第5話 不健全目的の模擬戦
アル君による下ネタギャグ回。
セクハラ要素や下ネタが苦手な方は飛ばしてもいいです。
「ま、そんなことはいいから模擬戦やろうぜ!」
先程の同情的な雰囲気を醸し出したアルだが、この重い空気に耐えられなかったのか話題を変える。ラビィとアッパーもアルの話に合わせることにした。
「それが目的でここに来たって感じか?」
「おう! 『訓練館』といえばやっぱり模擬戦だろうよ!」
しかし模擬戦場を見渡せば、他の生徒が所狭しと模擬戦場で訓練していた。とてもではないが模擬戦をするにしても場所が狭すぎる。
流石にこのような混雑具合で邪魔にならないように、生徒たちの間には結界のようなもので区切られていた。それでも窮屈そうな様子の生徒を見ればこの場で模擬戦をするのは遠慮したいところだ。
「なーに、このためのソレだろ?」
そういってアルが指さしたのはアッパーとラビィの二の腕の部分に付けている緑色の腕章だ。これは上級能力者であることを他人に示すための証みたいなもので、あの始業式の時にクロノスから貸与されたものだ。
「それじゃあ着いてこいよ。上級能力者専用の模擬戦場があるからよ!」
アルが言うには上級能力者の資格を持つ能力者は、その身に治安維持やエネミー対する討伐任務が義務つけられている代わりに授業の任意参加や上級能力者専用の模擬戦場といった待遇が用意されているらしい。
つまりアルはその上級能力者の特権を使って模擬戦をするつもりで、アッパーたちをここに連れてきたという。
「ちゃんと受付のところで俺を鍛えるという名目でさ、な?」
「はいはい分かったよ」
そう苦笑しながら上級能力者専用の受付の向かう三人。アルのような地球出身の能力者は、その身に宿す超常的な力に憧れている者が多く、合法的に全力で能力が使えるこの『訓練館』では模擬戦をしている生徒に地球出身の能力者が多いのだ。
そして受付の前にたどり着くと、受付嬢から腕章の確認を求められた。素直に従った二人に受付嬢は確認をして問題ないと言う。
「はい腕章を確認いたしました。上級能力者のアッパー様とラビィ様ですね、当受付は上級能力者の方々のために用意された訓練場です。他の上級能力者の方もいますので、問題を起こさないようにしてください」
そして彼女は兄妹の隣にいるアルに目を向け、こちらの方はどうなさいますかとアッパーに訪ねた。さも自分も一緒に入るという当然のような様子のアルに冗談で無関係と言いたくなったアッパーだが、折角ここまで案内してくれたのだし、とアルの言う通り彼を鍛えるという名目で受付嬢に言った。
「いやぁ本当にありがとうございますねぇ、この私のような下々のためにぃ」
「その三下ロールプレイはやめろ」
微妙ではなく果てしなくウザイ様子にアッパーは嫌な顔をした。
そんな感じで中に入るとそこは先程の模擬戦場と変わらない光景があり、唯一の差異といえば訓練している生徒は少なく、空いている場所は非常に多い。
本来ここの訓練施設は上級能力者である教師が生徒に個別指導をするために用意されたものだが、そのような教師の姿はほとんど見当たらない。
代わりにいるのは自主連をしている上級能力者の生徒たちだけだ。
上級能力者はその取得難易度から、大抵大学卒業の頃の年齢か大人の人たちがほとんどで、大人の上級能力者の場合各地の国々に赴きそこで任務を果たすのだという。
なのでここに大人の上級能力者はいないのも無理からぬことではあるが、それを抜きにしてもデストロイヤークラスの襲撃によって、上級能力者のほとんどが殉職してこのアンダームーンにいる上級能力者は少なくなっている。
その中にはデストロイヤークラスと戦うために集った大人の上級能力者が多く、今や平均年齢がかなり下がっているのだ。
それ以来、悔しいという思いを抱いてここで毎日訓練している上級能力者の生徒が増えてきている。そんな生徒たちの中に、アッパーの見知った顔が見えた。
「おっあそこにいるのは……」
肩にまで届くセミショートの女子生徒が複数の生徒と訓練をしていた。動くたびに揺れる二つの凶悪な塊に、アルは目が釘付けになるが彼女と訓練している一部の男子生徒たちは真剣な様子だ。これがプロ意識という奴か。
そんな彼女の名前はサイ。かつて一年前に、姉のアイと一緒にエネミーと戦ったアッパーの知り合いである。
「ふぅ……ん? あっアッパーじゃねえか!!」
「よぉ試験の時以来か」
彼女とは前に上級能力者の試験の時に会ったことがあるのだ。ラビィを烏丸家から救出して以来の再会で、今のアッパーがどれぐらいできるのか試験を通して様子を見に来たらしい。
しかしアッパーの超人的なスペックによって楽々とクリアされていく上級能力者の試験に、かつてあれほど苦労を味わったサイは涙を流したという。
それ以降こうして会うのは試験の時以来だ。彼女も彼女でエネミーの討伐任務で忙しかった様子なのでアッパーと久しぶりに会うこの状況に喜んでいた。
「貴女がサイさんですね。私の名前はラビィ、いつもお兄ちゃんがお世話になっています」
「あぁ、お前がアッパーの妹か! お前も兄と同じ短い期間で上級試験を突破してどんな化物兄妹かと思ったが可愛いし礼儀正しいじゃん!」
「おいサイ、本音本音」
後半はともかく前半はそんな風に思っていたのかとアッパーは呆れた。そんな三人の様子に一人ぼっちとなったアルの姿に、サイが気付いた。
「……なんだ、お前もいたのかスケベザル。ここは上級能力者専用の訓練場だぞ」
「釣れないなぁサイ。俺とお前の仲じゃん!」
「お知り合いなんですか?」
何やら剣呑な様子になったサイに、サル顔になったアルの――別名スケベ顔ともいう――二人に疑問を抱いたのかそんな二人にラビィは質問をした。
「おっ知らないのか? サイとは俺達と一緒のクラスだぞ?」
「残念なことにコイツと同じクラスなんだ……毎回毎回オレの胸を揉もうとするし……!」
顔を赤らめて、自らの胸を抱きしめるように隠すサイ。だがその姿こそ男のロマンを体現しているということに気付いておらず、その潰れたデカメロンにアルはおろか訓練が終わって油断していた一部の男子生徒も釘付けになる。そこにプロ意識は無かった。
『サイテー……』
当然、この場にいる女子生徒たち全員が彼ら男子生徒に白い目を向けた。今にも男子生徒たちをセクハラ容疑で捕縛しそうな勢いである。プロ意識はここにあった。
そんな中、自らの愛する兄もここにいる男子生徒みたいにだらしのない顔をしているはずがないと信頼しているラビィは安心して自分の兄の顔を見ると、口を驚愕した。
「……」
確かにだらしのない顔はしていなかった。ただアッパーはガン見していたのだ。まるで観察するようにサイのサイズをガン見していたのだ。
いくら超人のアッパーでもやはり根は男。そこに加えて超人となった彼なら、ここにいる男子生徒よりも違う目線で見れることができ、あの潰れたデカメロンが推定D以上であることが観察の結果から得られて――。
「お兄ちゃん?」
「――ミテナイヨ?」
「見てたよねとも言ってないよ?」
超人であるアッパーを自白させるとは、ラビィは恐ろしい子である。単にアッパーの超人でありながら妹の問いにテンパった末の自爆なのだが。
◇
そんなこんなで本筋に戻る。兄妹はアルとここで模擬戦をする予定なので、必然的にアルの相手はアッパーかラビィの二人に絞り込まれるが……。
「おいおい俺はアッパーと戦うのはごめんだぜ? あの自己紹介の時に負けたからな。次はラビィちゃんと模擬戦をしたいぜ」
建前はそうである。
だが本音はラビィと模擬戦をして、その間ラビィの胸に当たっても事故で済まされる合法セクハラを目論んでいたのだ。
そんな見え透いた目的についてこの場にいる全員は既に把握していた。なので指名されたラビィの代わりにサイ達がアルと対戦をしようと声を上げるが、その直前にラビィから了承の意を示した。
「おい待てラビィ。みすみすあんなクソ野郎と戦うことなんてねーよ」
サイが心配するような声音でラビィを止める。当然ラビィの兄であるアッパーも止めたいが、何やらラビィに策があるようでアッパーは止められずにいた。
「大丈夫ですよサイさん! 女の敵は私が潰しますから!」
その笑みにかつて暗殺者として過ごしていた片鱗が見え隠れして、その言葉を聞いたアッパーを除く男子生徒全員の顔が青ざめる。
アルもまた「あれぇーもしかして妹様もヤバイ系?」と遠い目をした。
「えーそれではラビィとアルの両名が模擬戦をすることになりましたが……アル死んでしまえ」
「おい審判!?」
対戦することになったラビィとアルは訓練場の中心で相対している。審判役を買って出たのはサイだ。だが彼女の様子を見る限り何があればまず先にアルを潰そうと考えている様子だ。
その他の面子は、観客席に座っている。当然アッパーもそこにいた。
「さーて……それじゃあ始めましょうかねぇ……ぐへへへ」
サル顔とゲス顔が両立した奇跡的な表情をしているアルが対戦相手じゃなければ、新しく入ってきた上級能力者のラビィの戦力を計るために観戦するつもりだった周囲である。
今やこれから起きるであろう惨劇に周囲は悔しげな表情をしていた。何故ならアルの持つ『加速』能力は、いくら上級能力者でも初見は逃れられないレベルを誇る強力な能力だからだ。この観客席にいる女子生徒の誰かは彼のセクハラを受けていた。
幸いなのはタッチかスカート上げ程度の軽いマセガキレベルのみに留めていることだろうか。それでも充分訴えられるレベルではあるし、下手すればトラウマにもなりかねないがアルの場合その後にセクハラ被害者からの制裁は抵抗せずに受けているし、懇切丁寧なフォローや謝罪をするので怒るに怒れない。
根は確かに善良だろう。
そこにセクハラ好きが共存している歪な根ではあるが。
「それでは……始め!!」
サイの言葉と共にアルは自身の能力が発動する。途端にスローモーションとなり、音がない世界に切り替わる光景にアルは笑みを浮かべて加速した体で駆け出す。
だが観客席にいる彼らも含めてアルは知らない。このようにラビィの能力含めてスタイル抜群な体を求めて求婚してきた変態野郎どもに対し、ラビィは無傷で退けていた烏丸家にいた頃の過去を。
(ぐへへへ……!! 誰も俺の加速についてこれない!! アッパーの野郎とかアイとか学園長とか……例外はありすぎるのだがしかし!! 誰も俺についてこれまい!! 先ずはその安産型なヒップに狙いを定めて――)
その瞬間、アルは潰れた。
「グエエエエエーッ!?」
「えっ……は……?」
そのいきなり潰れたアルの姿にサイは呆然とする。
ラビィがやったことは単純なことで、サイの号令と共にラビィの周辺の重力を強くしただけである。つまり相手がいくら早く動こうにも相手を動けなくしちゃえばいいのだ。
確かに初見では『加速』持ちのアルに対抗策はないだろう。アッパーを除くが。それでもラビィは既に知っていた。教室の中で行われたアルの未遂行為から、彼女はアルの能力を既に知っていたのだ。
「しょ、勝者!! ラビィ!!」
『ざまぁああああああ!!!』
淑女の方全員がガッツポーズを決めている。実に怖い光景である。そんな光景を見ながら、ラビィは自分の重力で未だに潰れているアルの元に向かった。
「あの……勝負付いたんですけど……これ止めてくれませんかね?」
「もう二度とセクハラをしないと約束すれば解除しますよ」
セクハラ前科ありどころか現在進行形で罪を重ねているアルに対して、ラビィはチャンスを与えている。その慈悲と美の女神のような行いに、アルも含めてこの場にいる男子生徒諸君は涙を流す。しかしアッパーはそんな彼らに苦笑していたが。
しかし。
「スパッツ……なんですね……実にいい……」
アルはラビィの行いに涙を流していたんじゃない。アルは近付いてきた彼女の、スカートから見えるスパッツという光景に涙を流していたのだ。
ラビィは己の能力で縦横無尽に飛び回るという戦い方からスパッツを履いてきているため、例え見られようとも何とも思わないがそれでも反省の色を出さないアルに怒りを抱いた。
――ぎょええええええええ!!
さらに重くなった重力によって上記のような叫びをしたアルの様子は察せられるだろう。
「……念のため医務室のところに行くか」
そのアルの姿を見て、アッパーはそう呟いた。
この日以降、アル君によるセクハラ被害は鳴りを潜めたという。




