獅童武瑠
処女作です、更新頑張ります。
俺の名前は獅童武瑠16歳の高校1年生。自分で言うのもなんだが、普通とはちょっと違う。
「武瑠君!こっち見て!」
学校のグラウンドの脇に並んだ女子達からの黄色い声援に応えて手を振るとギャラリーがワッと湧いた。
実は俺、サッカー部のスター選手なんです。
小さい頃から得意科目は体育、苦手科目はそれ以外という典型的な脳筋野郎だったが、友達に誘われてサッカー部に入ってみるとあら不思議、そこそこのルックスも相まってただいま人生におけるモテ期ってやつのまっただ中なのだ。
ただ…最近少し、スランプ中です…
「獅童!ボールが行ったぞ!」
「え!?…ってぬあっ!」
ガツン!鼻筋の一番痛い所にボールが当たる。幸い鼻血は出なかったが問題はそこではない。飛んできたボールに反応出来なかった。別にギャラリーの女の子に見入っていたとか、そういうことではないのだ。
ただ…原因が女の子にあるってことは否定しない。最近俺はフラれてしまったのだ。同じクラスのマドンナ葛城彩乃に。
「ごめん、空っぽの人を好きになることはできないから…」
冷えきった氷のような瞳で清楚を絵に書いたような黒髪美人は俺に言い放った。
「チクショー…」
女なんてチョロい。そう思ってなめていた心に冷や水をかけられてしまった。今は調子に乗っていた自分が恥ずかしくてたまらない。ふとした時に彼女の言葉を思い出し、今みたいな失態を犯す。
「はぁ…」
今日一番の大きなため息を漏らすのと同時に部活終了の合図が出た。
顧問や部員達の責めるような目、ギャラリーの女の子達の期待が外れたというような気まずい視線から逃げるようにグラウンドを後にし、部室に戻って着替えを済ませる。
「こういう時はさっさと帰って寝るに限る」
ため息混じりに呟いて正門の方角へ足を向ける。しかしその時、ふと思い出してしまった。数学の問題集が机に入れっぱなしになっていることに…
「最悪…」
普段なら放っておいて帰る所だが今日は宿題が出ているのだ。定期テストで点を稼げる生徒なら一度の宿題忘れくらいどうってことはないが俺みたいなバカ学生はこういう細かい所でポイントを稼いでおかないと進級が危うい。
「仕方ねえ!」
スポーツバッグを揺らして校舎内へ駆ける。職員室で事情を説明して鍵を借りて所属するクラスである一年一組の教室へ。
「開いてる?」
自慢の俊足で一分かからずたどり着いた教室のドアの前で思わず間抜けな声を出した。鍵がかかっていなかったのだ。
「掃除当番が閉め忘れたか?」
職員室によった時間が無駄になったじゃないか、心の中で悪態を付きつつも俺は本来の目的を達するためにその扉を開けた。それが己の運命を変える扉だということに気付かずに…
「げっ…!」
教室に入ってすぐ、思わず声をあげた。俺の目の前にいるのは俺をこっぴどく切り捨てた葛城彩乃がいたのだ。
「か、葛城さん!?葛城さんも忘れ物?」
気まずい!背筋が凍る。俺の一挙手一投足が彼女の癇に障るのではないか?そう考えると気が気じゃない。何だかんだ言って俺はまだ彼女が好きなのだ。これ以上嫌われるのは嫌だ。
慎重に慎重を重ねて彼女のご機嫌を取らなければ!
額に脂汗を浮かべて笑顔を作って見る。葛城さんは…無表情だ、チクショー!
もういい…さっさと忘れ物を回収して帰ろう。彼女の心が俺に向くことは無いのだ。
目の前が曇る。泣いてないもん。泣いてないもんね。
「ねえ?」
不意に声をかけられて肩が跳ね上がった。
「ふぁい!?」
「自分を変えたいと思ったことはある?」
冷淡、俺が彼女に抱くイメージ通りの感情のこもっていない声で彼女は俺に問うた。
彼女が投げた質問の意味が俺には理解できなかった。ただ、それに答えなければ。胸のうちにはそんな義務感が湧き上がっていた。
「無い。いや、無かったかな。でも君にフラれて今までの自分を省みてみると…変わったほうが、変わる努力をしたほうがいいかもって思えた」
中途半端でいい加減。それが俺の自己評価だ。今まで考えたことも無かったが振り返ればそうだった。
サッカー部では実力が認められて10番をもらった。でもその実力は積み重ねたものじゃない。俺がサッカーを始めたのは高校に入ってからなのだ。
子供の頃から努力というものを知らずに育ってきた。勉強は中学に入って早々に躓いて見切りをつけた。スポーツが得意だからそれを頑張ろう。そう思って色んな運動部に所属した。バスケに野球にテニスにラグビーに陸上に…すべてに才能があった。入ってすぐにレギュラーをもらえた。だけどすぐに飽きてすぐに辞めた。
もちろんそんなやつに良い顔するやつはいない。今まで挑戦した部活にも、そして今のサッカー部にも友達なんていない。俺の実情を知らない結果だけ見てくれるミーハーな女子にモテるから部員達も適当に持ち上げてくれるだけ。
今までそんなことにも気付けなかった。心の無い友情ごっこを本物だと思い込んでいた。愚かな道化だったのだ。
「馬鹿だよな俺って…君にフラれるのも当然だ。変われるものなら変わりたいよ…一から全部…」
自嘲気味に吐き出す。葛城さんは無表情のままだった。しかし、彼女の目はさっきまでと打って変わり、俺の目を見つめていた。今までは遠く、どこを見ているのか定かではない彼女の目が俺という個を認識している。
「変えてあげようか?あなたを…あなたの空虚な積み重ねを…その世界ごと…」
「えっ…?」
俺の目の前で彼女はゆっくりと俺に手を伸ばした。白く細い、力を込めれば容易く折れてしまいそうな儚いそれを俺に差し伸べている。綺麗だ、本当に綺麗だ。
触れてみたい
その誘惑に勝てず、俺は、その手を掴んだ。
「私を、助けて…」
俺の手から彼女の手の感触が消えたのと同時に頬にあたたかい水滴が当たるのを感じた。
・
・
・
その世界は現代の価値観において異常といわざるをえなかった。建物は中世ヨーロッパを思わせるものであったが、さまざまな機械があった。テレビがあり火に頼らない明かりがあり、車がある。戦場へ出れば歩兵型のロボットが跳梁跋扈している。それらの物を動かすのは電力ではない。“魔力”科学を超えたテクノロジーがここにはあった。この“ラグナリア”には…
・
「実験体10号が“特異点”をつれて来ましたか…しかし、いけませんねえ。肝心の特異点とはぐれてしまうとは…まさか自分を救い出してくれるとでも、フフ、可愛いじゃありませんか」
星空のような大きなモニター、魔力を動力とするそれを見つめて男は酷薄な笑みを浮かべていた。




