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ブーストアッパー ~加速する強化の先で~  作者: クマ将軍
第二章 能力と向き合うために
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第36話 破滅の時来たれり

 ジークモルゲン・フォン・ナガラーシャ。

 現皇帝の弟であり、アトリの叔父であるその人物は顔に酷薄そうな笑みを浮かべて、懸命に戦っている自身の姪を見ていた。


(アリス……アリス・フォン・ナガラーシャ……現皇帝の実の娘であり、皇族扱いされなくなった少女……)


 皇族扱いされなくなったのは一重に『偉大な炎』を出せなかったから。

 自身と同じく、初代皇帝から続く皇族としての証である『偉大な炎』を出せなかった欠陥品として生まれたからこそ、彼女は皇族扱いされなくなった。


(だが彼女は運がいい)


 何せ皇帝である父親が彼女を愛しているから。

 親に愛されなかった自分とは違い、彼女は父親によって居場所を保証されているから。


「くぅっ! 『水流、充填』!」


『ウェーブ、アサイン』


「『押し流せ! アクアバッシュ』!!」


 彼女を取り囲む暴走能力者たちを波で押し流すアトリ。

 ディディスを使って戦っている姪の姿を見ると内心苛立ちを禁じえないジークモルゲンだが、それと同時に懸命に戦うアトリの姿を見て微笑ましく思った。


 何故ならジークモルゲンも過去にディディスを使って訓練したこともあり、過去の自分と同じようにディディスを使う姪の姿が忌々しく思うも、自分と同じ欠陥付きの能力で懸命に戦う姿が何とも子供の成長を見守る親のような心境を抱かせる。


「はぁ……はぁ……お父さんの弟……? 私の叔父……? どういうこと……?」


 突然の邂逅に、突然の告白。

 自身に叔父がいたということも知らずに生きてきたアトリにとっては青天の霹靂のような状況である。

 突如として始まった暴走能力者との戦闘にアトリは何とか戦ってこれたものの、ようやく息を付ける状況になったことで彼女は自身の疑問を吐き出せることが出来た。


 アトリの疑問と戦っている姿に友達であるアメリアと昔馴染みのシエラが複雑そうに見ている。

 傷を癒しながら戦うシエラではあるが能力を使えば寿命がリセットされ、また長い時を過ごすことになるため戦うのに躊躇している。


 アメリアの場合は単純に戦闘向きの能力じゃないからだ。

 思考を読むことで相手の動きが分かり、格闘戦であれば無類の強さを持つアメリアではあるが今回に限って相手が悪かった。

 能力を暴走しているせいなのかそれとも操られているのか相手の思考は常に真っ白であり、それに加えて災害と何ら変わらない『現象系』の能力に突っ込んでいったら無傷では済まされないのだ。


 アトリの疑問にジークモルゲンが答えた。


「それはそのままの意味さ」


「それは、本当なの……? アメリア……」


 初の実戦であり慣れない戦闘でもある戦いで息を切らすアトリ。

 彼女の能力はその潜在能力の高さによって長時間能力を維持し続けることができるのだがいかんせん体力も集中力も一般の少女と大差なく、寧ろ凌ぎきれていることは賞賛に値すべきだろう。


 アトリの問いにアメリアは迷う素振りを見せるも、やがて意を決したのかアメリアはアトリの問いに答えた。


「はい……彼こそ現皇帝ジークライルの弟であり、貴方の叔父でもあるジークモルゲンです」


 そう答えたアメリアではあるが、その直後にジークモルゲンからの訂正が入ってくる。


「おいおいちゃんと全部まで答えろよ? 現皇帝ジークライルの()弟であり『偉大な炎』を出せかなったせいで殺されかけた叔父、ってな」


「……え?」


 ジークモルゲンの過去はアトリの過去と似通っていた。

 皇族として生まれ、『偉大な炎』を出せず、皇族扱いされなくなった。

 違いとしては父親に愛されているかいないか。

 殺されかけたかいないかの違いでしかない。


「私と……同じ……」


「そうお前と同じだアリス」


「違う!」


 同じだと言ったジークモルゲンに、目の前の復讐鬼と大切な人が同じなはずがないとアメリアが叫ぶ。

 そんなアメリアに、ジークモルゲンが鼻で笑って嘲笑した。


「はっ、お前にアリスの何が分かる? 周囲の期待に応えようと頑張ってきた筈なのに肝心の能力が言うこと聞かない絶望がお前に分かるか? 挙句の果てに俺たちの居場所を奪おうとした周囲に俺たちがどう思ったかお前に分かるか? なぁアリスから逃げた臆病者さんよぉ!!」


「『爆ぜよ! バーンブラスト』!!」


「――!」


 ディディスから放たれる爆炎の玉。

 だがジークモルゲンは冷静に風の力を使って逸らした。


「何をするんだアリス?」


「――貴方こそ、アメリアの何を知っている?」


 アトリは今ジークモルゲンに怒っていた。

 確かにジークモルゲンの過去とアトリの過去は似通ってはいるし、アトリはジークモルゲンの言葉に共感した。

 だがそのあとがダメだ。

 自身の親友とも言える大切な人に対し臆病者だと言い放ったジークモルゲンに、アトリは看過できなかった。


「これはこれは……怒らせちゃったか、な!!」


「なっ!?」


 腕を振るったジークモルゲンの手から炎が飛び出し、それがアメリアの方へと向かっていく。

 それを見たアトリは急いでディディスから土の壁を出してジークモルゲンの攻撃からアメリアたちを守った。


「アメリアたちは関係ないでしょう!」


「俺にとってはこの国の人間はどうでもいいんだ。特に俺とお前の会話に口を挟むやつはなァ!!」


「くぅ!!」


 ジークモルゲンの周りから炎、水、土、風の弾幕がアトリたちに迫る。

 それを再び土の壁を作ったアトリは、アメリアたちと一緒にその後ろでやり過ごす。

 だが迫り来る属性の弾幕に、アトリが作った土の壁にヒビが入る。


「なぁアリス! これが俺の力だ! 俺の方が強いのだ! なのにこいつらは『偉大な炎』を出せないという理由で皇族である俺を殺そうとした!! お前もそうだろう!? ジークライルと血が繋がっているのに『偉大な炎』を出せないからってお前の居場所を奪おうとしたんだ!!」


 土の壁の後ろで破壊されないように土の力で壁に干渉して維持をするアトリは、ジークモルゲンの言葉を聞いて顔を顰めた。

 思考を読めるアメリアはそんなアトリに何とか言葉を送ろうとするも、アトリの思考を読めるからこそアメリアは何も言えない。


「なぁアトリ――」


「!? 逃げて!」


 何かに気付いたアトリがアメリアたちにそう叫ぶ。

 だがアメリアたちが事態を把握する前に、突如として土の壁が木っ端微塵になった。

 優雅な足取りで砕けた土の壁から歩いてきたジークモルゲンに三人は目を見開く。


「お前も憎いんだろう?」


 そう言って、ジークモルゲンの手がアトリに近付いた。




 ◇




「セィヤァアアア!!」


 叫びとともに、前方に向けて拳を放つアッパー。

 腕の怪我は時間の経過とともに徐々に治ってきており、拳圧を飛ばす程度ならば問題のないレベルまで落ち着いた。


 周りに見えるのは暴走能力者となったナガラーシャ皇国の住民。

 下手に彼らを傷付けることはできず、これまでアッパーがやってきたのは暴走する彼らの能力を掻い潜り、あるいは消し飛ばしながら接近して彼らを気絶させることだった。


「ハァッ!!」


 竜巻。

 業火。

 瓦礫。

 激流。


 その他にもありとあらゆる『現象系』の能力がアッパーに襲いかかるも『強化』した拳で消し飛ばしてみせた。

 それでもアッパーの顔に苦戦の色は消えず、寧ろ劣勢に追いやられている。


「ぐぅっ!? 『強化(ブースト)』ォォォ!!」


 理由としてはこのナガラーシャ皇国の住民の約八割九割に『現象系』の能力を持っているということだ。

 それによって同系統の能力がその場に同時に存在しているということで、彼らの能力が『強化感応現象』によって強化されているのだ。


 数人の風の暴走能力者が能力を発動する。

 すると一人だけでも数区画吹き飛ばす威力を誇る竜巻が『強化感応現象』によって何倍、下手すれば何十倍もの威力に変貌して、アッパーに襲いかかってくるのだ。


 それをナガラーシャ皇国に損害を与えないようアッパーが『強化感応現象』が起きる前に住民を気絶させているか、されたらされたでアッパーは『強化』の力で能力による災害を消し飛ばしている。


「ぐぅあ!?」


 それでも全て消し飛ばせていない能力も多く、残った僅かな災害がアッパーに当たり街に被害が起きる。

 それでもアッパーは懸命に彼らを救おうと戦う。


「まだまだぁあああああ!!!」


 避難活動、救助活動、鎮圧活動、そして感染源の隔離。

 その全てを同時に並行して、アッパーは徐々に暴走能力者を気絶させていく。


 自身の強化された肺で能力を暴走させる要因となる空中の血液を吹き飛ばし、一箇所に集めて水で洗い流す。

 空中に散布された血液といえども、酸素より重い血液が地面に近付けばそれ以上空中に散布されることもないので、処理に関しては比較的楽だ。


 問題は風の暴走能力者によって遠くへと運び出された血液だ。

 四つの活動を同時に並行しているため高速で動けるアッパーでも手が回らず、広範囲に血液が吹き飛んだのだ。

 気配を探ればそこかしこに暴走能力者の気配が大勢いると感じられる。

 暴走能力者となった人たちを救おうと動いた治安維持組織や民間人が血液を吸って彼らと同じように暴走能力者になるというループ。


 なので無呼吸でも活動できるアッパーだけが暴走能力者とならずに動けるため、こうしてナガラーシャ皇国中を猛スピードで動いているのだ。


「次はどこだ……!」


 疲労は動いている内に徐々に回復していくため、アッパーには疲れがない。

 それがアッパーの強みではあるが、如何せんそのような存在がアッパー一人しかいないので事態が解決する兆しが見えない。


 そんな時である。

 忙しなく動くアッパーに、妙な気配がアッパーの感知範囲に入る。


「これは……アトリ!?」


 超能力学園からの友人であるアトリの気配が変わったのだ。

 そしてその瞬間、ナガラーシャ皇国の上空からまるでスピーカー音みたいな声がナガラーシャ皇国中に響き渡る。


『やぁ! 俺の名前はジークモルゲン!! この状況を生み出した元凶だ!!』


「ジーク、モルゲン!?」


 能力暴走事件と繋がっている最重要容疑者でこのナガラーシャ皇国に復讐を誓った人物の声が、この国全域に響き渡ったのだ。


『友や家族、知り合いや、大切な人が突如として暴走したのは他ならない貴様らの罪によるものだ! 悔い改めよ、そして地獄で反省をするんだなぁ! これがお前たちが信奉する『現象系』の能力だ! お前たちが信じた能力で死ぬがいい!!』


「……!? これは、まさか!!」


 今、アッパーたちが見ているものは紛れもなく事実である。


 皇国を囲む巨大な津波。

 これが、ナガラーシャ皇国を破壊する『現象系』の力である。

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