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ブーストアッパー ~加速する強化の先で~  作者: クマ将軍
第二章 能力と向き合うために
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第26話 調査

 演説を終わらせたジークライルは、演説時に用意された皇帝用の椅子に戻る。

 そんなジークライルにウィン大臣が労いの言葉を掛けた。


「お疲れ様でございます皇帝陛下」


「ウィン大臣」


 先々代皇帝、つまりジークライルの父親の頃から勤めていたこの国の大臣だ。

 年は六十二と、高年に差し掛かった年齢でありながらその冷静さを帯びた眼差しやピンと伸ばした背筋から衰えは感じられない。


 父の代からと仕えてきた鉄人。

 しかし今やアンチノーマルと通じ、能力暴走事件に関わっている人物である。


「どうか、なさいましたか?」


 ふと気付けばジークライルはじっとウィン大臣を見ていた。

 そんなジークライルにウィン大臣は訝しみながらそう尋ねると、ジークライルは我に返り「いや、なんでもない」と返して目線を演説用バルコニーの眼下から見える住民に向けた。

 だがそれでも途中で気が変わったのか、ジークライルはウィン大臣に視線を向けて口を開いた。


「今回のテロ事件……ウィン大臣はどう思う?」


 昨日のテロ事件……つまり能力暴走によって起きた事件とウィン大臣は無関係ではなく、ウィン大臣はナガラーシャ皇国の大臣でありながら能力暴走事件と繋がっている内通者である。

 そんなウィン大臣に知らないふりで聞いたジークライルの思惑には、ナガラーシャ皇国の大臣として勤めてきたウィン大臣が昨日の事件について尋ねたらどのような反応をするのか知りたいからであった。


「私自身、地球出身の能力者でございますが今はこのナガラーシャ皇国で生きる住民の一人……昨日のテロ事件は私にとって憤慨を抱かせるものであり、犠牲となった者達に対する哀しみに溢れております」


「……そうか」


「故に、決してテロを許してはならない。一刻も早く件の暴走能力者たちを捕らえるよう部下を急かし、そしてその罪を償わせます」


 内通者と知らなければ愛国心溢れる言葉に誰もがウィン大臣のことを忠臣だと思うが、ウィン大臣の真実を知っているジークライルは彼の言葉が酷く白々しく聞こえていた。

 そして件の暴走能力者たちは今や自分の仕出かした事に『孤独』に陥っており、アメリアがナガラーシャ城の外に用意した療養施設で寝ている。


「確かに昨日のテロ事件は許さない。だが聞いてみればその事件は最近巷を騒がしている能力暴走事件と同じらしく、あの住宅街で暴れた暴走能力者たちも被害者ではないかね?」


「ふむ、それが事実なら確かに暴走能力者たちも被害者なのかもしれません。しかし眼下に見えます我が国の住民の悲しみが見えますでしょうか」


 そう言ってウィン大臣は眼下に広がる被害者たちを見渡すと、ジークライルもまたウィン大臣に釣られて国民を見る。

 確かにこの場に集まった国民には悲しみが溢れていた。空に打ち上げた水が、国民を代表するように涙を流しているようだった。

 そんな彼らを見たジークライルにウィン大臣が言葉を続け、ジークライルはウィン大臣の顔を見た。


「――罪には、それ相応の罰が必要なのです」


 酷く、冷たい声音だった。

 まるでここではないどこかを見ながらそう呟くウィン大臣に、ジークライルは目を細めた。


「被害者である暴走能力者たちには、ちゃんと報いを?」


「ええそうです。犯した罪は罰せなければなりません」


 ウィン大臣はジークライルに向けて笑みを浮かべた。


「しょうがなかった、何も知らなかったという理由で見逃すのは愚か者の発想でございます」


 はっきりと、空気が変わった感じがする。

 確かにこれまでの会話は昨日の能力暴走事件に関する会話だった気がするが、ウィン大臣の言葉を皮切りに何かズレた感覚がする。


 これがウィン大臣の本音だろうか。

 これがナガラーシャ皇国を裏切り、ジークモルゲンと組んだウィン大臣の本音だろうか。


「……確かに罪には罰だ。それで貴方はどうするのだ?」


 だからそれを知るためにジークライルはウィン大臣に質問をする。


 アメリアが読み取った暴走能力者たちの記憶には、貧困で喘いでいた時にジークモルゲンが彼らに接触した光景があった。

 この薬を使えば莫大な報酬が貰えるという条件で彼らはその薬を使うことに決めたというのが、昨日の事件が起きるまでの経緯である。


 そこだけ抜粋すれば実に俗物的な理由で、凄惨な事件を引き起こしたと思うだろう。だが誰もが明日を生きるためにその条件を受け入れた者ばかりである。

 幼い頃からずっと不遇な生活を送り、貧困に喘いでいた彼らには他の生き方を選ぶ事もできなかったのだ。


 そんな彼らを作り出したのは他ならないこの差別意識に塗れた国のせいだ。

 そして現在まで放置し続けてきたのは他ならなぬ皇帝が彼らを含めた人々を正そうとしてこないせいだった。


 ウィン大臣はそのことを知っているのだろうか。

 もしくは全てを知っているからだろうか。

 全てを知っていて、全てを分かっていて、そう言うのだろうか。


「異なことをおっしゃる……それは勿論――」


 ――死でもって償わせるしかないでしょう。




 ◇




 追悼式二日目。

 この日は土属性の日だ。


 初代皇帝が居場所をなくした人々のために土属性で建物を作った歴史に倣い、人々は空に向けて土属性を放つ。

 といっても直接真上に放てば液体である水属性と違い物理的な塊となって、放った地上に降り注ぐので人々はナガラーシャ皇国を囲う湖のほとりに立ち、その場で湖のある空に向けて土属性の塊を放つ。


 そして空中で勢いをなくした塊がそのまま湖に向かって落ちていく。

 その光景を遠くの場所で見ていたアッパーが、傍らにいるアメリアに報告する。


「今日も、何も異常はないな」


「……そうですね。ですがこのままではこちらの方が消耗するでしょう」


 何せ相手が計画を実行する時間もやり方もまだ把握していないのだ。

 ただ分かることと言えば相手はこの国を破壊しようとしていることで、あれからアメリアが暴走能力者から読み取ったジークモルゲンの宣戦布告を全て聞いたアッパーは、彼らは物理的な手段でこの国を破壊しようとしている事が把握している。


 国の崩壊というのはおおよそ二通りだけで、経済的な崩壊と物理的な崩壊の二つしかない。

 そして相手は住民も皇族も皆殺しをすると宣言した相手である。そんな相手が経済的な崩壊を狙うのなら皆殺しという言葉を使うのだろうか。


 先日に起きた能力暴走事件からこの国の兵士たちも追悼式を行う住民を守りながらナガラーシャ皇国中を巡回している。

 兵士たちはナガラーシャ皇国で怪しい人物がいないか探している中、アッパーたちもほとんど寝ずにナガラーシャ皇国中をパトロールをしていた。


 アメリアの方も自身が所属している隠密部隊を用いながら市民に紛れてパトロールをしているが、それでも気が休まる時は来ない。

 まだ二日なので巡回している者達の体力はそうそう無くならない。

 しかしこのまま追悼式が終わるまであと三日警戒をし続けていたら、消耗するのは目に見えている。


「それでもアッパー様は平気そうですが」


 そういうアメリアの顔にはアッパーの体質に対する羨望が見えていた。

 こうしてアメリアと一緒に警戒する上でアッパーは自身の能力をアメリアに教えており、案の定アッパーの規格外な能力を把握したアメリアはアッパーに向けて驚愕の表情をしていた。


「まぁだから俺の気遣いはしなくていい。アメリアさんは適度に休憩しててくれ」


「……私も鍛えているのでそうはいかない、と言いたいところですが貴方様の前では足を引っ張ることになりそうです。なので私も常に万全な状態で望むようにします」


 そうしてアメリアは休憩をしにアッパーから離れ、日が過ぎていくことになる。


 追悼式三日目。


 これは風属性の日で、初代皇帝が蔓延している疫病を吹き飛ばすために風を使ったという忠実からだ。

 その日の人々はどこにも集まらずに、追悼式の時間がくれば空に向かって風属性の能力を撃つことにしている。

 アッパーたちがいるのはとある建物の屋上だ。こうして屋上を転々としながらアッパーたちは見渡しているのだ。


「これは……」


 アッパーが見えるのは花束を買っている住民の姿である。

 アメリア曰く、疫病を吹き飛ばした初代皇帝はそれと同時に花を風にのせてこの国に齎したという歴史から、この日の住民は花を買っているという。


「それがどうしたのでしょうか」


「何か、変な匂いがするんだ」


 アッパーの嗅覚から感じるのは得体の知れない匂い。

 不思議と心安らぐ匂いではあるが、何故か心がざわつく。


「ふむ私も匂いますね。しかしこれは店員が花束に香りスプレーを吹きかけているせいではないでしょうか」


 悲しんでいる人々にこの花束から感じる匂いだけでも安らげるように、この国の花屋が吹きかけているという。

 これも昔から続く慣例だそうだ。


「……ちょっとそのスプレーを調べてくる」


「かしこまりました。なら私が手配しましょう」


 そう言ってアメリアがアッパーから離れていき、アッパーも断る理由がないためそのまま行かせた。

 ふと一人となったアッパー。だが何もせずにじっとするのもこの強化された体のおかげで特に疲れなどはない。

 そうしてそのまま一人で待つとアッパーの目には、とある一人の男が見える。


「あれは……?」


 その男を見た途端、アッパーの記憶がその男の情報を弾き出す。

 性別、体重、身長、歩く速度に歩幅の間隔が、アッパーの中にある記憶とその男の情報が一致する。


「あれは、ジークモルゲンを護衛していた男!」


 そう発したアッパーはその男を追跡するために、動こうとするが直後に一人の女性が目に入る。

 その女性についてアッパーはよく知っていた。

 この国の皇族であり第二皇女である彼女の名前はエリーゼ・フォン・ナガラーシャ。彼女もまたこのナガラーシャ皇国中を巡回していたのだ。


「あぁもう、タイミングの悪い!」


 だが見つかなければいいわけで、エリーゼに見つけられずにその怪しい男を追跡するのは容易いことだ。

 そう考えてまた移動しようとしたアッパーに、またもや間の悪いことにスプレーを持ってきたアメリアが帰ってきた。


「これが例のスプレーですが……どうかしましたか?」


 アメリアの声にアッパーは彼女の方向に顔を向ける。

 そしてその男の方向を見ると、その男の姿が消えていた。


「……消えたか」


「あの、何か申し訳ございません……」


「いや、アメリアさんのせいじゃないよ」


 その日、アッパーの観察能力を持ってしてもその男は見つけられなかった。

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