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ブーストアッパー ~加速する強化の先で~  作者: クマ将軍
第二章 能力と向き合うために
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第13話 横断列車

 ナガラーシャ皇国に向かうにはアンダームーンの全大陸を横断する列車に乗る必要がある。

 月の中を空洞にした地下世界なため、ずっと空に向かって上昇し続ければ反対側にたどり着くと思う気もするが、それには問題があった。

 まず単純にそこまで持続できるほどの飛行系能力者がいない。地球よりかは面積が小さいのだがそれでも大陸の裏側に飛んでいける能力者はいないのだ。


 次に例え飛んでいける能力がいても、途中にある『太陽核』に阻まれて行けない。


 それは裸眼では見えず、常にアンダームーンにいる住民に太陽の光と熱を与える特殊な核らしい。近づけば近づくほど熱くなり『太陽核』の中心は超高熱になっているため、近付けない。

 しかし地球のロンドン時間を参考にして、昼夜が代わる時間帯になると『太陽核』の熱が低下し、光も小さくなっていくという仕組みになっている。


 という『太陽核』に関する内容が教科書に書いてあった。


 これはいつまで経ってもアンダームーンにいながら地球と同じ空を再現できたことに関する秘密をクロノスが明かさないため、科学者の人たちが調べた結果なのだ。


「月の核を含めた空間を弄り、朝と夜を再現した。空気も自然も取り入れ、環境を整えた……」


 クロノスがアッパーに漏らした一言である。

 しかしそれがどうやって再現させたのか具体的な方法も説明も秘密にしているため、それ以上のことは分からない。

 単純にクロノスの何でもありな『時空』で作ったとにべもなく言われればそこで終わりなのかもしれない。今であってはかつての科学者のように『太陽核』を調べるために近付くという行為自体が評議会によって禁止されているため、調査のしようもない。


(でもなんか見られている気がするんだよなぁ……)


 アンダームーンの病室から目覚めて以来、空から視線を感じることが多いアッパーは内心モヤモヤしていた。だがそれもいつも通りだと思い、列車の椅子に座りながら流れる景色を見るアッパー。


(しっかし凄いなぁ……海の上を走っているぜ……)


 窓を通して見えるアッパーの視界には、光に照らされ美しい波を作る海の光景があった。


 大陸横断用特急列車は各大陸を横断するために作られ、かなりの速度で走る列車だ。そして大陸を抜けると当然そこには海が広がり、列車は水上に敷かれたレールの上を走っていくようになる。

 列車の車輪に打ち上げられ、虹を作る水しぶきが実に美しい。当然それらの水しぶきが窓に当たらないよう設計されているため、窓が水しぶきで汚れることはない。


 大陸横断用特急列車、通称『横断列車』に乗る客はVIPや有名人、もしくは任務のために赴く中級以上の資格を持つ能力者が使用することが多い。

 なので乗客のしばしの急速ということで、横断列車には個室が用意されていて、アッパーもまた上級能力者専用の個室を与えられていたのだ。


(超能力学園からナガラーシャ皇国まで、横断列車で三時間……大陸を出たということは後二時間ぐらいか)


 大陸間移動ではあるが月の大きさは地球の四分の一であることと、大陸を横断する横断列車によってかなりの速度で進むため、日本でいう他県に行く感覚みたいだと感じるアッパー。

 そんなアッパーのいる個室の扉からノック音が聞こえる。その音にアッパーが答えると一人の老紳士が中に入ってきた。


「あぁすまないね。ここが上級能力者の個室だと聞いてやってきたんだが、その腕章を見るに君が上級能力者かね?」


「確かに俺は上級能力者の資格を持っています。貴方は?」


「ほう若いのに大したものだ。おっとすまない自己紹介が遅れたね。私の名前はローガン、こうやって上級能力者の話を聞くのが趣味のしがない老人さ」


 そう言ってローガンと名乗った紳士はアッパーに礼を取る。

 話を聞くだけならばわざわざ拒否する理由もないアッパーは、彼を対面にある椅子に座らせる。


「いやぁすまないなぁ本来なら休憩するための個室なのに、私の我が儘を聞いてくれて」


「いいですよ。出張任務が初めてで緊張してたんです」


 そう言って笑みを浮かべるアッパーの表情に緊張の様子はなく、単なる社交辞令だということは想像に容易い。

 それでもアッパーの初任務という言葉に彼は驚いた様子を見せた。


「ほう初出張任務か……確か出張を頼めるほどの能力者はかなりの実力というが、どうやら私の前にいる少年はよほどの実力者と見えるな」


「ええ、何か困ったことがあったら気軽に言ってください。上級能力者になったからには困っている人は助ける所存です」


 その言葉にローガンはヒゲを弄りながら笑みを浮かべる。


「実に頼もしい。出張任務ということは、この先のナガラーシャ皇国かい?」


「よく分かりましたね。といっても見れば分かりますか」


 必要最低限でしかない荷物から横断列車の滞在時間と、次に下りる駅の場所から計算して目的地を把握したのだろう。

 ローガンという老紳士は見た目から想像できない洞察力だ。


「しかしナガラーシャ皇国か……あそこは美しい街並みや壮観なナガラーシャ城が特徴ではあるが、いかんせん文化が……」


 そう言うローガンは顔をしかめている。

 どうやらナガラーシャ皇国の問題は上層部だけではなく、他にもあるようだ。


「どういうことですか?」


「……差別さ。今の皇帝はその差別を撤廃しようと頑張ってはいるが『現象系属性型』によって建国されたあの国では上から下まで『現象系』能力を重視していてね……その能力を持たない能力者は下に見られるのさ」


 その言葉を聞いてアッパーは内心驚いた。

 アトリという件もあって、ナガラーシャ皇国の上層部は『偉大な炎』に関する差別があると分かっていたが、まさか国民も差別意識があったとは思わなかったのだ。


「君の能力が『現象系』ではないのなら、私としては行かない方がおすすめだね」


「まぁ確かに、俺の能力は『現象系』ではありません」


 アッパーの能力は分類として『強化系』に入る。

 型も含めて言えば『強化系全能型』と言われ、恐らく能力者の歴史から見ても唯一と言っていいほどの能力だ。

 しかしそんな能力であっても、ナガラーシャ皇国に入れば下に見られる可能性もあるというが、アッパーはその件に関して、問題ないだろうと考える。


「まぁやりようはありますよ」


「ふむ……いやしかし……初出張任務に指名されるほどではあるが……」


 問題ないと答えたアッパーではあるが、ローガンは心配症なのかアッパーのことをしきりに心配するばかりである。

 これまでの会話や、印象、強化されたアッパーの洞察力から目の前のローガンは悪人ではないと分かっているため、本当に心配しているのだろう。

 そこでアッパーはローガンの不安を払拭するために、自身の対処法を見せることにした。


「それではローガンさん。よく見てくださいね」


「ふむ……?」


 何も隠していないと分からせるために、手のひら、手の甲とローガンに見せるアッパー。そしてローガンが確認し終えたことの頷きを見ると、アッパーは親指と中指を擦り合わせ、指パッチンをした。


 その瞬間、アッパーの手のひらからピンポン玉サイズではあるが炎が現れたのだ。


「おぉ凄い!」


「まぁ手品みたいなものです」


 そう言ってアッパーが見せたのは一枚の紙切れ。しかしよく見てみるとその紙切れの端はちぎれていた。


「指パッチンによる摩擦熱。それで隠していた千切れた紙に発火させ、燃やす。これで現象系炎型の出来上がりです」


「……指による摩擦熱? いやそれでもこれだと完全に手品だね」


「まだまだありますよ。それじゃあこの椅子を見ててください」


 今度は椅子を持ち上げて自身の顔に持っていくアッパー。

 何をするのだろうと考えるローガンだが、直後にアッパーが椅子を離したことで椅子がアッパーの顔に落ちる光景を見て、悲鳴を上げる。


 しかし。


「な……これは!?」


 落ちてアッパーの顔面に当たる筈だった椅子は、アッパーの顔の前に止まっていたのだ。ローガンが驚いているのを見たアッパーは椅子を支えて床に下ろした。


「どうです?」


「こ、これは一体どうやって!?」


 ローガンは事前にアッパーから能力について教えられていた。

 ただ概要としては自身の体に強化を施す程度の概要しか教えられていなかったため、アッパーの超人的基礎スペックについて知らないのだ。


「単純なことですよ。椅子が俺に落ちる前に口から風を吹いて浮かせただけです」


「……え? 浮かせた?」


「これで現象系風型の完成です」


 要するに強化された超人的身体能力による現象系能力の再現である。

 他にも水ならば海の上で走ればいいし、土ならば大地を割ればいいだけである。


「いやいやいやいや、それで現象系だと言われても首を傾げると思うのだが!?」


「要は周囲の人々に現象系だと分からせればいいんですよ」


 己の体ならばそれが可能だと、アッパーは断言した。

 確かに先程ローガンに見せた物は極端すぎたのだが、それは単に心配しすぎているローガンに不安がらせないようにしただけである。

 いや本当に。


「……結構アレだね少年」


「……」


 アレという言葉には『脳筋』という振り仮名が付くはずである。


 そんなこんなで老紳士であるローガンと話をして過ごしたアッパーは、直にナガラーシャ皇国に着くという列車のアナウンスを聞いて、もう時間かと呟く。


「あぁ確かに時間だね。最初のあの誤魔化し方がともかく、君の話は面白かったよ」


「えぇこちらも楽しかったです」


 そう言って二人は互いに握手をした。

 握手を通じてアッパーが感じたことは、ローガンの握力は意外にも力強く、訓練された者特有のマメがついた手をしていた。


「なんだかまた会える気がするよ」


「えぇ『評議会』の方なら、多分いつか俺と会う気がします」


 その言葉にローガンは目を見開いた。

 そしてアッパーに向けて笑みを浮かべて、口を開く。


「おぉまさか気が付くとは! 僕は評議会の中で影が薄いと言われているけど、いつ気が付いたのかね?」


 険しい口調もなく、あくまで好奇心からの疑問。

 その疑問にアッパーは一言呟いた。


「ただの勘ですよ」


 しかしアッパーが言う勘ならば、それは信用できる勘である。

 その一言を聞いたローガンは面白いそうに目を細め、声を上げて笑った。


「ハッハッハ! いやぁ凄い! うん、これなら大丈夫だ。君に任せるよ」


 何を、とは言わない。

 しかしアッパーは正確にローガンの言いたい事を把握した。


「えぇ任せてください」


 そして横断列車は途中アッパーの目的地に到着し、アッパーはローガンと別れた。周りを見れば白を基調とした美しい街並みが広がっており、この国を中心に周りは湖に囲まれていた。


「さぁて、任務を遂行しますかねぇ」


 美醜表裏一体の国、ナガラーシャ皇国。

 そこに上級能力者であるアッパーが降り立ったのだ。

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