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ブーストアッパー ~加速する強化の先で~  作者: クマ将軍
第二章 能力と向き合うために
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第27話 合流

「もしもし? アトリさんですか?」


 振動を発しながら鳴り響いた携帯に通話ボタンを押して耳に当てるラビィ。

 だがいくら声を掛けても連絡先の持ち主から応答の反応がない事に、ラビィは眉を寄せた。


「どうかしましたか?」


 訝しむ様子のラビィを見て、彼女の家族であるカナミが尋ねる。

 アトリのディディスを用いた特訓が終わって先に帰ったラビィは今カナミたちが住む家にいた。

 カナミを含めた『雛の巣』の人たちは烏丸家からのトラウマがあるせいで能力を使うという行為に忌避感を抱いていた。

 そのため超能力学園に編入することになったラビィと別れて、彼女らは学園国家内にある塾などに通いながらリハビリ生活をしていた。


 ラビィも時々彼女たちの様子を見るために泊まることも多く、こうして時間が空けば彼女たちの家に遊びに行くのが日課となっている。

 今日もアトリの特訓に付き合ったラビィはカナミたちの家に遊びに来たのだが、彼女たちと談笑している途中にアトリから電話が掛かったのだ。


「アトリさんから電話が掛かってきた筈なのに反応がないの」


「誤動作でしょうか?」


 だが誤動作だとしても様子がおかしいとラビィはこれまでの暗殺者としての経験と観察能力から胸騒ぎをする。

 そっと携帯に耳を当てて集中し、何が聞こえないか音を探るラビィ。


 ――そして。


「微かだけど風の音が聞こえる。という事は外? それにしてもアトリさんの息遣いや本人の気配が聞こえない……まさか携帯を落とした?」


 そう推測するラビィ。

 恐らくこの場にアッパーの能力を把握している人物がいれば、血は繋がっておらずともラビィは間違いなくアッパーの妹だと断言するだろう。

 それぐらいの熟練した観察能力をラビィは発揮したのだ。


「でも携帯を落とした時に誤作動で私に連絡が来るの……?」


 だがそれが逆だとしたら?

 疑問に思った事は逆算して考えれば、答えを得られやすい。そう暗殺者時代に培った推理法を使い、ラビィは一つの推測に辿り付く。


「携帯を落としたせいで誤作動が起きて、私に電話が来たんじゃない……私に電話しようとして携帯を落とした?」


 だとしたらどうして落とした携帯を拾わない?

 そしてその拾わないシチュエーションを考えて、ラビィはとある推測を出した。


 それはアトリに落とした携帯を拾う余裕がない状況にあるということ。


 すっくと椅子から立ち上がったラビィは外に出掛ける準備をする。

 嫌な予感がラビィの心を染めて、知らず知らずの内のラビィの顔が険しくなっていく。

 そんなラビィの様子を見たカナミは、瞬時に状況を把握しラビィのために携帯を手に取る。


「ラビィちゃん、私はクロノス様に連絡します」


「うんありがとうカナミ!」


 ラビィの助けとなるようにカナミはクロノスに連絡をする。

 状況の概要はラビィが漏らした推測から聞いていたため、カナミは一切余らずにクロノスに今の状況を伝えられた。


 対するラビィは超能力学園の司令室に連絡を入れて許可を取る。

 その許可とは上級能力者の特権で携帯にインストールされた追跡アプリの行使という許可だ。

 だがラビィの思い違いもある故に認可されない確率もあり、しかしそんなラビィの予想とは裏腹に司令室から認可が下りた。


「……何があったんですか?」


 ふと嫌な予感をしたラビィは司令室のオペレーターに尋ねる。

 するとオペレーター先から今の状況を説明された。


「……『探知』系の能力者が倒れていた?」


 超能力学園はその最新設備やアンダームーン中の未来ある能力者を受け入れているため、全大陸中で一番のセキュリティを誇る。

 その中でも超能力学園の特定施設外での能力を使用すると『探知』系の能力を持った能力者が、能力を使用した人物を履歴に残しクロノスの元に届けられるのだが、今回に限りその『探知』系の能力者が倒れていたという。


「アトリさん……?」


 立て続けに嫌な状況が続いていく。

 そして追跡アプリでアトリの携帯を追跡していくと、ラビィはようやく携帯が落ちた場所にたどり着いた。

 そしてそんなラビィと同時にこの場にサイやクロノス、そしてノウンの姿が現れた。


「ラビィ! 学園長から聞いたがアトリに一体何が!?」


 サイは自身の能力である念力で自分を運びながらやってきた。

 そんな彼女が空から降りてきてラビィに聞くが、ラビィは地面に落ちた携帯一点を見つめていた。


「アトリさんはどこに……?」


「この感じ……『転移』の残滓……」


 クロノスはどうやら自身の能力でこのアトリが消えた現場の空間が揺らいだ跡を見て把握したようだ。


「という事は……アトリはどこかに飛ばされたって感じなのか学園長?」


「ええ、それに加えてこの転移先のパスは――」


「――『ナガラーシャ皇国』」


 空間の揺らぎからアトリが飛ばされた先を特定したクロノスがその先の場所を言おうと口を開くも、その中でノウンの口から答えが出た。

 そんなノウンにこの場にいる全員の視線がノウンに集中した。


「ノウン、貴女……どうして?」


「なんとなくよ」


 そんな適当に答えたノウンにクロノスが彼女の肩を掴んで詰め寄る。


「貴女の能力は『空間』系でも無いはずよ!」


「ええ、見せたことないけど確かに私の能力は『空間』系じゃないわ」


 飄々とした様子のノウンにクロノスはラビィたちでも見た事がない険しい表情を浮かべていた。


「確か貴女はアトリちゃんと最後に出会っていた人物の筈よ! 私より強い筈の貴女がアトリちゃんを守れないなんておかしい! そしてこのような事態が起きる前に、貴女は私を呼び出した。貴女は知っていた筈よ! 貴女の傍にいると私は()()()()()()()という事も! このような事態が起きると知っていて私を呼び出したの!?」


 叫びながら詰め寄るクロノス。

 そんなクロノスから発される衝撃の内容にラビィとサイが目を見開いた。

 だがそんなクロノスの責めを受けてもノウンは気にしていない様子で、それどころか彼女は何ともないような表情で……。


「それは単なる偶然よ」


 そう、言った。

 何も言えなくなったクロノスはノウンの肩を掴みながら項垂れ、ポツポツとノウンに呟く。


「……貴女は悪い人じゃないって分かっている……でも、時々貴女の考えている事が分からない」


「……」


 気まずい空気が流れる中、ラビィはクロノスとノウンの二人に今アトリの様子を考える方が先決だと言って、地面に落ちているアトリの携帯を拾う。

 一先ず、超能力学園の司令室に行くために一同は足を動かした。




 ◇




 追悼式四日目。

 基本四元素最後の元素にして、ナガラーシャ皇国中の人々が多く信奉する属性である火属性の日だ。


 これに関してはご存知の通り、初代皇帝が人々を導くために使った『偉大な炎』による影響が大きい。

 そんな日にアッパーは人々の目を()()()()()地面を歩き、その目を細くしていた。


「……これで足取りが掴めるのでしょうか」


「実際これで写真の男であるジークモルゲンやその護衛の情報を手に入れているんだ」


「ですが昨日は何も見つけられなかった筈では……」


 アッパーがやっているのはナガラーシャ皇国に入国した初日に行った超感覚による足跡調査だ。

 昨日アッパーがジークモルゲンの護衛を見かけたため、その護衛が歩いた辺りを調査しているのだが、アメリアの言う通り昨日その護衛を見かけた時点で既に足跡探査をしており、その結果は芳しくなかったのだ。


 なのにその翌日である今日もアッパーは再び足跡調査をしていた。


「昨日はその護衛の人物は普通に歩いていたが、その途中で足跡が途切れていた。これは俺が初日に調査した時と同じ結果だった」


「その結果からその三人の内一人は『空間転移』の能力を持っていると結論づけたのでしょう? しかしそれらの能力を持っているとしたらいくら貴方でも足取りを探せないのでは?」


 アメリアの言う通りだった。

 アッパーが探している護衛の男がアッパーの推測通りに『空間転移』使いであれば、いくら足取りを調査しても結局は途中で途切れるという結果に終わる可能性が高い。


 しかしそんなアメリアの言葉に、アッパーは否定の言葉を返した。


「『空間転移』を使うのであれば、移動する際にもその能力を使うはずだ。だがその途中でその護衛は自らの足で道を歩いている。ならばこう考えるべきだ。何か目的があって歩いていたと」


「気まぐれという可能性はあるのではないでしょうか」


「だからといって調査せずに放って置くわけにもいかないだろ? あのスプレーだって然りだ」


「確か、そうでしょうが……」


 昨日、アッパーが気になった匂いの元である香りスプレーをアメリアが持ってきた時に、それを検分したところとある真実を手に入れた。


「まさかあれが能力を暴走させる薬とは……」


 アメリアが戦慄するように呟く。

 そう、アッパーが気になったその香りスプレーにはこれまで能力暴走事件の被害者である暴走能力者から検出された薬物と同じ成分がその香りスプレーにあったのだ。


 超能力学園から出立する前に、その薬物の構成を学んだアッパーがその香りスプレーの成分を把握したことで、その事実を知ることが出来た。

 しかしその薬の成分を把握しても、まだ不可解なことがある。


 何故ならそのスプレーの中身には確かに能力を暴走させる薬と同じ成分があったものの、大量の水で大幅に希釈されていた。

 この程度であればこのスプレーの匂いを吸っただけでは能力は暴走せず、強いて言えば能力を使用する際に調子がいいというような感覚になるだけである。

 そしてそのスプレーの液体を万が一飲み込んでも、僅かに制御が効かない状態に陥るだけで正気を失って暴れまわるほどの効力はないのだ。


 かといって放置するのも万が一という可能性もあるので、ジークライルに頼んでそれらの香りスプレーを回収させたが。


「だがこれで終わったわけじゃない。むしろ昔からの風習にアンチノーマルの工作があったということに危機感を抱くべきだ……そうしないと――っ」


「どうかしましたか?」


 突如として言葉をつぐんだアッパーにアメリアが訝しむような表情を浮かべて、アッパーに質問をする。

 彼女に尋ねられたアッパーは、人差し指を口に持っていき静かにというジェスチャーをする。

 そしてその口に添えた人差しをそのまま前方に持っていき、何かを指差す。


(まさかあれが?)


 アッパーの指差した先を見るとアメリアが警戒するように目を細める。

 そこには一人の男が歩いており、その男の特徴からアッパーが言っていたジークモルゲンの護衛だという事にアメリアは気付いた。


(何をしているのでしょう……?)


 そうしてアッパーとアメリアは静かにその男を尾行する。

 二人とも自身の体に扱いに関しては既に熟練に域にある。

 アッパーは言わずもがな、アメリアは侍女長となるために訓練しており、しかも隠密部隊の隊長を勤めている。

 加えてアメリアは自身の能力を周囲に知らせないように注意深く生活しているため、その護衛の男が二人に気付く様子もない。


 そして暫く尾行すると、その男はとある民家のチャイムを鳴らす。

 中から出てきたのは高齢のお爺さんだ。


(何をする気だ?)


 二人は何か起きるのを備えるために警戒する。

 すると二人はまるで親しそうに話し合い、そして護衛の男は懐から見覚えのあるものを取り出した。


(あれは……例の香りスプレー!? まさか訪問販売か?)


 あの護衛の男こそ希釈させていたとはいえ、能力を暴走させる薬と同じ成分の香りスプレーを配っていたのだ。

 そうと分かればあの護衛の男が最後にどこにいくのかを知るために尾行する必要があると理解した二人は、暫く様子を見ることにした。


 だがここで思いも寄らない出来事が起きた。


「お待ちなさい、そこの男!」


「……!」


(エリーゼ、第二皇女様……!?)


 なんとエリーゼ・フォン・ナガラーシャ第二皇女が、その護衛の男と接触したのだ。


「今我が国では香りスプレーは全面回収をしているのです! このことに関しては既にお触れに出ていますわ! なのにその香りスプレーを何も知らないご老人に売っているとは……貴方! 大人しくお縄につきなさい!」


 そう言って懐から出した携帯型伸縮棒を取り出し、その棒を伸ばしたエリーゼが棒術のように構える。

 だがそれを見た瞬間、その男は自身の能力を使って消えた。


「なっ!? まさか空間転移ですって!?」


 案の定その男を見失うエリーゼ。

 だが空間のゆらぎを認識できているアッパーは、その男が逃げた先を把握した。


(行くぞアメリア!)


(ど、どこに!?)


 今の状況についていけないアメリアだが、アッパーは気にせずに感じた転移先に向かって走りだす。

 感じた空間の揺らぎは、先ず移動するための一回目と移動したあとの二回目で空間が揺らぐ。

 なのでその反応を二回目の空間の揺らぎを察知して、アッパーは追いかけられるようになったのだ。


 だが空間の揺らぎを把握しながら追跡するしていたアッパーは、とある路地裏に入った瞬間に移動した後の揺らぎを感じなくなった。


「俺の認知範囲を超えて転移したのか?」


 よもやここで見失うという事態に陥るかと思った瞬間、とある建物から空間の揺らぎを感じた。


「建物の中……?」


 その空間の揺らぎを感じた建物に入ると、奥から人の気配を感じる。

 しかしその気配を探ると、見知った気配にアッパーは顔を顰めた。


「いや、まさか……こんな時に……?」


 気のせいだと思いながらも、その見知った気配にアッパーは心がざわつく。

 そしてその人物がいる部屋に入ると……。


「アトリ……?」


「……アッパー?」


 そこには、超能力学園にいる筈のアトリの姿があった。

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