第7話 連携駆逐
「はぁああああああッ!!」
振り向きざまに一閃。
月夜の明かりに照らされた刀が煌めきアイの体格よりも大きいジャイアントマーダーを上下に切り分けた。
だがその場で立ち止まるわけでもなく、残心で相手が事切れたことを一瞬で把握した後に次の対象へと移行する。
刀を下げ、一般的な女性にしては素早い足取りで他のエネミーに接敵した後に再び刀を振り上げる。
動くときは最低限の力で動き、斬撃を放つときは一瞬の内に力を込めるのがアイの体力を温存しながら行う戦い方で、これによって『強化系』ではない普通の身体能力しか持たないアイが長時間戦える理由である。
「セイッ!!」
斬撃自体は確かに鋭く、高度に訓練された賜物故に誰もが見惚れるほどに綺麗な軌道を描いていた。
だがそれでもアイが業物ではあるがただの刀一本で、何故自身よりも大きい相手を綺麗に切り分けることができるのだろうか。
彼女の戦い方は達人と呼ばれる人たちと遜色のない力量に達しているが、それだけで異形の存在であるエネミー相手に圧倒することはできない。
「――」
それを可能とするのは一重に彼女の能力だ。
目に関する能力の集合能力である『独自系万眼』がアイの能力である。
一言で言えばアイの目は『全てを見通す』ことができる能力で、目に色によってアイが見通す種類が切り替わるのが彼女の能力である。
今アイが見ているのは流動する生物の細胞すらも見通す『青眼』で、一瞬の内に細胞の晒す所謂『隙間』ともいうべき脆い部分を見通す能力だ。
応用によっては細胞レベルで治療行為ができるその能力を、敵対するエネミーに使用することで対象の『隙間』を把握、アイの達人レベルの技術で斬り通すのが通常の身体能力しか持っていないアイがエネミー相手に圧倒できる理由だ。
「――ッ」
戦いの最中、アイが目を細めると背後から来たジャイアントマーダーの巨大な大剣を半身で避け、すれ違いざまにジャイアントマーダーの体を断つ。
見ればアイの目は僅かではあるが、黄色に輝いておりこの状態のアイは数分先の未来を見通す『黄眼』になっている。
『黄眼』はアイの意思で発動することができない目ではあるが、『黄眼』の特徴は持ち主もしくは持ち主の大切な人物の危機に自動的に発動する目だ。
だからこそ咄嗟の反応に関して最も信頼のできる能力であり、これまでの任務で大した怪我を負わなかったのはこの目による恩恵が大きい。
――カチッ、カチッ。
「おっと、もう弾切れか」
アイが刀一つでエネミーを斬っている一方、ヒットの持つ銃の弾薬が途切れる。
「アッパー! すまないがちと『補給』しに行くわ!」
「了解!」
そう言ってヒットがイスやリカが待機している後方へと戻る。
その際後方に下がったヒットを追跡するようにエネミーが駆け出すが、アッパーが間に入りエネミーの追跡を阻止した。
「リカ! すまないが補給を頼む!」
「はいきたー!」
リカたちのところまでやってきたヒットが、弾薬のないサブマシンガンをようやく出番が回ってきたリカに手渡す。
「復元……開始……」
ヒットのサブマシンガンを手に持ったリカが目を瞑りながらそう呟くと、手元にあるサブマシンガンからカチカチと金属同士の接触音が鳴り始める。
そして目を開いたリカが満足そうにサブマシンガンの重さを確認すると、手元のサブマシンガンをヒットに返した。
「おう、サンキュー」
「はい! それじゃ次の奴も行くよー!」
これがリカの『創造系復元型』の能力だ。
生物、無機物問わず、対象の『元あった状態』を復元する能力で、生物に使えば欠損した部位を復元でき、無機物に使えば欠損した箇所を復元、あるいは現在の状態を元の状態に復元するのがリカの能力だ。
薬莢も弾丸もない状態でも、それがかつて弾倉にあったという事実があればそれも復元の対象となるということで、リカの能力は重火器を多く使うヒットと非常に相性がいい。
「オーケーこれで準備万端! それではまたのお越しをお待ちしまーす!」
「頑張りなさいヒット」
「それじゃ行ってくる!」
イスとリカの激励を受けて、ヒットは再び戦場に向かう。
先制攻撃を仕掛けたイスは自身の喉を枯れさせたが、リカのお陰で既に回復している。
しかしイスの能力は連絡手段としても最適な能力であるので、今は攻撃ではなく支援に徹しているため現在の役割は各地の様子を双眼鏡で把握しながら、戦場にいるメンバーに指示出しをしていた。
『ヒットが向かったわ。それとサイ、貴女前に出過ぎよ。安全を期してアッパーの近くにいなさい』
「お、おう!」
耳元に響くイスの声を受けて、サイは周囲のエネミーを倒しながらアッパーの元へと近付くと、アッパーの近くで戦っていたラビィが声を上げる。
「レンジさん! お兄ちゃん! サイさんと一緒にエネミーを集めます!」
そう叫んだラビィはサイに視線を向けると、突然言われたにも関わらずサイはラビィの要望を把握して力強く頷いた。
「私が集めて――」
「――オレが固める!」
『サイグラビティ・コレクト!!』
ラビィが上空に重力の塊を放つとその重力核に引かれて周囲のエネミーが集まっていく。
それでも抜け出そうとしているエネミーがいて、重力核から遠いエネミーが引力の拘束から離れ落ちようとする。
しかしそんなエネミーに対し、サイが巨大なエネミーの集合体となった塊の周囲を念力を囲むことで逃げ場を塞いだ。
『今だ!』
エネミーを集めた二人の合図によって、そのエネミーの塊に向かったのはレンジとアッパー。
アッパーは高く飛び上がり、レンジは素早くその塊の下に行き両者拳を握り締める。
「ハァアアアアアア!!!」
「……ゥァァアアア!!!」
方や『全力強化』で強化された拳、方や『怪力』を込めた拳をエネミーの塊に向けて叩きつけた。
『GUAAAAAA!!!???』
重く響く強力な衝撃。
上下から叩きつけた桁違いの力を誇る両者の拳は巨大なエネミーの塊を圧殺し、衝撃が塊の中心に向かう度に塊から大量の血が吹き出ていく。
やがて衝撃が中央にある重力核に到達するとその衝撃によってエネミーを引き寄せていた重力核が壊れ、まるで爆発するようにエネミーが辺り一面に落ち始める。
当然下にいるレンジや上にいるアッパーも落ちていくエネミーの肉塊に当たるのだが、その前にレンジをサイが、アッパーをラビィが自身の能力で引き寄せて退避させた。
「ふぅ……」
「……助かった」
自分たちを引き寄せた彼女たちに礼を言うと、ラビィが「これも作戦の内ですから」と笑みを浮かべた。
依然として周囲にいるエネミーの数は大して減っているように見えず、まだまだ戦いは終わっていないと近くにやってきたアイが四人に言う。
そんなアイに、妹であるサイが愚痴を言いながら辺りを見渡した。
「はぁ……これを殲滅するまでやるのか」
「確かに殲滅した方がいいが、私たちの目的はこの大群を生み出している中央のディメンジョンに向かうのが私たちの目的だ」
「そのために立ちはだかるエネミーを倒すしかないですよね」
当然それらをスルーして中央に向かっても既に大群を成しているエネミーが氾濫し、サハラ砂漠を起点に他大陸まで侵攻しても駄目なのでこうしてある程度の数まで間引きする必要があるのだ。
「もうエネミーはこちらに気付いているため、ここで休憩することもできない」
だからこそアイたちはここで大量のエネミーを倒さなくてはならないし、そのためには長時間を掛けてでも成し遂げなくてはならない。
「体力が減ったら無理せず後方に待機しろ。その間の回復時間は――」
「――あぁ、俺が稼ぐ」
アイの言葉を受け継ぐようにアッパーが答える。
何せアッパーは疲れを知らない体なので体力が減った仲間が後方に撤退し、その間エネミーの大群を引き付けるのがアッパーの役目なのだ。
つまりアッパーだけが他のメンバーよりも長時間の戦闘を担うことになり、この作戦を建てたアイは勿論他のメンバーもアッパー一人に負担を集中させることに負い目を感じている。
しかしその他の作戦が思いつく筈もなく、こうして作戦を実行しているわけである。
(……くっ、何が一人にさせないだ……こうして私はアッパーを頼り過ぎている……!)
顔に出さないよう内心思い詰めるアイ。
しかし他の広範囲殲滅を得意とする能力者がいるにも関わらず、評議会側が応援にアッパー一人を指定したのは一重にアッパーが長時間を掛けてでも一人で任務を成功させることができると判断しているからだ。
広範囲殲滅の能力者はその威力や派手さによって地球側の人間に察知されやすく、だからこそ地味ではあるが察知されにくいアッパーを寄越したということは想像に容易い。
下手すればアッパー一人だけ任務に参加し、他はアンダームーンで休暇を過ごすことになったかもしれない事態を、アイが直談判したお陰でこうして他のメンバーも参加できているのだ。
評議会の決定は絶対で、これ以上の支援も見込めないとなると出来る範囲でやるしかないのが現状である。
事実として思うところはあるだろうが、このようなアッパーのスペックを合理的に活用した作戦は非常に効率がいいため、仕方がないと言えば仕方がない。
「……アイ」
「っ!? ……何だアッパー」
「――俺は大丈夫だ」
まるでアイの内心を見通した言葉にアイは目を見開いたが、すぐに理解した。
(……いや、アッパーなら私の思っていることを把握できている筈だ)
見ただけで人の思考を読み解くほどの観察能力を持つアッパーだ、他人が内心何を考えているのかは把握できているのだろうとアイは思い至り、アッパーに向けて笑みを浮かべた。
「すまないなアッパー……私にできることは一刻も早くこの任務を遂行させることだけだ」
そう答えたアイではあるが、その直後に他のメンバーから声が上がった。
「おいおい姉ちゃん、それは違うぜ?」
「そうです、私たちですよ!」
ラビィとサイの言葉。
そして二人の言葉を肯定するように深く頷くレンジ。
アイを元気づける言葉でありながら間接的に負担を強いられているアッパーに向けた言葉に、アッパーとアイが視線を交わすと互いに笑みを浮かべた。
そして再開されるエネミーとの戦いは想定通りの長時間にも及んだ。
――戦い始めて五時間後。
時刻は既に深夜帯であり、今この戦場にあるのは周囲に広がるエネミーどもの血や肉片により、むせ返るほどの激臭が漂っていた。
後方に待機していたリカやイスも一行に加わって、その激臭に顔を顰めながらも一行は大量のエネミーを転送している中央にたどり着いた。
「……ここが中央か」
そう呟くレンジ。
休憩を繰り返しながら進んだため、疲れ知らずのアッパーを含めた一行は大して消耗した様子はなく、かなりの余裕を保ちながら中央にたどり着けたのだ。
「ここでディメンジョンを撃破してもいいが、それで解決すると言えばそうではない」
「つまり――、中に入って原因を突き止めないとね」
アイとイスがそれぞれ中央にやってきた目的を呟く。
大量のエネミーを転送しているディメンジョンの空間の先も、きっと大量のエネミーが存在していると考えられているため、下手すれば地球にもアンダームーンに帰れずに死ぬ可能性がある。
「ま、元より覚悟は出来てるさ」
ヒットが手に持った銃を確認しながら、ディメンジョンの空間を見据える。
「折角時間を掛けて来たんだもん! それに私も戦いたいし!」
回復役に徹していたためか、妙に不満げな様子のリカ。
「ならばやることは一つですね!」
ラビィの言葉に一同は互いに頷き、そして中からやってくるエネミーを倒しながらディメンジョンの空間へと歩を進めた。
そして中で見たものとは――。
「なんだ、これ……」
誰かの呟きが聞こえる。
彼らが見ているのはまるで近未来的な工場の様相。
そこはエネミーという存在が、長年能力者と敵対していたエネミーという存在が、機械によって作られている光景だった。
その景色を見て、アッパーは言いようのない『嫌な予感』に胸がざわついた。




