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ブーストアッパー ~加速する強化の先で~  作者: クマ将軍
第二章 能力と向き合うために
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後日談 家族と共に

 上級能力者となり、記念すべき第一回目のレポート。


 元はアンダームーン各地で発生した能力暴走事件の容疑者がこのナガラーシャ皇国に潜伏しているという情報が入り、その容疑者を捕まえるために派遣されてきたのがアッパーというアザーネームを与えられた俺だ。


 上級能力者の中でも評議会から任命された特級能力者による推薦によって選ばれた俺は、少ない手荷物でナガラーシャ皇国に赴き、そこで事件に巻き込まれた。

 端的に言うと能力を暴走させる薬を売っていた売人はナガラーシャ皇国皇帝であるジークライルの弟、ジークモルゲンだった。


 故人となりその存在を忘れ去られていたジークモルゲンは、自分を拾ってくれたアンチノーマルという組織に所属していた彼は、その間ナガラーシャ皇国に対する復讐心を燃やし、ついに計画を実行したのが今回のあらましだ。


 危うい場面は多々有り、ナガラーシャ皇国の周りを囲む大津波に絶望はした。

 しかしそれらの問題も何とか解決し、ジークモルゲンの身柄を確保したがその際、ジークモルゲンを瀕死の容態に陥らせたが問題ないだろう。


 ジークモルゲンの計画が失敗に終わったと悟ったのか、ナガラーシャ皇国全域を覆う『概念系』の壁が解かれ、ようやく外部からの応援がやってくる。

 それと同時にやってきた精神を専門に扱う諜報機関である『マインド・エージェント』がやって来て、俺は彼らに瀕死のジークモルゲンを引き渡した。


 マインド・エージェントの噂については俺もよく知っている。

 死んでいなければ、例え頭部の状態だけでも生かしてそこから情報を得るなどという黒い噂が絶えない組織で有名だ。

 試しにその噂が本当かどうかその諜報機関に所属している『念話』使いのテレさんに伺った所涙目で止められた。


「本当にやめてください。顔色だけでこちらの情報を奪えるアッパーさん相手ですと、こちらが情報漏えいの罪で罰せられます」


 とは彼女の弁だ。

 そのつもりはなかったがテレさんには悪いことをした。


 閑話休題。


 ナガラーシャ皇国に迫った危機を解決したものの、俺はナガラーシャ皇国に数日間滞在していた。

 本来ならば能力暴走事件の黒幕であるジークモルゲンを捕らえた時点で超能力学園に帰還してもいいが、この騒動で大きな被害を受けたナガラーシャ皇国の復興作業を手伝うために俺の意思で滞在することにしたのだ。


 やはりというが『現象系』ではないにも関わらず、休みなしで彼らの数倍の働きをした俺はナガラーシャ皇国の住民に注目された。

 このような視線を受けることは分かりきっているため、俺は黙々と復興作業を続けた。


 そんなある日のことだ。


 黙々と復興作業をしていた俺の元にアトリの親友であるアメリアがやってきた。

 どうやらウィン大臣との戦いで重傷を負ったこの国の皇帝であるジークライルの意識が回復したらしい。


 アメリアの案内によってジークライルの病室にやってきた俺は、その病室に入ると部屋の持ち主であるジークライルが迎え入れた。

 ジークライルの体から見える外傷は応援にやってきた『回復』系の能力者が治療しており、傍目から見ると健康そうに見えた。


「アメリアから聞いたよ。我が国を救ってくれてありがとう」


 開口一番、ジークライルが言った言葉だ。


「……照れくさいですね」


「遠慮なく受け取ってくれ。君は我が国の英雄なんだから」


 確かに結果的に見れば俺はこのナガラーシャ皇国を救ったのだろうが、この時の俺は照れくさいという感情もあり、気軽にジークライルの感謝を受け取れる心境ではなかった。

 

 ジークモルゲンのこの国に対する復讐心によって事件が起こったのは確かだが、もう半分は俺という存在を目に敵にするアンチノーマル側の思惑があった。

 謂わば俺という存在によってこの国が危機に陥ったという解釈にもなる。


「そうだな……君にお礼を言いたい理由も他にあった」


 恐らくこの時のジークライルは俺の複雑な気持ちを察していたのだろう。

 察していたからこそ、こうしてアンチノーマルという脅威から救ってくれたことへの感謝の他にも別の理由による感謝を述べたのだろう。

 もっとも純粋に感謝を伝えたいという可能性もあるが……これ以上は無粋だろう。


「アリスから聞いたよ。君が親身になってアリスの相談を受けていたと」


 どうやら先にアトリが面会に来ていたようで、ジークライルとアトリは久しぶりの親子の会話で近況を語り合ったらしい。

 その際アトリの会話から超能力学園での生活の様子を聞き、俺の話しが出たのだろう。


「君には感謝してもしきれない……! 我が国を救ってくれたばかりか、私たちの問題を解決してくれたのだから……!」


 そう言われても、直接的な解決は何もしていない。

 全てはアトリが自身の力で解決したものであり、自惚れなければ俺がやったことはアトリの背中を押してあげただけである。


「皮肉なことではあるし、不謹慎ではあるが良いきっかけだった」


 謂わば奇跡のような出来事の連続だったとジークライルは言った。

 何せ一週間の間に起きた出来事はジークライルを取り巻く様々な問題を解決したか、前に進めるようになったという。


「確かカサンドラ皇后は……」


 ウィン大臣の手によってカサンドラの息子であるディートリヒトが『孤独』となったが、カサンドラ自身ウィン大臣の孫に関する出来事に共感しているのかあまりウィン大臣に恨みを抱いてなかった。

 その一件以来、カサンドラはジークライルの意識改革のための政策に支持するようになったという。


「決定的なのはアリスがディートリヒトの『孤独』を改善させたことだな」


 カサンドラが心を入れ替えた決定的な理由としては、ディートリヒトの『孤独』をアトリが癒したということだ。

 能力者の『孤独』を治せるにはその能力者の理解者が必要である。

 なので能力が暴走してナガラーシャ城の一部を破壊し、けが人を出したディートリヒトに同じく能力が暴走し、危うくナガラーシャ皇国を壊滅しかけたアトリが彼の理解者として接したことでディートリヒトの『孤独』を快方に向かわせたのだ。


「ディートリヒトの他にも、あの子はエリーゼとも仲良くなった」


 この件については流石の俺もびっくりした。

 あの一件以来怪我で病院のベッドに寝ていたエリーゼが、見舞いに来たアトリと楽しく談笑していたのだ。


 彼女たちが仲良くなった理由は分からないが、彼女たちが揃って俺に秘密だと言った光景はまるで本当の姉妹だと思ってしまった。

 恐らくこの件は、部外者の俺が突っ込んだら無粋だろう。


 それから俺はジークライルと話し込んだ。

 その中でジークモルゲンをマインド・エージェントに引き渡したことについて話すと、ジークライルもマインド・エージェントの黒い噂を知っているためか、ジークモルゲンの事を同情するような遠い目をした。


「おっともうこんな時間ですね」


「あぁそうだな。すまないなこんな時間になるまで話し込んでしまって」


「いえ、良いんですよ。それではまた何かあったら相談してください」


「あぁ……本当にありがとう」


 その言葉を最後に俺は部屋から出た。

 しかし俺の耳が良い故にジークライルの呟きを聞いてしまった。


「アリスを守ったのは……梓なんだろうか……」


 ジークライルの妻であり、アトリの母親である永良梓。

 あの決戦の日、アトリを守るように背後に浮かんでいた青白い半透明の影が俺の目に映ったが、恐らくその影こそがアトリの母親なのだろう。

 恐らくアトリもそのことに気付き、ジークライルに話したことでジークライルが呟いたのだ。


「お前なのか、梓……! ずっと、ずっと守ってくれていたのか……!」


 部屋の中から聞こえる嗚咽。

 この時の俺は、自身の耳の良さを恨んだ。


 はっきり言ってあの現象について自信を持って説明することはできない。

 推測を入れるのなら可能性は複数あるので、それでいいのならここに俺の推測を書こう。


 先ずアトリから聞いた彼女の過去に、ジークライルが母親を失って悲しんでいるアトリに言った言葉があった。

 それが魂の存在だ。

 能力者は肉体が死んでもその肉体から魂が解放され、自身のやりたいように彷徨うのが能力者世界の考えだという。

 そこでジークライルは、アトリのことを愛している梓ならばアトリをいつまでも見守っているという慰めをした。


 もしこの話が本当であれば、あの日アトリの背後に現れた影はアトリの母親の魂である。

 本来肉眼で見えないはずの魂ではあるが、あの時アトリは能力を暴走させる薬を投与されて能力を暴走させていたがために魂が活性したのではないのかと考えた。


 アトリの能力は『現象系属性型』。

 彼女の能力が魂を構成する属性を増幅させて、母親の魂を活性させたのではないのか。

 そうして活性させた母親の魂は、アトリの暴走を一手に引き受けてアトリを完全な暴走に陥らせないようにしたのではないのか。


「……考えすぎか」


 この手の話題を理論的に考えるのは無粋である。

 ならこの件に関しては『奇跡』と、そう呼ぶしかあるまい。




 ◇




「まるで痛い日記だな……」


 自身の書いた文をそう総評するアッパー。

 アッパーが先程まで書いていたのは、超能力学園に対する今事件の報告書だ。

 だがこのように長い文章を作成するのは小学生か中学生の作文以来であり、この年になって初めて長い文章を作ろうとすると、気取る文章を入れたくなるのだ。


「セリフ枠も必要ないな……俺の地の文をいれてどうすんだよ……客観的な情報を入れろ客観的な情報を」


 自分が書いた文章を自分で突っ込みを入れるアッパーであった。

 だが報告書というものは書いたこともなく、過去に見た報告書らしき文書を思い返しながら何回も書き直す。

 そんなアッパーに見知った可愛い声が聞こえてくる。


「うわ、凄い……消しカスの量がとんでもないことになっている」


 アッパーがその声に持ち主に顔を向くと、そこには目を見開いた状態でアッパーの手元を見ていたアトリの姿と彼女の背後に佇むアメリアの姿がいた。


「報告書だよ報告書」


「それは分かっているんだけど……さっきからアッパーの手が見えないぐらい動いているからさ」


「まぁ今の身体能力ならな。あぁパソコン持って来れば良かった……」


 アッパーたちがいるのは超能力学園に向かっている大陸横断列車の中である。

 ようやく復興作業が終わり、いざ帰ろうとするアッパーにアトリとアメリアが同行したのだ。

 アトリは超能力学園の生徒ではあるが、被害を受けたナガラーシャ皇国の第三皇女であるし、アメリアに至っては超能力学園とは関係ない部外者ではあるが――。


『この度、アトリ様専属の侍女となりましたので当然の同行です』 


 とは本人の談である。


「? どうしたのアッパー」


 ふと、アッパーが自身の顔をじっと見つめていたことに気にかかったのか、アトリがアッパーに尋ねた。

 そんなアトリに、アッパーがあっけらかんと答える。


「いや、いつの間に君付けされてないからさ」


「……へ!?」


 アトリが素の口調で喋った際は、アッパーのことを『アッパー君』などと呼んでいたがいつのまにかアッパーのことを『アッパー』と呼び捨てにしているアトリ。

 そのことを指摘されたアトリは顔を真っ赤にして見るからに狼狽える。


「え、えと! その……あの……! アッパーは、ダメだった……?」


「別にいいけど」


「え、本当!? 良かった~! なら良いよねアッパー!」


「……そうだな」


 アッパーは、今のアトリの感情を把握できていた。

 それ故に、アッパーは曖昧な表情で答えたのだ。

 つくづく、他人の感情(・・)を把握できる己のスペックを恨んだアッパーであった。


「そういえば、さ。どうしてアトリたちは学園に戻るんだ?」


「……ダメかな?」


「別にダメじゃないさ。ただナガラーシャ皇国がああなって、お前らは大丈夫なのかなって」


「うん大丈夫だよ。あの国ならもう大丈夫。アッパーも分かるでしょ?」


「まぁ……そうだな」


 ようやく怪我から完治したジークライルが今事件の真相を国民に語り、黒幕であり弟でもあるジークモルゲンを引き合いに国民の差別意識をなくすための演説をした。

 それを聞いた国民は、復興作業をしていた『強化系』であるアッパーや『現象系』のはずなのにナガラーシャ皇国を危機に陥れたジークモルゲンの存在によって徐々に意識を変えていった。


 陰ながらではあるが『現象系』じゃないナガラーシャ皇国の人を『現象系』の人々が助ける姿を見たアッパーは、この国は変わりつつあると思った。


「……それに私はね、目標ができたんだ」


 そう言って穏やかに笑みを浮かべるアトリは、アッパーの顔を見ながら自身の目標を口にする。


「誰かさんみたいに誰かを助けて、誰かさんみたいに問題を解決して、誰かさんみたいに周りを幸せにしてくれるそんな上級能力者に……私はなりたい」


「――」


「ふふっありがとうね、アッパー!」


 そう言って笑うアトリを見たアッパーは照れくさそうに頬をかき、ふと窓に映る景色を見た。


 超能力学園は、もうすぐそこである。

次は登場人物紹介と第三章の同時更新となります。

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