第4話 案内
「おいおいおいおい!! マジかよお前ら上級能力者だったの!?」
「近い、近いって」
始業式が終わり、案の定アルが興奮して兄妹に詰め寄っていた。
大勢の前での自己紹介は流石にラビィの荷が勝ちすぎたのか、その愛くるしい表情に疲れを宿していた。なのでアルの質問攻めにはアッパーが対応している。
「お前らって俺と同じ地球出身だよな!? なのにこれまでのお披露目でお前らの姿見たことないんだけど!?」
始業式での出来事を見て分かる通り、上級能力者の資格に合格したものは皆の前で紹介しないといけないらしい。今回は始業式というタイミングが重なり壇上での紹介となったが、本来ならばこのような行事がない場合、テレビなどで紹介を取っているとのこと。
上級能力者に関する試験はいつでも行っており、合格した時点で即お披露目となる。アルによると、サイも夏休み前に上級能力者の資格を取り、テレビで自己紹介を行ったという。
「まぁ俺達は夏休みの間に試験を受けてな。試験の結果が出たのがつい最近だったんだ」
「でもお披露目するなんて聞いてないです……」
そう、お披露目に関して二人はクロノスから何も聞いていない。それどころか担当の試験官も、二人に送られてきた合格通知からもお披露目に関することは知らせていないのだ。
と、そこにアルが二人に質問する。
「なーお前らっていつ頃にアンダームーンに来たんだ?」
上級能力者のお披露目が知らないということや、このアンダームーンの雰囲気に慣れていないような所作、しかしそれでも能力者社会に関する試験も行う上級能力者試験に合格するなど、妙にチグハグだと感じるアル。
「あー」
意外に鋭い、と彼の認識を改めどう答えようかと思案するアッパーたち。ラビィはともかくアッパーに関して、これまで一年ほど昏睡状態になっており、目が覚めたのは夏休みの間である。その点で言えば夏休みの間と答えられるが、それはアッパーの主観である。
昏睡状態となったのはデストロイヤークラスの『ロード』のところで、アッパーの体は既に一年も前からアンダームーンにいたのだ。
なのである意味一年前といえば一年前で、夏休みの間と言えば夏休みの間だろう。
「……ラビィと同じ夏休みの間からだよ」
結局、アッパーは主観からの感覚で言った。それを聞いたアルはそのアンダームーンに来た日にちと上級能力者の試験に受けた日の間隔の短さに驚愕する。
「はぁ!? お前らマジかよ、確かあの試験って能力者社会に関する問題も出るんだぞ!? 普通地球からやってきた能力者って、住んでいたところと勝手が違うから苦戦するようなもんだろ!?」
確かに上級能力者の試験には筆記試験などもあった。経済学や歴史、各地の文化や文明、法律や能力者に対するシチュエーション別の対処法なども試験に出ていた。
普通ならばその日に来た地球出身の能力者が、僅か数日で試験を突破できるわけがなく、アルの言う苦戦どころか先ず無理なのだ。
だが二人は違った。
ラビィは環境からの理由で、そしてアッパーは体の作り的な理由で。
ラビィはこれまで八年間ものの間、暗殺者として生きるために知識も必要ということで様々なことを教えられてきた。
加えて短期間で暗殺者に仕立て上げるためにも、烏丸家の教育役はラビィに烏丸家秘伝の学習法を用いて教育した。
対して、アッパーに関しては底上げされた基礎能力によってそもそもの頭の作りが違う。知識の場合、手に持った分厚い本をパラパラっと開いて速読して、記憶しているだけである。実に羨ましい。
だがこれを馬鹿正直に言えば、ラビィは自身の過去を話さなきゃならなくなるし、アッパーの場合は「はぁ!? チートかよ羨ましい!!」と狂乱するかもしれない。
なので二人は誤魔化すことにした。
「アルさんはここに来てから何年ぐらいですか?」
「はい? まぁ十年だけど」
「通りで住み慣れてるわけだ。それぐらいいれば能力者の資格とか持っているんじゃないか?」
先に断るがアッパーの言葉に悪気は無い。
上級能力者の資格を持つようになった二人ではあるが、当然その前に初級、中級といった段階を踏むのが通例だ。
二人はクロノスたちから上級能力者としての能力があるので、上級まで行ってこいと言われたが飛び級という特例は与えられず、二人は一から試験を受けた。
初級は応急処置等の医療に関する筆記試験とモブクラスエネミーに対する戦闘力を所有しているかという試験だ。これはある程度訓練と勉強をしていれば誰でも合格できる。
超能力学園は最低でも初級能力者としての資格を取らせるのが卒業するのに必要な要素となっている。生徒の誰もがエネミーから自衛できるようにというのが、この学園の方針だ。
だがアルから帰ってきた答えは二人の予想を超えた。
「いや、持っていませんがそれが何か?」
『は?』
その妙に真顔な表情で言われた二人は心の底から『は?』と叫んだ、もといそう反応した。普段そのような口調にならないラビィでもそう反応した。
「モブ相手なら楽勝なんだけどなー……」
つまりは筆記試験で落ちてるということである。
初級能力者の資格を持っていない人というのは、能力が戦闘向きじゃないか、超能力学園に通っておらず、エネミーによる被害が比較的少ない地域に住んで安全に過ごしているボンボンみたいな人達である。
しかし勘違いして欲しくはないのだが、能力が戦闘向きじゃない人でも初級能力者に相当する資格を受ける事ができるのだ。
上級資格持ちではあるが、戦闘向きじゃない『念話』能力を持っているテレの場合『上級オペレーター』という資格を持っている。
つまるところアルが初級能力者の資格試験に落ちている理由としては単に遊び呆けているからであり、一回試験を受けたが筆記試験で落ちて、それ以来受けていないだけである。
「自業自得かよ……」
「いやいや、まだあと一年あるからな時間はまだまだある」
そう楽観的に答えるアルではあるが、その発言は大抵失敗する人の考えである。何をやるにしても積み重ねが大事とラビィは内心呟き、アッパーは自身の能力ゆえに人の事が言えなかった。実に羨ましい。
◇
「よし! それじゃあ先ずは俺のお気に入りの場所第一位『訓練館』だッ!! 因みに第二位は『食事館』だぜ!」
アルに案内された先は『訓練館』である。そこはアッパーはメタリカとの模擬戦から、ラビィは上級能力者の試験場として来たことがあった。
新鮮味はないが超能力学園の各館にそれぞれ充実した施設があるため『訓練館』には何ができるのか知らない二人は、改めてアルから説明を聞く。
「やっぱメインなら模擬戦場だけど、他にも感覚系の能力を磨くために専用の個室とかあるんだぜ?」
「なるほど……模擬戦しかやったことないから他の場所もあるんだな……」
「は? 模擬戦? 誰と?」
「上級試験の時にだよ」
メタリカとの模擬戦は伏せられていたため、そのように言うアッパー。それでも嘘は言ってないが。そのアッパーの言葉にふーんと興味をなくしたアルは、そのままアッパーたちを専用の個室とやらに案内する。
「……ん?」
そして目的の場所に近付くと、アッパーは個室から出てきた一人の女子生徒に気付く。美しい金色の髪をツインドリルにしているその容姿端麗な女子生徒は、始業式の時にアッパーたちを負の感情を込めて見ていた人物である。
その感情を察して彼女の姿を遠目で見たアッパーは、彼女のことが気になっていた。他にも嫉妬の篭った生徒の目線を受けていたが、彼女の場合その他と比較しても尋常じゃない程のレベルだったのだ。
「ん? どうしたアッパー……あぁアトリか」
「アトリ、さん? その人がどうしたんですかお兄ちゃん」
「いや、なんとなく」
知らない人物に対し、負の感情を向けられたと言えば何を言っているんだ? と思われること請け合いである。なのでそう誤魔化そうとするアッパーだが、アルはまどろっこしい事は嫌う性格なのか彼女の名前を読んだ。
「あっおい、アル!」
「気になったことは本人に聞けば手っ取り早いだろ! おーいアトリー!」
だが彼女は視線をアッパーたちに向けただけで、それを無視するように歩き始めた。
「ちょ、おい! アートーリー!!」
「……何だか調子が悪いようですね」
「いや、アイツはいつもそんな感じだよ」
ラビィの呆然とした声に、アルはいつものような感じで答える。どうやらアルは彼女を知っているようだ。
「知っているのか? 彼女のこと」
「おう、このアンダームーンにいれば誰も知ってるぜ。アイツの本名はアリス・フォン・ナガラーシャ。ナガラーシャ皇国の第三皇女なんだぜ」
「ナガラーシャ皇国の……」
「第三皇女……」
ナガラーシャ皇国について二人は既に知っていた。このアンダームーンの無数にある国の一つで、ナガラーシャ皇族を筆頭に貴族たちが統治する国だ。
だが二人はアリス・フォン・ナガラーシャという人物に対して聞き覚えはないし、学んだ本の中には彼女の名前は見当たらなかった。
それにその情報が本当ならば、アリスにはアトリという地球出身の証であるアザーネームがあるということに納得がいかない。
「まぁ……実質勘当みたいな感じだからな……」
『……』
地球出身の女性とナガラーシャ皇国の皇帝との間に生まれたのが、彼女らしい。当時生まれた彼女には途轍もない潜在能力があると検査で分かり、誰もが彼女の誕生を喜んだ。
「だけどアイツって……自分の能力を制御できないんだ」
――アイツはいわゆる……落ちこぼれだよ。
そう、同情しながらアルは言った。




