろう事を言う。まあ、確かに気にはなるが。


「木が邪魔で撃ちにくいとか、実力出すと災害になるとかじゃない?俺だって火属性で本気で暴れれば、それなりに災害みたいになりそうだし」

――そうかなぁ?――

 それでも払拭できないらしい。できるならもうとっくにやってるだろうに。


「とりあえず、人間は敵、くらいの認識でいいんだよ。誰が味方か分かったもんじゃない。実際アジトに居る時に殺気立ってたじゃん?」

 あれが誰に向かっているのかは言ってなかったが、状況から見ても俺に対してでいいはずだ。


 もう日が暮れる。夜の間に進めるだけ進んで、朝方には街から離れておきたい。狙われるのはゴメンだ。


「狙うの、ホントやめてくれないかねぇ」

――だねぇ――

 暗くなった森の中、1人と1精霊のため息が響く。


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