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さよならさえ言えなくて
うじうじ立っていたのだけれど
彼も待つわけにはいかないよね、やっぱ
さっと遠のいてくの
電車が向こうからやって来て、私を焦らせてくれれば
もしかしたら、何か声をかけられるのかもしれないのだけれど
それに、彼がこちらを向かないで、背中を見せてくれれば、そう、こんなにつっかえることもないだろうに
彼からしてみると、私はどう映っているのだろう
何も言わず、追いかけもしない私を、理解してくれているんだろうか
どちらにせよ歯痒い
どうしてこんなに馬鹿なんだろう、私
ちょっと息を吸い込めば、後は成り行きに任せるだけでいいのに
ああ、彼の姿があんなにも小さい
もう声も届かないだろうね
そう思えば
急に喉を占めていた力が緩んで来た
あれ、どうしてだろう
こんなにも惜しいのに、
離れていくたび、
リラックスできてしまう
でもそれじゃあ
やっと口が自由になっても
彼はいない