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ブーストアッパー ~加速する強化の先で~  作者: クマ将軍
第三章 前に進むために
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第8話 任務達成

 エネミーという存在に関しては現在において未だ謎の多い存在である。

 その異形の怪物が現れたのはクロノスが世界中の能力者を集め、環境作りが終わった月に移住させた後だった。

 能力者特有の現象である『孤独』という苦しみや、当時世界全体を見てもかなりの不況に陥っていた暗黒時代に苦しんでいた彼らのために、クロノスが月に拠点を作ろうと考えたのだ。


 だが突如として彼らの前に現れた異形の怪物に、自らを苛む『孤独』という脅威から一転して異形の怪物による脅威に晒されることとなった。


 当然その怪物の脅威に耐え切れずに地球で隠れて過ごす者も出てきた。

 しかし他の大多数の人々は地球の世俗に疲れていたことや、クロノスやメタリカなどの実力のある能力者たちの存在が異形の怪物から自分たちを守ってくれると信じ、アンダームーンに留まった人も多い。


 やがて怪物に対する対策も構築し始めたある日、とある『精神系』能力者が好奇心から瀕死となったその怪物の精神を見ようと近付いた。


『お、おいやめとけって……』


『こいつらの中身を見れば、正体が分かるだろ?』


 記憶や思考、潜在意識や表層意識を覗けば正体が分かると期待して近付いたその能力者だが、数分後に悲惨な結末が待っていた。


『――!!』


 そこには殺意が待っていた。

 死に瀕している怪物の精神には能力者に対する強烈な殺意が渦巻いており、精神を覗こうとした能力者の精神に逆流して彼を絶叫させた。


 幸いなことに彼の実力が高かったからなのか、精神を汚染されてもなお数週間の昏睡状態だけで済んだのは非常に運が良かったのかもしれない。

 目を覚ました彼から怪物の精神について語った際、アンダームーンの人らはその怪物の事を『敵対者』という意味を持つ『エネミー』と名付けた。


 無能力者の前には現れず、能力者だけが住むアンダームーンに現れ能力者を殺す。

 捕食行為もなく、ただ能力者を殺すために暴れまわる怪物を能力者の『敵対者(エネミー)』と名付けたのは当然の帰結なのかもしれない。


 そして現在。

 そのような存在が今、目の前で()()()()()()


 エネミーを倒しながらディメンジョンの空間を進んだ一行は、周りの空間がやけに鉄に溢れていると気付きながらも、エネミーの目から隠れるために隠れるのに丁度いい空間に身を潜めた。

 そして改めて中の様子を見た結果が上記の光景だ。


「ここは、何だ……?」


 呆然と呟くサイの声が聞こえる。

 目の前には大小様々な箱状の機械が溢れており、それらを謎の液体が流れている半透明なパイプが機械を繋いでいた。

 見慣れた機器や見慣れない機器。

 しかしそれらの機械が最終的に行き着くのは培養液の中でエネミーが眠っている大小様々なガラスだ。


「これではまるで……」


「……エネミー生産工場、か?」


 ラビィの言葉に、同じ予想に至ったのかレンジがラビィの言葉を引き継ぐ。

 モブクラス、スピリットクラス、クライシスクラス、凡そではあるがその三種類がこの工場らしき場所にて作られているのが見える。


「長らくエネミーの正体について、誰も分からなかったがまさかここでその一端を見ることになろうとはな……」


 アイが目の前にある機械を見ながらそう呟く。

 一方この光景を見て真っ先に声を出しているリカがここまで静かなのは、彼女の性格を見越してイスが自身の能力でリカの声を消しているからだ。


「まさかエネミーは生体兵器……なのか?」


 そんな傍から見ればリカが大口を開けながら目を輝かせているのを尻目に、ヒットが自らの予想を呟いた。

 もしヒットの予想通りエネミーが生体兵器ならエネミーが能力者とだけ敵対するのも、エネミーの製作者が能力者に対する恨みを持ってこの工場を作ったのならば話の筋が通る。

 しかしそのヒットの予想にイスが疑問をぶつけた。


「エネミーが現れたのは学園長が能力者たちをアンダームーンに移住した後の話よ? それも数世紀も前の話で、もしエネミーが生体兵器ならば今見ている設備は当時の技術力と噛み合わないわ」


 ならば今見ているエネミーの生産工場は一体何のだろうかと一行は首を傾げる。

 そんな彼らを尻目にアイが適当な機械に手を伸ばす。


「あ、アイさん!? 大丈夫なんですか!?」


「見ているだけで謎も解明されないだろう」


 心配するラビィだが、イスがラビィの肩に置いて押し留める。

 慎重にではあるがアイがそっと機械に触れて目を閉じ、そして暫くすると瞑っていたアイの瞼がアイのため息と共に開いた。


「……遡れない」


「……え?」


 残念そうに呟かれたアイの言葉に、ラビィが反応する。

 見ればこちらを振り向いたアイの目は通常の黒い瞳から他の色がなっており、それがつい先程能力が発動したのだろうと分かる。

 そのアイの目は緑色になっていた。

 これは過去を見通す『緑眼(りょくがん)』と呼ばれる状態の万眼であり、その状態のアイは触れた物体の過去を覗くことができる状態になっている。


 つまりその能力でエネミーを生産している機械の出処を覗こうとしたのだが、アイの様子から見て失敗しているようだと傍目からでも理解できた。


「まさかここで『緑眼』の限界を知ることができるとはな……私が『緑眼』で見通せる過去は一世紀までが限界だ」


「まさかそれでも遡れないっていうことは……一世紀以上前の代物っていうのか!?」


 ヒットが声を上げて驚愕する。

 幸いなことに周囲が気付くほどの音量はイスによって消しているため、エネミーには聞こえていないようだ。

 自分が大声を上げたことに気付いたヒットは申し訳なさそうな表情を浮かべ、手で謝罪のジェスチャーをした。


「当時では考えられない技術力……言わばオーパーツっていうわけね……」


 最後にイスがそう結論を言い、そしてふとさっきから何も反応が無かったアッパーの存在に気付く。


「どうしたのアッパー? さっきから反応が薄いようだけど……」


「え? あぁいや……ちと胸騒ぎが……」


 上の空だったアッパーは、突然話を振られたことで正直に自身の状態を話した。

 通常の人間であれば胸騒ぎと聞いて先程よりも慎重に動こうとするが、この場合アッパーが胸騒ぎをしていると言っているため、それを聞いた面々は一斉に臨戦態勢に入った。


「あれ?」


 皆の様子に目を丸くさせるアッパー。

 そんなアッパーにレンジが真偽を問うた。


「……それは本当かアッパー」


「お前の能力概要書を読んで『彼の直感は予知レベル』と書かれてりゃあ誰もが緊張するわなぁ」


 だが真偽を問う前に、ヒットが皆が臨戦態勢に移行する理由を話す。

 アッパーは度重なる強化で直感や予測能力が予知レベルとなっており、アッパーが『胸騒ぎ』をしたということは今の状況が悪いという可能性が高い。

 だからこそこうしてアッパーが悪い予感のようなものを感じたら、各自警戒するようにとマニュアルかそういう取り決めがあるのだろう。


「ならば一刻も早くここから出ないといかんな」


 アイもまた数分先の未来を予知することができる所謂未来視的な能力を持っているが、それは自身か自身の大切な者のピンチにしか自動的に発動されない使い勝手の悪い能力を持っている。

 なので今後どうなるのか分からない状況でどう動くのかはアッパーの予測や直感が大事であり、だからこそアイはこの工場から出ようと考えたのだ。


「その前に、先ずはここを破壊しないとね」


「え、破壊するのか? 調べるんじゃなく?」


「情報よりも安全だよ! サイちゃん!」


「……珍しい事を言うなリカ」


「たまーに酷いこと言うなレンジ」


「それではここを破壊するとして、どうします? 私の能力で壊しますか?」


「ふむ……ならばそれで行こうラビィ」


 次々と話を進める面々にアッパーは出遅れる。

 しかし確かにアッパーでもっても『胸騒ぎ』を感じるほどの施設ならば、リカの言う通り情報よりも安全を優先した方がいいという理屈は理解できる。

 なのでアッパーは静かに彼らの行動に従うのみであると己に決めた。


「では我らは転送地点に移動だ。ラビィは私の合図と同時に始めてくれ」


「了解です!」




 ◇




 その後の流れとしては特に描写するようなこともない。

 どこを壊せばいいのか工場内を巡り、そして転移しようとするエネミーを粗方殺し、そしてディメンジョンを通して元のサハラ砂漠に戻る際にラビィが特大のブラックホールで工場内を飲み込むだけ。


 実際ラビィが放ったブラックホールによって工場内の機材や生産中のエネミーをまとめて飲み込んでいくのを見届けた一行は、急いでディメンジョンの空間を通り問題なくサハラ砂漠に帰還した。


「ふぅ……! これで任務は終わりかぁ!」


「こーら、まだエネミーが砂漠に残っているでしょうヒット?」


「確かにそうだけどアッパー君がいれば問題ないと思うよ!」


「……油断するなリカ」


「だそうですよリカさん」


「もー! よってたかってリカを責めるぅ! ヒット君も同罪なのに!」


「はぁ……勝手に同罪扱いとは覚悟してるなぁリカ……」


 中のブラックホールに巻き込まれて転送空間を作っていたディメンジョンが中で巻き込まれ、サハラ砂漠と工場を繋ぐ空間が消えた。

 勿論転送空間付近には既に転送を済ましていた他のエネミーがおり、一行の周りにはエネミーが存在している状況だ。


 だが一行はそれほど危機感というものはなく、これから行う戦闘はただの後始末ということで気楽に構えていた。

 そして始まるエネミーとの戦いはつつがなく終わり、一行は最後のキャンプをしていた。


 談笑が止まらないメンバー。

 そんな彼らの様子を見ながら一人離れたところでコーヒーを飲んでいるアッパーに、アイがやってくる。


「どうしたアッパー? 何とも苦そうな顔をしていたが」


 勿論コーヒーの苦さではなく、任務を達成したのに未だに他のメンバー見たく喜んだ様子も見せないアッパーに言っているのだ。

 そんなアイを一瞥すると、アッパーは何とも言えないような表情で口を開いた。


「エネミーは殲滅した。原因は取り除いた。……まぁ解明されてはいないが、それでも任務は達成できた。だけど……俺は何故か胸のモヤモヤが取れない」


「……何?」


「あの工場らしき場所に着いてから胸騒ぎを感じて、そして工場から出てもまだ胸騒ぎを感じる」


 そのアッパーの言葉にアイが目を見開く。


「まさか……胸騒ぎの原因はあの工場ではないと?」


 そう尋ねるアイにアッパーは暫し考えをまとめた。

 コーヒーの水面に反射する月を見ながら、何故クインジャマーというエネミーが撹乱していたのか、何故大量のエネミーが転送されてきているのか。

 そもそもの話として何故エネミーが地球に現れているのか。


 そこまで考えて、アッパーはとある推測に思い至った。


「……目的は、俺たちだった?」


「――なんだと?」


 アッパーの推測にアイが驚愕する。

 だがその直後に――。


『きゃあああああああ!?』


 誰かの悲鳴がキャンプ地から聞こえた。


「俺が気付かなかった……!?」


「行くぞアッパー!」


 戸惑うアッパーにアイが先に駆け出す。

 そんな彼女を見て、一瞬で思考を切り替えたアッパーは手に持ったコーヒーカップを投げ捨てると強化した体で一瞬の内にアイを抜き去り、悲鳴が聞こえた場所に辿りつく。


「なっ――」


 そこに見えたのは半透明な体を持った数体のスピリットクラスのエネミーが仲間たちの背後に位置しており、まるでそのエネミーらが仲間を人質に取っているような光景があったのだ。


「――っ」


 自分ならば一瞬の内に背後に回り、スピリットクラスのエネミーを消し飛ばせる。

 そう思い、体中に『全力強化(フルブースト)』を施そうと集中するも――。


「動くな、アッパー」


 その直後に見知った声が聞こえアッパーは自身の動きを止め、恐る恐る声が聞こえた方向に顔を向く。


「……お前は」


 忘れもしない一年前のエネミー襲撃事件の時。

 ロードの元へと助太刀に現れたもう一体のデストロイヤークラスのエネミーは、アッパーの能力を封じ込めたなど、恐らく唯一と言っていいほどアッパーに深刻なダメージを与えた存在であった。


「久しいな」


 青白い半透明な体に圧倒的な存在感。

 一年前と違う点を上げるとすれば、一年前はただの青白い半透明な謎の物体であることだが、今アッパーの目に映っているのは『鎧武者』のような甲冑を着込んだ人型のような輪郭をしているということだろうか。


「スピリット……」


 デストロイヤークラスエネミー『精神(スピリット)』の名を関する敵が今、目の前に現れていたのだ。

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