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ブーストアッパー ~加速する強化の先で~  作者: クマ将軍
第三章 前に進むために
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第5話 探索、サハラ砂漠

 熱、熱、熱。

 夏真っ只中な九月に加えて太陽が強烈に照りつけるサハラ砂漠の気温は平均して45度以上も超え、年によっては50度を超える日もあるという。

 日影はまったくないというのは流石に言い過ぎだがそれでも少なく、地表面は日射によって現在の気温よりも高い。


 空を見上げれば熱。

 地を見下ろしても熱。


 一年通してサハラ砂漠を渡り歩いた特級能力者の面々は流石に慣れており、砂だらけの地面を悠々と歩きながらもその表情には疲れが見えない。

 一方ラビィとサイは、初めての砂漠地帯に大量の汗をかきながらも自身の能力で地面から浮いているため疲れらしい疲れは見当たらない。


『……』


 特級能力者の面々は楽をしてる彼女たちを羨ましげに見ていて、アッパーはそんな彼らに苦笑した。

 資料によれば特級能力者の面々は誰も『現象系』の能力ではないため、当然初日から歩いてその体に慣れさせたのだろう。

 それなのに新入りがいきなり楽をしているのを見て、彼らは思う所があるようだ。


「アッパー、彼らはお前のことも見ているんだ」


 他人事のように決め込んでいるアッパーにアイが呆れながら声を掛ける。

 何故ならアッパーもまた強化された基礎能力によって疲れも暑さも苦にしない体になっており、汗だくだくになって歩いているメンバーよりもアッパーだけが悠々自適に歩けていた。


「荷物も全部アッパーが持っているのに、多分一番楽なのはアッパーだろうな……」


 遠い目をするヒット。

 そう、ヒットの言う通りアッパーは今メンバー全員の荷物を背負っている状態でありながらも、まるで重さを感じさせない歩みで歩いているのだ。

 流石にキャンプ設備や飲料食料も背負っているからかその荷物の重みでアッパーの足は砂に埋まっているものの、アッパーは気にせずに歩き続ける。


「……情けない」


「レ、レンジ君!? だ、大丈夫だよ! レンジ君はちゃんとやっているよ!!」


 ほろりと涙を流すレンジにリカが説得力の欠けるフォローを掛けていた。

 レンジもまたアッパーと同系統の『強化系』の能力者であり、彼は自身の力を怪力にさせることができる能力者だ。

 そんなパワー系が担当する荷物持ちがまさか自身と同等かそれ以上のパワーを持ちながらも疲れを知らない完全上位互換であるアッパーが担当になり、レンジは自身の情けなさに涙を流す。


《……凄いわねアッパーは》


《あぁアッパーの能力はこの中で一番強いからな》


 そんな彼らを見ながらイスは自身の能力を使ってアイに語りかける。

 イスの能力は端的に言えば声を自在に操る能力であり、分類としては『独自系』に分類される能力だ。

 それも彼女の願いを聞いた人物はその心地よい声によって彼女の言う通りに行動するほどのレベルであり、場合によって魂をも揺さぶるほどの能力だ。


 そんなイスが使っていたのは音波の調整であり、どんな小さな囁きでも聞こえるアッパーに聞かせないようアイに対してのみ聞こえる声で話しているのだ。

 アイの音声もまたイスの能力によってイスにのみ聞こえるようにされているため、誰も彼女たちの話を聞くことができない。


 実はこのような方法もアッパーがサイに行ったことがあり、かつてのロードとの戦いで絶望し呆然としているサイの意識を呼び覚ますために使ったのだ。

 そんなアッパーであってもイスの能力によって聞こえなくなった声を聞くことはできない。


《それは心強いわね》


《だがそれでも私はアッパーのことを気に掛けてなくてはならない》


《……その心は?》


《昨日分かったことだが、彼奴は『孤独』に一歩踏みかけている》


《……! まさか、彼でも?》


《『孤独』に例外はない……それにアッパーに関しては尚更陥りやすい》


 はたから見ればアイとイスは口パクで話しているように見えるのだが、二人は怪しまれないようにマフラーで口を隠しているため誰も気づかれない。

 だが彼女たちの話す内容は真剣そのものであり、話の中心である当の本人はアイとイス以外のメンバーと談笑をしていた。


《強くなりすぎた故の孤立ね……》


《それに注意してもアッパーは突き進み、やがて『孤独』に陥る》


 アッパーの願いは人を救うことである。

 当初は全ての人を救うと言う信念を持っていたアッパーであったが、久しぶりに会った彼は善なる人を救うと言う目的に変わっていった。

 恐らく自分たちと再会する前のアッパーはここ数週間様々な経験をしたお陰で、考え方が変わったのだろう。


 だがそれでもアッパーの歩む道は困難を極めており、善を救おうと足掻けば足掻くほど悪の存在がアッパーの行く道を阻もうとするだろう。

 だからこそアッパーは『孤独』になると、アイは目を細めて断言した。


《断言かぁ……まさか貴女の『目』が?》


 そのイスの言葉にアイは答えない。

 しかしアイと長年バディとして過ごしてきたイスだからこそアイの本音を理解できており、黙ってしまったアイの考えをイスは明確に理解した。


 そんな二人、いや正確にはアイに念力の力で地面から浮いていたサイが額に汗を流しながら気怠そうに提案をした。


「すまん姉ちゃん……ちと休憩したい」


 見ればサイの表情は青ざめており、特級能力者たちが探索初期の頃に結構陥りがちだった脱水症状と熱中症一歩手前の様子だ。

 ラビィの方も暗殺者としての訓練からか顔に出ていないものの体に疲れが出ているのが分かる。


「ふむ……例え地面に浮いていても太陽の熱にやられるか」


 アッパーに至っては言わずもがなではあるが。


「ではここで休憩をしましょうか」


 イスの号令によってしばしの休憩を取ることとなった一行は、アッパーが背負っている荷物を解き始めた。

 組み立てるのは熱を遮断する保冷性抜群のキャンプで、その他にも熱対策の道具を広げる。

 アッパーという規格外の荷物持ちがいることでそれらの道具を余分に持ってこられるのだ。


「ふーっ! 涼しいーっ!!」


 できたキャンプの中に入り、外よりも涼しいキャンプで地面に転がりながら寛ぐリカ。

 ガタイの大きいレンジが中に入ってもなまだ余裕のある大容量キャンプなため、その他の面々も中に入った途端地面に座り寛ぎ始める。

 特に特級能力者たちは探索初期の頃、アイの能力で目標地点の近くにある日影に入って暑さをやり過ごし、慣れてくるとそのまま目標地点まで歩くことになっているため、久しぶりの快適な空間に彼らは申し訳なさそうにアッパーに感謝をした。


「大丈夫だ、これぐらいどうってことない」


 そういうアッパーだが他の皆はそうは思わない。

 アッパーの万能さはこの場の面子を合わせても敵わない程に高く、また戦闘能力も高いため戦闘になるとアッパーの世話になることは想像に容易い。

 だからこそ今回の旅でアッパーが受ける負担は大きく、それを理解しているメンバーはアッパーに申し訳なく思っているのだ。


「オレも手伝いたいけどなぁ」


「例えスタミナがあろうと消耗は確実にするだろ? 遠慮するなってサイ」


 かといって荷物を分けようと言ってもアッパーはこうして拒否をする。

 サイやラビィの能力は物体を浮かせることもできるため、それで荷物持ちを担当することができる。

 なおかつ彼女たちはそれを長時間維持もでき、強化系の能力を持つレンジも同じように長時間荷物を持つことができる。

 しかしそんな彼、彼女らでも体力を消耗するため、疲れた端から回復するアッパーが全ての荷物を担当することになったのだ。


「その議論は最初にやったぞサイ。今はともかく体力を回復し、気温が下がり始めた頃に動けるよう努めろ」


「おう……分かったぜ姉ちゃん……」


 不満げなサイに姉であるアイが注意をする。


「ま、流石に浮かぶことができるって言って俺たちのペースに合わせるったぁやっぱり無謀だったな!」


 落ち込むサイにまるでトドメを刺すかのように口を開くヒット。

 ヒットの言う通り、サイは自らの能力で自身の体を浮かせることができ、これで砂漠を歩くことに慣れている特級能力者のペースに合わせようとしたのだ。

 ラビィは遠慮からか最初は彼らと同じように歩いていたものの、途中からサイと同じく自身の体を浮かせていた。


 だが結果は言うまでもなく、撃沈である。


「慣れていない環境を甘く見ちゃいけないってのが教訓だな。ただしアッパーは除く」


「ヒット先輩……別に俺も全く未知の環境ともなると厳しいぞ?」


「まーたまたー! それでもアッパー君なら行けるってリカは信じてる!」


「根拠は一体……」


「……アッパーの場合、根拠がありすぎる」


「言えてるわねレンジ」


 アッパーの話題で盛り上がるメンバー。

 そんなメンバーを尻目に、ラビィは一人地図を見ているアイに冷たい水を差し入れた。


「はい、アイさんお水です」


「あぁすまない、ありがたく頂こう」


「アイさんは今何をやっているんですか?」


 アイの作業に興味を抱いたのか、ラビィがアイの手元にある地図を見て尋ねる。

 先程の水を飲んでコップを地面に置いたアイはラビィの質問を聞き、感心しながらラビィに答えた。


「あぁ現在地と目標地点を見ていた」


「目標地点……」


「今私たちがいるのはここだ。そしてここから東南に行ったところが目標地点だ」


「なるほど、とすると現在の物資の状況と目標地点への道のりを計算してたんですね?」


「良く分かったな。ここのメンバーで索敵や目標決めはリーダーである私の担当だからな。だからこうして物資を消費する休憩の合間に計算しているんだ」


 当然、食料などといった物資は使えばなくなる。

 なので途切れさせないようアイが計算し、無くなる前にサハラ砂漠にある様々な国に赴き物資を購入しているのだ。


「国、ですか。私は日本国内での任務が中心だったので、サハラ砂漠に国があるという印象はあんまりなかったです」


「確かにサハラ砂漠は地球最大の砂漠ではあるが何もないというわけでもない。地図を見ればアフリカ大陸の三分の一を占めるのだが、北西部にはサハラ砂漠最大の首都を誇るモーリタリア・イスラム共和国があり、反対側の北東隅ではピラミッドで有名なエジプト・アラブ共和国もある」


 勿論その他にも様々な国々がサハラ砂漠に存在する。

 迷えば遭難して死を覚悟するしかないというイメージがあり、実際迷えばその可能性があるサハラ砂漠ではあるがサハラ砂漠を安全に体験する観光ツアーもあるなど決して何もないというわけでもないのだ。


「それでもエネミーがいるんですね……」


「あぁ、しかし幸いなのは例え地球にエネミーがいようとも、彼奴らは無能力者の前に現れることはないため、今までサハラ砂漠で遭遇してきたエネミーは人のない地帯だけだった」


 例外なのは一年前に無能力者である一般市民の前であるにも関わらずに襲撃してきたエネミーだけであり、学園長曰く「地球政府やら記憶処理やらで疲れた」らしい。


「私たち能力者も人の前に出るのを禁止されているため、こうして人のないルートを探しながら探索しているわけだ」


「そして、これから私たちが向かう先には……」


「あぁ大量のエネミーが潜んでいる」


 今もなおディメンジョンの空間から大量のエネミーが現れており、下手すればその潜伏場所から氾濫する可能性もある。


「その前に駆逐し、事態を解決しなければならない」


「はい! アイさん、私も頑張ります!」


「いい返事だ。だがその前に体力を回復せねばな」


 そして一行は、気温が下がり始める時間帯まで待機した。

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