第3話 姉妹との邂逅
昨日、能力の検証や誘拐事件の事もあり寝たのが深夜の3時過ぎ、だが斉藤広樹は朝の6時に起きた。僅か3時間弱しか寝ていなかったが不思議と体の眠気や疲労は感じられない。
「身体が軽い……これも能力のお陰なのか?」
自身の能力が発動している様子も見受けられない。
試しに能力を使わない素の状態で運動すると予想通り身体能力が上がっていた。
広樹は元から運動神経が良かったため普段運動はしていないが、流石に運動せずに身体能力が上がるほどの身体はしていない。
すると答えは自身の持っている『強化』の能力だ。
どうやら能力を発動していなくとも常に思考が冴えてることや完全記憶能力の他にも学習能力も上がっているようだ。
ふと机の上に置いてあるスマホに着信が入っているのに気付く。
相手は小学校からの腐れ縁である水無月光だった。
「もしもし、コウか? どうしたんだ?」
『おっはーつっても昼だけど漸く電話に出てくれたか』
水無月の言葉に時計の針を見る。
針は既に昼の時刻を指しており、自分が夢中に能力について考えていたことに若干驚く。
「もう昼か……そういや漸くってなんだ?」
『一昨日ニュースでお前の家の近くで大きな事故起きたじゃん? それでお前に電話したのに出ないからさ』
一昨日に起きた大きな事故というとあの大型トラックの衝突事故しかない。だがあの事故から直ぐ、恐怖と驚愕が入り混じった人々の視線から逃げるようにあの場から離れたためニュースは知らなかった。
「あーマジか、俺一昨日出かけててさ。それで結構遠出したんだよね。気付かなかった」
流石に能力を検証しに森に出かけてたという話は誤魔化した。
ふと広樹は水無月の言葉に疑問を感じた。
「なぁコウ。俺そのニュース見てないんだけどどんな事故だったんだ?」
『お? 流石広樹だな。やっぱこの話に食いつくか』
昔から人助けをしている広樹の事を知っていたため、水無月は予想通りと言わんばかりに一昨日起きたニュースの内容を話す。
そして広樹が分かったことは以下の三つだ。
大型トラックが歩道を歩いている少女に衝突しそうになったこと。
衝突する寸前、電柱が少女を守ったということ。
電柱に衝突したトラックは大破したということ。
事故の内容は実際に起きたものと差異があり、そして何よりそこに斉藤広樹に関する情報は無かった。
先ず、少女が歩いていたのは歩道ではなく横断歩道だ。
そして電柱が少女を守ったのではなく広樹は少女を助けるためにトラックの前に飛び出し、あわやトラックに衝突する前に偶然能力が覚醒しトラックを受け止めた? のだ。
だがその様子を助けた少女や周囲の人々にも目撃されたにも関わらず、ニュースのインタビューではその様な証言は無かった。
不可解な現象に広樹はある一つの考えに至った。
(……まさか隠蔽されてる?)
すると突然玄関の方からチャイムが鳴った。
「おっと誰か来た様だ。それじゃ一旦電話切るわ」
『なんかそれフラグっぽいぞ? おうそれじゃな』
そこまで時間が経っていないにも拘らずチャイムは何回も押されているので広樹は電話を切り、急いで玄関に向かう。
「はいはーい! 今開けますよー!」
その時、広樹は水無月から聞かされた話について考えていたため、まともに確認せずにドアを開いた。
そこには中学生ぐらいの少女が立っていた。
外見は十人中十人は美少女と呼ぶほど整っていたがその目蓋の下には隈が出来ており、その表情は何やら不機嫌な様子だ。
そんな様子の美少女が片手に刀を帯刀しながら立っていたのだ。
「貴様が斉藤広樹だな?」
そしてトドメにこの台詞である。
広樹はそっとドアを閉めた。
「な、なんだ? 俺なんか恨まれるような事したのか?」
少女は不機嫌な様子で刀という凶器を持ち、斉藤広樹という人物について確認してきた。このことから広樹はあの少女が自分の事を殺しに来た刺客だと思考してしまったのだ。
「おい! 開けろ斉藤広樹! 何故ドアを閉めた!?」
そう言いながら強くドアを叩いてくる少女。
斉藤広樹は身構え、最大限に警戒を強めるも、突然ノックが止み先程の少女とは違う少女の声が聞こえる。
「ちょ、姉ちゃん! そんな不機嫌な表情をして刀を持ったら誰だって怖がるぞ!」
どうやら刀を持った少女の妹のようでその妹が姉に諌めている様子だった。
広樹は警戒を維持してドアの向こうを覗き込むように開ける。
「えーと斉藤広樹……だよな? 別にどうこうする訳じゃないんだ! ただ話がしたくてな!」
そこには先程の中学生ぐらいの少女とは違い、広樹と同い年ぐらいの少女が立っていて、その後ろには申し訳なさそうな表情をした刀を持った少女がいた。
「さっきはごめんな、俺の名前はサイ。でこっちが……」
「姉のアイだ。先程はすまなかった。寝不足で苛ついててな……」
そうやって謝ってくる姉妹を見た広樹は警戒を幾らか解いた。
「あ、ああ大丈夫だ。こっちこそ早とちりしてごめん。……それで話は?」
だが家にはまだ上がらせない。
確かに先程は刺客だと勘違いし警戒したが誤解を解けた今、冷静になった頭が未だに警戒を完全に解くなと警告をしたのだ。
そして広樹は先程の水無月との会話を思い出した。
(俺に関する情報を隠蔽するということは自分達にとって都合が悪いから隠蔽したということ)
ではその都合の悪い情報とは?
能力により強化した推理力で斉藤広樹は一つの結論をした。
――あのトラックを受け止めた能力に関することだ。
もしその結論が正しければ、近いうちに自身を隠蔽をした張本人ないしその関係者が来るということまで推理したのだ。
「その様子だと私達が来た理由に感づいているな?」
「っ! ……やはり」
刀の少女の指摘により斉藤広樹は一瞬強張る。
「そうだ。私達は貴方に『能力』について話しをしに来た」