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ブーストアッパー ~加速する強化の先で~  作者: クマ将軍
第二章 能力と向き合うために
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第8話 ノウンの検査

 始業式の日から一日が経ち、今日から超能力学園で授業が始まる。

 といってもこれから一週間の間は履修登録の期間が始まり、その期間の間生徒は将来に必要であろう科目を体験するのだ。

 戦闘系であれば戦闘に関する科目を、非戦闘系であればそれ以外の科目といったように、生徒たちが自主的に選ぶのだ。


 履修登録の時期は四月から七月の前期、九月から来年の一月までが後期の二つある。

 それを高校であれば三年間、大学であれば四年間続けることになる。


 始業式の時点で履修可能な科目が入ったアプリをスマホにインストールされており、それを使って科目の内容を知り、スマホを通しての履修確定を行う。

 大抵の生徒たちは学友と相談し、既に受講する科目を確定している人たちもいて、それ以外の生徒はこの予め興味のある科目を選んで、期間の間は自由に授業を体験する事ができるのだ。


 合わなければ別の科目に。

 合えばこのまま履修を登録する。

 そして履修体験期間が過ぎれば、超能力学園での本格的な授業の開始となるのだ。


 しかし必修科目という存在もあり、これらの科目は必ず受けなければならないという規則がある。

 必修科目の内容は学年別ではあるが一年通して変わらず、しかし一つの学年にいる生徒数が膨大なため複数の教師に分けて、生徒が学ぶのだ。

 つまり始業式の日にメタリカを担任とした教室は実は皆、進級時に取った必修科目を通して集まった生徒たちでだったのだ。

 

 しかし例外となる生徒もいる。それはアッパーを含めた上級能力者の資格を持つ生徒たちだ。

 彼ら上級能力者は履修登録を行う必要はなく、それどころか全ての授業を任意で受けられる状態にあるのだ。

 何故なら上級能力者に合格した生徒は、それ即ち全課程で学ぶはずだった内容を既に学び終えている状態であり、学業よりも能力者協会が発行する任務を優先する義務があるという。


「……お兄ちゃん、この授業はどうですか?」


「うーん? ……これかぁ」


 本日の体験科目は座学ばかりであったため、知識は十分の域にある兄妹は本日の授業をスルーして今後受ける授業を『食事館』で検討していた。

 食事館にいるのは上級能力者であるアッパーとラビィら兄妹にサイ。そして午前の体験授業を経て昼食を食べに来たアルの四人だ。


「お前らっておかしいよなぁ……授業受けなくてもいいのに授業受けようとするし……」


 授業を受けようとする兄妹に、注文したハンバーグ定食を食べながらアルが呆れる。そんなアルにアッパーが言い返した。


「何言ってんだアル。俺らにとっちゃ久しぶりの学業なんだぞ」


 例え任意の参加であっても二人にとっては久しぶりの授業である。

 昏睡状態ではあるがアッパーは一年ぶりと、ラビィは八年ぶりの授業で、しかも兄妹二人とも同じ授業を受けるという事に楽しみを感じていたのだ。

 だが既に説明した通り二人は既に知識も実力も十分であり、座学系の授業を受けても意味はなくその代わり戦闘に関係のない実技系の授業を受けようとしているのだ。


「久しぶり……?」


 アッパーの言葉に疑問を覚えるアル。アッパーとラビィの過去について知らないため、アルは首を傾げるが事情を知っているサイが誤魔化すために話題を変える。


「オレのおすすめは家庭科の授業だぜ。裁縫も教えてくれるからぬいぐるみの作り方を教えてくれるし」


「裁縫ってお前……」


 サイの少女趣味発言にアルは困惑した。

 サイは特に自分の趣味に関して隠してはいないので、困惑したアルに「何か文句あるのか?」という意味を込めた目を向けた。

 そんな目を向けられたアルは顔を青ざめて「ナイデス」と小さく呟く。


「なるほど、家庭科の授業ならば料理に関する授業も……」


 サイのおすすめに食いついたラビィは自身の履修アプリに候補として家庭科の授業をキープする。

 普段ならばカナミたちに料理を作ってもらっていたラビィは、そんな愛する家族たちと愛する兄のために料理を作ってお礼しようと考えていた。


「おっラビィがその授業に参加するならオレも参加しようかな。卒業単位揃ってるから同じ授業受けても問題ないだろ」


「何だこの優等生だらけの空間……」


「ははは……」


 アルの疎外感を感じさせる言葉にアッパーは苦笑いをした。

 当然その優等生発言の中にはアッパーも入っているのだが、能力が覚醒する一年前のアッパーならアルの反応に同意していたが、今は反則レベルの能力を持っているため苦笑いを浮かべるだけである。


「……ん?」


 そんな時間を過ごしていたアッパーに携帯のメール着信音が鳴る。


「どうしたんですか? お兄ちゃん」


「……あぁちょっとな」


 メールの送り主はアトリ。

 どうやら彼女から昨日の返事が来たようである。




 ◇




 時刻は放課後の夕方。


「よぉ、昨日ぶりかなアトリ」


「……はいそうですね」


 医療館の待機席に座って待っていたアッパーにアトリがやってくる。決意を宿らせた目をしているアトリに、アッパーは早速とノウンがいる医務室へと案内した。

 やがて奥にたどり着くと一つの部屋の前にたどり着く。


 アッパーは扉にノックをしようと手を伸ばすがその前に「入っていいわよー」と中から声が出てきた。


「……」


 唖然とした様子のアトリ。

 アッパーもその予知か何かの反応に、いつものことかと呆れて中に入った。


「はぁい、昨日ぶりねアッパー」


「そうだな……アトリ、この人がノウンさんだ」


「ノウン先生は知ってます……医療館にミステリアスな医者がいるっていう噂は聞いていますし……ですが能力専門の相談役をしているとは思っていませんでしたが……」


「ふーん貴女がアトリちゃんね……ふーん」


 傍から見れば笑ってアトリを観察しているように見えるノウン。

 しかしこの時のアッパーの観察では、彼女はアトリのことを興味なさそうに全体を見ていたのだ。


(唯一観察できた結果がこれか……)


 普段から観察しても分からなかったのだが今日に限って把握できた。

 それはまるでアトリに対する反応をアッパーに知らせているみたいな感覚であり、もしその観察結果が本当ならばノウンはアトリに対して欠片も興味はないと言っているようなものである。


 そんな彼女の反応にアッパーは無意識に目を細めていた。


「それじゃあ先ず、検査を始めましょうか」


 そう言って彼女は一つのケースを取り出し、中から機械でできたカチューシャのような物を取り出してアトリに手渡した。


「はい、これを付けてね」


「これをですか……?」


 ノウン曰く、この機械は能力を使っているときの脳の様子をこの機械を通してモニターに写すらしい。

 アトリがそのカチューシャ型観測器具を頭につけると、ノウンの横にあったモニターに上から見た脳の断面図が現れた。


「そういえば、俺もここにいていいのか?」


「あら、アッパーが連れてきたんだから責任もって最後まで見てあげないと」


「そういうものか?」


「……分かりませんよ」


「そういうものよ。さ、能力を使ってアトリちゃん」


 ノウンの締めの一言により一応この場にアッパーがいることになった。

 アトリはノウンの言葉通りに能力を発動しようと手のひらを正面に向けて、深呼吸。


「ふぅ……『炎よ』」


 その言葉と同時に、彼女の手のひらから小さい炎が現れた。

 大きさで言えば野球ボールぐらいだろうか。そこまでの大きさになって、炎のサイズが止まった。


「確か貴女の能力は『現象系属性型』だったわね。他の属性も出せる?」


「はい、出せます」


 そう言って炎の次は水が現れ、次は風が現れる。

 アトリの能力は『現象系属性型』といい、その能力の内容は様々な属性を発現させる物だった。

 似たような能力の中に、炎だけ操る、水だけ操るといった単一の属性しか使えない能力があるが、彼女の能力の場合、基本四属性に加え毒や雷といった複数の属性をも操れるという。


「代々ナガラーシャ皇国の皇族はアトリちゃんと同じ『能力』を持つと言われるわ。でもアトリちゃんの場合、他の皇族と違う点がある」


 そのノウンの言葉にアッパーは気付いた。

 これまでアトリが発現してきた属性は確かに多種多様のものではあるが、そのどれもが最初に出した炎と同じサイズでしか発現してこなかったのだ。


「……私は、生まれつきこれぐらいの大きさしか出せません……」


 そう悔しそうに顔をしかめる彼女。

 続いてノウンがナガラーシャ皇国の一般的な皇族の能力について話を始める。


「ナガラーシャ皇国の皇族はね、自分の持つ能力で『偉大な炎』を発現することで皇族としての身分を明かしていたそうよ」


「『偉大な炎』?」


「簡単に言えば巨大な炎を出すことよ。ナガラーシャ皇国の城の頂上には、その『偉大な炎』を照らすための灯台みたいな物があってね、そこで『偉大な炎』を出すことで皇族が国の未来を照らすという慣習があるわ」


 偉大な炎の大きさは最低でも一軒家とほぼ同じサイズだという。

 歴代の中で最も大きな偉大な炎を出した皇族は、傍から見れば城の頂上がロウソクに見える程だとか。


 でも目の前にアトリが発現した炎は野球ボール並みのサイズでしかない。

 皇族の最低ラインにも到達していなかったのだ。


「でも彼女にはこれまでの皇族にない長所があるわ」


 そういって彼女がアトリの脳画像にとある黒ずんでいる部位を指差す。


「これが能力を発動するための『異脳』よ。『異脳』というのはね、能力者の持つ認識を現実に再現させて能力を発動させる重要な器官よ」


 能力者は覚醒したその瞬間から万物の概念、全ての事象、全ての知識を記録するアカシックレコードに接続しているという。

 といっても接続して得られた真理はほんの僅かでしかない。


「それでも真理は欠片でも真理。得られた概念の真理を能力者は無意識の内に認識していて、異脳がその認識を再現させて能力が生まれる。まぁ簡単に言えば無意識の内に真理を認識している能力者は、そのことに関してはできて当然でしょ? と無意識のうちに思っているわけ」


 要するに能力の概念や使い方を無意識に知っているわけである。

 その無意識上の認識を異脳が代わりに使っているのだという。


「しかし……アカシックレコード? 真理? 急にファンタジーになってきたな……」


「原理を解明すれば全て科学の話よ。まぁ話を元に戻すとして、ここを見てちょうだい」


「異脳の部分か? 変わっていないように見えるが」


「そう貴方の目から見ても()()()()()()()の」


「どういうことだ?」


「例え一マイクロメートル差でも貴方の目はそれの変化が見える。でもアトリちゃんの異脳を見る限り、能力を発動していてもこの異脳は何も変わっていない」


「能力を発動すると、異脳は変化するのか?」


「それが変化するのよ」


 能力を発動すると異脳は()()するのだ。

 異脳は能力者の認識を利用して、能力を発動する。つまり異脳は能力者の認識を通して真理を得ている状態で、その状態になると異脳は一定のサイズまで縮小するのだ。


「この状態を見たのはアッパーの能力以来ね。本来能力を発動する異脳は小さくなる。そして一定のサイズまで小さくなったら能力者は能力が使えなくなる。つまり疲労するってわけ」


「だけどアトリにはその兆候が見当たらない……」


「彼女の潜在能力は伊達ではないわ。何時間どころか数日間……いや数週間か上手くいけば数ヶ月能力を維持し続けられることができる。その膨大な力を使えばアトリちゃんの特性はどこまでも高められる」


 炎はより熱くなり不純物のない青い炎になる。

 毒であればより猛毒に、水であれば塩分を追加するといった特性付与ができる。


「凄いな……」


「……でも『偉大な炎』を発現しないと意味がないんです」


「その事なんだけど」


 アトリの目的とは違う部分の才能に、彼女は不満を抱く。

 彼女の目的はあくまで『偉大な炎』の発現だ。そのために彼女はノウンの元にやってきたのだ。

 しかしそんな彼女にノウンはこう告げた。


「アトリちゃん。貴女の能力はこれ以上大きくなれないわよ」


 そう、彼女にとって残酷な一言を告げたのだ。

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