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ブーストアッパー ~加速する強化の先で~  作者: クマ将軍
第二章 能力と向き合うために
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第29話 動き出す復讐

「何を、言っているのですか……? 聞いたじゃないですか……私が貴女から逃げたのは自分のためだと! なのにどうしてまたそういう事を言うんですか!?」


「私はまたアメリアと友達になりたいと思ってる……っていう理由じゃダメ?」


「そういう事を聞いているのではないのです!! どうしてこんな私に友達になりたいと言えるんですか!? 貴女は分かった筈です! 私は自分の事しか考えない人だと! なのにどうして……!!」


 アトリに説明した通り、アメリアがアトリから離れたのは自身の能力がバレて今の生活が消えることに恐怖したからだと。

 例え第一皇子や第二王女がきっかけだとしても、心の内は自分だけしか考えていないのだと、アメリアはアトリに説明をした。


 にも関わらずアトリはまだアメリアと友達になりたいといったのだ。

 その言葉を聞いたアメリアは心の中で喜びに似た感情を抱くも、その自分勝手な感情に顔を顰めてアトリに問い詰める。


 それはそうだろう。

 確かにアトリと友人になった当時、能力を必死に隠していたアメリアは差別意識のない彼女に対して自然体のまま接することが出来た。

 例えアトリに能力をバレても良いと思うほど、アメリアはアトリを信頼していたのだ。


 だがその後に『偉大な炎』を出せないアトリと親しいという事から悪目立ちしてしまい、周りの思考を読めるアメリアはいつ自分の能力がバレるのか気が気でない毎日を送るようになった。

 そしてアメリアは自身の能力がバレる前にアトリから逃げ出したという自分勝手な理由でアトリを一人ぼっちにした。


 そんな自分がアトリと再び以前の関係に戻れるはずがないのだ。

 そんな彼女にアトリがポツポツと自分の思いを語りながらソファから立つ。


「私はね、長い間貴女のことを恨んでいた」


「……!」


 ゆっくりと対面のソファの後ろに立っているアメリアに近づくアトリ。

 アトリの表情は俯いていてアメリアからはよく見えないまま、アトリの独白が続く。


「貴女も『偉大な炎』を出せない私に失望して離れたと思ってた」


 アメリアの他にもアトリには友達というべき存在がいた。

 今になって思えば彼ら彼女らは、潜在能力が高くかつ現皇帝の娘であるという理由からアトリと関係を持とうとしたと思える。

 どこかへりくだった態度にどこか遠慮している距離感の彼らが、皇族の証である『偉大な炎』を出せないアトリに失望して離れたのは当然の帰結だったのだ。


「でも最近、貴女が去り際に見せた悲しそうな表情を思い出すようになったんだ」


 思い返せば思い返すほど、自身の呼びかけを無視して走り去ったアメリアが一度だけ振り向いて見せた表情には悲しみがあった。


「だからアメリアの話を聞いてようやく納得いった! あの時見せた悲しい顔は自分が裏切ろうとしていることに心を痛めていたって今分かった!」


 アトリの立場だけを見て接してきた彼らとは違い、アメリアはアトリの本当の意味での友人だったとアトリは知った。

 今でもあの時のことを後悔しているのは、アトリを大切だと思っていたからこそ後悔しているのだ。

 そんなアメリアだからこそ、アトリはもう一度友達になりたいと思ったのだ。


 顔を上げるとアトリの顔には涙が溢れており、十分な距離に近付いたアトリはそのままアメリアを抱きしめた。


「私も……! アメリアと一緒に過ごすのが楽しかったから……!」


 涙ながらに当時の心情を話すアトリ。

 アトリもまたアメリアと同様一緒に過ごして居心地が良いと感じられ、アメリアが今でもアトリを大切だと思っているのなら、アトリもまたアメリアのことを大切な存在だと思っていたのだ。


「アリス様……!」


「ねぇアメリア……また、私と友達になってくれる……?」


 その問いに対して、アメリアは決まっていた。




 ◇




「うーん良かったねぇ……」


「そうですねぇ……」


 アッパーとパン屋のおばあちゃんは部屋の前で中から聞こえる賑やかな話し声に耳を澄ませ、ようやく仲直りできた二人に笑みを浮かべていた。


「今の国にはああいう強固な絆で結びあった友情なんて物は珍しいからねぇ」


 そのおばあちゃんの言葉にアッパーは何も言えず、おばあちゃんの言葉を静かに聞く。


「昔は良かったなんて言うと懐古みたいで感じが悪いけど、あの時はどんな能力を持っていようが皆仲良くやってたんだけどねぇ……」


「……差別意識が始まった頃は、この国が出来てから比較的早い段階だった気がするんだが……」


 ナガラーシャ皇国が出来上がる前までは、どのような人種や能力を持っていようとも皆が皆一致団結して作っていたと歴史の教科書にも書かれていた。

 だがそのような時期は少なくとも数世紀前の話で、目の前のおばあちゃんがいくら高齢だからって当時から生きていた筈もなく、その事に疑問を持ったアッパーはジッとおばあちゃんの顔を見つめる。


 そしておばあちゃんの顔の特徴と記憶にある人物の特徴が一致すると、アッパーは目を見開いた。


「まさか……! 貴女は初代ナガラーシャ皇帝の妻……!」


「ふふ、もう遠い昔の話さね」


 彼女の存在は歴史の教科書に載っているほどの超有名人だ。

 シエラ・フォン・ナガラーシャ皇后。今は老けていて気付かなかったがそれがアッパーの目の前にいるおばあちゃんの正体だ。

 初代皇帝を支え、次代を生んだ国母であるシエラは初代ナガラーシャ皇帝と同じぐらいこの国の人々から愛されている人物だ。


「でも、なんでだ? だって初代皇帝が治世していた頃は数世紀前の話だぞ?」


「簡単な話さね」


 そう言ってシエラは自分の手を見つめた。


「『強化系活性型』……自身の自己治癒力を活性させて傷を癒す()の能力だよ」


「癒す……筈?」


「活性するのは治癒力じゃなく細胞。分裂し役目を終えた細胞ですらも活性させる能力さ」


 つまり一度使えば壊死した細胞が再活性し寿命がリセットされる。

 簡単に言えば若返る能力と言い換えてもいい。


 その能力の性質に気付いたのは初代皇帝が崩御した際に、未だに若々しくいられていることがきっかけだった。

 やがて息子が寿命で迎え、孫が高齢となった頃にこの国が差別意識に陥りつつあると悟り、嫌になった彼女は隠居する旨を周りに伝えた。


 だが自らの夫と共に作り上げた国を見捨てるのも決心がつかず、ある時期から一人で能力の作用を研究した。

 すると以下のことが分かったのだ。


「この国の皇族が今でも『現象系属性型』を受け継いでいられているのも、私の能力だったのさ」


 シエラの『活性』が夫の『現象系属性型』と混ざりあって『現象系属性型』の『継承数値』を活性させたことで今でも『現象系属性型』が受け継がれているという。

 それが関係してか、今この国が『現象系』に依存している原因を作り上げたのもシエラの能力によると言っても過言ではないのだ。


「私を知る人がいなくなって、もう九十年も能力を使っていない……ようやく寿命を迎えられるのかもしれない時に、今この国に試練がやってきている……」


「……」


「私自身、この差別に満ち溢れたこの国に未練はないのさ。だがまぁ、ジークライルやあの子たちがこの先どうなるのかそれだけが心配だ」


 そう心配そうな顔をして、扉で隔てられている部屋を見るシエラ。

 そしてふとトレイに乗せられたパン菓子の存在に気付いた彼女は、アッパーに「さぁ話は終わりさ、温かい内に食べないと」と言い器用にドアノブを回し、中に入った。


「俺は……」


 そして一人取り残されたアッパーは、思い詰めた表情で中に入っていったシエラを見る。

 シエラは確かにジークライルやアトリ、アメリアの事を心配していた。

 だが彼女もこの国がどうなろうとどうでもいいという感じで、この国の危機に対して何も思わなかったのだ。


 人々を救うという信条を持つアッパーはシエラの思いに対して物申すことがあったが、彼女のこの国に対する未練のなさを見たアッパーは何も言えなかった。




 ◇




 追悼式最終日。

 この日は基本四元素以外の『現象系』の能力者が空に向かって自身の能力を放つ日だ。


 これは最後の日に、皇帝の助けとなるよう『現象系』の人々が自身の能力を使って国作りを手助けした歴史から生まれた日だ。

 偉大なる先祖のもとへと亡くなった人々を導くという目的の元に、多種多様な能力で空に打ち上げるのだ。


 そんな日の朝に、一人の少女が歩いていた。


 髪も肌も白く、赤い目というアルビノの特徴を持った彼女は、なまじ喪服のための黒いローブを着ていることからその特徴が際立っていた。

 だが誰もその少女の事を気にしていない。それどころかその少女が歩いていることも気づかない。

 何故ならその存在自体がとても希薄な物だったからだ。

 認識の阻害でもなく、認識の否定。それによって誰もが彼女に対する認識が出来ていない。

 作られた能力であり、禁じられた真実への接続によって世界から彼女の存在が否定されつつあるのだ。


「中央……広場……計画……遂行……」


 掠れた声で少女は呟き、裸足のまま覚束無い様子で歩く少女。

 強引で、ありえない能力を得た少女の体は既に崩壊が始まっていた。


 しかしまるで操られているようにフラフラと少女は目的の場所へと進み続ける。


 そして、その少女の手には大きめのナイフが握られていた。




 ◇




 昨日アトリが転移を使う男によってこの国に飛ばされたことを超能力学園の司令室にいる上級オペレーターである『念話』使いのテレに連絡を入れようとするアッパー。

 しかしテレと『念話』する条件である耳元に手を当てるという方法を何回も試したのだが、一向に反応がない。


 そんな状況に嫌な予感をするも『念話』以外の連絡手段もないため、そうして追悼式最終日の朝がやってきた。

 いつものように朝早く起きたアッパーは、同じように朝早く起きたシエラに会釈しながら顔を洗っているといきなり耳元から大声が聞こえた。


「な、なんだ!?」


『……し……! ……もし、も……もしもし!? ああやっと繋がった!』


「この声は……テレさん?」


『昨日からずっと連絡しても反応がないので心配しました! 聞いてくださいアッパーさん、今その国にアトリさんが――』


「あ、ああ大丈夫だ。アトリだが昨日とある建物に転移されたところ、こちらで保護したんだ」


『あぁ良かった……しかし何故その時点で連絡をしなかったのですか?』


「いや連絡をしたんだが、反応がなくて……」


 申し訳なさそうに言うアッパー。

 だがそんなアッパーに、テレは険しい様子で呟く。


『実はこちらもそちらに連絡していたんですが、一向に反応がなく……』


「……なんだって?」


 聞けば何らかの『阻害』系の能力をナガラーシャ皇国全域を張られていたらしく、テレの『念話』でさえもナガラーシャ皇国の中にいるアッパーに連絡できなかったのだ。


「阻害されていた……? ならどうして今になって通信できるようになった?」


 不可解な現象にアッパーは考え込む。


「通信を阻害していたとするならば、昨日の時点で外との連絡を防ごうとしていた……なら今阻害がないということは……連絡しても問題ないという段階に達したから?」


 もしそれが本当ならば、アッパーは間に合わなったということになる。


 アンチノーマルという計画の阻止というものに。

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