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ブーストアッパー ~加速する強化の先で~  作者: クマ将軍
第一章 失った時間を取り戻すために
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第19話 闇を暴く怪物

 言うまでもなく、広樹の各能力は度重なる『強化』で超人と化していた。


 記憶力、学習、応用、洞察、観察、推測、判断能力。


 あらゆる能力が完全に人としての限界を超えていた。

 それはまるでたった一つの手掛かりのみで次へと繋げていくシャーロック・ホームズみたく、広樹の能力は異常と呼ぶに相応しい物だった。


 だからこそ今回の長政との対決で広樹は推測した。

 まゆりを見失った失態、知らされた情報とは違う能力。冷静さを欠いた長政は、冷静さを取り戻すために先ず自身の目的を再確認をした。


 その際視線がかつてまゆりが居た筈の場所に向け、僅かに表情を動かした。そこで広樹はこう推測する。


(つまり長政は、俺を抹殺するという任務よりもまゆりを最優先した)


 その僅かな動作から推測した広樹は、次に長政と対話した内容を思い出す。

 何故まゆりの事を執着するのかという問いに長政は家族だからと答えた。勿論それは嘘だと分かっており、逆に言えばまゆりの事を『家族』だと思っていないのならば、まゆりの事をどう思っているのかと考えた。


 次に思い出したのはまゆりが話した『雛の巣』の人体実験。

 攫われたのは主に珍しい能力を持った女性の能力者。人体実験の内容は『交配』という名称を使っていることから何をされているのかは察するものだろう。


(能力者の交配実験……か)


 それは能力者の歴史に存在する、優秀な能力を持った男女を掛け合わせる事でより優秀なもしくは両親の能力を受け継いた子供を作る実験である。


 当初複数の家族からのアンケートで経過観察するだけの合法的な実験ではあったが、ある日一人の研究者が皆に隠れて珍しい能力を持った男女複数を拉致し、強制的に子供を作らせた事件が起こった。

 結果的に生まれた子供には約過半数が両親と似たような能力を有している事が分かり、その瞬間能力者をまるでサラブレッドの競走馬に仕立て上げるかのように倫理に背く狂気が始まった。


 手軽に優秀な能力者を手に入れられる。

 そんな狂気的な能力者の入手手段が世に広まり、生まれた子供を食い物にしようとあらゆる非合法組織が現れたのだ。

 だがその事にブチギレた伝説の能力者であるクロノスが、かつての仲間達と共に完膚なきまで壊滅に追い込んだのがその歴史の終着点であった。


 以上がこの作戦を遂行する上でクロノスが語った内容である。


 つまり『雛の巣』にいるまゆりの事を実験素材と認識している可能性がある。だがしかし、そこにまゆりが話した内容を付け加えれば話が変わる。


 ――まゆりが烏丸家に協力する代わりに『雛の巣』の人達に手を出さない事。


 この事から烏丸家は現在『雛の巣』を使った実験を行っていない事になる。

 ならば実験を行っていないにも関わらず何故まゆりを執着しているのか。実験を担う『研究者』が推定『実験素材』であるまゆりを実験を止めてまでまゆりの条件を呑み、まゆりを最優先事項として執着しているその理由とは何か。


 その答えは、経過観察という答えに他ならない。


「つまり、まゆりは『実験素材』ではなく『実験体』。もしくはお前ら烏丸家が求めた『成功例』という『貴重なサンプル(・・・・・・・)』の可能性が高い」


「……」


 長政は何も反応を示さない。だがそれでも長政が何を思っているのか広樹には想像がつく。

 驚愕、動揺、そして恐怖といった感情を長政はたった僅かな手掛かりのみで真実に近付いた広樹に抱いていたのだ。


(それでも……完全じゃない)


 そう広樹が語ったのは確かに真実に近いがそれでも足りなかった。決定的に足りない物がそこにあり、広樹は未だに真実に辿り着いていない。

 だとしても長政は楽観できなかった。何しろこれまで僅かな手掛かりでここまで辿り着いた広樹だ。これからの展開が長政にとって非常に悪い事であると、そう予感させる程に長政は楽観視出来なかった。


「だがこれでも完全じゃない……そうだろ? お前の顔を見なくても分かってるさ。だからここで次に来るのがお前が『三つの能力』を持っているという事だ」


 ――あぁこれで、何もかもが終わった。


 長政は諦めた。その単語が出てきた瞬間に、長政は目を瞑った。


「作戦開始前、俺は個人的に能力者についての論文を調べた。そして見つけたのが『能力の複数所持に関する論文』だ」


 どんなに優秀な能力を持っていようとも様々な能力が使えれば、それは即ち全知全能に等しい。こういった特化よりも汎用的な考えを思いつく人種は能力者の中にいたらしく、それに関する論文が書かれた書類が山ほどあった。


 だがどれもが結論にやはり『能力は一人につき一つ』という言葉で締めくくられていたのが殆どであった。

 その理由として、能力者全員の脳に備わっている『異脳』という存在が大きい。


 能力者として一番重要な器官が脳だ。能力者の脳を解剖すれば一部に黒ずんでいる部分があり、それが異脳と呼ばれる能力を発動する上で重要な器官である。

 能力を発動する際に異脳が持ち主の超常現象に対する認識を利用して超常現象を再現させるのが能力を発動するということであるが、どうして認識が関わってくるのか説明が長くなるので割愛する。


 つまり異脳が能力者の認識を利用して発動できる容量がたった一つだけ。それもその認識で確定すれば他の能力が使えなくなる。例外なく覚醒時に自身の能力を認識するのでそれで確定されるのだ。


 それが『能力が一人につき一つ』という絶対的なルールであり、能力の複数所持に対する回答である。


「だけどお前みたいに能力の複数所持という存在がいる以上、例外がいるのだろう。だがな、そんな例外でも先ずは現実的な観点から検証して例外として認められなくちゃならない」


 そういって広樹は長政の体に指を指した。


「勝手で悪いが、お前の体を調べさせてもらったぜ。それで先ず見つかったのがこれだ」


 そして広樹が取り出したのは、錠剤らしき物が入ってる小型の入れ物。ラベルには何も貼られておらず、錠剤の正体を表す名称はどこにもなかった物だ。


「そして最後に……お前の体だ」


 今の長政は胸元部分がはだけて地肌が見えていた。

 そこには『脳を(かたど)った』タトゥーが二つ胸に彫られていた。


「『能力者で一番大切な器官は脳』『能力者である長政の胸に脳を象ったタトゥーが二つ』そして『長政には能力を三つも持っている』……これがどういう意味か分かるよな?」


 怒りしか抱かないその非道に、広樹は手に持った錠剤入りの入れ物を握りつぶした。最早長政の命をゴミのように睨むようになったその眼差しに、例え激痛で動けない長政でもゴクリと唾を飲み込む。

 殺されるという恐怖の他に、真実を得てしまった事で自身の終わりが確定された事実から諦めのような表情を見せる長政に、広樹は己が辿り着いたのが正真正銘の真実だと確証を得てしまった。


 ――それが余計に怒りを加速させていく。


「……実験は『交配』だけじゃなかった。優秀な能力者を手に入れる実験の他に、複数の能力を持った能力者を作り出そうとした実験が……もう一つあった」


 やり方は分からないが、能力者の脳を取り出して対象にタトゥーとして脳を刻印する。それで刻印された能力者には能力が使えるようになり、脳を取り出された能力者は現在どうなっているのかは分からない。


「だがそれは錠剤を所持しているお前を見れば、その『移植』実験には副作用があったのかもしれない。そしてまゆりはその『移植』という実験の中での唯一の『成功例』だとしたら、お前達がまゆりを執着する理由に説明が付く」


 そこまで言って広樹は深く、深く息を吸って吐いた。

 頭の中は冷静さを保っていた。自身の推論に穴が無いように見えるし状況証拠は揃っている。そして長政の反応からそれらが全て真実だと証明しているような物だ。


「だが所詮は俺の感覚で得た推測で、酷い思い込みなのかもしくは間違っているのかも知れない。物的証拠も裏付ける証拠も何もない。こんな化物になった俺の考えじゃ何もかもズレているのかも知れないし、狂っているのかも知れない」


 だからこそ、信じたい。


「これは……嘘だよな? 拉致して人生壊して実験を繰り返して、全ては最強の能力者を手に入れるためだって? こんなド外道な行いが嘘で俺の方が間違っているって言ってくれよ」


 広樹はそう言いながら長政の顔をこちらに向けるように両手で掴みながら動かす。それに痛む長政だが広樹は長政の瞼を無理矢理開かせて広樹を見るように固定させる。


「俺の目を見て否定しろよ。こんな怪物になった俺でも嘘を見抜けるのが得意なんだ」


「……! ……!」


 顔を精一杯逸らしてまるで必死に抵抗する長政を見続ける広樹。

 だが、やがて興味を無くしたのか広樹はパッと両手を離して長政を解放した。


「……状況証拠、ただの推測。本当の答え合わせはてめぇらの当主とやらでやらせて貰う」


「……うっ、ぐ……」


 恐怖から解放された反動だからか、長政はそのまま涙を流し身体を震えさせる。そんな姿を見ながら、広樹は耳元に手を当てて声を出した。


「もしもし」


『……はい』


 すると広樹の脳内に女性の声が響き渡った。

 彼女は『念話』の能力を有している今作戦の伝達役だ。広樹は彼女の事をテレさんと呼び、今の今まで広樹とクロノス率いる作戦参加者を念話で繋げていたのも彼女である。

 これで広樹がまゆりを押し出したタイミングでクロノスがまゆりを自身の下に引き寄せたのも『念話』使いであるテレの力が大きい。


 しかし今の彼女の声には震えが混じっていた。


「……聞いていましたか?」


『うん……ずっと、ずっと最初から聞いていたよ……』


 それはまるで怒りのようでいて、悲しみのような感情を含めた声音だった。

 広樹の推測を聞いて、それが本当に近い物だと気付いて、それでいてそんな出来事があったにも関わらず気付けなかった自身の不甲斐なさにテレは自身を制御できていなかった。


「テレさん……コイツを回収するように回収班に伝えて下さい」


『分かった……』


「……俺は学園長の下に向かいます。それでは」


 そう言って広樹は耳に当てていた手を下ろした。

 前には未だに泣いて蹲っている長政の姿があり、広樹はその姿を尻目に展望台から見える街の景色を見渡した。


「早く……生まれていれば……早く、能力に目覚めていれば……」


 半分無意識に呟く広樹の目には、怒りが宿っていた。

 その怒りの矛先は、果たして烏丸家か。


 それとも無力な己自身に対してか。

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