第4話 能力者の歴史
「ほえ~随分片付いてんだな~」
「サイ、淑女がはしたないぞ」
リビングで家の内装の物色する自分と同い年ぐらいの少女サイ、そしてそんな妹を諌める中学生ぐらいの身長をした姉、アイ。
結局、広樹はこの姉妹を家に上がらせてしまったのだ。
『『能力』について話をしに来た』
広樹の脳内に先程の言葉が繰り返される。
この言葉から推測するに、確実にこの姉妹は自身の能力について把握していると考えていいだろう。そしてあの大きな事故で斉藤広樹に関する情報を隠蔽出来るほどの情報操作はこの二人では到底できるとは思えない。
となるとこの二人のバックには情報隠蔽出来るほどの組織ということだと強化した推理能力で推測した。
「流石だ。それが貴様の能力か?」
何時接近していたか分からないアイの発言により我に帰る広樹。見れば、アイは広樹の肩に手を置いていてその黒い瞳は赤い色に輝いていた。
咄嗟にアイの手を振りほどき、距離を取った。
「おっとすまない。貴様が考えに耽っていて、こちらの呼びかけに気付いていない様子だったから読ませてもらった」
(読んだ……? まさか思考を読んだのか!?)
「だがこれで私達が何者で何故貴様の能力について把握できたかその強化した推理力で理解できただろう」
強化した推理力は依然、維持されている。先程のアイがした行動と自身の思考を読んだ発言、そしてその俺達の様子を見ても何も動じないサイを見れば自然とある一つの真実に行き着く。
「お前達も俺と同じ……能力を持っているのか」
「ほえ~察しがいいな。便利な能力を持ってんじゃねぇか」
広樹の想像以上の物分りのよさに感心するサイ。そんな彼女を無視して広樹は自らの疑問を目の前にいるアイにぶつけた。
「能力ってのは……一体なんなんだ?」
「では聞かせてやる。本題と行く前に、私達能力者について話そうか」
そう前置きをして、いきなりアイは話し始めた。
「話は中世ヨーロッパ初期の時代にまで遡る」
中世ヨーロッパの初期。それは戦乱、疫病、政情不安定等があった暗黒時代の真っ只中にあり、その時から能力を持った人々が急激に増えたという。
一説には能力を覚醒しやすい過酷な状況だったため能力者が急激に増えたと言われている。
(過酷な状況……もし俺が能力を覚醒した原因があの大きな事故だったら説明がつくな)
「能力を覚醒した彼らは自らの能力を持って様々な問題を解決しようと行動をした」
だが当時の人々の認識は地域により能力者は神から祝福された者か、悪魔が化けた物と認識していたのだ。
「これにより前者の能力者は神の使いと崇められ、後者の能力者は処刑されていった」
「処刑された能力者に罪もない人たちもいたがそれもお構いなしだ。能力者と分かった途端チョンパ、だ」
そう言ってサイは首を掻き切るジェスジャーをする。
「……前者の能力者は?」
「発狂して失踪したよ」
広樹の疑問に答えたのはアイだ。その予想外の答えに広樹は驚愕した。
「能力者には便利な能力を持っているがそれと同時に一つデメリットが存在する」
「能力者は『孤独』を嫌うんだ」
アイの言葉を引き継ぐようにサイが答えた。
能力者は本能的に『孤独』を嫌う。
これは誰かに教えてもらえるのではなく、実際に検証したわけでもないが、能力者の誰もが皆、『孤独』を嫌い『孤独』を恐れる。
全ての能力者は皆、潜在的に『孤独』を忌避しているのだという。
「だが俺にはそんな傾向が見られないぞ」
「それはまだ能力が覚醒して三日だぞ? 気付かないのも当然だぜ」
「神と崇められた前者は自分のことを本当に想ってくれないことで周りから逃げ、悪魔と決め付けられた後者は自分のことを理解されない絶望の果てに自殺した」
当然能力者は抵抗した。
自らの事を理解してもらうために、自らの仲間を守るため、時に国を治める政治家になり、時に自らを害する敵と戦争をしたこともあった。
だが結果は芳しくなく、ある一人の能力者によって全ての能力者を連れて表舞台から消えるという結果で終わる。
「…………」
あまりの壮絶な『能力者』の歴史に広樹は息を呑んだ。
「時代が移り変わると共に、人々の認識が変わり僅かながらも能力者が裏舞台を支えていた。だが昔に起こった出来事からのトラウマにより能力者は決して表舞台に立つ事は無かった」
「それが能力が一般的に認知されていない理由なんだな?」
「あぁそうだ。……ふわぁ、と失礼」
目をゴシゴシと擦り、眠気を払うかのように眉間をマッサージするアイに、広樹は改めて彼女の姿を見やる。
パッと見中学生のように見える身長だが、凛とした雰囲気に姿勢がまっすぐに伸びていて、スカートの下から見える細くもしなやかに引き締まった脚ということから子供というよりもアスリートのように感じる。
それに外見もかなり整っている。
十人中十人満場一致で美少女と判断するだろう。
まぁそれは妹であるサイも一緒だが。
残念なことといえば、その目元にはかなり黒ずんだ隈があることだろうか。
「……寝不足そうだな?」
広樹は思い切って聞いてみた。
何故なら初対面時から眠そうにしており、先程の能力者の歴史に関する説明の合間合間にあくびをしていたからだ。
「あぁすまない。私の能力は燃費が悪くてな。能力を使った日は猛烈な眠気に襲われて十八時間以上寝ないといけないのだ」
「は? え、えっと随分……強烈なデメリットだな……?」
「強力な能力ほど得てしてデメリットも強烈なんだ。それが自然の摂理さ……ふわぁ」
広樹はそこでふとあることを考えた。
強力な能力を使う際にデメリットが生じることもそうだが、広樹自身の能力も主観的に見てもかなり強力だろう。
だがアイの言う通り、その対価としてデメリットを受けるというものが自然の摂理なら、広樹が使うこの能力のデメリットは一体何なんだろうか。
発動の条件は緩く、得られる効果は高く、対価らしい対価は今の所ないのだ。
そこに、サイが会話に入ってくる。
「誰かさんに会いに行ってもその誰かさんが出かけてたからな。余計な能力を使っちまったって言う訳だよ」
言っている内容は皮肉をかなり入れた物ではあるが、口調や態度で冗談を言うような感覚だろう。だが実際に能力の副作用で苦しんでいるアイを見て、広樹は申し訳ない気持ちになった。
まぁほぼ全てが偶然ではあるが。
「すまん……」
「この後タップリ寝る予定だからいいし、斎藤広樹が謝る事もない。全ては私の鍛錬不足から来ているからな」
あっけらかんと喋るアイに、広樹は自身が抱いていたアスリートの印象を変えた。
刀を持っているせいもあるか、彼女を例えるなら武士という印象が強くなったのだ。
そんなサムライガールとの会話でひと段落着いたのか、そう感じたアイは次の内容を話すために口を開いた。
「そしてここからが本題だ」
ようやく本題に入る。
といっても、これまでの話から斎藤広樹は既にアイ達の目的について感づいていた。
――能力者は表舞台に立つことは無く、一般的に認知されていない。
(それはつまり彼女達の目的は……)
「斉藤広樹。私達と一緒に来て欲しい」
能力者である、斉藤広樹を仲間に誘うことであった。