第1話 久しぶりのあの子
すみません、パソコンのSSD換装に手間取ってしまい遅れました。
ナガラーシャ皇国の事件から数日後。
あの事件を解決したアッパーは超能力学園で得た友人であるサイ、ラビィ、アル、アトリとその侍従であるアメリアの五人と共に食事館で過ごしていた。
「アメリアさ~ん、今日も美しいですね~」
「お上手ですね」
アルの媚を売るような声音に、アメリアが心底どうでもよさそうに言葉を返す。
数日前にアトリの侍従として学園にやってきた美少女のアメリアにアルのスケベ魂が活性したからか、ここ最近このようなやり取りが続いていた。
「……アル? アメリアにそれ以上近付くとその髪を燃やすよ?」
尤も、アメリアは自身の能力でアルの思考を看破しているためアルの言葉に何一つ心が動かず、その他にもアルがセクハラをやる前にアメリアが寸前のところで回避するのが定番となっている。
当然万が一のことがあってもアメリアは大丈夫だとアトリも分かっているがそれでもアメリアを心配しており、アルに向けて顔を険しくさせていた。
「おいおいそれは流石に危ないだろ!?」
アトリの本気の表情に流石にやばいと思ったのか、アルは必死にアトリに懇願をしていた。
これもまた数日前から続いている光景であり、そんな光景を見たサイ、ラビィとアッパーは笑い今日も楽しく過ごしていた。
そんな時、見知らぬスーツの男がアッパーたちが座っている席に近付き、その男の存在に気付いたアッパーたちは先程までの雑談を収め、その男の方へと顔を向いた。
「アッパー様ですね?」
黒いスーツに黒いサングラスの男の胸には、部外者が超能力学園の敷地に入る事ができるライセンスをぶら下げており、敵意もないことから少なくとも敵ではないということは分かる。
「……はい、俺がアッパーですけど?」
その男の顔を自身の記憶から参照するも、アッパーの記憶には全く載っていなかった。
つまりアッパーに訪ねてきた目の前の男とアッパーは完全に初対面であり、アッパーはその目の前の男を警戒する。
そんな警戒するアッパーに感づいたのか、目の前の男は誤解を解くように口を開く。
「そう警戒なさらないでください。私は評議会から命を受けて貴方に新しい任務を持ってきただけですので」
「任務だと?」
その男の言葉に反応したのはサイだ。
彼女は不可解な表情をして目の前の男を睨む。
「アッパーは数日前に大きい任務を果たしてきたばっかだぞ? それなのにたった数日で新しい任務なのか? 幾らなんでも早すぎやしないか?」
「そう言われましても……評議会の決定ですので……」
サイの言葉に、目の前の男が困ったような表情をする。
そんなサイにアッパーが制止した。
「いやありがとうサイ。俺は大丈夫だ」
「お兄ちゃん……ですが……」
「大丈夫、俺の能力を知っているだろ?」
さて話を進めてくれ、と頼むアッパーに目の前の男は了承するも、ここで話すのがダメな任務内容からか、アッパーに着いてくるように言った。
アッパーはその男に同意して、席から立ち上がる。
「待ってください!」
そんな二人をラビィが声を上げて制止し、立ち上がる。
「私も同じ上級能力者です。私もお兄ちゃんと一緒の任務を受けさせてください!」
なんとラビィもアッパーと同じ任務に同行すると言いだしたのだ。
それを聞いたサイも同様に立ち上がり、「オレも同じ上級能力者だ! オレにも参加できるよな!」と評議会の男に言ったのだ。
「え、えーとじゃあ私も……」
『ダメですよ』
サイたちに便乗してアトリも席を立ち上がりかけたが、その直後にアルとアメリアから突っ込みを受けて泣く泣く席に座り直した。
そんなサイとラビィの条件に評議会の男は困惑するも、その直後にハッとしたような表情をしながら耳に手を当てる。
どうやら『念話』を受けたらしく、その男は耳に手を当てながら話し込んでいたようで、暫く待つとその男は耳に当てていた手を下げてサイとラビィの顔を見やった。
「許可が下りました。貴女たちも参加していいそうです」
『え!?』
その男の言葉にサイたちが驚愕の声を上げた。
それはともかく、サイたちの参加が認められたとのことでサイとラビィが喜びの声を上げて、それをアトリは羨ましそうに見つめた。
「着いて行きたかった……」
「アトリ様は先ず初級能力者のライセンスを取ってからですね」
「本当にお前キャラ変わったよなぁ……」
落ち込むアトリを見かねたのか、参加を認められたサイたちはアトリを慰めてからアッパーに着いていった。
◇
途中大陸横断列車に乗って、アッパーたちが着いたのはこのアンダームーンの中央の島にある『評議会』本館にたどり着いた。
本館と名付けられた通り、アッパーたちの目の前には白を基調とした巨大な建物が建っており、まるで役所のような雰囲気が感じられる光景である。
本来資格持ちの能力者に対する依頼は能力者協会が用意するのだが、稀に能力者協会ではなく評議会が能力者を直接指名するものがある。
その場合評議会が持ってきた依頼は難易度が高くなっており、指名された能力者はそれ相応の実力を持っていると認められたようなものである。
「それではここにお入りください」
男の案内によってアッパーたちが入ったのは、評議会の建物にある広い空間の場所だ。
電灯の灯りは着けられているが、部屋の大部分の明るさを担当しているのは部屋の奥にある何枚ものの窓から注がれる太陽核の光である。
「ちょくちょく来てるけど、いつ来ても緊張するなぁ……」
「サイさんは何回も来てるのですか?」
「まぁ上級能力者になったしな……」
どうやらここに通されるのは基本的に上級能力者かそれに相当する実力を持つ能力者のようであり、上級能力者の資格を手に入れたサイは時々、この部屋に招かれていたらしい。
この部屋にあるのは横に長いテーブルにいくつかの椅子のみであり、アッパーたちはその並べられたテーブルの対面に立っていた。
(これは……まるで面接室みたいな……)
アッパーの印象は重ね合っており、暫くすると部屋の奥にある横の部屋と通じている扉が開くと中から数人の老人がこの部屋に入り、アッパーたちの前にあるテーブルの席に座る。
その様子が益々面接室のようであり、目の前の老人から発するプレッシャーがこの部屋に充満する。
「……呼んだのはアッパー一人だけだったはずだが?」
強面で眼光の鋭い老人がアッパーたちの後ろにいる先程この部屋まで案内された男に言うと、その男は顔に冷や汗を流して狼狽える。
「彼女たちの同行を許可したのは私だよ」
そんな眼光の鋭い老人に答えたのはもう一人の老人だ。
というよりも――。
(ローガン?)
そう紳士服を纏い、優雅に席に座っているその老紳士は、アッパーがナガラーシャ皇国に向かう道中の大陸横断列車の中で雑談を交わしたローガンその人だったのだ。
そんなローガンは、アッパーに向けてウィンクを送る。どうやらこの場ではローガンが味方らしい。
「久しぶりに口を開けば……貴様か許可したのは」
「人数が多い方が有利だろう? それに彼女たちも上級能力者だ」
「……ふん、まぁいい。任務を果たせればなんでも良い」
そう言って、その眼光の鋭い老人は視線をアッパーたちに向ける。
「自己紹介をしよう……。私がこの評議会を束ねるアレス・ブライトだ……私の名前だけ覚えていればよい」
アレス・ブライトと名乗ったその老人はゆっくりと一人一人の顔を見ながら、口を開く。
「アッパー、サイ、ラビィ……貴様らに任務を言い渡す」
自然と部屋の空気が一層重くなり、サイの額から汗が流れ落ちる。
尤もラビィとアッパーは経験やその能力により平常心を保っていたが。
「モブクラス、スピリットクラス、クライシスクラスのエネミーが地球の地に潜伏していると判明した……それらを殲滅するよう予てより続けられていた任務に合流し、これを解決せよ……」
それだけ言い残したアレスは席から立ち、部屋から出ていく。
それを皮切りに評議会の面々も立ち上がり、アレスの後に続く。
やがてこの部屋にはアッパーら三人とアッパーたちを案内した男の四人しかおらず、静かとなった空間でサイが深刻そうに呟く。
「エネミーが……また地球に……?」
「サイ……」
思い出すのは一年前の激闘。
アッパーとサイ、そしてサイの姉であるアイの三人がエネミーの襲撃を受け、アッパーが一年間昏睡状態に陥ってしまった。
地球にエネミーが現れたのはその日のみではあったがどうやら先程のアレスの説明を聞く限り、エネミーが地球に現れたのは最近ではないらしい。
アッパーとしては気にしていないのだがサイは当時の無力感を今でも感じており、こうして地球にエネミーが存在していると聞き、サイは無意識の内に下唇を噛む。
「それでは皆様、任務の詳しい概要を予てより担当していた能力者と一緒に説明しますので着いてきてください」
「わ、分かりました……あの、サイさん……?」
「あ、あぁ分かった……」
ラビィの言葉によってふと我に返ったサイは、先に部屋から出た男の後に着いていった。
そんな思い詰めながら歩いているサイを心配したラビィは自身の兄に視線を向けて伺うも、アッパーは頭を振ってそっとしといてやれというアイコンタクトをした。
そのまま男の案内に着いていった三人。
やがてたどり着いたのは高級そうな木製の扉であり、その扉の前に立ったアッパーは中から感じる見知った気配に目を見開く。
「まさか……!」
「ん? どうしたアッパー?」
「お兄ちゃん?」
アッパーの驚いた様子に残りの二人が怪訝そうな表情を浮かべる。
そして案内役の男が扉を開けて三人を中に迎え入れる。
「ちょ、え!?」
「サイさん?」
先に入ったサイが中にいる人物に気付き、困惑の声を上げる。
そんなサイの次の入ったラビィではあったが、中にいた人物に心当たりがないのか首を傾げるもその人物からの自己紹介を聞いて納得がいった。
「久しぶりだな二人共。それと貴様が斎藤広樹、いやアッパーの妹だな?」
黒く長い髪を後ろに束ね、その腰に刀を帯刀しているその少女。
一年経っても相変わらずの中学生ボディに鋭くも凛々しい顔つきのその少女は、かつてアッパーと共にエネミーに立ち向かった戦友でありサイの姉――。
「初めまして、と言おうか。特級能力者のアイだ。よろしく頼む」




