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昭和ノ日本




 昭和8年8月21日、この日は天気の良い、穏やかな日だった。大正元年に提唱された『日本列島大改造』の号令の元に国道の舗装、弾丸鉄道を始めとする鉄道網の整備、大規模な国際空港の建設に邁進しており、日夜各所で建築物の完成を競い合うその光景は世界恐慌を微塵も感じさせることは無く、国民達に先進国としての誇りを抱かせていた。

 そして大日本帝国は第一次世界大戦後に結成された『国際連合』の常任理事国を勤めている。これは百年の近代化の隔たりを越えて日本が先進国であるという自負の一環となっていた。

 国際連合の常任理事国になった最大の理由として、第一次世界大戦に於いて大日本帝国は多大なる働きをしたことが挙げられる。

 日本は1914年の緒戦にてドイツの中国での拠点青島を攻略、その後太平洋のドイツ基地を連合軍として攻撃し、1916年までにこれを殲滅。その後保有艦の5割である第一艦隊、第二艦隊を大西洋に差し向けてドイツ海軍の殲滅の一端を担い、更にはモンロー主義のアメリカに変わり砲撃によって西部戦線の連合軍の反撃を支援、更には後方国家として各種物資の大量生産、大量輸送を行い一次大戦の4年間を戦い抜いたのだ。

 元より日英同盟によってイギリスとの繋がりが強かった日本であるが、これによってイギリスに完全に信用され、常任理事国に至ることになったのだ。

 そしてこの戦果により、アメリカ<日本という認識が連合で成り立ち、1921年のワシントン海軍軍縮条約の戦艦保有数枠が日英50万トン、米30万トン。空母は日英15万トン、米8万トンとなった。一次大戦に於いて国防を建前に参戦を拒否した為にアメリカの印象は悪く、「国防に必要な数に抑えるべし」としてアメリカの艦保有数が大きく減らされたのは未だ記憶に新しい。尚日本は国防上の必要性を訴えたことにより近隣諸島及び台湾の要塞化強化を世界に認めさせた。

 尚、ワシントン軍縮条約では台湾の要塞化の正当性を高める為、台湾は日清戦争で領土となった朝鮮半島と共に、現地住民の投票により日本の都道府県に加わることになった。朝鮮は北鮮(ほくせん)県と南鮮(なんせん)県に、台湾は台湾県となり正式に内外名実共に日本の一部となった

 ワシントン条約により海軍戦力に制限がかかった日本であるが、これを機に八八艦隊案を見直すことになり、長門型を設計に手直しをした上で建造、艦齢20年以上の旧式艦を一斉に廃棄し、金剛型以前の戦艦を退役させて、建造していた天城型4隻を空母に転用することによって、建造中の加賀型2隻及び紀伊型2隻を建造した。本来であれば条約の建造可能範囲内であったが、これは大掛かりな主力艦建造に因る不信感の上昇を避けたためである。とは言っても廃棄したのは摂津含む数隻だけだった為内外共に厄介払いと言う印象が強い。

 これで日本は戦艦を14隻、空母6隻の大艦隊を保有することになった。本来であれば16隻を建造して24隻、最大48隻の戦艦を保有することになっていたので、8隻建造の現状は計画の半分である。その費用は年間予算の約18%……本来の構想の約半数になったとはいえ、本来であれば予算の約半分をつぎ込む筈だったのに比べて異様に少なく感じる数字だが、これは近年の異常な経済成長によるものである。

 更に巡洋艦以下の船の保有上限が無いことを良いことに大型巡洋艦の建造、大型高威力の特型駆逐艦の大規模整備、海防艦に始まる補助艦艇の大規模建造に踏み切ることになった。

 そしてそれらを建造する為に各地に造船所の追加拡張、整備運用する為に各海軍基地のドッグの拡張、鎮守府の追加が行われ、前述の交通網整備に加え、国民に尽きることの無い仕事が与えられ、世界恐慌を吹き飛ばす大きな要因になった。

 余談ではあるが、本来八八艦隊分として確保されていた予算は、大半が追加発注された艦艇やその基地建造に使われることになるが、いくらかは陸軍に譲渡され、陸軍の近代化に少なくない影響を与えたのである。 

続くロンドン海軍軍縮会議では、アメリカ代表が前回の借りを返さんとばかりに散々にアメリカの排水量上限向上を訴え、結果としてアメリカが条約を脱退、再軍縮を始めたドイツと、それに続く形でイタリアが脱退し、駆逐艦の制限追加によって日仏西が主力艦制限のみの部分条約に留まり、イギリスも国民の「自国だけ馬鹿正直に全て制限するのは馬鹿らしい」という声が大きくなり、軍部からの圧力も大きくなって脱退し、それによって条約が崩壊し、海軍休日は明けることとなった。

 今日本は『高度経済成長期』とでも言うべき状態にあるのだ。日本は農業主体の後進国ではない、工業力で各先進国と張り合うほどの大国にまで上り詰めたのだ。

 その象徴の一つといわれるのが、『D51』。国鉄の路線が国際的な標準軌とされる1435mmに変更されてから3つ目の国産蒸気機関車である。完全に日本の培った技術のみで作られた日本独自の高性能機関車だ…日本が標準軌を採用した理由としては南満州鉄道と国内鉄道との車両の統一を図った為である。

 世界恐慌の影響に因る昭和恐慌が殆どその姿を現さないうちに始まった、戦時バブルから続く形で始まった経済成長によって拡大した日本国内の貨物輸送需要に対応する為に開発された車両である『D50』。これを元に、性能を向上させつつも一般的な鋼材で安価に生産可能にし、小型化軽量化によって地方路線でも扱えるようにしたのがこのD51になる。

 八八艦隊が中途で廃止されたことにより質の良い鋼鉄版が大量に市場に流れたことによって思い切った設計がなされたD50と違い、D51はなるべく安価に抑える為、市場にある一般的な…それでも当時の物より格段に品質は増しているのだが…特殊鋼を用い、国鉄蒸気機関車としては初の全面電気溶接による車体の製造が行われた。

 全面電気溶接は、国内では『吹雪』型駆逐艦に於いて始めて採用された方式である。

 従来の溶接はデータの不足により危険な方式とされていたが、軍主導による溶接の研究により、溶接を行っても溶接箇所の強度が他の部位と変わらない特殊鋼、方式、機器が開発されたことにより軍民問わず幅広く使われることになったのだ。

 しかしD51型は、そう言った所謂「まともな」低コスト化のほかにも、「戦時設計」と揶揄される程の簡略化も行われており、性能や耐久性に問題は無いものの、そう言った面では改善が叫ばれているものである。閑話休題。

そして日本各地の路線でD51が走り回っている様に、日本の舗装された道路にはライセンス生産された豊田のTフォードや東洋工業のオート三輪が貨物を載せて道路を埋め尽くしていた。

 『Tフォード』とは、1927年型4人乗りフォードモデルTのライセンスを取得し、JESに基づいて各所を設計しなおして豊田自動車が販売しているものである。

 豊田はこれを生産するにあたり、フォードから技師を呼び、工員の指導を行うと共に、フォード十八番(おはこ)のベルトコンベアによるライン生産を取り入れ、輸入品の新品と変わりない品質を維持することに成功している。

 これによって日本の中では輸入した高級車に次ぐ人気商品となっている。最近ではラジオ、炊飯器に並ぶ三種の神器などと呼ばれる事もある。

 更には、世界恐慌の為にブロック経済を発動したアメリカの変わりに、安さと本家に引けを取らない品質を武器に輸入を行っており、結構な人気商品である。その為、豊田は工場を改装し、新たに新工場を建築することになり、連日工場では嬉しい悲鳴が上がっていた。

 これらに始まる各種機械が安く市場に出回ることとなり、それは都会から離れた農村部にも大きな影響を与えることとなった。

 今まで人だけで行われていた農作業に機械が参加することになったのだ。

 オート三輪などで低馬力発動機の技術を蓄えた東洋工業などの大企業から、誰も名前の知らないような零細企業や町工場までが農作業機械を生産し、今までの常識を遥かに下回る安さで農村部に放出し始めたのだ。

 機械の参入によって農作業の負担が減ったことにより、そこに更に追い討ちを掛けたのが『農地改革』である。

 地主から農商務省が農地を買い上げ、それを農民に割譲したのだ。

 タダで農地を貰い、更に役所に届け出れば自分の土地を増やせるとあっては誰も座して見ている事はしなかった。持っていない者は借金してでも農作機械を買い、負担の減った分だけ皆農地を増やし始めた。

 そしてそれだけ収入の増えた分だけ電化製品を購入し始め、更に経済が回る事となったのだ。

 さらにいうなれば、トラックなどの自動車類の需要が都市部以外でも増え始めた為に国道指定された重要道路以外も急速に舗装拡張が施されていくのであった。

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