プロローグ
キンっ…キィンっ…!ガッ……キキンっ!
金属と金属がぶつかる音が放課後の薄暗い廊下に反響する。その不協和音のリズムに合わせるように長く綺麗な黒髪が揺れている。
「…ふっ!…せぃっ!」
彼女の名前は角田燈里。高校生徒会議長であり、僕の1年先輩で高校2年生である。長い黒髪の小柄な先輩で、幼さが残っているものの非常に良い顔立ちをしている。どこの部分もスラッとしていて、まさに女の子の憧れとなるスレンダー体型だ。
小柄な身体を活かして素早い動きをする彼女は両手の短剣を振るっては躱し、一歩退いては再び敵である黒ずくめの男の懐へと潜り込む。その一連の動作を怯むことなく繰り返している。
あまりにも普通の日常とはかけ離れたこの状況下で僕こと東雲智稀はというと…
「…ねぇお願い。僕とキスして」
教室で違う女子にキスをせがんでいた。
彼女の名前は西河優乃。僕と同じクラスであり高校生徒会書記。茶髪ショート、可愛い顔立ちをしている。ちなみに「クラスで可愛い女の子ランキング」で準優勝している強者だ。
…っていやいや!
待ってくれ違うんだ。決していやらしい気持ちで頼んでいる訳ではない。
「…頼風くん……今じゃなきゃ…ダメ…?」
うん。ダメなんです。お願い早くしてじゃないと敵が……って来たぁぁぁあああっっっ!
戦っていた角田さんが黒男に押され始め、敵の姿が目視出来るまでに迫っていた。剣で受け止めつつ僕に声をかける。
…ガキン!……ズザザっ!
「…っ!東雲っち!まだっ!?」
「ごめんなさいっ!まだです!今からしますからもう少し粘ってください!」
「…了解っ!……っと!」
…キィン!
敵の剣を払い除けつつ、角田さんが声をあげる。そろそろ限界も近いのだろう。…ええぃ仕方ないっ!
「…ごめんっ!後で何でも1つ言うこと聞くから許してくれっ!」
「…え?なんでもひと……」
目の前の彼女の言葉はココで途切れた。僕が無理矢理に彼女の口を自分の口で塞いだからだ。
「……っ」
大きく見開かれた目に徐々に紅く染まる頰。互いに感じる体温、鼓動、そして相手の存在
、想い。そして…
「……きたぞ」
Liberated Potential. called 《Weapon》
脳内で電子音が聞こえたと同時に俺の身体に衝撃が走り、背中に目に見えない何かがマウントされたのを感じる。僕は上から自分の背中へと手を回し、ビームサーベルのように光剣2本を引き抜いた。
「先輩!お待たせしました!東雲智稀いきます!」
半身に構え、X字を描くかのように光剣を交差させる。ジジ…ジ…と光剣が唸ったとき、僕は黒男に向かって跳躍。先輩の下へと駆けつけた。
「せやぁぁぁあああっっっ!」
まずは右手の光剣を縦に振りかざす。
その時、男が自分の頭の上平行に剣を構え、防御の構えをとるのが目に見えた。
1コンマ遅らせて左手の光剣も左薙ぎさせる。
「…っ!」
ガキンッ ジジッ
男は慌てて後ろへ跳ぶ。
がしかし敵が受け止められたのは右光剣のみで左光剣は敵の服を溶かし、男の腹の表皮を切り裂いた。
ポタポタ…ポタ…
男の腹部から真っ赤な血が滴り落ち、徐々に服を赤色に染めてゆく。
それは一向に止まる気配を見せないくらいに。
「……ぐ……っ!?」
「あーごめん。僕の光剣は特別でね。血は止まらないように出来てるんだ。だからさ、早く元の世界へと帰ってくれるとありがたいなぁ」
「…ちっ。……離脱」
そう唱えると地面から魔法陣が現れ、下から上へとスキャンされると男は瞬間移動のように消えていった。
「……ふぅ。今日も任務完了、っと」
「トモくんお疲れ様。もうちょい早く来てくれるとお姉さん助かるなぁ〜?」
ひと息つき、壊れかけた教室のイスに座り込んだ僕に角田先輩が話しかけてきた。
「いや〜すいません、先輩。西河さんを説得するのに時間をとられてしまって…」
「ふーん?まだそんな関係なんだ。早くチュッチュできる関係になった方がいいよ〜。それでも足りなかったら夜に2人で…」
「ああああ先輩!それ以上は言わないでくださいよ!俺だって好きでキスしてる訳じゃないし相手の気持ちも考えてというか…っ!てか夜ってなんですか夜って!!」
「…西河さんも満更でもなさそうなんだけどね」
先輩が小さな声でボソッと呟いた。
「…?先輩、何か言いました?声が小さくてよく聞こえな」
「よし!今日はお疲れさまね!早く家帰って休むんだよ!」
「ちょ!先輩!はぐらかさないで下さいよ!」
外に出るともう夕日が地平線の彼方へ消え入りそうになっている。
オレンジの光に照らされて逃げる先輩。追いかける僕。それを面白そうに見ている西河さん。
こうして僕らの「日常」が過ぎてゆく……




