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ブーストアッパー ~加速する強化の先で~  作者: クマ将軍
第三章 前に進むために
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第4話 任務開始

 朝七時、場所は超能力学園本館にある司令室。

 そこにはサハラ砂漠に向かうメンバーであるリーダーのアイ、任務に参加するよう言われたアッパーに彼の付き添いで参加したサイとラビィがおり、彼らを見送りに来た数人の人たちがそこにいた。


「昨日は良く眠れたか?」


 アイがこれから任務に参加する面々の顔色を見ながら聞くと、アイの言葉を聞いたアッパーたちは肯定するように頷く。


「よし、ならば昨日渡した資料については頭の中に入っているな?」


「勿論だぜ姉ちゃん」


 昨日、アッパーが任務に参加する旨を伝えた後に『評議会』に案内してくれた男から任務のメンバーや概要を書かれた書類を渡された。

 その書類の中身にはこれから受ける任務の詳しい概要や参加するメンバーなどの情報が載っており、その書類を渡されたメンバーは皆その日の内に記憶をするようにという。

 当然新しく参加するメンバーは全員上級能力者であるためそのような心構えはできており、意外というのは失礼ではあるがサイもその辺り問題ないようである。


 各々の様子を見て問題ないと判断したアイは見送りに来ているクロノスに顔を向き、挨拶をした。


「それでは学園長、行ってきます」


「はい、気をつけてね~」


 軽い口調ではあるが、その目は真剣だった。

 この司令室にいる面々もアッパーたちの方に健闘を祈るように会釈する。皆との挨拶が終わったと判断したアイは、司令室にある地球転送装置に向かった。


(地球転送装置……)


 アッパーにとってはこれで二回目となる装置の使用である。

 人一人分入れるスペースが三つあり、その中に人が入って外部の人間が起動すると中の空間が設定された地球の位置と同じ位置となって地球に転送される仕組みである。


 これもまた『訓練館』と同じくクロノスの能力を『付与』されて作り出された装置ではあるが、詳しいことは情報を仕入れていないアッパーでは分からない。

 一人、また一人とその地球転送装置に入っていき、地球に転送されていくと今度はアッパーの番が来た。


「それじゃあ、行ってきます」


 と、最後に司令室の面々に挨拶をするアッパー。

 途中この場にいるノウンの姿を見たアッパーは昨日のやり取りを思い出し、彼女に思うことはあれど今は関係ないと思い直す。

 ノウンにも周囲にした同じような会釈をすると、アッパーは地球転送装置に入った。


「あ~! はいは~いちょっと待って~!」


 ところが後は外部が地球転送装置の起動ボタンを押すだけだがその前に見知らぬ女性から声を掛けられた。

 外見は幼い少女だがダボっとした白衣に彼女の顔よりもでかいメガネ、そしてボサボサとした頭からまるで研究者のような印象を受ける存在から声を受けたのだ。


「えーと、貴女は?」


「いや~ふぅ~ちょっと、待って~……」


 ついさっきまで全力疾走をしてたようで、彼女は地球転送装置に入っているアッパーの前に息を整える。

 目の前の少女についてはアッパーの記憶に存在せず、ともすれば彼女とアッパーは初対面であろう。

 もしかしたら任務に参加しているアイに用事があったかもしれなく、しかし目の前の少女側の用事で遅れたという可能性が高いかもしれないと、アッパーは推測した。


「あぁふぅ~……さて、君だね~? アッパーという上級能力者は~」


「はぁ、そうですけど……」


 やけに間延びするような口調の少女だなと思うアッパー。

 どうやら目の前の少女の目当てはアイではなくアッパーらしく、より彼女の目的が分からなくなってきたことに内心困惑する。


「はいこれ~」


 そんなアッパーに、目の前の少女から一つの塊を差し出された。


「これは?」


 ごく自然に差し出された物体を取り敢えず手に持ったアッパー。

 外見は黒い塊で、サイズはビー玉ぐらいしかない。

 まるで光にかざすようにその塊を観察するアッパーに、目の前の少女がその物体の正体を話した。


「能力を無効化する鉱石、略して『無鉱(むこう)』~」


「――……は?」


 ダジャレのような内容の言葉を発する少女。

 だがその内容はアッパーの動きを止めさせるものには十分なもので、アッパーは目の前でずり落ちているメガネを整える少女をマジマジと見てしまった。


「単純に言うと烏丸源十郎の体から採取した無効化能力の遺伝子を抽出して何やかんや加工してそれを圧縮してできた~。セーフティからなのか烏丸源十郎は溶けたけど~」


 そんなアッパーに気付いた少女はアッパーが理解していないと思ったのか、早口で解説をし始める。

 その適当な解説や緩い口調とは裏腹にブラック増し増しな内容に驚くべきか、それをあたかも自分が作ったと言わんばかりの少女に驚くべきか。


 地球にいる仲間がいるため急いでいるということは目の前の少女も分かっているため、敢えてその塊の出処だけ説明をしたのだろう。

 普通の人なら理解が追いつけない内容ではあるがアッパーにとっては問題なく理解でき、そして目の前の少女に質問をする。


「効果は?」


「接触している間、対象の能力を無効~」


「何故俺に?」


「アッパーの能力と念の為~」


「貴女の名前は?」


「メティス~」


「なるほど……分かりました、ありがとうございますメティスさん」


「頑張ってね~」


「はぁ……これだから天才共の会話は……」


 簡潔過ぎる二人の会話を傍で聞いていたクロノスは二人に呆れるが、知りたい事を知ったアッパーはクロノスを無視して、地球転送装置の担当をしているオペレーターにアイコンタクトを送った。


「またね~」


 ギリシャ神話のとある女神と同じ名前のメティスと名乗った少女は転送されていくアッパーに向けて手を振る。

 アッパーもまた『無鉱』を届けてくれたメティスに会釈して、地球転送装置から姿を消した。


(メティス……か)


 その名前についてアッパーは知っている。

 能力者社会を構成しているアンダームーンには様々な能力者のためのバリアフリーとして生み出された装置や機械が溢れていた。

 この地球転送装置もその一つであり、地球での任務を遂行する能力者たちのために生み出されたのだ。


 そしてそれらの装置を開発、もしくはそのオリジナルの元である装置を開発した人物の名前がメティス。

 そう、アッパーに『無鉱』と呼ばれた鉱石を渡した少女こそが、そのメティスなのだ。


 彼女がアッパーに『無鉱』という能力を無効化する鉱石を渡した理由。

 まず第一にアッパーが接触している間能力を無効化する『無鉱』を持っても、アッパーに対しては特に意味を成さないということ。

 だからこそ『無鉱』を渡す相手としてアッパーを選んだのだろう。


 次にメティスは念の為と言ったところだ。

 メティスの能力についてはクロノスと同じ神話を由来とする名称を名乗っていることからその名称に一致する能力だと分かり、その実教科書にも載っていることから分かりやすい。

 しかしまさかメティスという人物がまるで幼い少女のような外見をしていることは予想外だった。


 閑話休題。


 このアンダームーンにおいて神話を由来とする名前を名乗るということは、その人物は同時に二つの側面を持つ能力を持っているということだ。

 クロノスであれば時間と空間の『時空』。

 メティスという名前はギリシャ神話における善悪を予言し叡智を意味する女神であり、恐らくメティスが持つ能力は予言と叡智の『予智』という能力だろう。


 そんな彼女が能力を無効化する『無鉱』を態々アッパーに渡したということは、メティスの能力から何か嫌な予感を感じたという可能性が高く、だからこそアッパーはメティスの言葉を信じて『無鉱』を懐に入れた。


 できれば使いたくないと思うが、大抵このような考えを持った瞬間何かが起きるのは世の常である。


(そういえば……)


 メティスやら『無鉱』の存在やらでスルーしてしまったがそもそもの話としてこの『無鉱』という鉱石は、かつて妹のラビィを救うために戦った烏丸源十郎の体から抽出されたものであると思い出すアッパー。

 そして、それと同時にメティスが放った一言も思い出した。


(烏丸源十郎……アイツ溶けたのか)


 言葉の様子から烏丸源十郎の体が溶けたということだろう。

 思わぬ所と思わぬ存在、そして思わぬ相手の最期を知ったアッパーではあるが、烏丸源十郎の最期を聞いても特に感慨はなかった。


 数秒ぐらい下から上まで流れていった光の粒子が徐々に消え始め、アッパーの視界に映る光の粒子に別の光景が徐々に浮かび上がっていく。

 それに反比例するように光の粒子が消えて行き、やがてアッパーの目の前には見渡す限りの砂漠が広がっていった。


「ようやく来たかアッパー。遅かったじゃないか」


 周囲の砂漠を見渡すアッパーの後ろから、アイの声が聞こえてくる。

 その声に振り返ったアッパーは、アイやラビィ、サイの他にも数人の姿が視界に入り、その上でアイに謝罪の言葉を発した。


「あぁすまん、ちと転送する前に呼びかけられた」


「ふむ、その報告は後で聞くとして先ずは自己紹介と行こう」


 そうしてアッパーと連れてアイが向かったのは、この一年間アイと一緒に任務に参加した能力者だろう。

 どうやらラビィとサイは彼らとの自己紹介が終わっているらしく、彼らと一緒にアッパーを待っていた。


「すみません遅れました。今日から今回の任務に参加するアッパーです。よろしくお願いします」


 そういって頭を下げるアッパー。

 そんなアッパーに先に口を開いたのは、長身で澄んだ綺麗な声を出す女性からだ。


「そんな畏まらなくてもいいわ。私たちと貴方は同い年か、一年上の先輩だから砕けた口調でも良いわよ」


「あぁ分かった」


「切り替え早くて好感が持てるわ。私の名前はイス、よろしくねアッパー」


 そう言って笑みを浮かべるイス。

 イスと名乗った目の前の女性を記憶にある情報に照らし合わせると彼女は、かつて地球で遭遇したエネミーの襲撃時に寝ていたアイを電話口から起こした女性その人だ。

 昨日見た資料の情報による裏付けも合っているし、目の前の彼女こそがアイのバディなのだろう。


「それじゃ次は俺か、俺の名前はヒット。よろしくなアッパー」


 そう言って、まるで弟分を引っ張る兄貴分みたいな雰囲気を漂わせるヒットと名乗る男は、アッパーに向かってサムズアップを上げた。


「はいはーい!! 私の名前はリカ! あなたの噂は聞いてるよ!! 向かってきたエネミーの大群をバッタバッタなぎ払って、そして今度は大津波から国を守ったんだってね!! すっごーい!!」


 ヒットを押しのけるようにテンション高く自己紹介をする彼女は、アッパーに向かって満面の笑みを浮かべた。

 そんな彼女に驚くも、元気いっぱいな彼女を見るとアッパーも自然と笑みを浮かべた。


「……レンジだ。よろしく頼む」


 そして最後は巨大な大男のような外見をしたレンジだ。

 砂漠用の衣装の下からみえる筋肉が戦闘において頼もしさを発揮するに違いないと予感させ、口数は少ないがその目は優しげだ。


「さて、自己紹介は終わったな」


 最後にアイが、自己紹介を済ませた一同を見渡す。


「これから私たちは共に命を預け合う仲間だ。仲間を信頼し、仲間を支え、仲間と共に生き残れ」


 そして、任務が始まった。

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