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ブーストアッパー ~加速する強化の先で~  作者: クマ将軍
第二章 能力と向き合うために
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第31話 爆発する暴走

「学園長、念話が切れました!」


「なんですって!?」


 超能力学園の司令室にて、突如としてアッパーとの『念話』が切れたことでクロノスたちは混乱する。

 また念話を阻害する結界を張られたのかと思ったが、オペレーターによれば念話は未だにナガラーシャ皇国に届く感覚はあるとのことだ。

 念話を阻害する結界があれば念話自体はナガラーシャ皇国の手前で防がれるがその感覚もないということから結界の可能性は消える。


「それが急にパスが途切れた……?」


 そんなクロノスの疑問に、頭に付けられている念話の声を拡散する機械を弄りながら先程まで念話を担当していたオペレーターが答える。


「この感じ……恐らく()()()()()()かと……」


「他の誰かがこちらのパスを使って念話していると?」


 だとしたらマズイとクロノスは歯ぎしりをする。

 新しいパスを作って念話をするならまだしも、念話中のパスを使うとなればアッパーの声は愚か、司令室にいる人間の声も割り込んだ人物に聞こえる可能性があるのだ。

 しかし疑問として、何故司令室のパスに割り込んでおきながらこちらの人間が簡単に気付けたのか。


 パスの割り込みを行えば念話の内容を傍受することができるのだが、今回の割り込みはアッパーと司令室のパスを途絶えさせ、司令室がパスの割り込みだと気付いた。

 会話の傍受を目的とするならば先程の割り込みはお粗末な出来と言えよう。

 だとすれば考えられるのは罠であり、そこまで考えたクロノスは声を張り上げて命令を出す。


「なら二手に分かれて片方は割り込んだ人物のパスを逆探知してちょうだい! そしてもう片方はアッパー君に再接続よ!」


「クロノス様、ただいま報告が終わりました」


 アンチノーマルの関与について各方面に説明しに行ったテレが帰ると、ちょうど良かったと言わんばかりの顔でクロノスは、テレに念話の件を任せた。


「なるほど割り込みですか……分かりました、私に任せてください」


「頼んだわよ!」


 そう言うと次にナガラーシャ皇国の様子をモニターに映している能力者が、アッパーの姿を確認したとの報告がやってくる。

 モニターにはかなりの速さで走っているアッパーの姿が映され、その姿を見たラビィはモニター担当の能力者に質問した。


「お兄ちゃんは今どこに向かっているの?」


「この方向は……港に向かっているようです」


「港? 港になんかあるのか?」


 首を傾げるサイを余所に、アッパーはついにナガラーシャ皇国の港に辿り着いた。

 そして港にある堤防付近にまで来たアッパーは、そっと手を前に伸ばすと何かに当たったかのように途中で止まり、アッパーは顔を顰めた。

 その様子を見ていた司令室の面々は、アッパーと共有した情報から今の現象に思い当たる。


「まさかあれが……『透明な壁』?」


「『概念系』という能力で作り出されたっていうあれか……」


 呆然とつぶやくラビィとサイに、クロノスは一瞬何も発しないまま悠然と佇むノウンの方へと顔を向く。

 だがノウンの顔を見たクロノスは溜息を吐くだけに留めて、再びモニターの方へと目を向けた。


(相変わらず、こんな異常事態でもポーカーフェイスなのね……)


 このような異常事態に混乱している司令室の面々とは違って、ノウンの表情はいつも笑みを浮かべているように口角を上げていた。

 デストロイヤークラスのエネミー襲撃事件の様子を除いて、これまでクロノスと一緒に闘ってきたノウンの表情は例えどのような異常事態に陥ってもいつも笑みを浮かべていた。


 まるで心配がないと言うように。

 まるで大丈夫だと言うように。


(未来からの技術と知ってもその顔を崩さないのね……全くとんだミステリアスね貴女)


 ノウンがいながらアトリが飛ばされた時やその後の所在を把握しているといったノウンの今回の行動には不可解な点がいっぱいある。

 昔から変なことをするような人物ではあったが、今回の件はそれに輪を掛けて変な行動が目立つ彼女にクロノスは苦渋を噛み締めていた。


 と言っても別にノウンを非難している訳でもなく、クロノスはノウンが変な行動をしようともそれらは良い結末に向かうための行動だと知っている。

 だがクロノスが顔を顰めているのは親友や戦友、姉や妹であり母のようであるノウンがクロノスに黙って独自に行動しているという点だ。

 そんな彼女の行動に、クロノスは胸が締め付けられるような苦しみに顔を顰めた。


(ったく……これだけで『孤独』を感じるとかどんだけ寂しがりやなのよ私……)


 そんなクロノスの様子を余所に司令室に動きがあった。


「クロノス様! 逆探知に成功しました!」


「こちらも同じくアッパーさんとの『念話』が繋がりました! 加えて相手のパスに割り込んだので相手の会話も聞けます!」


 逆探知班とテレの報告が同時にやってくる。

 それと同時に司令室のスピーカーから、アッパーと割り込んだ相手の声が出てきた。


 そしてその第一声が――。


『答え合わせしよう! 先ずはそう! 根本的な話からだ!』


 見知らぬ男の声。

 そして別モニターには逆探知による対象の姿が映し出されており、そのモニターには灰色の髪をオールバックにして船の上で狂気的に嗤う男の姿がいたのだ。


「あれは……!」


 誰かが声を出す。

 何故ならその男が何かに気付いたかのように眉を上げると、突然モニターに向かって()()()()()からだ。




 ◇




 能力を暴走させる薬はどこから作られているのか。

 そのこの場には関係ない問いを出されたアッパーは一瞬スキーマーに怒鳴りそうになるも、その直後に見知った声がアッパーの頭に響く。

 

『もしもしアッパー君!?』


「この声、学園長!?」


『ははーん? 割り込みされたパスに再割り込みとかやりますねぇ!』


 どうやら切られた念話が再びアッパーと接続したようである。

 だがそんな状況でもスキーマーの調子に変化はなく、いつもどおりのようだ。


『さて自己紹介しよう! 俺の名前はスキーマー! そちらの画面に映っているハンサムフェイスの持ち主がこの俺よぉ!』


『貴方がスキーマー……! 何故こちらのモニターに気付いているのかは分からないし聞かないけど、貴方たちの手段を教えなさい!』


『うーん実に手っ取り早くて正直! クイズの参加者としては失格だがなぁ!』


「てめぇの茶番に付き合う気はねぇぞ!!」


 司令室の方からもアッパーの方からも今のところナガラーシャ皇国に異常は見当たらない。

 だがこうして胸のざわつきに従い外で異常を探すアッパーにスキーマーから念話がやってくるなど、もう既に異常が起きていると言っているようなものだ。


『おやぁ良いんですかぁ~? ワタクシどもの手段を知りたいなら真相を知らないと何も出来ないんじゃないんですかぁ~?』


 実際、能力を暴走させる薬を用いる計画であろうことは推測できている。

 だがその薬をどうやって国中に広ませるのかは分からないので現状行き詰まっていると言ってよく、だからこそスキーマーに言い返せない。


『さぁクエスチョンだ野郎ども! この能力を暴走させる薬は一体どこから作られているのでしょう~か! はい、越後製菓!』


『ふざけるんじゃないわよ!』


 クロノスの怒号が鳴り響く。


『まぁ貴方たちは知らないでしょうねぇ! しょうがないや、ボクちんが正解を教えて上げよう!』


 結局正解を教えてくれるスキーマー。

 だがこれまでの茶番でアッパーを含めた司令室の面々はスキーマーに苛立ちを抱いていた。


『端的に言うとあれの成分はとある能力者の血で出来ている』


「なに……?」


 急に真面目そうな声音で話し、かつ衝撃的な事実を告げたスキーマーにアッパーが目を見開いた。


『先ず最初に作った(・・・)のがその能力者だ』


 曰く、人工能力者とは目的ごとにそれ専用の能力を持たせるのが人工能力者の用途である。

 今回のケースで言えば、能力を暴走させる能力を持った人工能力者だ。


 対象の真理と接続している認識を広げることで得られる真理の規模が大きくなる。

 そして許容できない真理を異脳が切り捨てるという工程を飛ばし、許容限界を超えてもなお能力を発動し続け、最終的に暴走するのが『暴走』能力である。


『だが欠点として対象の能力を暴走させるには、『暴走』能力を持った人工能力者の血液を摂取しなければならない』


 そうしてその人工能力者の血液を元に作り出したのが能力を暴走させる薬だという。


「……話は分かった。だがそれとこれからお前らがやろうとしていることと何の関係がある?」


『その人工能力者にはとある設計が為されている』


『設計?』


『『移植』によって『強化系』の能力を入れたことで心臓の血液を生成する能力を強化した。故にその人工能力者に万が一血が出るような傷が出来てしまったとしたら……』


 傷を治すための血液が、固まる前に心臓から絶え間なく生成される血液によって外に押し出され、その傷から勢いよく血が噴き出す。

 ここまで聞いたアッパーは、次第に繋がっていく状況に目を険しくさせた。


「つまり……てめぇらの手段というのは……」


『そう! 飛散した『暴走』能力の血液が空気中に広がり、人々へと感染させるバイオテロ! それが俺達の手段さ!』


『下衆なやり口ね……! だけどその能力者を見つければ……!』


『残念ながら君たちに見つけられるかな?』


 そのスキーマーの声に、駆け出そうとしたアッパーの動きが止まる。

 何故ならこれまでの話を聞いて、アッパーもクロノスたちにもスキーマーの言う人工能力者の気配を見つけられていないのだ。


『再び残念なことに、その人工能力者は既にその国にいる! そして三度残念なことに、香りスプレーとかこの堤防とかで迷走しているアッパー君は間に合うかなぁ!?』


 そうスキーマーは言った。

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