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ブーストアッパー ~加速する強化の先で~  作者: クマ将軍
プロローグ 願いを受け継ぐ貴方に
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第5話 異変の前兆

「斉藤広樹。私達と一緒に来て欲しい」


 そう言ったアイの表情に冗談を言うような意思は感じない。その目は確固とした意思を感じさせるもので、その様子を見た広樹はその強化された感覚で否応なしに直感した。


(こちらが拒否しても連れて行かれるだろうな……)


「……貴様が考えている通り、拒否権は無い」


 こちらの心情を的確に把握するアイ。

 見つめてくるその黒い瞳は自身の内側を見透かされているような錯覚を覚える。

 そんな黒い瞳に見つめられた広樹は確認するように呟いた。


「それは……俺が能力者であることに関係するものなんだな?」


 一般的に『能力』が認知されていないこの世界で能力者が普通に生活するためには能力を隠して生きていくしかない。

 だが能力者は『孤独』を嫌うという本能、潜在的な恐怖を持っており、誰にも打ち明けられない自身の秘密を抱えて生きていくのは自殺行為に等しい。


 能力者には能力を含めて自身を理解してくれる存在がいないといけない。

 それ故に彼女達はこうして同じ苦しみを持った『仲間』を連れて行くのだろう。


「だが安心しろ。別にこの生活から離れるといっても完全にではない」


「どういうことだ?」


 故郷であるこの町から離れる覚悟を決めようとした広樹は突然その言葉に驚く。


「言ったろ? 最近は人々の認識が変わって俺たち能力者が裏舞台を支えていける程時が過ぎたって」


 広樹を安心させるようにサイが答える。


「もちろん、今まで通りの生活を送れることは出来ないかもしれない。だが裏舞台は裏舞台で色々出来る事はあるぞ?」


 そう言ってアイは自身の目に指を指し、微笑む。

 そのアイの行為に広樹はアイの言いたい事に気付いた。


(さっき俺の肩に触った時に読んだのか……俺の目的・・を)


 だがそれはそれで好都合だと広樹は考える。


 物心ついた時からあった異常なまでの厄介事に突っ込む性格に悩んだ事があった。何故自身はこうまで人を救うのに執着するのか。何故その事に自分の命までも惜しまないのか。


 だが能力を覚醒する以前の自分では救える命は多くないと悟り、その事に諦めながらも目に付いた人々を救っていた。

 思考に靄が掛かり、自分の出来る事に無力感を感じていた。だが能力が覚醒した今なら、広樹はある目標が芽生えたのだ。


『己の本能のままに、この能力を使って全てを救う』


 そんな誰かが聞いたら夢物語と一笑に付す物を、広樹は考えたのだ。


 ――答えはもちろん。




 ◇




「これでオレたちの任務は終わったな姉ちゃん」


 今姉妹達は斉藤広樹との話し合いから解散して自宅で荷物の整理をしていた。


「と言っても私達能力者の世界に行く前に斉藤広樹には心残りを無くさなきゃいけない」


「そのための一ヶ月なんだよな」


 一ヶ月、それが斉藤広樹に与えられた心の準備だ。

 心の整理が終えるまで姉妹は彼を支えるためにこの町に過ごす必要があり、少しでも同じ能力者である姉妹が彼を見張っていなくちゃいけない。


 それほどまでに能力者が持つ『孤独』に対する恐怖は厄介なものだった。


「それにしても姉ちゃん。あいつの心を読んだ時からなんかボーっとしてるよな? 何かあったのか?」


 アイの表情はサイが見てきた今まで通りに凛々しい物だったが流石姉妹なのだろうか、サイはそんなアイの些細な様子を見抜いた。


「……流石は私の妹だな」


 己の様子を見抜いた妹に怒る訳でもなく、アイは今考えていることをサイに話した。


「私が彼の心を読んだ時、彼の目標について知った」


「目標って?」


 斉藤広樹の目標。それはあまりにも理想が高く、そしてあまりにも困難な目標だった。幾ら能力という超常的な力を持っていたとしてもその目標は不可能だったからだ。


 ――『全てを救う』などという目標は。


 だがそれでもアイはそのことを指摘しなかった。

 むしろ手助けするかのように裏舞台の有用性を示したのだ。

 それほどまでに斉藤広樹はこの目標に対して本気だった。


「だが姉ちゃんらしくないな。いつもならズバッと本心を言うのに」


「そうだないつもの私なら、それは不可能だと断じていたのかもしれない」


 誰もが持ってるその理想の壁は上ることが困難の程に分厚く、その高さは天に聳え立つほどに高かった。


 上っても見えないその頂。

 だから誰もがその理想の壁の前に躓く。


 だが斉藤広樹の持つ理想の壁には何故かその頂がはっきりと見える。

 他の人と同じようにその壁は分厚く、天に届くほどの高さなのに彼だけはちゃんとその頂が見えているようだった。


 それはまるで斉藤広樹という人物は『全てを救う』ことが出来るのだと、そう感じさせてくれる程の物だったのだ。


「多分私は……彼に期待しているのかもしれないな」




 ◇




 そんな姉妹達が会話している一方、斉藤広樹は暗くなった道を散歩していた。昼では暑かった気温が下がり、今の気温は本当に夏かと疑問を抱く涼しさを持っていた。

 そんな暗い道を歩き、広樹はついでに何か異常がないか何気なく辺りを見渡した。


「ここも異常は……いやあったな」


 広樹の視線の先にはある裏路地を見て誰かに報告するわけでもないのにそう呟く。


「いやっ! 離して!!」


「いいじゃねえかよ……いっちょヤらせてくれよ……」


「はいはーい強姦は犯罪ですよー」


 中年のおっさんが女性に強引に迫っている現場を発見した広樹は、躊躇することも無く中年のおっさんを蹴飛ばす。


「うげぇっ!?」


 吹き飛んだおっさんはそのままゴミ集積所に突っ込みゴミまみれになった。


「大丈夫か?」


「あ……はい……あ、ありがとうございます」


 突然の出来事に混乱する女性だがなんとか受け答えができるようだ。


「何があったか教えてくれるか?」


「は、はい……あの……あの人に三週間前からストーカーされているんです」


 三週間前というストーカー行為に驚く広樹。


(むしろ良く無事で居られたな……いや結果的には無事じゃないか)


「ゲホッゴホッ、あっ痛……なんなんだ……?」


 そう思考していると漸く気絶から目が覚めるストーカー。

 彼は蹴飛ばされたところを手で抑え、よろよろと立ち上がった。

 一先ず拘束するか、と広樹はその男に近付き、その事に気付いたストーカーがこちらを見ると突然変貌しだした。


「てめぇ……俺の女から離れろっ!!!」


 広樹が蹴った衝撃で頭がおかしくなったのか、それとも元からおかしいのか、ストーカーの男は唾を撒き散らしながら、広樹に対して怒りをぶつける。

 流石にこの状況は危険だなと判断した広樹は被害者の女性に避難させる様に呼びかける。


「貴女はここから逃げて、警察に通報して」


「あ、はい!!」


 女性が逃げる様に走り広樹もそのことを確認するが、何とストーカーは女性を追いかけようとしたのだ。


「待てっ!!」


「おっとそこで大人しくしといてくれ」


 追いかけようとする男の前に立ち塞がり、そうストーカーに警告する広樹だが相手は目が血走っており、まともに対話する理性を持ち合わせていないようだと判断する。

 それでも一応相手の正気を戻すために説得しようとするがストーカーは広樹の説得を無視、突然ナイフを取り出してきた。


「待てよ……俺と、俺と一緒に来いよぉ!!」


 相手の意識は完全に逃げた女性の方に向き、まるでこちらの存在が居ないかのようにナイフを振り回し始めた。


(ナイフを取り出したか……これはもう手遅れだな)


 狂乱状態でナイフを振り回す相手にはもはや気絶させるか拘束するしかない。


 そう相手の状態を見て判断した広樹は相手のナイフを見切るため感覚を強化。そして身体能力も強化するが相手を傷つけないように僅かだけに強化する。


(さてとこいつを気絶させて警察に突き出すか)


「アァ……ハァ……そこを、退きやがれぇぇぇ!!!!」


 自身の進行方向を妨げている存在に気付いたのかストーカーは広樹にナイフを振り上げるも、広樹は冷静に相手の攻撃を予測。

 一瞬で相手との距離を詰め、ナイフを持っている右手首を掴み一気に捻るとストーカーはその場で回転し仰向けに倒れた。


「がはぁっ!?」


 背中から衝撃を受け、肺の空気が吐き出される男。

 その隙を逃さず、広樹は蹴りで相手をうつ伏せにし、右腕の関節を極めるとその痛みによって男の手からナイフが離れた。


「グッ、クソ!離しやがれ!!」


 だが拘束されても未だに暴れるストーカーに広樹はため息を吐き、今度は強化された感覚で相手の首筋を見た。

 脈の鼓動や気絶させることが出来る角度を把握、そして最適な力の強さを見極めストーカーの首筋に当身を入れると当身を受けたストーカーは先程暴れていて事が嘘のように静かになった。


「……ふぅ、気絶したか」


 相手が気絶したのを確認すると広樹は漸くため息をついたその時。


『ギ……ギギャ……』


「!? ……なんだ? この感覚……」


 裏路地のそのさらに奥、広樹は突然聞こえてきた不気味な声を聞く。

 そして自身の強化した感覚には今まで感じたことの無い気配を感じ、そっと、ゆっくりとその気配の元を辿るとそこには。


『ギギギ! ギギギャギャ!! ギャギャガガガッ!!』


 その不気味に輝く黄色の瞳をこちらに向けてくる子供ぐらいの体格をした異形な化け物がこちらを見ていたのだ。


 ――それも、数百匹単位で。

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