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ブーストアッパー ~加速する強化の先で~  作者: クマ将軍
第二章 能力と向き合うために
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第23話 きっかけ

 スキーマーの意識が消え去るとそこには怪力の能力者だけが残った。

 他の能力者を見ると彼らも怪力の能力者と同様に眠っており、心臓を止めたにも関わらずアッパーの心臓マッサージで蘇生された彼らは穏やかに眠っていた。


 自身の能力で体を二足歩行の巨大な獣に変化していた能力者も元に戻っている。

 ジークライルの執務室で感じた特異な気配も彼らから感じられず、楽観的に考えれば彼らに暴走の可能性はないと思える。


「かといって解決したわけじゃない……」


 被害を抑えるように戦ったとはいえ、住宅街やその住民に被害が及んでいるのは事実だ。

 急いで住宅街に来たといってアッパーが間に合わなかった点も多く、住宅街の建物は勿論、住宅街の外に避難させた住民以外の住民はこの暴走能力者のせいで亡くなっている人もいる。


 残された住民はこの荒れ果てた居場所といなくなった人々を思ってこのまま生きていくわけで、それが堪らなくアッパーの心を締め付ける。

 それに問題はこの住宅街やスキーマーだけではなく、この国は未だに能力暴走事件の脅威に晒されているのだ。


「一先ずこれから救援に来る皇帝の部隊に見つからず、皇帝と会わないと……」


 そう呟いて今いる住宅街から退散しようとするアッパー。

 暴走能力者たちとの戦いで、既に大勢の住民にアッパーの姿は見られており、これまで以上に姿を見せないように活動しなくてはならない事実を念頭に置き、足を動く。

 そんな矢先に住民の方から良くない感情を察知したアッパーは、その足を止めた。


「……なんだ?」


 遠目で住民の表情が見ると、彼らは一様に住宅街を囲むように展開されていた『透明な壁』から出てこられた事に喜びを分かち合っているのが見える。

 しかし一部ではそうじゃない者もいた。


 自身の手で他人を殺した事実に呆然とする者もいて、中には肉親を殺した事で『孤独』となった人たちもいた。

 そしてその中には暴走能力者によって身内を殺された人もいて、彼らは倒れて眠っている暴走能力者を激しく憎むようになっていたのだ。


「マズイ……!」


 彼らの一人が気絶している獣の暴走能力者に向けて手のひらを向ける。

 この国の住民の約八割九割は『現象系』の能力者だ。

 だからこそこの国の住民はその身に殺傷能力のある手段を持っているし、それを生身でなおかつ無抵抗の人間に当たれば怪我じゃすまない。


 それが例え能力者であっても、能力を使っていない状態はただの人間だ。結果はどうなるか火を見るよりも明らかであった。


 だがその光景を黙って見ているアッパーじゃない。

 その住民から放たれた炎が獣の能力者に当たる前に、アッパーは高速移動で獣の能力者を抱えてその場から離れる。

 そしてそのまま炎が獣の能力者がいた場所に着弾するとその場所が吹き飛んだ。


 感情が高ぶると能力が強くなる証左だ。だがこのままだとこの場にいる暴走能力者たちの身が危ない。

 事実その住民の行動によってビックリした他の住民は、このような惨状を引き起こした暴走能力者の存在に気付いてその目に負の感情を宿していく。


 自身が放った炎が思わぬ威力を誇っている事に驚愕して、その着弾した先の暴走能力者の姿がいないという状況を見たその住民は思わず尻餅を付く。

 跡形もなく消し去ったと思い安堵したのか、それとも自身がやった事に今更ながら恐怖したのか今は分からないが少なくとも良いとは思えないのだろう。


 彼らがその炎を放った住民と同じように暴走能力者たちを攻撃する前に、アッパーは自らの姿を捉えられないように素早く動き暴走能力者たちを回収する。


 そして次々と消えていく暴走能力者たちを見た彼らは、呆然とその場で立ち尽くしていた。




 ◇




 住民の避難誘導を部下に命令して()()から帰ってきたジークライルは、部下の報告を待ちながら自身の執務室で落ち着きのないように歩き回っていた。

 アッパーが住宅街の方向に飛び立って、時間にして約一時間ぐらいだろうか。

 その間ジークライルは窓から住宅街の様子を見ており、住民が放つ『現象系』による炎や雷の光が上がって心中穏やかではなかった。


 なので突如としてそれらの光や轟音が収まったことでジークライルは現場の状況を部下から聞くために、待っているのだがそれでも逸る気持ちを抑えきれていなかった。


 そんな時である。


 執務室にある窓から大きな人影が入りこみ、ジークライルは咄嗟に手のひらをこの執務室の床に着地した人影に向ける。

 だがその人影が、暴走能力者たちを担いだアッパーだという事に気付き、ジークライルはホッと溜息を吐いて向けた手にひらを下ろした。


「なんだ君か……」


「皇帝陛下、すみませんがこの人たちを匿える場所はありますか?」


「あ、あぁならばこの執務室の隣りにある私の寝室に向かおう。そこなら部下は入らない」


 そう言ってジークライルは執務室のもう一つの扉を開き、アッパーたちを誘う。

 どうやらこの執務室はウィン大臣の部屋と同じく、寝室と執務室を一つの扉で隔てているタイプらしい。

 執務室ならともかく皇帝のプライベート部屋に入る部下は限られているので、匿うのに最適だろう。


 中に入ったアッパーは、遠慮なく暴走能力者であった者達をジークライルのベッドの上に寝かせる。

 見知らぬ誰かが自身のベッドに無断で人を寝かせれば大抵の人は不快に思うのだろうがジークライルは眉一つ動かず、それどころ自身のベッドの寝かせられた人たちを心配そうに見ている。


 このことからジークライルは『善』の立場にいる人物だと伺えられ、自身が無遠慮にベッドを使ってしまったことに今更ながらに気付いたアッパーはジークライルに謝る。


「すみませんベッドを使ってしまって」


「いや、それよりもこの人らは誰だ? 四人という事はもしや彼らが暴走能力者か?」


「……ええ、そうです」


 ジークライルはアッパーが執務室の窓から飛び立つ前に呟いた内容を聞いており、なおかつ覚えていた。

 そして今のこの場にいる四人の暴走能力者であった者たちとアッパーが直前に呟いた内容から関連付けて、自身のベッドに寝ている人物たちの正体を言い当てた。


 今の立場はともかくジークライルもまた、皇帝に相応しい優秀な才覚を持っているのだ。

 残念ながら、それらを活かすのには今の皇国は問題がありすぎるのだが。


 そんなジークライルの言葉ににアッパーは肯定し、ここまで付き合わせている現状に申し訳なく思いながらも話を進める。

 スキーマーという存在もそうだがスキーマーからこの者たちの境遇を聞かされた事も含めてジークライルに説明し、そして間に合わなかった事で犠牲者が出た事に謝罪をした。


「君が謝罪の言葉を言う必要はない。本来ならば暴走能力者が現れたことでかなりの被害が起きていた筈だ。しかし君が向かってくれたお陰で僅か一時間で解決したんだ」


 だからアッパーが謝る必要はないとジークライルは言い、逆にアッパーの功績に対して礼を言った。

 その言葉を聞いたアッパーは笑みを浮かべるも、だからといって間に合わなかったという思いはアッパーの心を締め付けており、その点だけで言えばスキーマーの目論みは達成していたと言えよう。


「しかしアンチノーマルか……確かに評議会を通して知らされていたが、まさか能力暴走事件に関わっていたとは……」


「……アンチノーマルの狙いは俺です。俺がきっかけでこの国の人々を巻き込んだ」


 スキーマーから何回も聞かされたアンチノーマルの狙いだ。

 スキーマーによると未来で起きるアンチノーマルとアンダームーンの戦争でアッパーはアンチノーマルの企みを尽く阻止してきたという。

 そんな強すぎるアッパーにアンチノーマルはアッパーを抹殺する方法を選び、過去に向けて戦力を投入してきたのだ。


 未来のアッパーと違い、現在のアッパーは能力を満足に扱えない状態にあり、謂わば弱体化している状態だ。

 そんなアッパーに対して未来の戦力を投入した結果、このナガラーシャ皇国が巻き込まれたとしても間違ってはいないだろう。

 少なくともアッパーはそう思っている。

 自分がいなければナガラーシャ皇国が能力暴走事件に巻き込まれる事はないだろうと。しかしそんなアッパーに対し、ジークライルは頭を横に振った。


「きっかけは君かもしれないが、君がいなくともこの国には元から火種があった」


 能力の種類による差別意識と差別待遇。

 アッパーがいなくともこの国はそう遠くない内に内乱によって被害が拡大する可能性があった。

 何回訴えても周りは考えを改めず、お忍びで街を渡り歩くときに『現象系』以外の能力者が不遇を受けている光景を何回も見てきた。


 ジークライルは一度それらの能力者に尋ねたことがあった。


『何故他の国に行かない?』


 皇帝が言ってはいけない言葉を、皇帝であるジークライルが質問したのだ。

 貧困で喘いでいる『現象系』ではない国民は純粋にこの国の待遇によって不遇を強いられているからだ。なら差別意識のない他の国に行けばいいのではないのかとジークライルは考えたのだ。

 ナガラーシャ皇国から離れて一時期地球の日本で済んでいたからこその考えだ。


 だが変装したジークライルに対して、彼らはこういった。


『他の国での生き方が分からない』


 それを聞いて、ジークライルは思った。

 彼らはナガラーシャ皇国以外の国を知らなく、このナガラーシャ皇国が自身の居場所だと思っていた。

 このナガラーシャ皇国こそが彼らの全てなのだ。

 この国が彼らに不遇を強いていたせいで他の選択肢を潰し、彼らに他に国で生きていけると思える勇気を消していたのだ。


 流石に全員が全員そのような理由でナガラーシャ皇国にいるとは思わないし、自力でこの国から出て行った人もいるのだろう。

 だがこの国にいる『現象系』ではない国民は、大抵がそれらの理由でナガラーシャ皇国から出ていくことができないでいるのだ。


 そんな彼らに皇帝であるジークライルは何も言えない。


 このように彼らが自信の無くなった理由に国民を導く役目を持つ皇帝がしっかりしなかったせいである。

 初代皇帝の威光を示すように『偉大な炎』と『現象系』である事を重視し、初代皇帝の意思を伝えていかなかったせいでこのような状況を生み出したのだ。


 初代皇帝は暗黒時代に喘いでいる人々に安らげる居場所を作るためにこの国を作った。

 食料も水も、住居も衣服も全て『現象系属性型』の方が効率良いというだけで、ここまで『現象系』に依存する必要はないのだ。


「アッパー君がいなくとも似たような事件は起きるはずだろう。遅いか早いかの違いでしかなく『外』からかそれとも『内』から崩壊するという違いでしかない」


 そして自嘲するようにジークライルは笑みを浮かび、こう述べた。


「最低なことに、私の思いとしてはこの国の崩壊を望んでいるのだ」


 ジークライルもまた、娘のアトリと同じくこのナガラーシャ皇国によって摩耗された存在であった。

 度重なる交渉も訴えもいずれも差別は無くならず、そして徐々に皇帝でありながらナガラーシャ城での居場所が無くなり、己の無力感に絶望していた。


 だからこそ、ジークライルは心の内でこう思っていたのだ。


 ――この国が変わるきっかけが欲しいと。

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