陸軍歩兵装備其之一
統技研には当然陸軍の銃火器や車両を研究設計する部署も存在する。
銃器生産会社からの出向などもあって、そこに所属する人の数は多い。
銃火器の開発は、他の部署とは連携が取れないというイメージが強いが、その技術や開発データは、様々に応用される。例を挙げるとすれば、大口径迫撃砲を応用した対潜迫撃砲や噴進爆雷砲、中戦車を流用した水陸両用車両などが挙げられる。
統技研の銃器部、砲熕部、機甲部では、軍の制式採用品の展示が年何度か開催されている。軍は必死になって軍機を守ろうとしている中、最新技術の塊が、一部とは云え流出しているのだから笑えない。現に親子連れやミリタリーマニアに混じって、どう見ても露米の軍関係者にしか見えない者が展示会をうろついているのが目撃されており、憲兵の数は年々増えているのだ。憲兵に引きずられていく外国人の姿は風物詩になりつつある。
そんな展示会の中で、最も人気なのは戦車などの車両系である。しかし今回は少し勝手が違う。採用されたばかりの新開発の大威力小銃が展示され、更には主力重機関銃、新型機関短銃の試射も行えるのだとあって、軍に憧れのある青少年らがこぞって参加しに来た。
九二式重機関銃、中隊支援用重機関銃、車載機関銃、艦載対空機銃、航空機銃を統合する為に開発された機関銃である。
7,7×68mmの九二式実包を使用し、保弾板、布弾帯、金属リングベルトの三種から装填法が選択でき、頑丈堅固かつ簡単な構造と、プレス加工を多用し、三年式との設計が似ていることに因る生産しやすさから、現在急速に三年式機関銃との変更が行われている。現在全歩兵部隊の9割が装備し、残るは教導部隊ぐらいになった。
その命中精度は折り紙つきで、なんと照準眼鏡が重機関銃中隊の標準装備となっており、2km先の目標に命中したという逸話があるぐらいだ。
その設計目的に違わず、重機関銃中隊以外の各部隊にも導入が始まっており、陸海両軍の戦闘機爆撃機に搭載される機銃をこの九二式に置き換える作業が彼方此方で始まっている。各車両の7,7mm車載機銃も同様に総取替えが行われており、海軍艦の対空機銃も然りである。
毎分200発という些か物足りない発射速度と三年式譲りの重量が玉に傷であるが、それをして余りある集弾性と、それから来る命中精度、そして泥に漬けても動く稼働率に、単純化された機構からくる整備のし易さや信頼性という利点が各所に喜ばれている。
そして、同じ規格の弾丸を小銃や軽機関銃に使用する為に新たに実包が製作されることとなった。
しかし本来重機関銃用に作られた九二式を小銃に使うには威力が大きすぎた為、寸法や弾丸は同じで、火薬量が小銃用に減らされた弱装弾が開発され、九五式実包の名称が付けられた。本来ならば『九二式弱装実包』となるはずだったが、新実包の薬莢には識別用として帯状の凹みが付けられた……薬莢が技術革新で従来の数倍の効率で大量生産できるようになったことによって少々の手間は構わないとされたのだ。
そしてそれらを使用する銃火器として、九五式小銃と九五式軽機関銃が開発された。
九五式小銃は7,7mmを使うと云う他に様々な改良が施されている。
前任の三八式歩兵銃は不必要に削り出し加工で生産される部品が多く……技術的な問題で出来なかったのが正しいのだが、その為生産性が悪った上に、職人の技術頼みだった部分が多かった為に銃毎の部品の互換性の無さが運用上非常に不便であった。
その為、アメリカから輸入した全自動生産機械を導入し、プレス加工で済ませられる部品を増やすことによって品質を一定にして量産性を向上させた。更には木材部分に曲げ加工を多用することによって木材の節約を果たした。細かい点であるが、弾倉下のフロア・プレートに蝶番が付き、外れることが無くなったのも兵には評価されている。
全長1050mmという長さは、三八式歩兵銃に比べ短く、7,7mmの反動を受け止めるには短いという意見も多かったが、主力小銃のような扱いを受けていた三八式騎兵銃との感覚の違いを出来うる限り最小限に留めたいと云う用兵側の意見もあった為この長さに決定された。
だが、やはり銃口が安定しないと言う感想が多かった為、量産モデルでは、その代わりとして針金を加工した簡易的な二脚が付けられることになった。銃右側の蝶螺子を緩めると二脚がレールに沿って広がりながら落ちていき、一番下でもう一度締め直すのだ。戻すときは手順を逆向きに行う。
そして九五式小銃の特徴的な『高射表尺』であるが、プレス加工ではあるが数字までハッキリと打ち出されていて、日本軍の特徴的な照尺はなんと鋳造によって作られている。「徹底的に削り出し加工を行わないと言う執念が滲み出ている」と云う内外の評価は未だ記憶に新しいものである。
三八式歩兵銃から続いている遊底覆いは本銃にも付けられている。その代わりか、遊底後端の覆い状の安全装置に刻まれたチェッカリングは省略されることとなった。
7,7mmの威力を懸念してか、銃身内部にクロームメッキが施されており、耐久性は向上しているものの、「量産する銃には勿体無い仕様」という声も大きい。
運用する部隊からの声としては、「威力はあるし取り回しはしやすいが、反動が大きすぎるのはいけない」というものが大半で、頑なに三八式騎兵銃を使っている部隊が居るのが現状である。
尚、九二式実包を装填することは出来るが、照準が九五式とは違うほか、反動も大きくて扱い辛く、銃身のメッキが物凄い勢いで剥げて行く為禁止されている。
九五式軽機関銃は、分隊単位での火力支援を目的として開発されたもので、九五式小銃と同じ九五式実包を用いる。
その特徴として、素性の良さから来る高い命中精度と信頼性、照準眼鏡が取り付けられるというのが挙げられるが、木製部品が一切使われていないというのも大きな特徴であろう。
銃杷はプレス加工で作られており、機関部の直後から伸びる金属製の円筒とその先端に取り付けてある、肩当用の湾曲した金属板で銃床が形成されており、板と円筒の接続部に単脚のヒンジが取り付けられている。
十一年式軽機関銃とは違い、30発入りの弾倉を銃下部から装填する方式で、75発入りのドラム型弾倉を装備する事も可能である。ドラム型弾倉と対空用三脚を用いて陣地用簡易対空機銃として使う事も出来る。当然ながら教本の通り二人組みで航空機を狙う事も可能だ。
排莢方法にはガス圧が利用され、銃身の上側に、先端の4分の3辺りからガス用のチューブが取り付けられているのが分かる。
薬莢排出口には泥除けの覆いが取り付けられ、機関部にはかなりの遊びがあるなど、大陸奥地からの砂塵や泥、対欧米時に考慮される熱膨張などが考慮されているうえ、機関部の遊びによって精度の低い町工場でも十分に使用可能なものを生産できるようになった。尚、機関部はプレス加工によって作られており、軽量化が図られている。
銃身は九二式重機同様肉厚になっており、放熱フィンは付いていない。内部にクロームメッキは付いておらず、溶接されたハンドルを回すことで簡単に取り外すことが出来るようになっている。
標準装備されている二脚は九五式小銃とは違って削り出し加工の頑強な物であり、反動をしっかりと軽減してくれる。因みに言うと、二脚の取り付け部分はガスチューブの接続部であり、銃剣の取り付け部もここにある。二脚を展開したまま銃剣と防弾楯を取り付けて使用する事も可能だ。
これらの新型兵器が急に開発され始めた理由であるが、満州の割譲を引き換えに呑んだ中国国民党軍への技術提供、軍事教練、共同戦線の展開ともう一つ、武器割譲が原因である。
本来ならば開発が数年後に回される予定だった歩兵装備が、国民党への武器割譲を行う為の兵器の数が無い為、新型兵器開発を先に行い、それによってお払い箱となった旧型兵器や、その弾薬に生産設備を丸々国民党へ割譲したのだ。上層部は予算の遣り繰りに頭を悩ましているが、部隊の戦闘力向上となった為、現場からすれば満足といった具合である。
これによって国民党からの信頼は深まったが、しかし砲の開発に使われる予定だった予算が銃器に使われた為、日本の砲、戦車開発は1年と少しの遅れが発生することとなったのだ。
解説、余談
九五式軽機関銃は、先台が無くなって、銃床が本文通りになったRPK軽機関銃のような感じです。
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