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ブーストアッパー ~加速する強化の先で~  作者: クマ将軍
プロローグ 願いを受け継ぐ貴方に
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第8話 激闘の始まり

 逃げ回る人々。襲い掛かる無数の化け物に対するのはたった二人だけ。


「広樹、お前は逃げろ」


「……何でだ?」


「昨日お前に襲いかかってきた『ゴブリン』とは格が違う。お前の能力がどの程度かは分からんがここは危険だ」


 そのことを踏まえてサイは広樹を逃がそうとした。視線は未だに向かって来る化け物に向いているがその様子は切羽詰っている様子だ。


(昨日襲われて今日で初めてコイツ等の存在を知った広樹は知らないが、今起きている状況はハッキリ言って異常だ。こんな大群、オレのこれまで遭遇したどれよりもヤバイ)


 これでも数々の修羅場を潜り抜けていたサイはこの状況に対する異常さを噛み締めていた。それでもこの状況に対する思考は止めない。止めたら自分の命どころか今、後ろにいる新しい仲間までもが危うい。


(先ずは広樹を逃がして先輩に連絡、先輩が姉ちゃんを起こしてくれるまでオレが時間稼ぎしないといけない)


 サイの頭の中では既にこの状況に対してどの様に対処するか計算していた。だがそれでもこの数相手に時間を稼げるのか。

 この絶望的な状況にサイは不安を覚えている、そこに。


「断る」


 広樹の言葉が辺りに響く。それはサイが最も聞きたくなかった答えだ。コイツは気でも狂ったのかと、この絶望的な状況を把握していないのかと、そう思わずにいられなかった。

 頭に血が上る感覚がする。激昂と共に広樹に振り向き一発殴ろうとした時、サイは見た。


 何故ならそこにはこの絶体絶命的な光景でも未だに堂々としている広樹の姿がいたからだ。

 その目には未だに諦めるという様子は無く、必ず生還するという事を信じて疑わない眼差しをしていた。そして、その表情にはこの状況に対しても笑みを浮かべていた。この場にそぐわない笑みという表情。

 なのに、その笑みを見たサイにとって、少なくともその笑みはサイにとって安心を抱かせるものだった。


(何故オレはその表情を見て、安堵しているんだ)


「サイ、『エネミー』とやらは俺に任せろ。お前はこの状況に対する解決方法を探せ」


 その声には一切の怯えや不安は感じられなかった。


「だ、だが能力を覚醒して僅か4日でこの大群相手には……!」


「そう思うなら――」


 瞬間、広樹の姿が消え、サイは一瞬で何かに頭を押さえつけられ、しゃがむ様な体勢になった。


「グッ!?」


「これを見てから判断しろ」


 広樹の声はサイの頭上から聞こえた。どうやら広樹がサイを押さえつけ跳躍したらしい。

 

 サイはそんな広樹に文句を言おうとしたが次の瞬間、目を見開いた。視界の先にはいつの間にか二人の周りに囲んでいて、二人に攻撃しようとしている『ジャイアントマーダー』の姿がいたからだ。

 そしてその攻撃がしゃがんでいるサイの頭上と跳躍している広樹との間に通り過ぎていく光景を、サイは見た。見てしまった。


「なっ!?」


 驚きの声を上げるサイ。だがサイの驚愕はそれだけじゃなかった。


「さてお手並み拝見と行こうか、ね!」


 通過した一体の『ジャイアントマーダー』の大剣を足場にして相手に向かって跳躍。大きく横に裂かれた口だけの『ジャイアントマーダー』の顔に、強化した蹴りで頭部を消し飛ばしたのだ。


「……え?」


 ポカンと口を開くサイ。だがそんな様子を無視して広樹は次の獲物へと走り出す。


「先ずは一匹」


 気付いた時には一体の化け物の身体は真っ二つになっていた。


「二匹目」


 そう呟きが聞こえる前に広樹の身体は消え、後方から化け物声が悲鳴が聞こえた。振り向くと怪物は腕の関節を無理矢理曲げられ、自身の大剣により貫かれていた。


「生ぬるいな」


 広樹の姿が徐々に見えなくなっていく。分かるのは化け物が上げる悲鳴ぐらいで、その悲鳴が聞こえた方向に向くと必ず化け物の死体があった。


「サイ、お前は解決策を用意するって言ったろ?」


「ひゃっ!?」


 想像を絶する光景から呆然としていると突然背後から広樹の声が聞こえ、サイは可愛らしい悲鳴をあげる。


「……あ……ああ! ちょ、ちょっと待ってくれ! 今電話するから」


「電話? まぁいいけど……周りは任せてくれ」


 そういうと瞬きしないうちにまたその場から消える広樹。サイは最早、あれだけ動いたのに全く疲れを見せない広樹に呆れていた。


『もしもし? サイ、どうしたの?』


 女性の声だ。電話越しに聞こえるその綺麗な声はこの異常事態の中でも透き通って聞こえた。

 サイはその女性に今起きていることを報告し、今家に寝てる姉であるアイを起こす事を頼んだ。


『分かったわ、アイの事は任せて。そっちの様子は?』


 その言葉にサイは広樹の様子を見る。


「ああ――」


 4日前に能力者になった少年。この化け物と戦闘してきた経験ならサイの方が確かに上で、少年は昨日で初めて相対した筈だった。だがこの異常な状況に直面して恐怖し、絶望しそうになったのはサイだった。

 本来は少年が恐怖し、絶望するはずなのに、彼は堂々と冷静にこの状況を見つめ、尚且つサイを勇気付けた。


 そんな彼なら。


「――大丈夫だ」


 知らず知らずの内に、サイもまた笑みを浮かべていた。




 ◇




 疾走しながら強化した気配察知能力で今の状況を確認する。前方には子供の体格をした緑色の化け物、サイが言ったようにどうやら名前もその外見に似合う『ゴブリン』と呼ばれていた化け物の大群が、逃げている人々を目をくれずに町を破壊していた。


 広樹は『ゴブリン』の下に向かおうとするが『ジャイアントマーダー』が道を阻んで行くことが出来ない。


(こんな大群相手に素手じゃ効率が悪いな。先ずはデカブツからか……)


 並列思考をしながら手前にいる化け物の距離まで瞬間的に移動する。どうやら化け物でも感情――と言ってもかなり薄いが――を持っているらしくいきなり現れた広樹に、動きを若干硬直していた。

 その隙を逃さず、広樹は身体全体を使って右腕の肘から先の大剣を捻じ切る。


「GAAAAAAA!?」


 悲鳴を上げ、後ろに下がる『ジャイアントマーダー』。抉り取った大剣を強化した握力ですっぽ抜かれないようにめり込ませ、回転しながら周りにいる化け物達の胴体を真っ二つに切った。


『GYA?』


 一瞬の内に切られた『ジャイアントマーダー』は自身の胴体が既に切り離されていることに気付かない。

 段々と視界が地面に落ちていくにつれて化け物達は漸く自身が切られたことに気づいた。


「……もうダメになったか」


 だがそんな化け物達の様子に目もくれず、広樹は自身がめり込ませている大剣を見てそう呟く。見ればあの厚かった大剣は、広樹があまりの速さで振り回したため摩擦熱で擦り切っていたのだ。


 それを確認した広樹は、ダメになった大剣を奥にいる『ゴブリン』共に向かって投擲。『ジャイアントマーダー』の一体を貫き、それでもまだ勢いは止まらない大剣だったものがその後ろにいる『ゴブリン』共を吹き飛ばした。


「避けろ広樹ッ!!」


 化け物の様子を見た広樹は他の敵に向かおうとすると突然広樹の戦闘を見ていたサイが何かに気付いたかのように叫ぶ。そして次に広樹はその叫びから遅れて気付く。

 広樹の左方面の先にまるで空間が裂けられていて、その中から一つの巨大な銃口が今まさに広樹に向けて放たれようとしている状況に。


(そんな……! 気配察知を全力で強化しているのに直前まで気付かなかった……!)


 広樹は思考速度を強化して何故気配を読み取れなかったか推測する。


(考え付く可能性は一つ。あの空間の所為か……!)


 流石に経験したことの無いものに対して、幾ら強化という強力な能力を持つ広樹でさえも対処することは出来ない。

 だが能力を得たあの瞬間から底上げされている学習能力により二度と同じようなミスはしないだろう。


(最も……次があればの話だがな……!)


 そしてついに放たれる砲弾。広樹は全神経、全身体能力を全力で強化、ゆっくりとなった時間の中で広樹は迫り来る直径80cmの砲弾を避けようとする。


(デカ過ぎだろ……!)


 身体能力を全力で強化してもかなりの速さで迫って来る砲弾をかわすには敵の存在に気づくのが遅すぎた。

 それでも身体を傾けて紙一重で回避しようとする広樹。


(マジかよ……)


 巨大な砲弾が広樹の前から通過するその瞬間、広樹は見た。着弾していないにも拘らずその砲弾が割れて起爆しようとするところを。


(この砲弾も……『エネミー』の一部だったのか!)


 そう認識した瞬間、広樹は限界ギリギリまで自身の防御力を強化する。どんな威力をするのかは分からないがやらないよりはマシだろうとの判断からだ。

 

 これから来る衝撃を待つそこに、広樹は目の前の砲弾に一筋の線が走るのを見た。


「危機一髪……だったな!」


 聞き覚えのある声。真っ二つになった砲弾は爆発する様子も無く慣性に従い飛んでいく中、広樹はその声の持ち主を見る。


「……アイ!」


「ああ……待たせたな!」


 そこには黒い刀身の日本刀を振りぬいた体制をしたアイの姿だった。

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