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ブーストアッパー ~加速する強化の先で~  作者: クマ将軍
第二章 能力と向き合うために
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第20話 未来からの邂逅

 執務室の窓から感じる四人の暴走能力者。

 初めて感じる異常な気配に険しい顔を見せたアッパーは、ジークライルに気配を感じた先の方向について聞く。


「あの方面に暴走能力者だと? マズイ、あの方面は住宅街だぞ!」


「……クソッ」


 住民が住まう住宅街で暴走能力者が四人。

 かつて能力暴走事件の被害者として『現象系氷結型』の能力を持つ一人の能力者いた。

 コップの水を凍らす程度の能力ではあるが、薬によって暴走した彼は街の数区画を巻き込んで凍らせたという。

 そんな能力を暴走させている能力者が四人もいるというのは、最悪あの住宅街を中心にナガラーシャ皇国が壊滅する可能性もあるのだ。


「今すぐ俺が対処に行きます!」


「待て、間に合うのか!? ここから住宅街までかなりの距離だぞ!?」


「間に合えるから俺が選ばれたんだ!」


 窓に足をかけて跳躍するアッパー。

 その超脚力によるたった一度の跳躍でアッパーの姿はもう見えなくなった。


「な、なんだ!?」


 下の階のベランダを護衛している衛兵が猛スピードで上から飛び立った人影に気付き、悲鳴を上げる。

 一人の衛兵が上を見上げると、自国の皇帝が飛び立っていった人影に向かって手を伸ばしている姿が見える。

 そんなジークライルに向かって衛兵が声をかけた。

 

「何が起きたんですか!?」


 衛兵に声を掛けられた事に気付いたジークライルは、もう一度住宅街に向かったアッパーの方向を見て呆けた口を閉める。

 そして我に返るために頭を振り、下の階にいる衛兵に向かって声を張り上げた。


「……緊急事態だ! 今すぐ第二住宅街の住民を避難させるよう各地に通達しろ!」


「で、ですが!」


 衛兵はカサンドラ皇后の命令を受けて、ディートリヒト皇子の部屋を護衛している。

 対してジークライルは皇帝であろうともその立場は微妙な物であり、衛兵はジークライルの避難命令を従うかどうか迷った。

 そんな衛兵に苛立ったジークライルは、護衛の周囲に炎を発現させ声を荒げる。


「皇帝の命令だッ!! 市民を守らない衛兵でいたいのなら、貴様らは家畜だけ護衛していろ!」


『は、ハッ!』


 この国の頂点が発する能力と威厳により護衛たちの表情は恐怖に染まり、ジークライルの命令を従った。

 途端に騒がしくなるナガラーシャ城に、ジークライルは出掛ける準備をする。


「……ディートリヒト」


 その際、誰も守る者がいなくなったディートリヒトの部屋に入ったジークライルは、目の前で廃人のように横たわるディートリヒトの姿を見て、顔を顰めた。

 義理とは言え、敬愛する兄の息子がこのような状態になっていても誰も自分に知らせない事にジークライルは悲しくなったのだ。


 だからディートリヒトの現状をこの目で見たジークライルは周囲の愚鈍さに怒りを覚え、皇帝でありながら周囲を制御しきれていない現実に無力感を抱いた。


「悔しいなぁアリス……私もまた、周囲に振り回されている……」


 そう呟いた一言は、ナガラーシャ城の喧騒に呑まれて消えた。




 ◇




 住宅街は今や混乱の渦に呑まれていた。

 被害を広げる四人の能力者に、周囲の人々が『現象系』の能力を使って応戦するもその四人に対して有効打を与えられていないでいた。


「な、なんだよコイツら! 何で炎が効かねぇんだ!?」


「私の雷もそうよ! この人たち、雷を受けてもまだ立っていられているの!」


『ガアアアアアアア!!!』


 数キロにも及ぶ重さの塀を持ち上げて振り回す能力者の周りには、その能力者に巻き込まれた人々が血を流して呻いていた。


 他の三人もそうだ。

 体を巨大な獣に変化させる能力者。

 壁に当たりながらも突き進む突進の能力者。

 そして周囲の人々を狂乱に陥れて互いに傷付け合っている能力者。


 ようやく辿り付いたアッパーはそれら能力者が起こす凄惨な光景を見て呆然と見渡した。


「これが……能力の暴走なのか?」


 分類で言えば『強化系』の能力者が二人に『変化系』能力者が一人、そして『精神系』能力者が一人だろうか。

 それら四人の正気が失っているように見えて、話し合いは不可能に見える。


 巨大な獣に変化した能力者の姿は、まるで二足歩行の猪のような外見になっており、その巨大さはかつて相対した四メートルから六メートルの巨体を誇る『ジャイアントマーダー』と比較しても優に十メートルは超えていた。


 壁に当たりながら突き進む突進の能力者は、例え中に人がいようとも自分が行きたい場所に向かって暴走列車みたく突き進んでいた。

 途中に人がいればその人は悲惨な状態になり、彼が突き進んだ後ろには死屍累々の光景が広がっていた。


 人々を狂乱に陥れている能力者は特に酷い。

 彼女が歩いた後には、殺し合いの光景が広がっている。

 例えそれが子でも、親でも、それが他者であれば全力で殺し合いをしていたのだ。


 対して数トンにも及ぶ塀を振り回す強化系の能力者は分かりやすく被害を大きくしていた。

 様々な能力を打ち込んでもビクともしないばかりか、まるで倍返しのように被害を拡大させていたのだ。


「チィ……!!」


 先ずは優先順位として『精神系』の能力者を対処する。

 見ればその精神系の能力者から十五メートル離れた被害者は、突然正気に戻り自身のやった事に呆然となっている。

 下手すればその被害者も『孤独』を誘発させて廃人になる可能性もあるし、現に『孤独』になっている被害者もいた。


「一瞬でも良い……! 俺に救う力を……『強化(ブースト)』!!」


 一秒だけではあるがその力はアッパーの求める力を与える。

 その一瞬の内に強化された力で、先ずは原因である『精神系』能力者の女性を空中に打ち上げた。


「あ……! ああ……!!」


 突然の状況に悲鳴を上げる『精神系』能力者の女性。

 と言っても烏丸源十郎みたいに地球圏外まで打ち上げることはしない。ただ彼女を今この場所から遠ざけるために地上から十五メートル離れた空中に隔離させたのだ。


「一秒経過……! 五秒待って、『強化(ブースト)』!!」


 制限時間である一秒に近付けば集中を乱れさせるノイズが走り、一秒経過すれば頭痛が起きて能力が途切れてしまう。

 なのでその前に『強化』を切って、頭痛やノイズが治まる五秒後に能力を発動させる。


 次に『強化』したのは周囲にいる怪我人の状況を把握するための感知能力強化。

 事切れた怪我人を除いて、怪我人のトリアージを決める。

 公共施設から応急キットを持ち出したアッパーはその足で患者の下に向かう。


 先ずは重症患者からだ。

 強化で素早くその患者の下に向かい超高速で患者の容態把握からの応急処置を行う。


「それを……全員!!」


 休まずに怪我をした人々に応急処置を施していていくアッパー。

 上級能力者になる過程で応急処置の方法が書かれた参考書や、様々な手術ビデオから医療知識を習得したアッパーは一人で外科手術できるようになっていたのだ。


 狂乱に陥れた能力者が空中に打ち上げられてから数秒後、彼女の被害によって倒れていた人々は徐々に怪我が治っていくという奇跡が起きていた。


 死んでいなければいい。

 死んでいなければアッパーが全能力を使って助ける。


 そして二分経つと、そこには応急処置を施し終えた怪我人全員の光景があった。だがそれで終わったわけではない。

 次は空中に打ち上げられた女性が地上に落ちる前に、彼女から十五メートル以上離れた住宅街の外へと人々を運ぶ。


「うわ!?」


「きゃっ!?」


「なんだ!?」


 ひっきりなしと、住宅街にいた住民が住宅街の外に運び出されていく。『精神系』能力者から受けた被害者だけじゃない、他の暴走能力者から受けている被害者も住宅街の外に運んでいく。


『グゥアアアアアアアア!!!』


「きゃあああああ!!?」


 獣の能力者の豪腕が一人の女性に振るわれる。

 しかしその直前にアッパーがその獣の能力者に一撃を入れて吹き飛ばした。


「……硬い!」


 だが拳を通して得た感触に、アッパーは顔をしかめる。

 速さを重点に強化はしていたが、それでもその感触は下手すれば『硬化』の能力を持つメタリカに迫るほどの硬さだ。

 それでもそんな一言を発しながらもアッパーは救助活動を止めない。


 応急処置に救助活動を行うアッパーはその他にも一つ一つ家の中に入り、中にいた人々をも運び出す。

 そして最後の一人を住宅街の外に運び終えた瞬間、アッパーは空高く跳躍した。

 当然先に空中に打ち上げた女性を地面に激突する前に回収するためだ。


 落ちてくる『精神系』能力者の女性を空中で抱えたアッパーは、暫く跳躍した勢いで空に滞空した後に下に落ち始める。

 だがそんなアッパーに対して、抱えられた女性がアッパーの頭を両手で掴んだ。


「なっ!?」


「あ、あぁ……!」


 その瞬間、アッパーの脳裏には目の前の女性に対する殺意が芽生える。

 恐らくこれが彼女の能力だろう。正気を無い目をしている彼女はアッパーの精神を干渉して、狂乱させようとしているのだ。


「だが残念……! あのクソ半透明野郎の能力を受けて以来、俺に『精神系』能力は効かねぇ!!」


 僅かに芽生えた殺意を強烈な意思によって封じ込めながら地面に着地したアッパーは、そのまま抱えている女性を地面に放り投げた。


「ぐえ」


 地面に放り投げられた女性はまるで潰れたカエルのような声を出して倒れる。

 そしてアッパーの目の前にいるのは先ほど放り投げた女性を含めた暴走能力者の四人が、アッパーの姿を警戒していた。


「……あとは、お前らだな」


 被害者はいたし、死者も出た。

 だが目の前いる能力者は誰もがその瞳に正気を失くしており、能力暴走事件を知っていれば彼らもまた能力を暴走させた被害者でもあるのだ。


 だからこそアッパーは考える。

 敵であれば、エネミーであればアッパーは容赦なく相手を殺すのだろう。

 しかし目の前にいるのは能力暴走を引き起こす薬によって暴走した被害者であり、アッパーが救おうとしている人類の一人に入る。


 メタリカのような敵対した全ての人を殺すという過ちは犯さない。

 ちゃんと相手を見定めて方針を決めるのだ。

 敵か味方かではない、『善』か『悪』かを見定める。


 そう考えてアッパーが構えて、視線を険しくさせる。

 すると巨大な塀を振り回してた『強化系』の能力者が突然として拍手を始めたのだ。


「はっはっは……流石アッパー、あれだけの被害者たちを救助してみせたのか」


「お前……暴走していないのか?」


 だが強化された観察能力を見ても、目の前の『強化系』能力者には正気や意識が無いように見える。

 事実としてその足取りは覚束無(おぼつかな)いままであり、アッパーに顔を向けてはいるが焦点が合っていないのだ。


 いやそもそもの話として。


「俺を……知っているのか?」


 目の前の男とアッパーは初対面である。

 アッパーがここに来る前に察知した昼の時のバイヤーはあの獣の能力者から感じられており、記憶力を強化しているアッパーなら初対面かどうか分かるはずなのだ。

 だがアッパーはいくら思い返しても思い出せず、目の前の男だけが一方的にアッパーを知っていた。


「いやいや俺が忘れない筈ないじゃないか……我が宿敵、我が怨敵よぉ」


「何だ? 宿敵、怨敵? お前は一体何を言っている?」


 体や表情は完全に暴走した能力者が見せる無気力な状態だ。だが口だけは笑みを浮かべていた。まるで目の前で発する男の口と、その男とは別々のようで……。


「まさかお前、その男に憑依しているのか?」


 怪訝そうにアッパーは自身の予想を目の前の男にぶつけると、その男はまるで耳元まで届くかと思う程に笑みを浮かべてアッパーに拍手を送った。


「アーッハッハッハ! やっぱり! やっぱりだ! お前は必ず気付くと思っていた!」


「お前は一体誰なんだ!」


「はぁ……はは、俺の名前? 俺の名前かぁ! そうか今はまだ(・・)知らないんだな!」


「まだ……だと?」


「あぁ覚えておきたまえ、これから我らの計画を尽く阻止していくアッパー君にはこれから幾度となく相対する宿敵の名前をその心に刻み給え!!」


 狂気のように笑うその男は。

 それはいつの日かアッパーと相対する運命にあった筈の男は、その運命を省略させてアッパーの目の前に現れた。


「よく聞けアッパー! 俺はてめぇの信条をぶっ壊す男であり『策士(スキーマー)』の名を冠する男ォ!」


 ――未来からやって来たてめぇの宿敵さぁ!

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