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ブーストアッパー ~加速する強化の先で~  作者: クマ将軍
第二章 能力と向き合うために
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第22話 二者択一

「お前の事は全て分かっている!」


 2014年の夏にアッパーは能力を覚醒させる。

 その直後に無数のエネミーがアッパーを襲い、その事件以降アッパーはアンダームーンにある病院で昏睡状態に陥る。


 そして一年後の2015年夏にアッパーが目覚める。

 しかしそのエネミー襲撃事件の怪我でアッパーは満足に能力を使えなくなり、やがて再び使えるようになるのは五年後の2020年冬。

 アンチノーマルとの激化していく戦争の中で、アッパーは能力を再び覚醒させたのだ。


「だからこそ『全力強化(フルブースト)』も『一点全力強化ピンポイントフルブースト』も使えない今のお前のところにやって来たんだ!」


 スキーマーはアッパーの交友関係も能力も性格も信念も、未来の戦いで全て把握していた。だからこそスキーマーは分かるのだ。


 アッパーの追い詰め方を。

 アッパーが苦しむ場面を。


 怪我で動けない右手を抑えて住宅街の住民に突貫しようとする突撃の能力者を、怪我をしていない手で彼の腕を掴んで突進の勢いを利用して放り投げるアッパー。


「うぉぉお!!」


「ぐぅ!」


『ガァ!?』


 勢いよく放り投げた先は同じくその巨体で人々を押しつぶそうとしている獣の能力者に当たり、その巨体諸共吹き飛んで行く。

 放り投げた体勢でそれらの様子を見たアッパーに、スキーマーが憑依している怪力の能力者がアッパーに拳を振り上げる。


「ほらほらほらぁ! どうした!? グズグズしていると時間切れになるぞぉ!?」


 怪力の能力者の口から発される耳障りで不愉快な声。

 それでもアッパーはその煽りを無視して、住民に向く被害を食い止める。


「お前が選べるのはたった二つだ! 多数の人々を助けるために少数を殺すか、自分の信条を守るために多数を見殺しにするかだぁ!!」


 スキーマーの言う通りである。

 今アッパーの置かれている状況は、アッパーにとって最も難しい選択肢を突き付けられている。


 徐々に中央に向かって狭まる住宅街を覆う『透明な壁』。

 人間であればその壁を突破することは不可能であり、その壁の動きによって徐々に人々が中央に追いやられている。

 そしてその中央には十五メートル圏内に入れば人々を殺し合わせる狂乱の能力者がいて、あと数分もすれば人々がそこで殺し合いを始めるのは想像に容易い。


 かといって『透明な壁』を解除するには、アッパーと相対している暴走能力者の四人全員を殺さなくてはならないという。


「コイツ、地面からか!」


 突撃の能力者が地面から飛び出てアッパーに突撃を食らわす。

 その直前にアッパーは相手が地面から飛び出た瞬間に一緒に跳躍して、突撃の衝撃を和らげる。

 そしてそのまま腹に蹴りを入れて突撃の能力者を蹴り飛ばした。


「無駄無駄ぁ! 普段はどんな所でも安定して走れるしか能のない男だが、暴走したこいつは文字通りどのような場所でも突き進む!」


 突撃の能力者を蹴り飛ばした矢先にスキーマーからそう説明される。

 その説明を聞いたアッパーは、蹴り飛ばした突撃の能力者を見た。

 すると目の前に映る光景に、アッパーは驚愕した。


「なっ」


 彼は未だに走っていた。

 空中の風を道にして突撃の能力者は空を走っていたのだ。


「うぅうううおおおおおあああああああ!!!!!」


 叫び声を上げて空を走る暴走能力者は、そのまま落下しているアッパーの下に向かう。

 そのままであればアッパーはこのまま突撃の能力者に激突するだろうが、強化された己の防御力を考えれば激突しても問題ないのだ。

 しかしそれには些か時間が足りない。


「おいおいぃ! チンタラ激突するのを待つかぁ!? それともそのまま落下するのを待つかぁ!? どっちでもいいがそのままだと他の暴走能力者が人々に攻撃するぜぇ!?」


 スキーマーの言う通り、アッパーの眼下には獣の能力者が住民に向かう光景が見える。

 落下を待てば確実に人々に被害が起きる。しかし空を走る能力者と激突すれば住民のいる場所から離れていく。


 ならば自ら行動に移すしかない。


「そう! それだよアッパー! お前は必ず別の選択肢を選ぶ! お前の能力がお前に選択肢を与え続ける限り、お前は最善を選ぶ!」


 アッパーの動きを見たスキーマーが喜びながら言う。


「知った風な口だなスキーマー!」


「勿論知っているからさぁ!」


 アッパーがやったのは単純なことだ。

 肺に空気を込めて、それを上に向けて勢いよく吹く。


 いわば逆ジェット噴射だ。


 強化された肺活量でアッパーは自身の落下速度を速め、地面に着地して上を見ればアッパーのいた位置を通り過ぎてどこかに行く暴走能力者の姿が見える。

 その先に人はいない事は分かっているため、そのままどこかに行って時間を稼げばいいと思い、アッパーはそのまま獣の能力者に向かって走る。


「そして見事に被害を食い止めたアッパー! さぁ次は一体どうなるぅ!? ああっと今度はこのお・れ! スキーマーパイセンがアッパーの下に向かうぅぅぅ!!」


 実況しながら怪力の能力者の身体でアッパーの下に向かうスキーマー。

 その不愉快な声と本当にやってきたスキーマーの姿を見たアッパーは顔を顰めた。


「死ねぇアッパー!」


「俺に接近戦で挑むとどうなるか分からないお前じゃないだろう!」


 腕を振りかぶるスキーマーの動きに合わせて、アッパーは怪我していない左の拳でカウンターを食らわせる。


「いってぇー☆!」


「痛いならそれ相応の声を出しやがれ!」


 そのまま拳の衝撃で奇妙な叫びを叫びながら飛んでいったスキーマーに、アッパーは声を荒げる。

 しかしどこかの建物に衝突したスキーマーはそのまま何事もなく立ち上がり、アッパーの声に律儀に答えた。


「いーや、実は痛くないんだよねぇ! 痛覚とかそういうの俺に伝わらないんで! じゃそういう事なんで!」


 何がそういう事なのか分からないが、スキーマーの言うことが本当ならスキーマーが憑依している怪力の能力者にだけダメージを与えられて、スキーマー本体にダメージを与えられないという事になる。


「さぁどうするぅ!? このまま煮え切らない態度だとどっちも救えないぜぇ! 全てを救いたいんだろうアッパァアア!!」


 この『強化』の能力を得たアッパーは、その心に全てを救おうと誓っていて、その誓い通りに最初は全てを救おうとしていた。

 しかし敵であれば容赦なく殺すという矛盾した行動を取っているアッパーはメタリカとの戦いで自身の矛盾した行動に自覚し、今後は『敵』か『味方』かではなく『善』か『悪』かで自身の行動に線引きしたのだ。


 ならアッパーの思う『悪』とは何か。


 環境からやらざるを得ない者。

 環境から『悪』以外を知らない者。

 それら全員はアッパーの思う『悪』ではない者だ。


 ならばアッパーの思う『悪』は『自ら悪を為す者』だ。

 スキーマーは紛れもなく『悪』だろう。協議も合議も共存という考えもなく、ただ能力者の世界のために他を犠牲にする『悪』。

 そしてアッパーただ一人のために人々を巻き込み、それを何とも思わないスキーマーは『悪』以外何者でもない。


 しかしその男に憑依されている暴走能力者やその他の暴走能力者はどうだろうか。

 アッパーは彼らのことを知らないし、『悪』であるスキーマーの口から彼ら暴走能力者は『悪』ではないと断言された。

 

 だがそれは嘘かもしれないし、本当は『悪』かもしれない。

 確かめる術もないし、その時間もない。


 ――()()()()()()()()()()()


 そうどうでもいいのだ。

 そこに『悪』によって操られている人がいれば救う。

 操られている人が『悪』であっても、その時はその時だ。


 何故なら自分がいる限り『悪』は栄えないし、栄えさせないと誓ったのだから。


「『強化(ブースト)』ォ!」


 右腕の怪我は既に治っている。

 だからこそこの状況を切り開くための準備が整った。


「ほえ?」


 スキーマーの呆けた声が怪力の能力者の口から飛び出る。

 何故ならスキーマーが立っている場所にアッパーが突然現れたからだ。


 ピリピリと感じる殺気にスキーマーが頬を引きつる。


 何故ならそれは未来で幾度となく感じたアッパーの殺気が、過去のアッパーでも放っていたからだ。

 いくら宿敵といってもスキーマーは物理的な手段ではアッパーに勝てない。

 だからこそスキーマーは精神的にアッパーを追い詰め、アッパーを『孤独』にするという方法で封じ込めようとしていた。


 それでもスキーマーはアッパーの殺気を受けても未だに慣れない。

 一度感じれば全身の穴という穴から汗が吹き出て、心臓がバクバクと煩く鳴り、体の芯が震えてくるその殺気に果たして誰が耐えられようか。

 その殺気に耐えられる存在といえば、アッパーと同じ化物レベルのデストロイヤークラスのエネミーか『あの方』しかいないのだから。


「ひゃ、ひゃひゃひゃ……」


 スキーマーは笑みを浮かべる。


(何故俺はまだ笑みを浮かべるって?) 


 理由は単純だ。

 何故ならアッパーが殺気を放つ時、それはアッパーの敵が死ぬ時だ。

 即ちそれは、アッパーが決断したということだ。


 そしてスキーマーの想像通り、アッパーはこの男の心臓を止めた。

 アッパーの放つ掌打が心臓に当たり、この怪力の男の心臓が止まったのだ。


「あーあー殺したー」


 体の主導権はスキーマーにあるにしても、体の機能が無くなればいくらスキーマーでも動かせない。

 現に口の動きも徐々に鈍くなっている。

 この男が死ぬのは確定していた。


「あぁ……!?」


「うぅ!?」


『グゥオ!?』


 倒れたスキーマーは他の暴走能力者が発する悲鳴を聞き、笑みを浮かべた。

 これでアッパーの『孤独』化は進行した。これで己の目的に近付いた。

 その喜びに笑い声を上げようともこの男の心臓が止まっているせいで声が出せない事に残念に思ったのだが。


(ん? なんだ?)


 こちらに歩いてくる足音にスキーマーは疑問を抱く。

 そしてスキーマーの視界に現れたのは、暴走能力者全員を殺したアッパーだった。


 だがそのアッパーの顔に悲しそうな顔もない。

 ふと疑問に思うスキーマーだがアッパーがやろうとしている事に気付いて、アッパーに呆れた。


 何故ならアッパーがやったのは、心臓マッサージだからだ。


「――げほ! ごほ! はぁ……はぁ、クソ! お前ドラクエとかやった事ないのかよ! 選択肢は今出ているコマンドしか選べないっつーの!!」


 息を吹き返した怪力の能力者にその男に憑依しているスキーマー。

 一気に肺の中に入る空気でむせながら飛び上がったスキーマーは、暴走能力者全員を蘇生させたアッパーに向かって愚痴を言う。


「残念だが俺は強欲なもんでね。出された選択肢は全部貰うタイプだ」


 見れば『透明な壁』の中に閉じ込められた住民は、解除された『透明な壁』を抜け出て喜びを分かち合っていた。

 それはそうだ。『透明な壁』が解除される条件に『暴走能力者全員を殺す』がある。

 そこでアッパーは暴走能力者全員の心臓を止めて仮死状態にし『透明な壁』が消えたのを確認してから、心臓を止めた暴走能力者たちを心臓マッサージで蘇生させたのだ。


「……ま、分かってたさ。お前がこういう事をやる奴だって。はー萎える」


「一生萎えてろ」


「しーんーらーつー、うーん辛辣! 因みに言うと今日は挨拶がわりだぞ!」


「なんだと?」


「これで終わりなわけないさ。過去に来たのは俺だけじゃないし」


 その言葉にアッパーは顔を顰める。

 何故ならスキーマーが過去に来たのは、アンチノーマルの決定でアッパーを倒すためだけにやってきたという。

 スキーマーと同じように未来からやって来たということは、彼らもアッパーを殺すためにやって来たということ。

 その事実を把握したアッパーは嫌そうに顔を顰める。


「今は治っているけどその拳の怪我、俺が未来からやって来た人物の中で初めてお前に傷付けたんだ。お前が傷を負ったときはちょー嬉しかったね! 多分他の奴らは歯噛みすんじゃないの?」


「……知るかよ」


「俺からのプレゼント・フォー・ユーだ。忘れないでくれよ? さて俺はこのまま退散しますかねぇ~」


 何度も言うがここにいるスキーマーは本人ではない。

 アッパーには流石にスキーマーの本体を探し出す力はないし、捕まえる力も抵抗する力もない。だからこうしてアッパーは消えてゆくスキーマーの意識を見るしか出来ないのだ。


「アディオス!」


 そう言って、スキーマーは消えていった。

 最後の最後まで口の減らないまま消えていった未来からの宿敵に、アッパーは舌打ちした。

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