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ブーストアッパー ~加速する強化の先で~  作者: クマ将軍
第一章 失った時間を取り戻すために
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第21話 烏丸源十郎

 烏丸源十郎という男が能力者と接触できたのは、自身が勤めている裏稼業のお陰でもあった。

 裏稼業者と裏の仕事をしている能力者が出会うのはある意味必然であったのだろう。

 当初依頼先で出会ったとある能力者が、能力者の子供を攫うように依頼してきたのが事の始まりであった。


 それから能力者の事を知るにつれて、烏丸源十郎は自身も能力が欲しいと願うようになってきたある日、突如クロノス率いる能力者の集団が烏丸源十郎らが勤めている組織に一斉摘発を行ったのだ。


 非人道的な能力者の掛け合わせによってブチギレていたクロノス達は非合法の組織を徹底的に壊滅に追いやり、烏丸源十郎は命からがら逃げ延びた。


 しかし能力に憧れる源十郎は、いつも通り裏稼業の仕事を再開しても心ここにあらずだった。


 そこに、かつてと同じ非合法組織に所属している能力者が再び彼のもとに訪れたのだ。

 表向きは孤児および居場所のなくした能力者の保護。

 だが裏では連れてきた能力者を実験体に仕立て上げ、複数の能力を持った能力者を生み出すことを目的とした依頼を、その能力者が烏丸源十郎に依頼してきたのだ。


 そこで彼は考えた。


 自身が追い求めてきた能力を、この実験で手に入れられるのではないかと。

 しかしいくら非合法実験でも、貴重な能力者を私的に使うというのは依頼主に対しての裏切りとなる。そうなれば無力な人間である烏丸源十郎は嬲り殺されるのは想像に容易い。

 そこで彼は、自身に忠実な能力者を作り出すことにした。

 孤児となった能力者を親切にして、刷り込みによって自身を慕い部下にする。他勢力の同業者を吸収して力を増やす。

 そうして戦力を増やし、万が一にも依頼主が烏丸源十郎の私的な実験に気付いて報復を行うのなら、それに対抗できる戦力を揃えようと考えたのだ。


 そして自身が能力を得る実験を隠すよう秘密裏で実験を行なった。

 誰にも知らせず、常日頃から何をするにしても右腕である長政を頼りにしている姿を徹底的に見せてきたその裏で、烏丸源十郎の願望が結実した。


「そしてこれぞ儂が求めていた成果だ、まゆりよ!」


 そう言って烏丸源十郎は自身の上半身をさらけ出す。

 高齢な老人とは思えない筋肉の塊と共にさらけ出したそれは、まゆりに驚愕や恐怖という感情を植え込ませた。


「あ……あぁ……」


 そこには夥しい量のタトゥーがあった。

 脳を模した黒いタトゥーが、烏丸源十郎の上半身を覆うように彫られていたのだ。


「総勢108人の能力を取り込んだ究極の能力……それを『万能』と呼ぼうか」


 自身の持つ能力を『万能』と誇らしげに呼称する烏丸源十郎に、まゆりにとある疑問が浮かんだ。


「その実験は……」


「ん? 何だねまゆり」


「その実験は、『いつまで続いていた』……?」


 掠れるような声音で問うまゆりに、まるで待っていたのか烏丸源十郎は不気味に笑みを深めて、言った。


ずっと(・・・)だ」


「――え?」


「聞こえなかったのか? ずっと(・・・)だ。そう儂がこの考えを抱いて来たその日から今日まで!! この儂が満を持しての披露目をした今日この日まで、実験は続いていたのだよ!!」


 息が詰まる感覚がした。


「いたぞ!! 侵入者だ!!」


 反応の消えたA地点護衛班を辿ったのであろう他地点の護衛班が、不敵に笑う烏丸源十郎を取り囲む。

 護衛班の一人が、呆然と座り込むまゆりを気遣うがまゆりは何一つ反応しない。

 その反応のなさに護衛班の一人は、目の前の老人に何かされたのだろうと烏丸源十郎を睨み付け警戒する。


「斎藤まゆりに何をした!?」


「別に何もしておらんさ。それよりもどうじゃ? 儂とこの力の程を試さんかのぅ……」


 烏丸源十郎はタトゥーで黒く染まった己の腕を太陽に掲げ、眩しそうに見つめながら言った。

 そこで老人の上半身に彫られている脳のタトゥーに気付いた護衛班は、目を見開いて怒りの感情を宿す。


「まさかそれが斎藤広樹が言っていたタトゥーか!?」


「ほう? これに気付いた奴がおるのか。それも……斎藤広樹。なるほどこれは面白いのぅ……」


「貴様……!! まさか本当に同胞の力を!!」


「儂も主らと同じ同胞よ。さぁこれが儂の『万能』じゃあ!!」


「てめぇ!!」


 一人が烏丸源十郎に向かって走り出す。

 腕に炎を纏い、それを振り下ろそうとした護衛に烏丸源十郎が手をかざすとその護衛の身体が静止した。


「何……?」


「ぐっ……身体が、動かない!?」


 身動ぎしようとも飛び出した護衛の身体はビクともしない。


「まさかこれは……」


「能力の定番『念力』じゃ」


 その瞬間、静止していた護衛の身体がまるで左右に引きちぎれるように四散した。


「これは良いのう……汎用力も威力も想像次第じゃ。実に良い。何もかもが体の延長線上じゃ」


「……ッ散開!! 念力使いの対処法を思い出し、他の能力を警戒しろ!!」


 助ける間もなく死亡した隊員の姿を見た護衛班の一人がふと我に返り、上記の言葉を周りの隊員に通達する。

 その言葉を聞いた隊員も各自我に返り烏丸源十郎の視界から逃れようと距離を取る。

 

「ふむ……こういう対処法があるのじゃな」


 念力の効果範囲は使用者の視界に依存し、己の体と同じ動きでしか動かない。

 なので視界に入らなければ念力の効果範囲に入らないし、死角からの攻撃に弱いのが念力の弱点だ。


「だがのう……それはただの念力に対する対処じゃ」


 死角に移動していた護衛の身体が、先程死亡した隊員と同じように静止する。


「なっ馬鹿な!?」


「『感知』能力……ふふっ凄いのぉ……! 周囲の光景が手に取るように分かるぞ!! どうじゃこれが儂の『念力』と『感知』を合わせた複合能力じゃ!!」


「ぐ、あああああ!!!!」


 子供のようにはしゃぐ老人が動作をする度に静止していた護衛班の人々が苦悶の声を上げる。


「どうじゃどうじゃ、これが儂の力じゃ儂の『能力』じゃ!」


「あああああああ!!!」


「――させない!!」


「おっこれは……身体が重い、なるほどまゆりの『重力』か」


 いつの間にか我に返ったまゆりは、烏丸源十郎に向けて自身が持てる最大級の重力を叩きつける。しかし烏丸源十郎相手にはただ重力が重くなっただけのようである。

 常人ならば粒子レベルでペースト状になる程の重力だが、効いていない。その事に顔を顰めるまゆりだがそれでも力を込め続ける。


「儂の『能力』はいくつあると思う? 108個じゃぞ? その中に長政と同じ能力があってもおかしくはないじゃろ?」


「まさか……!!」


 念力。

 転移。


 ――そして、無効。


「ほれお主の能力もこの通り」


「やめ――」


 バシュン。

 空気が抜けるような音が鳴ると共にまゆりの能力が霧散する。

 そして抑えられていた力が解き放たれ護衛班全員の身体が、握り潰された。


「あ……」


「あっはっは! つい力の加減を失敗した! これはまだまだ儂の経験不足じゃな!」


 まゆりと『雛の巣』の人達を守ろうとした彼らが殺された。

 目の前の彼らをまゆりは守ろうとしたが死なせてしまった。


「くっ……力を得て満足したのならば何故殺す必要がある!! 結局お前は何がしたいんだ!!」


「無論、得た力は試し打ちするのに限るが……そう、彼らは儂の邪魔をしたからじゃ」


「邪魔……?」


「たった108個の能力で満足する儂だと思うかね? 勿論満足などしない、更なる力を儂は望んでいる!!」


「更なる力……? まさかお前は『雛の巣』の人達を犠牲にしようと……ッ!!」


 まゆりが烏丸家と『雛の巣』の人達に手を出さない事と人を拉致しない、そして実験は中止する事を条件に烏丸家に従っていた。しかし烏丸家の当主である烏丸源十郎は、拉致や実験の中止を無視し今度は『雛の巣』の人達に手を出そうとしている。


「その事に、何か問題でも?」


 その言葉に、まゆりは今まで押さえ込んでいた怒りが吹き出した。


「ぬぉっ!」


「手を出させはしない……!! 彼女達は……私の家族達は、私が守る!!」


 烏丸源十郎の周りを取り囲む重力の圧力。

 四方八方から烏丸源十郎を押し潰そうと迫ってくる重力に、源十郎はニヤリと口角を上げて『無効』化させる。


「儂をすり潰そうとも無駄……何?」


 だがその事を予想していたのかまゆりは、源十郎に向かって『重力』で抉りとった地面を浮かせて源十郎に放り投げる。


(『無効』のタイムラグを読んだ? しかし甘い)


 数トンの土塊が源十郎に叩きつける瞬間、源十郎は自身の持っている『怪力』で土塊を粉砕する。だがそれでもまゆりの猛攻は止まらない。

 先程と同じように周囲にある地面を抉りとって、源十郎に向かって放り続ける。


「中々愉快じゃ!!」


 土塊に向けて『怪力』による破砕、『転移』による回避、『念力』による迎撃、『火炎』による消滅、『空間』による隔離。

 ありとあらゆる能力を使い、まゆりの攻撃を捌き続ける源十郎。

 だがまゆりも源十郎も疲れた様子は見せない。まゆりは元々の能力が強力すぎて、そして源十郎は己の持っている能力に『体力』という物があり両者に疲れはない。


「まるで儂に『万能』の力を訓練させているようじゃな!!」


「減らず口を……!! ならばこれでどう!?」


 源十郎が地面に着地する所を見計らい、まゆりは源十郎の頭上にある『重力の塊』を落とした。


「なるほど、ぶつかれば中のブラックホールが吸い込む重力の爆弾か!!」


 そう自身の『鑑定』能力で判断した源十郎はしかし、どこにも逃げずにその重力の爆弾に向かって手をかざす。その瞬間、まゆりが作り出した重力爆弾は黒い粒子となって消滅した。


「しかし学習能力が足らんようだのう!!」


 それが能力であれば関係ないのだ。

 例え地球を破壊するような規模の能力でさえも、それが能力であれば源十郎にとってただのエフェクトでしかない。


「ちっ……ぐぅ!!?」


 自身の爆弾が無効化されたことに顔を顰めるまゆりに、源十郎の容赦のない『加速』した蹴りがまゆりの腹部にめり込んだ。


「ガハッ……ぐふっ……!」


「とんだ体たらくじゃのうまゆりよ。それで良く家族を守ると大見得を切った物じゃのう」


「くっ、黙……れ!!」


「相手に意見を通す際は力を示せ、とな」


 まゆりの首を片手で締めながら、宙に浮かせる源十郎。

 そこでふと、源十郎は何か思いついたような表情をした後に笑みを浮かべた。


「そうじゃのう……やはり無知というものは罪なものだのう……」


「な、なにを」


「儂のこの力はなぁ……全てお主が守りたかった『雛の巣』の物なんじゃよ」


 その言葉に、まゆりの思考は真っ白に染まった。

 そんなまゆりの表情を見た源十郎は高らかに笑い、まゆりを地面に放り投げた。


「ぐっ、お前は……何を……」


「お主に関する情報は、もうお主の故郷の誰も知らない。何故なら存在自体が抹消(・・)されているから。分かっておるじゃろ? その方法とはなんだと思う?」


 源十郎の言葉に訝しむまゆりだが、反射的にその方法を思い出すのも人間の性であろう。それはまゆりが拉致され数年が経った頃、任務の隠蔽作業によって使われる能力を聞かされた事があった。

 それは対象の存在を人々の記憶から消して、対象に縁がある物を世界から消えさせる能力らしい。


「それは……確か……『忘却』、あ、あ……ああああああ!!!」


 繋がった。繋がってしまった。

 まゆりが己の全存在を賭してでも守りたかった物が崩壊していく。


「そう『忘却系存在型』じゃ!! あの斎藤広樹に屈した軟弱モノの『忘却系認識型』よりも遥かに使える能力者!! お主の大切な家族とやらはなぁ……存在自体をお主から忘却させ、儂の力として取り込ませたのじゃよ!!」


「私は……私は……」


「ふははは!! やはり最初からこうすれば良かったわい!! 何も労力を掛けずに真実を告げればまゆりは我ら烏丸家の物になるのだからのう!!」




 ――私は……守れ、なかったの?

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