1章 プロローグ
「あーよしよしィ、いい子だねー」
そんなことを言って目が垂れている父親が、俺を抱き上げる。ふんわりとした毛布から抜け出すと、少し寒い。外は雪に覆われているようだ。……暖房付けてくれないかな?まあ、毛並みがあるからそんなに寒いわけではないんだけれど。
「ほぉら、パパって言ってみ?」
「さすがにまだ早いでしょ」
デレてる父親に、母親が語り掛けている。
「いや、この子しゃべりそうな気がするんだけど……」
「ぁー……ブップッ……キュゥ」
発声してみたが、やはり乳児には難しい。その間にも母親が頭をなでてくる。立ち上がってる、耳のとんがった先っぽが寝かされる。くすぐったい。
「パッ」
「「お?」」
ちょっとだけ発音できた?もう少しやってみることにしよう。
その間に、目の前の人のこと……ヒト、なのかな、これ。犬?ちょっと狼っぽいけど、多分、犬。二足歩行の、犬。なんだ、アヌビス神みたいな感じを真っ白にした見た目。全身毛だらけ。少し灰色がかってるから、銀色に近いのかもしれない。どう見ても、犬の獣人……人狼とか言わないよね?この人が、普通の人の姿に変わったのは見たことないけど。
「ぱっまっぁ……ああぁキュァ……」
「もうちょい、もうちょい!」
「がんばれー」
ちょっとの事でテンションダダ上がりの両親。ああ、親バカなんだなあ……そうは言ってもねぇ……、なかなか慣れないんだよ、この口の形。元人間なんだから、おれはさ。
――――――――――――――――
そう、元人間。幸福でも不幸でもない、不遇って言ったほうがしっくりくる、ダメなフリーターやってた42歳のオッサンだった。
就職しても他人の責任負わされて首になったりしていたが、あからさまな不幸ってのは死んだこと以外はない気がする。死に方ってのも、むしろ面白いくらい。
走って来たスポーツカーが、自転車よけるつもり(間隔2mはあった)でハンドル切って、車道の中央線を移動させてる土木のバイト警備員をはねて、はねられた奴が対向車線のダンプのタイヤに突っ込んだ訳だ。はねられた奴、俺だ。首がコキって鳴ったのまでは、覚えてる。
その後はただ真っ暗闇。
なんだこのピンボール……。そしてどうなったんだよ、俺。死んだのか?死んだはずだよな……なのに、気が付けば、ただただ、真っ暗闇。
ここどこだ?声が出ない。身体も動かない。指、あるのか?誰かいないのか?俺はどうなった?ちょっと待て、まずは、俺が『俺』なのかを確認しよう。そして落ち着こう。
『俺が俺』であることの確認方法、簡単だ。
――宇宙人はいるか、いないか?――
ジョークの範囲の話、『俺』ならこれには確実にこう答える
――いるともいないとも言えない。どちらかであると言い切った人間は、誇大妄想に取りつかれた中二病患者なので、すぐに精神病棟に入って治療してもらうことを勧める――
YES、「俺」だ!この間違いなく無駄なことにくそ真面目になるところがある、俺の悪い癖。しかもいい具合に人を見下してる。
こういった考えを持つのは、簡単な話ではある。他の星に「生き物」がいても「知的」とは限らない。むしろ、いる確率が低いし、惑星間を移動するのにも無理がある。移動してもいきなり戦争とかはしない可能性があるが、否定派は結構な割合で異星人が攻めてくるなんて妄想してる。突き詰めて、追い込むと必ずそう吐き出す。いる派についても生命がいる星=人がいる星って考えになりがちだ。しかも地球人と同じ形に限定しがちだ。デカいトカゲが支配している星とか、海に生命がいるだけの星とか考えることは絶対にありえないだろう。どちらも極端すぎる。1900年代初頭のラジオドラマじゃないんだから、現実的に思考してほしい。昔のNASAの言葉を借りて言うなら “天文学的にありえない確率の三乗“ である。地球と同じ天体は、実際 ”天文学レベルの数字でありえない“ とされていた。銀河一つで億くらい、銀河も不特定多数あるというのに。無量大数、あるいは無限と言っていい数の惑星や衛星があるというにもかかわらず、だ。まぁ、認識は変わってはいるけれど。他の星に、人と言える知性を持った動物がいて、更に宇宙を航行できる技術を持っているという前提。希望的観測がすぎて鼻で笑える。それだったら腕の刻印がなんちゃらとか言ってるのとそう変わらない。SFはリアルにありそうで有り得ない、ファンタジーなんだ。フィクションでしかないものを信じてるなんて、バカの極みだろう。
間違いなくこういう考え方なのは『俺』なのだが、未だ状況は判らない。
なん……で死んだ……の、に…………スゥ――
――今、寝てたな。どれくらいたった?周りを気にしてみることにする。ズクズクと音がする。水の中に揺蕩うような感触。身体は、動かない。身体が折りたたまれてる感覚が、ある。
「――――」
何か、声のようなものが聞こえてきた。さらに膜の外から撫でられている。撫で方が非常にやさしい。これは――
――ファンタジーは嫌いなわけではない。むしろ好きなほうではある。あるけれども、自分がファンタジーとかいう、妄想の塊に漬かることになるとは思いもよらなかった。
これはあれか?六道輪廻とかの仏教の方でいいのか?それともラノベみたいなイっちゃってる方か?女神だなんだは出てこなかったが。どっちでもいいけど、本当にそうなら、もう一度人生を楽しめるって事だろうか?改めて生きるなら、楽しく生きていきたいもんだ。楽しようとするとダメになるから、………そこそこに――
――ずいぶんと、じかんがたった。あたまも、もやがかかってて。考えがまとまらない。
……何か、流れができた。こわい、なんだこれ?ながれる、みずがなくなる、こわい、おしだされる、いたいくるしいまぶしい!まて、おなかのそれきるなぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!
「アアアアアァァァ!」
―――――――――――――――
で、今に至る。言葉もなんとなく分かってきたけど、まだしゃべれない。とりあえず、イっちゃってる方であることはほぼ確定だろう。
「ぱーぁ、ぶっプっぶっ」
「おおおおお!」
「がんばれ、あと少し!」
さっきから親バカしてる2人を見ていて、呆れてしまう。
天才とかそうじゃないとか、やさしいとか真面目とか、なんか願望語ってる。まぁ、親ってのはそんなもんか、普通は。そう、普通なら。
普通じゃない親?そりゃ、テレビのニュースでも見てりゃたまにいるだろ。非常識携えたクソガキどもが大人になればそうなる。いや、この言い方は間違ってるんだった。そんなことより、今やるべきことは、父と母を呼ぶこと。
「バァー……カ?」
「「ぶっっ?」」
あ、間違えた。狙ったわけじゃないんだけど……なんかゴメン?
『キュゥ』的な発音が出てしまったらしい。そのまま母は大爆笑して父親をいじり始め、父親の方はバツが悪そうに頭をかいていた。
「なんか、バカにされてる気が……」
いや、安心してください。あなたは立派な、親バカですよ。
「クスクス、でも、ヴァンなら本当にすごい『フェンリルの戦士』になれるんじゃない?」
ヴァンは俺の名前らし……おかあさん、今なんて言いました?フェンリルって、北欧神話のドデカイ狼でしょう。獣っぽい人のことじゃないんじゃ?どゆこと?
俺の疑問は届くことなく……スヤァ。
初投稿です。普段はたまに読むくらいで、小説なんて書く気なかったのですが、妄想がでかくなってきて吐き出さないと危険なので吐き出しました。多分、これが最初で最後の作品、だと思います。いろいろ出来悪いですが、よろしくお願いします。
基本悪ふざけばかりする作品です。