#3 異世界の森で3
初めて戦闘シーン風なの書きました。なので自信がない!つまり何度も書き直す可能性があるってことです。ご了承下さい(^^)
追記
正直早く上げようと文章が走ってしまった感があったのでめっちゃ加筆改変しました。申し訳ないっす。まあ趣味だから許しておくんなまし(^^)
あと、また気に入らなかったら改変するかも。
#3 異世界の森で3
ドゴーーーン!!!!
士郎の蹴りでは微動だにしなかった巨樹が大きく揺れた。その振動は瞬く間に木全体へと広がっていき、深紅の果実を落とすに至る。
「痛っ!!」
落下してきた果実の1つが竜血樹モドキを見上げていた士郎の眉間に命中した。
またしても思わぬダメージを受けた士郎はピクピクと震える顔面を抑えながら果実を拾い上げる。遠目に見た感じでは林檎くらいかと感じたが実際に手に取ってみると思っていたより幾ばくか大きいようだ。二回りくらい違うだろうか?目分量なんてそんなもんである。
「まあ、1つは確保出来た事じゃし良しとするかのう....さてと、逃げるか」
何から逃げるのか。それは士郎ではビクともさせることが出来きず、鋼鉄製なのではと見まごうばかりの巨木をここまで派手に揺らしておきながら、多分全く傷付いてもいなさそうな化け物からである。ほら、あの竜血樹モドキの影からひょっこりと顔を出した可愛らしい....訂正、威圧感たっぷりの生き物のことだ。その形貌は生前に士郎も目にしたことがあった。茶色い毛を生やしたキュートなお鼻のあいつだ。本種を家畜化したのが豚というのは有名な話だろう。そう、イノシシである。
まあ、ご期待通り規格外であるが。視線の先にいる生物はまるで大型トラックのようだった。比喩とかではなくまんまそれ位の大きさだ。1t以上は優にありそうである。それを支えている脚に注目してみると洒落にならんほど筋肉が隆起しており、蹄は黒光りして硬度も凄そうだ。これは蹴られたら一瞬でスプラッタにされるだろう。
そして何より眼を見張るのはその牙である。猛々しく荒々しい巨大な二本の牙。あんなもので突かれた日には土手っ腹に穴が空き即死必至だろう。さらに威圧感を与えるのはその目と毛並み。先程拾った果実よりも深く濁った紅き瞳と針金のような鋭さを持った青白い毛だ。
こんな森でそんな目立つ風貌だと他の生き物から狙われそうなもんだが、この不遜な姿勢から想像が付く。それで構わないのだろう。身にかかる火の粉など簡単に払えてしまえるほどの絶対的強者なのだ。
さて、そんな絶対的強者様とバッチリ目があってしまった士郎は逃げようと決断したというわけである。素直に逃がしてくれるなら楽なのだろうがそんな気は更々無いのだろう。士郎を濁った瞳にしっかりと捉えつつ、荒っぽい鼻息を惜しみなく吐き出している。既に獲物と決められてしまったようだ。
(ふむ、どうやって振り切ったらいいんじゃろうな....)
(死に際に比べたら多少は動けるようになったとはいえ、せいぜいが20歳前後の運動能力といった感じじゃからな)
士郎は逃走の算段を考え始めるが、野生の生き物が律儀に待ってくれるはずも無い。
鋭く目を細め士郎を視線で射抜くと転瞬の間に目線を下げた。そして力強く土をかき上げ突進の構えをとり始める。
士郎が敵の異変を察知し、めいいっぱいの力で横に飛び退いた。
ズガァーン!!!
もうもうと土煙が上がる。それが晴れると、先程まで士郎がいた位置は深々と抉られ大きなクレーターが出来上がっていた。目に追えるようなスピードでは無かった。さながら青白い巨大な弾丸である。
「ぐうぅぅ...」
士郎は激痛に呻き声をあげる。完全に避け切ることが出来なかったのだ。
彼の左腕にはイノシシが突っ込む衝撃で飛び散ったであろう石がめり込んでいた。鮮血が滴っている。それに骨も折れているのだろう、青紫色に変色し腕は変な方向に曲がっていた。
あまりの痛みと絶対的な力量差にによって恐怖心に支配されそうになる士郎。当たり前である。つい数時間前に死んだばかりだというのにこんな理不尽に晒されているのだから。それに生前ではこれ程までに明確な捕食者と被食者の関係など経験した事など無かったのだ。しても前者である、断じて後者では無い。
今まで味わった事のない未知の感覚に心を砕かれそうになる士郎。怖い、怖い、怖い。死を間近にして感じる恐怖であった。
「死....じゃと....?」
その時、士郎の心に巣食っていた恐怖心が靄が晴れる様に霧散していった。
「ふ、ふふ....ふはっはっはっは!!何を馬鹿なことを考えているんじゃろうなわしは!」
死を意識したことでその矛盾に気付く士郎。実に簡単な話であった。士郎は既に死んでいるのだ...そう、何時間も前に。それならば。
「何を怖がる必要がある!」
余りにリアルな痛みと威圧感のせいで危うく自分が生きていて、もう一度死が迫ってきているのだと勘違いするところじゃったの、と考える士郎。それで合っているのだが。
そんなこんなで士郎は何とか気持ちを持ち直す事に成功した。
全く、つくづくここが天国とは思えんなと立ち上がりながら悪態を呟く。
そして士郎はその場から走り出し、素早く思考を回転させる。
(奴のスピードとパワーは脅威じゃ....こんな何の障害もない開けた場所で次繰り出されたら、正直かわせる気がせん....じゃが...)
士郎は呻き声を上げてから走り出すまでの数十秒間、突っ込んで来た状態で固まっているイノシシを目の端に捉えていた。
(あれだけのスピードが出るんじゃ、きっと再度実行するにも間隔が必要なんじゃろう)
そしてふと自分を襲う直前のイノシシの予備動作に引っ掛かりを覚える士郎。
(しかし、何故予備動作などとったのじゃろう?....そんなことなどせずに突っ込めばわしをより確実に仕留められるはずじゃ。反応など出来そうもないしの....)
それなのにしなかった。ということはあの準備の数秒間は必要な時間であると考えるべきだろう。
もう一つ士郎に疑問を持たせる動作があった。それは視線だ。
イノシシは士郎を見つめた後すぐに目線を下げた。単純にこれから狩る捕食対象を舐めるように見ていた…と考えられなくもないが、それは無いように思えた。そんな風に見るのだとしたら頭から下までじっくり見るだろうし、何なら舌なめずりぐらいしても良いものである。だが実際には瞬きするほどの短い時間で下げた。
(おそらくじゃが、奴はわしの足元を見たのじゃろう)
より正確に言うなら、士郎の立ち位置を確認したのである。位置を確認し自分との距離を測り、予備動作に入った。
(そこから察するに....)
きちんと目標地点を決めて突進準備を行う。それがあの超スピードを出す条件なのではないか、というのが士郎の予想だった。
(強者の余裕ということもありえるがの....どの道普通に逃げても四肢が使えなくなるほどズタズタにされそうじゃからな…悪足掻きさせて貰うわい!)
士郎は普通に走るのをやめジグザグ走行を始める。体力は削られスピードも落ちるが、不規則に走る事で狙いを付けづらくするという目的があった。より狙いづらくする為に緩急も織り交ぜる。
そこにリキャストタイムが終わったであろうイノシシも振り返り走り出す。
(ふむ、どうやら思もった通りのようじゃ)
確かにまだ速いのだが、それはイノシシの....獣本来のスピードといった感じであった。
「これくらいのスピードならまだ避けられるんじゃよっ!!」
士郎は必死に飛び退く。そこをイノシシが通り抜けていく。飛び抜く。通り抜ける。この攻防を幾度も繰り返した。士郎の表情には次第に疲労が見え隠れしはじめている。対してイノシシは圧倒的弱者としか思えない小物を未だ仕留めるに至っていないことに業を煮やしているのか、その双眼をギラつかせている。
と、ここで士郎が意外な行動をとる。士郎は....止まっていた。
そう、急に立ち止まったのだ。
青白い獣は一瞬キョトンとしつつも、下卑た表情を惜しげも無く晒した。
巨獣は考える、とうとう自力を使い果たしたのだと。この小物は比較にならぬ程実力差が離れた我を小賢しい動きをすることでどうにか撒こうと考えたようだが、所詮弱者。持つ持久力も知れた程度であったのだ。
現にこの下等生物は立ち尽くしている。あの不可思議な行動のせいでなかなか全力の一撃を放つことが出来なかったが、ここまで動きを見せない相手に当てるなど容易だ。3秒もあれば奴の命を刈り取る事が出来るだろう。
突進の予備動作に入る巨獣。瞬間、士郎は目にも止まらぬ速さで竜血樹モドキの裏側へと前から突っ込む姿勢で跳躍した。
(こんな何の障害もない開けた場所で)
......存在したのだ。いや、はじめから存在していたの間違いか。その場で最も存在感を放ちイノシシの全力の突進を受けても尚、その強度を保ち続ける...立派な障害物が。
士郎にばかり注視していたイノシシの狭まりきった視界には竜血樹モドキは映っていなかった。故に、驚愕した。
つい先程狩りの終わりを確信したのにも関わらず、眼前に迫ってきていたのは強者の己でさも舌を巻く硬度を誇る巨木であったのだから。
これにぶつかって仕舞えばいかに規格外のイノシシであろうと数十秒は動けなくなってしまう。只でさえ全力の突進には10秒程度のリキャストタイムを要するというのに....これは余りに大きな隙となった。
竜血樹モドキの反対側へと飛び出た士郎は前転を交えてその勢いのまま立ち上がると先刻の走り方とは異なり、一直線にユーカリモドキの群生している森を目指し駆ける。
士郎は別に闇雲にジグザグに走ったり緩急を付けたりしていた訳ではなかった。ジリジリと竜血樹モドキへと近付いていたのである。あそこまで大きく強靭な障害を使わない手はなかった。
それにイノシシを確実に足止め出来る自信があった。実は士郎が林檎より二回りほど大きい木の実を眉間にくらい、悶えて拾い上げるまでの数十秒間、何の物音もしなかったのだ。
もしもあの巨体が即座に動けたなら足音が聞こえたはずである。特にあの様な自身を王者だと思い込んでいる生き物に限って、足音忍ばせるなどということは絶対にありえない。
そんな考察の元に十分な間合いへと誘い込めたところで、士郎は勝負に打って出たのだ。走り出しのスピードとまでは行かないものの、15秒も経つ頃には森へと到着した士郎。
「ふう、何とか難は抜け出したといったところかのう....じゃが....」
「うぐっ....」
士郎の両足はパンパンに腫れ上がっていた。イノシシの全力突進を2度も回避するのに何の代償も無しというのは士郎では無理があったのだ。
士郎はこの地に降り立った時から動きっ放しであった。立ち止まったり転げ回ったりもしていたがそれは思考していたり痛みに悶えていたりしたに過ぎず、休憩を取ったとは言い難い。
詰まる所、あの怪物と会遇した時には既に疲れ切っていたのだ。そこへの度重なる身体の酷使、特に奴の弾丸の様な突進を避ける動きは人の限界を優に超えるものである。それを2度も行ったのだから無事な方がおかしい。
逃亡開始時の跳躍の時点で士郎は筋肉が軋んでいるのが分かった。その時は右足に力を入れ踏み切っていた。だから次の相手を嵌める為に跳躍する時は足の負担を減らそうと両足で跳んだ訳だが、それでは誤魔化す事のできないほどに無理をしていた。全力で斜め前へと飛び出した瞬間、両の足の筋肉繊維がぶち切れたのだ。
士郎はこの森まで絶対に辿り着くと、死にものぐるいで走った。アドレナリンで痛みの感覚が鈍くなっていたのも助けて士郎は何とか森まで駆け抜けたのだった。
だが、止まることは許されない。奴を完全に振り切るまでは。
奴のリキャストタイムが経過し切る前により遠くへ遠くへと距離を稼がねばならなかった。
立っているのが奇跡と思えるほど損傷した両足を必死になって動かす士郎。
痛みに顔を歪めながらも何度も何度も踏み込む。アドレナリンが切れてきたようで自然と左腕の痛覚も鋭くなり始める。
ギリッと奥歯を噛み締め、士郎は耐え続けた。
士郎は木々の間をくぐり抜ける。頭上から垂れ下がるツタや邪魔な雑草を右手に握る剣を使い、手慣れた手つきで払っていく。最初の頃、木の根に足を取られていた不甲斐ない士郎とは別人のようだった。
その甲斐あり、ある程度は離れることが出来た士郎が茂みに息を潜めやり過ごそうと考え、行動に移そうとした直後。
ぞくりっ!!!!
背後から今まで受けた事の無い濃密な殺意が背中を襲った。
もう立っているのでさえ苦しい足に更に鞭を打ち飛び退く。そして....悪夢のような白い弾丸が飛来した。
本当はこの話だけで戦闘終わらせたかったんですけど、長くなり過ぎたので一旦切ります。むぅ、無念。