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ブーストアッパー ~加速する強化の先で~  作者: クマ将軍
第一章 失った時間を取り戻すために
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第16話 三つの計画

 なまじ『強化』という強大な力を持つため複雑でかつ綿密な計画を建てる必要はなく、大まかな方向性を考えるだけで十分であった。

 強化という力はあまりにも強く、それだけで力尽くで動いても何とかなるからだ。


 しかしそれでも力尽くで動くのは限界がある。

 そこに味方や人質の存在があれば、慎重に動かなければならないだろう。


 故に、この計画の目的に主に三つのミッションがあった。


 一つは義理の妹である斎藤まゆりを烏丸家から引き離すこと。だが引き離す際、広樹はまゆりの本心を聞き出す必要があった。

 八年も烏丸家で生活していたまゆりには万が一の可能性として能力による洗脳ないし、幼少からの振り込みで洗脳されている可能性がある。


 その場合広樹はまゆりを気絶させ月の地下世界(アンダームーン)にある隔離施設にまゆりを預け、彼女を烏丸家に関する事柄から一切の接触を封じようと考えていたのだ。


 だがそれもまゆりの本心を聞いた結果、広樹はそのような事をせずに済みクロノスを通じてまゆりを彼女のもとに移動させた。

 広樹の協力者であるクロノスの助けとなるために。


 まゆりをクロノスの下へと預け、一人で展望台に立っていた広樹はこの計画の二つ目のため、次の行動に移すことにする。

 広樹はポケットの中から、一つの小型無線機を取り出した。

 それはまゆりに気付かれずにくすねておいた物で、暫くそれを眺めていた広樹はそのままイヤホンを自分の耳に差し込んだ。


「あーあー、こほん。此方(こちら)まゆり応答を願います」


 そして数回の発声練習をした後、なんとまゆりの声(・・・・・)で無線を繋げたのだ。


『まゆりか!? 何故先程の連絡を取らなかった!? いやいい今からそちらに向かう、その男は危険だ!』


 無線を繋げた瞬間、無線の相手である長政がいきなり無線越しに大声で声を荒げる。


 広樹によって生み出された部下の悲劇に、暗殺対象とまゆりの失踪。

 果てにそのまゆりからの連絡が来ないまま時間が過ぎたのだ。

 彼が警戒しているのも無理はないだろう。


 そんな長政に対し広樹は、まゆりの声で広樹がいる展望台の場所を教える。

 度重なる強化により、広樹の体は既に人間を越えるスペックを持っているため、つい先程会話した人物の声帯模写など完璧に行えることができるのだ。


 そうしてそんな広樹の声を聞いても長政は広樹だと気付かずに、今から行くと残して無線を切った。


「警戒してるのか、油断してるのか分からないなぁアイツ……と、お?」


 無線を切り、広樹の独り言が呟かれてたった数秒。

 その数秒に広樹は自分の後方から空間の揺らぎを捉える。


 通常ならば空間の揺らぎなぞ常人には捉えられないだろうが、広樹はかつてバスタースパイダーと呼ばれるエネミーが現れる際に使われたディメンジョンの空間能力を認知、学習したことがある。

 それと似たような現象が今、起きていたのだ。


 言うなればそれは水の波紋。


 池に浮かぶ水面が波紋を起こし、徐々に広がりそして縁に着いた途端、再び波紋を起こした中心に集束されていく感じ。

 そのような感じが一瞬で何回も繰り返されることを空間の揺らぎであると、表現するのならば広樹はこう表現するだろう。


 そしてその空間に一瞬で現れた相手はつい先程会話した長政であった。


「まゆりっ……では、ない?」


「さっきぶりだな、長政さんよ」


「貴様……斎藤広樹か!? まゆりはどこだ!? 先程まで俺はまゆりと会話していたはずだ!」


 一瞬で現れた長政は目の前にまゆりの姿はなく、代わりにその兄であり今回の暗殺の対象でもある斎藤広樹がいたことに混乱し始める。


「そんなことより、もっと重要なことがあるだろう」


 しかしそんな長政に対し広樹は無視するように会話の流れを断ち切り、懐から物を取り出して長政に向かって飛ばした。


 完全な不意討ち。

 その不意討ちを突かれた長政は、自身の左足から激痛を感じた。


「ぐうっ!?」


「ようやく出会えたな長政……敵と敵が出会うときどうなるか知ってるよなぁ?」


 長政は激痛を感じた自身の左足を見る。

 そこにはなんと鉛筆が全体の半分まで長政の左足に貫通していた。

 恐らくは広樹の強化系武装型による強化で、まさか強化をしてるのが鉛筆だと思っていなかった長政は顔をしかめる。


 だが結局のところ、広樹には自身以外に強化を施せることは出来ない。

 これは敢えて身近なものを使い、あたかも強化して戦っているという相手の油断を誘う広樹の狙いである。


「……まゆりはどこにいる」


 思ってたより冷静な長政の質問に広樹は目を細める。


「……この期に及んで何故まゆりの心配をする?」


「まゆりは我ら烏丸家の養子であり家族だからな……家族が家族を心配して何の問題が?」


「テメーらが家族を語るんじゃねぇ」


 鉛筆を長政に投げつける。

 投げつけた先は、先程長政の左足に貫通した鉛筆。

 新しく投げつけられた鉛筆は数分狂わずもとあった鉛筆に突き刺さり、更に奥へと貫通させたのだ。


「がぁっ!?」


「お前らに身内を心配する資格があると思うか? 善人ぶってるんじゃねぇぞ外道共が」


 長政に向かってゆっくりと近づいていく広樹。

 長政の足に怪我を負わせ、動けなくさせて彼から情報を得ようと考えこのような事をしたのだ。


「クックック……まゆりは烏丸家の一員だぞ斎藤広樹ィ……彼女の将来性は見事だ……! 能力は強力で殺しもすぐに慣れ、己の目的のために己を犠牲にする素晴らしい逸材だ!」


「だからまゆりを繋ぎ止めておくために、敢えてまゆりの条件を飲んだんだな? まゆりが自らの意思で烏丸家に従うために」


「その方がまゆりの力を最大限に活かせるのだからな……しかしここ最近まゆりは我ら烏丸家の意向を逆らうようになってきた……」


「そしてまゆりの力を使う事で積み重ねて来たものがあらかた積み終わり、これからはまゆりの力ではなく、まゆりの存在価値を高めるために彼女の大切なものを奪うってことか」


 要は彼らはまゆりの力ではなく、道具としての価値を求め始めたのだ。

 まゆりの意思を奪い、まゆりが烏丸家に対し従順となる道具としての価値が。


 そしてそのきっかけは広樹がメタリカ相手に勝利したという情報が彼ら烏丸家に知り渡ってしまったことが全ての始まりだったのだ。


「クク……やけに詳しいな斎藤広樹……。流石ノウン(既知)と自称することはある。一体どこから情報を仕入れたのだ?」


「テメーに教える義理なんて無い。それよりも答えろ。お前らがそこまでしてまゆりに執着する理由はなんだ? わざわざてめぇらが強くなるために拉致した女性達に対し手を出さないという条件を飲んでまでまゆりを執着するその理由が」


 一歩、また一歩と長政に近付いていく広樹。

 そんな広樹の問いに長政はゆっくりと口を開いた。


「貴様に教える義理はないな」


「何? ……っ!?」


 広樹が長政に近づいた瞬間、広樹は長政の瞳から反射された自身の姿を見る。

 そこには無人の刀が広樹の後方に独りでに浮いており、尚且つ広樹に向かって振りかぶってくる光景があったのだ。


「くそっ!」


 刹那の内に振り返り、広樹は手に持った定規(・・)で刀を弾く。


(弾かれた? しかし、今が好機!)


 長政は自身を空中に転移させ、空中に待機させていたもう一振りの刀を掴み、そのまま広樹に向かって振り下ろす。


「転移に、浮かぶ刀だと? 一体どうなってやがる!」


 だがそんな長政にとっての奇襲に、広樹はもう片方の手に持っていたもう一つの定規で受け流したのだ。


「これも受け流した……いやそれよりも定規だと!?」


「俺の定規は……ちとばかし切れるぞ!」


 先程受け流した定規とは別の定規による一閃。

 長政は転移により逃れるも僅かに頬を掠める感触がした。

 走る痛みに違和感を持ち、掠めた頬に触れるとそこには血が流れていたのだ。


(一閃が見えなかった……これも奴の強化能力か?)


 実際は定規を音速レベルで振りかぶっただけである。

 どんな物体であっても小さい面積による圧力が掛かれば切れるという原理である。


 因みに定規による刀を弾く、または受け流せたのは単に定規の腹を使って刀の腹を押し出しただけである。


「だが幾ら強力な能力を持とうとも、能力者である限り貴様に勝ち目はない!」


 その言葉と共に、長政の周囲に無数の刀が現れる。

 まるで長政を守るように、ゆらゆらと浮かんでは沈む動きをする刀の群れに、長政は広樹に向かって笑みを浮かべた。


(空間系の能力か? それなら転移も刀が浮かぶ原理も分かるが……)


「シッ!」


 長政の掛け声と共に広樹に向かって一斉に襲い掛かってくる無数の刀。 広樹はそんな刀の群れに両手の定規を使って弾く。

 その間、長政は一瞬で広樹の懐に転移し、弾かれた刀を拾い広樹に向かって横に一閃を放つ。


「左足をやった程度じゃ機動力は失われないか……っ!」


 向かってくる斬撃に広樹はタイミングを合わせ、両手の定規を重ねて白羽取りをする。


「何!?」


「フンッ!」


 体ごと捻り、肘を刀の腹に体重を乗せる。

 するとパキンという音と共に長政が持っている刀が折れた。


「くっ、バカな!?」


 驚愕。しかし流石烏丸家一の実力者ということか、長政は体を硬直させる様な真似をせず、直ぐ様広樹から離れるように転移をする。


 両者に空く距離。


 見れば長政の左足に貫通していた二本の鉛筆は、先程長政が膝をついていた場所に転がっていた。

 どうやら長政は転移をするときに、転移する対象を選べるようだと広樹は推測をする。


(それに長政は転移する際、体を移動する向きに合わせて動くという予備動作をしていた)


 ならば長政が転移してもそこには未だに慣性が働いているということ。


 広樹は一度、クロノス学園長から空間系の能力について質問したことがあった。クロノス曰く、転移には転移後にも慣性が働く物と働かない物があるとのこと。


 前者は自分と目的地にある間の空間を切り取って移動するワームホール形式。


 この場合例え高所からの落下中に、プールなどの安全地帯に転移したとしても落下中の加速度は変わらず、体に強烈な衝撃を受けるという。


 対して後者の自身の座標と目的地の座標空間を交換する転移方法だ。


 この場合間にある空間を切り取るのではなく、ダイレクトに座標を交換するため、前者のような落下中の加速度が転移後に影響を与えるような事はないのだ。


 その事から、長政の転移は前者のワームホール形式ということになる。

 だがここで問題なのが、彼が使う刀にはワームホール形式のような感覚は無いということだ。


 慣性に囚われないその自由な動き。

 空間系の能力であるなら刀を空中に固定するなどして浮かせるというのならば分かるが、ゆらゆらと動く姿はとてもではないが空間系の能力では想像がつかない。


(これに近い物ならばポルターガイストだが……待てよ?)


 広樹はそこで考えを加速させる。


 先程思い浮かんだポルターガイストという単語。

 それを行う能力なら広樹は知っている。


 物が空中に浮かぶという現象、それは広樹の知り合いであるサイの能力である『念力』と似ていないのかと。


(まさか……それならアイツは転移と念力の二つの能力を持っていることになる。常識じゃあ考えられない)


 だがそもそも長政に限ってその一人につき一つの能力という常識が当てはまらない例外であるならば?


 ――確かめなくてはならない。


 広樹達が考えた二つ目の目的。


 それは烏丸家の一番の実力者だと言われる長政を烏丸家から引き離し、足止めをすること。そして尚且つ長政から烏丸家の情報を入手することが、計画の内の一つ。


(また確認することが増えたな……)


 そう思った広樹は、メタリカが構えていた構えを真似り、長政に対してどう処理するのか考えを始めた。

この作品はトンデモ科学を採用していますが、なるべく現実の法則に基づいて描写しようと思っています。

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