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ブーストアッパー ~加速する強化の先で~  作者: クマ将軍
第二章 能力と向き合うために
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第14話 ディディス

 アッパーがナガラーシャ皇国に到着し、数日が経過した頃。


 一方、超能力学園では。

 訓練館のとある一室、そこは遠距離系の能力を使用する能力者のため作られた所謂射撃場のような場所で、アトリ、ノウン、ラビィ、サイの四人がいた。


 そして的を狙うアトリの手には、銃身の大きい大型拳銃が握られていた。


 それはディレクショナルディスチャージャー。通称ディディスと呼ばれるそれは、開発支援班が作り出した現象系能力の補助器具である。

 現象系能力の力を貯蓄し、指向を伴って現象系の能力を発射する機能が一般的のディディスに備わっている機能である。

 そのような代物が今、アトリの両手に握られていたのだ。


 黒を基調とした大型拳銃型のそのディディスは、銃身の部分に球状のガラスが埋め込まれており、充填装置と呼ばれるそこから拳銃を握るための銃把(じゅうは)まで白い幾何学模様のラインが伸びていた。


「『火炎、充填』……!!」


 その言葉とともに、アトリの握っている銃把(じゅうは)から赤色のラインが銃身にある充填装置に向かっていく。

 そして充填装置に溜め込まれたそれは、赤い炎のような揺らめきを伴ってボウボウと音を鳴り響かせながら今か今かと待機していた。


『ブラスト、アサイン』


「『爆ぜよ! バーンブラスト』ォ!!」


 銃身から聞こえる機械音と共にアトリは声高らかに叫び、ディディスの引き金を引く。

 その瞬間、充填装置に溜め込まれていた炎が銃口から勢いよく飛び出す。


 野球ボール大の大きさではあるが、射出された炎が的に着弾すると途轍もない轟音と余波を放ちながら爆発した。

 その結果に、ノウン以外の三人が口を開けて呆ける。


「……すっげぇな」


「確かに小さいのですが、その分込められた威力はとんでもない事になっていますね……」


「あくまでこれはディディスがアトリちゃんの炎を爆発するように方向性を持たせただけ。この爆発の規模はアトリちゃんの出力によるものが大きいわね」


 アトリはこれまで『偉大な炎』を出すために、発現に関する訓練だけやってきた。なので炎や他の属性を発現するまではいいが、それ以降の使い方である射出や能力の応用が疎かになっているのだ。

 今や少々の特訓で発現した属性の形状を変えられるようになったが、長年手のひらから維持するようにしていたため、中々手のひらから飛ばすという感覚ができないでいるアトリ。


 アトリの現状を理解したアッパーはアトリの助けとなるように彼女と同じ現象系であるラビィとサイに協力を求めた。

 二人も今のところ任務が来ていない今、アッパーの頼みを断る理由もないため快く受け入れて以来、同じ現象系能力者であるアトリにコツを教えていた二人。


 しかしそんなある日。


 アトリのためにノウンがディディスという現象系の能力を制御するための器具を用意したのだ。

 現象系能力は能力者の世界の中で、とりわけピンキリの差が激しい能力である。

 そのためエネミーという外敵から身を守るためにも、そのような弱い能力を持っている人のためにディディスという器具が作られたのだ。


 勿論補助器具であるため、アトリの持つ大型拳銃のような形状以外にも様々なデザインがある。それなのにアトリの持つディディスのデザインが大型拳銃なのは、単にアトリの感性による要素が大きい。


 ノウンは思い出す。

 アトリのために様々なデザインをしたディディスを用意した時のことを。


 魔法使いのような杖。

 腕輪とセットとなった指輪。

 両手に着ける手袋などなど。


 アトリの趣味の合うように様々な地球の娯楽から参考にした数々のデザインのディディスを用意したのだが、まるで街灯に惹かれる虫のようにアトリが一直線で手に取ったのは今手にしている大型拳銃のディディスだったのだ。


「凄い、凄いよ!」


 ディディス越しとはいえ、自身の能力であのような結果を起こしたアトリは、その胸に自身のディディスを両手で抱えてやってくる。

 その姿を見たノウンは苦笑いを浮かび、アトリを迎えた。


(結構中二病の気があるのねアトリちゃん……)


「でもノウン先生、この数のディディスをどうやって用意したんだ?」


 内心そう思っているノウンに気付かないサイは、ノウンにディディスの所在を聞く。そのサイの疑問にノウンはうーんと口に指を当てながら答える。


「自作?」


 茶目っ気のような表情のノウン。


『え?』


「まぁ一般のディディスにこれらのデザインは無いしね」


 だから作ったというノウンの言葉に三人は絶句する。

 ディディスの制作法というのは開発支援班のシークレットとして独占している状態なので、他の誰かがディディスを作るということは不可能に近い。


 ところがノウンが言うには、ディディスを触った瞬間にその原理を把握したという。それで把握するというところもおかしいのだがこんな大量、しかも様々なデザインのディディスを作るというのは如何なものか。


「あなたたちも触ってみる? アトリちゃんのためにデザインをしたのだけれど、一般的なディディスと同じ性能は保証するわ」


「あっじゃあこの魔法のステッキみたいな奴を……」


「真っ先に魔法少女的なデザインを!? これが普通の少女の感性……」


 サイのチョイスにラビィが驚愕する。

 といってもサイの感性は確かに男勝りな性格とは裏腹に少女趣味が多いのは確かなのだが、それらの参考になるかは別の問題である。


 そんなこんなで日は落ちてゆき、サイとラビィは先に帰ることになった。


 今ノウンとアトリがいるのはノウンの診療室。

 ノウンは最終的にディディスの使いこごちをアトリから聞き、それらを紙にメモっていく。そしてそれらも終わり、ようやく解散の時刻が迫った。


「さて、アトリちゃんが決意した日からこれまで色んな訓練をしてきたわね」


「そうですね……属性の特性強化や形状変化……アッパー君やサイさん、ラビィちゃんとの能力を使った訓練……結構やってきたと思います」


「そして今日、アトリちゃんはディディスを手に入れた」


 アトリに理不尽な目を遭わせたナガラーシャ皇国に報復するため、能力を使った戦い方を学んでいるアトリ。それで何故戦闘方面なのかというのは、それが一番自身の能力を把握するのに手っ取り早いからである。


「いつの日かナガラーシャ皇国の差別意識にメスを入れる日が来るわ。それもアッパーがナガラーシャ皇国に任務しに行ったことで早められた」


 アッパーの任務はナガラーシャ皇国にいると思われる能力暴走事件のバイヤーを捕まえることである。そのこととナガラーシャ皇国の差別意識の改革は関係ないものではあるが、アッパーがきっかけでナガラーシャ皇国が変わると信じているノウン。


「……それで私の満足とどう関わるんですか?」


「……あとで分かるわ」


 妙に誤魔化されている感じするアトリ。

 偉大な炎に関してはアッパーと一緒にアトリの納得する証明の仕方を考えるとして、ナガラーシャ皇国に対する報復の仕方はノウンから教えてもらう予定だったアトリだ。

 しかし現実はノウンはアトリに能力の使用方法や応用に関する知識を教えているだけで実際に訓練する相手はアッパーとサイ、ラビィの三人相手だけである。


「はぁ……ノウン先生がそう言うなら信じますけど……」


「ふふ、大丈夫よ。アトリちゃんが望む未来はちゃんと叶えてあげたいから」


 そういうノウンの顔には何か企んでいる様子もない。

 しかし例えアッパーでもノウンが何か企んでいることを察知するのは安易ではなく、それがアトリでも分からないのも無理はない。


「さ、行きなさい。ディディスを持ち歩くのも忘れずにね」


「ディディスも持っていくんですか?」


「自衛用にね。今のアトリちゃんなら、大丈夫だと思うわ」


「?」


 何が大丈夫だろうかと思うアトリではあるが門限が近くということもあり、ノウンに別れの挨拶を言いながら彼女の診療室から出た。

 そしてアトリが出ていき、一人になったノウンはボンッと椅子に倒れこむように座る。


「そう……今のアトリちゃんなら貴方の邪魔にならないと思うわ……」


 アトリの決意から始まった訓練は既に数週間が経っていた。

 短い期間ではあるし万全とは言い難いものの、大きさを変えること以外はほぼ何でもできるアトリの現象系属性型だ。

 アトリの高い潜在能力は伊達じゃなく、ディディスという補正はあったとしてもこの僅かな期間で中級能力者並みの力量を得ているとノウンは判断していた。


「頼むわよアッパー……アトリちゃんが自分の望みを叶えられるのは今しかない……」


 そう呟きながら、ノウンは出かける準備をする。

 これから起きる問題に備えるために。




 ◇




 自身の持つディディスを時折見て、ニヤけながら帰路に着くアトリ。

 初めてこのデザインのディディスを見たアトリは、その重厚さと凶悪さ、そして何よりその形状に目を奪われ、真っ先にこの大型拳銃のディディスを手にした。


 一言で言うと格好良い。


 それ以外の言葉が不要なほど、アトリはこのデザインのディディスに入れ込んでいたのだ。しかしそんなニヤけているアトリでも、ふと立ち止まって思いつめた表情をする。


「本当に大丈夫かな……」


 しかしその不安は、別にアッパーやノウンに対してではない。それは自身の目的がちゃんと達成できるのかという自身に対する不安であった。

 これまで自身の潜在能力目当てに色々な教育係がやってきた。しかしいつまで経っても『偉大な炎』を出せないアトリに失望し、やがてアトリは皇族扱いされなくなった。


 こう言った経緯から、アトリは何かに期待されて目的を為すことに自信がなくなっている。それでもこうしてノウンの下で教えを請うことになったのは、アトリは心の底から目的を達成するために頑張りたいと思ったからだ。


「頑張ろう……」


 そう言ってノウンから貰ったディディスを握りながら、歩き始めるアトリ。

 

 しかし。


「お前がアリス・フォン・ナガラーシャだな?」


「――誰!?」


 見知らぬ男の声が、アトリのもう一つの名前を呼ぶ。

 そんな男に対しアトリは咄嗟に自身の持つディディスを構えて銃口をその男に向けた。このような咄嗟の行動に動けたことは一重に彼女の助ける友人たちのお陰だろう。


「お前を迎えに来た」


「迎え? 私をどこに連れて行こうとするの?」


 顔は覆面によって隠されていて把握できない。

 しかしディディスの銃口を向けられていた男には、特にアトリを警戒する様子もなく一歩彼女に向かって進む。


「動かないで! 動くと撃つよ!」


「ふむディディスか。お前の出力で放たれると流石に危険か」


 流石にアトリの持つ銃が何なのか男は把握したらしい。

 アトリの言葉に男は止まり、その様子をみたアトリは暫く様子を見ながら空いた片手で腰のポケットにある携帯を手に取る。これで目の前の侵入者を捕らえるために応援を呼ぶ。


 そんなアトリに、男はたった一言呟いた。


「……お前は、ナガラーシャ皇国に恨みはあるか?」


「……え?」


 予想外の言葉を聞いたアトリは、携帯を操作する手が止まった。


「ふふ……図星のようだな」


 その言葉を聞いたアトリは顔を顰めるも直後に目を見開く。


「何……これ……」


 空間が歪む。

 感覚が歪む。

 視界が歪む。


「さぁ復讐の機会を用意したぞアリス……また会おう、我が主の同士よ」


 そしてアトリが気が付くと、そこはアトリがいた場所とは異なる場所に居た。

 周りを見ればどこかの部屋らしい。しかし明かりは暗く、冷たさが部屋に漂う印象が受ける部屋だ。


「ここは……?」


 そんな彼女に部屋の扉が開く。

 その扉の開く音を聞いたアトリは、出そうになった悲鳴を抑え手に持ったディディスをその音の主に向ける。


 そこで彼女が見たのは。


「アトリ……?」


「……アッパー?」


 ナガラーシャ皇国に行ったはずのアッパーだった。

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