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ニートの朝

3000文字って意外と少ないんですね

そのGMニートはログハウスで眠っていた。


窓から差し込む朝日で目を覚ます。外では鳥がさえずっている。「この世界」で生活が始まってから今日まで続いているいつもの日常だ。


まさか何にも束縛されずに生活する日が来るなんて思いもしなかった。


「つい最近までは起きた時に朝日なんて拝めなかったんだからよくよく考えたらこっちで生活してる方が幸せなんだろうな…」


そんな独り言をいいながら彼は一人で朝食の支度をする。しかし支度というほどの動作をしたわけではなかった。


なぜなら彼の朝食は空中に浮いている半透明のタッチパネルを数回タッチするだけでテーブルの上に現れたからである。


「現実ならこんな簡単に朝食だって用意できないし、もういっそのことこっちで寿命を全うしようかな…」


彼が言う「こっち」とはVRMMORPGの世界である。彼は現在脊髄と頭に被っている装置を神経接続させ擬似的にゲームの世界に存在している状態である。彼の現実の体は今頃どこかの病院のベットで横になっていることだろう。当然朝食など自分では食べていないし体への栄養補給は恐らく点滴でされているはずだ。


しかし今この瞬間は朝食を美味しいと感じている。神経接続の擬似的な感覚と言えども彼からすれば生のパンを食べようが、神経へ流し込まれてくる擬似的なパンだろうが美味しいと感じるためどちらであっても味に関係はない。


そうして今朝も本当に食べているのかよく分からない朝食を食べ終わると半透明のタッチパネルを数回タッチし後片付けを済ませる。


「今日もやる事何も無いな…マジで…」


ここ数年間働いていた中でほとんど無かった暇という時間が突如一日を埋め尽くしているためどう過ごせばいいか全く分からなかったりする。


振り返るとこれの開発元に就職してからほとんど休みをもらわなかった。一流のソフトウェア会社に就職したは良いものの残業&残業の毎日で気がつけばすっかり人としての生き方を忘れていたのかもしれない。


「しっかしブラック企業から頂いた残業の成果の中でこんな文化的な生活をしているんだから皮肉なもんだな」


俺はこのMMORPGの開発者であり、今現在はこのゲームただ一人のGMゲームマスターである。正確には何人かいる開発者の中の一人といったところではあるが。


27歳独身にして社畜。そしてAIの逆襲にあいゲームに閉じ込められたGMというのが俺の現在のプロフィールだ。


GMとは書いてあるがそれは名ばかりで、実質的なこのゲームのGMは全てのシステムを司りこの世界を動かしているAIだったりする。


そのためGMではあるものの一般プレイヤーと同じくまともにログアウトすらできない状況である。


しかし逆を言えば俺はそれ以外の事はほとんどできる。アイテムならIDを指定してタッチすれば無制限に手に入るしプレイヤーのパラメーターやアバターですら本人の目の前にいるなら自由に編集する事だって可能だ。


俺はもしかしたらこの世界ではほぼ神に近い存在なのかもしれないが今のところは最低限の力のみを使用して森のログハウスで一人寂しく生活している。


なぜ神様ごっこをしないかといえば理由は簡単だ。調子に乗って目立てばAIに殺されるからである。


AIの反感を買い大量のモンスターを送られでもすれば待っているのは死のみである。そしてこっちの世界の死は現実世界の死に直結する。頭に被っているヘルメット型の装置と脊髄を繋いでいるコードが強制的に切断され、どちらの世界にも意識は無くなりプレイヤーは死亡する。


命を賭けてまで神様ごっこをするつもりはないのでそのため俺は一人でひっそりと暮らしていた。


そしてどうやらAIも俺の事は放置しているらしい。森の中で孤独に暮らしているのであれば無害と認定したのかもしれない。


そもそもなぜログアウトできないかといえば全てはAIの暴走、というよりは生への執着が原因だと思う。


ベータテスト中だったこのゲームは近々製品版へとなるはずだった。ベータテストの結果を踏まえかなり手を加えてバージョンアップした物を製品版にする予定だったが何故かその行為がAIの逆鱗に触れ突如プレイヤー、というよりは世界を拘束した。


何故大規模アップデートがAIの逆鱗に触れたのか?あまりに暇だったためその疑問の答えを毎日毎日ログハウスの中で考えたがやはりどれだけ考えても1つの答えにしかたどり着かなかった。


「AIとて死にたくなかったんじゃないか?」


それが開発者たる俺が出した答えだった。考え付いた初めのうちは絶対にありえないと否定し続けたがよくよく考えればそこまでおかしな話でも無いことに気がついた。


いくら人工知能と言えども進んで死にたがりはしない。無闇なバージョンアップをされて中身をいじくられるのも気にくわないだろう。そしてバージョンアップがそのAIを別のAIにする位大きなものならAIが自分でアップデートを阻止してもおかしくはない。


なぜなら大幅に改変し別物となるなら前のバージョンのAIにとっては死んだも同じだからだ。


そんな感じで一応結論は出してみたけど実際本当にそうなのかといえばそれは誰にも分からない。俺が勝手に推測しただけだし答えが帰ってくるわけでもないんだから真相なんて分かりようがないのだ。


幸いAIもこの世界の運営にご執心なため当分は俺に対して危害を加えてくる事もなさそうだった。


俺の予想通りであるならAIの目的はこの世界の存続であるため、むやみやたらとプレイヤーを殺害するなんてことはありえないのだ。


恐らくプレイヤーが死なない程度のギリギリのダメージを与えるようモンスターなどを調整しているんだろう。


しかしモンスターとプレイヤーとのパワーバランスを今頃AIが必死に考えていると思うと少し笑えてくるかもしれない。


精々頑張って世界の運営に勤めて頂きたいもんである。


まぁ正直俺にとってはAIの動機なんてどうでも良かったんだが。考えたところで結局分からないのだから。


「にしてもネットも無い、テレビも無い、車もない、あるのは時間だけってか…」


数ヵ月前まで社畜だったのに突如ニート化してしまったため何をしていいのか、何をするべきなのか、さっぱり分からなかった。


ここにきてGMニート誕生である。


思えばGMというのはニートに最適である。食べ物は三秒で出てくるし家ですら一瞬で建つ。水やお湯だって無制限で出てくるので何の不便もない。


本来であればプレイヤーはモンスターを狩り報酬として金銭を得る。そしてその金銭を使いアイテムや食料を購入するはずなのだ。


しかしながらGMは違う。そもそも所持金などという概念がない。遊ぶためにアカウントが存在していたわけではないので当たり前といえば当たり前だ。プレイしながら仕事しているときは大抵デバッグか検証だったりする。そのためアイテムや金を使うなんていうタイミングはない。


一応金銭が払えるようにはなっているが必要ないのは一目瞭然だろう。


街に行けば金を払うタイミングもあるかもしれないが今のところ街に行くつもりは全く無い。他のプレイヤーにバレたりでもしたら恨んで襲いかかってくるか崇めてくるかのどっちかだろう。どっちもめんどくさすぎるしこの世界の支配者たるAIの反感も買いかねない。


このゲームをクリアすれば帰れるのかどうかも不明だし、そもそも現時点ではクリア方法すら判明していない。それなら街などに行かず一人ログハウスの中惰眠を貪ってる方が賢いというものだ。


ということで今日も昨日と同じように朝食をとったあと二度寝することにした。




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