第14話 宣戦布告
長かったので分割。
ようやく出会えた家族。
長年かけても助けられなかった家族。
そして、妹は人を殺す仕事をしていた。
その事を知った俺はどう思ったのか。
勿論、悲しい気持ちになった。
人を殺すということが一体どれ程の苦痛を感じるのか、俺にはまだ分からない。
ただ分かっていることは、妹には俺よりも大切な人を見つけたということだ。
それを何故か嬉しいと思った俺は、困惑するまゆりに笑みを見せた。
「さ、話の続きをしようか」
「……何を言っているの?」
「何って……さっきまではお互いの過去について語り合っただろ? それじゃあ次はもう決まってるじゃん」
「決まってる……?」
「そう、これからについてさ」
まゆりを烏丸家から引き離さなければならない。まゆりを暗殺者に仕立て上げ、子供の超能力者を拉致して利益を産み出す道具にする烏丸家を許してはならない。
全てを知った俺は、烏丸家に対して消えることの無い怒りと殺意を抱く。それは烏丸家がこの世から消えてなくなるまで、決して消えない物だ。
◇
それは、広樹とまゆりが今後について話し合うたった数分前の出来事。たった数分。そのたった数分の間、まゆりと支援に関する話をしていた時にそれが起こった。
『こちらノウン。お前達は烏丸家の者だな?』
部下からの無線。だが聞こえてきたのは部下ではなかった。
声音は少年。声を加工しているわけではなく、ただ自然な少年の声。だが長政にはその声の持ち主が部下にいる筈がないと分かっていた。
――それならばこの声の持ち主は誰だ?
『あぁ答えなくてもいいぞ。大体分かっているからな』
「貴方は何者ですか。一体どうしてその無線を?」
部下が長政の代わりにその無線に答えた。
「……俺は先に名乗ったぞ、|メガネの女《・・・・・
》」
その一言に、長政達の目は驚愕することになった。
確かに相手の言った通り、現在無線で連絡をしている部下はメガネをかけていて、性別は女性だ。
だが何故彼は彼女の特徴を言い当てられたのか。
『驚愕しているようだな、そこの目付きの悪い男』
目付きが悪い男性はここには長政しかいない。
だが長政は先程から一言も言っていないのだ。
それなのに長政の存在を言ったばかりか、長政の特徴を言い当てた。それはつまり、彼はどこかでこちらを見ているということ。
「……確かノウンと言ったな。成る程、既知を表す言葉か。お前が私達を知っているとでも言いたげな名前だな。それで? お前の目的はなんだ」
その間、長政は部下に彼の男の居場所を突き止めるようにアイコンタクトで伝える。
この無線を使っている機械を辿って、どこの班の無線なのかを調べさせるのだ。恐らくそこにこの連絡相手の存在がいる筈だと、そう確信して。
そして長政の質問を聞いた彼は、
『外道どもをぶっ飛ばす』
短い言葉でそう言った。
「……は?」
『それが俺の答えだよ長政』
「貴様、何故俺の名前を」
『お前が教えたんだ。自分の事をそう名乗ったじゃないか』
「俺がいつ貴様に……まさか」
つい先程、長政は自分の名前を出した記憶があった。
――こちら長政。どうしたまゆり?
(もしやまゆりと無線で連絡してたときか!? だがあそこにはまゆりの周囲に人影はいない。まさか傍受されていた?)
『さて長政、お前が今思い出してる最中申し訳ないが、俺はこの事を伝えに来た。――これは宣戦布告だよ。てめぇら烏丸家がしてきた仕打ちを何倍にして、送り返してやる』
「そんな事を言うとは貴様、余程烏丸家に恨みを抱いているようだな。なんだ? 最愛の恋人でも殺されたか? それとも家族を殺されたか?」
『それと同じような事をお前らにやり返そう。烏丸家当主、烏丸源十郎だったか? そいつをお前らの前でそれ相応の報いを見せてやるよ』
その言葉を聞いた瞬間、長政の頭は怒りに染まる。
「貴様ァ! その言葉を言ったからには貴様は生かしておけんぞ! 今更許しを請いたとしても許しはせん! あまつさえも我が当主を侮辱した事を、後悔するがいい!」
長政にとって烏丸家の当主である烏丸源十郎は神に等しい存在であると共に、自らの父親と同じような存在でもあった。
故にその神に等しい存在に害を加えると発言をした無線の少年に対して、長政はここ最近出してこなかった激情を露にしたのだ。
その言葉に。
『はっ、許しを請うだと?』
その時長政は、今まで感じたことの無い『殺気』を感じた。
『誰が、誰に、許しを請うだって?』
手足が震え、呼吸が出来ない。見れば傍にいる部下は、その濃密な殺気によって気絶していた。
――なんだ、何が起きている……この俺が、震えているだと?
『勘違いするなよ。立場的に許しを請うのはお前らだ。そして俺はお前らを許さない。いいか? もう一度言おう。俺は、お前らを、許さない。つまりお前らはもう後戻りが出来ないという事だ』
また一段と上がる濃密な殺気。最早長政は、膝を地面に着くことでしか立てられなくなった。
『てめぇらの居場所を、てめぇらの親を、てめぇらの存在を、塵一つ残らず潰してやる。――これは宣戦布告であり予言だぜ、長政。その事を烏丸家の連中に伝えろ』
――俺の妹を暗殺者に仕立て上げやがった事を後悔するんだな。
「……妹っ? まさか貴様……斎藤広――」
――プツ。
無線が切れたと同時に、長政の周りを纏っていた濃密な殺気も消えた。そして同時に理解する。先程会話していた相手はこれから殺そうとしている斎藤広樹だということを。
「……くそっ! こちら長政、まだ見つけてないのか!?」
『……こちら、偵察班……それが……』
「一体どうした!? あのクソガキは見つけたのか!?」
『い、いえ! それらしき人影は見当たりません! ですが現場には……』
口ごもる部下に、長政にイライラが募っていく。やがて意を決したのか、部下は長政に報告した。
『人が……並べられていました……』
「なに……?」
「私と長政様の傍にいる二人の計三名以外……支援に来ていた総勢十二名が……『DIE』という、文字に……並べられていました……!」
「……っ!」
『息はしていますが……酷い……ほぼ全員半殺し状態になっている……。これじゃあ今回の作戦に参加出来ません……』
全滅という言葉が長政の脳裏に過る。
「一体……何が起きているんだ……」
冷静ではいられない。一体誰がこの状況を予想出来ようか。まさか標的を殺すために来たはずが、その標的に返り討ちに合っているという状況。
「そうだ……まゆりは今どうなっている!」
双眼鏡を覗く。その先は喫茶店のテラスがあり、そこにまゆりと斎藤広樹がいるはず。
なのにそこには、既に二人の姿がいなくなっていた。
「いない……まさか移動したのか? ……こちら長政、応答しろまゆり。……まゆり?」
無線が繋がらない。
「……見失った?」
だが長政には、それが偶然でも事故でもなく一人の少年が行ったものだと漠然と分かった。




