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ブーストアッパー ~加速する強化の先で~  作者: クマ将軍
第一章 失った時間を取り戻すために
29/210

第10話 動き出す烏丸家

今年最後の更新です。

 まゆりが知っている兄の知識は、一週間に一回烏丸家が調べてきた兄の近況報告でしか知らない。

 最初は兄の生活様相に関する情報しか聞いていなかったが、月に存在する地下世界在籍の超能力者二人が突如、超能力を持たないはずの斉藤広樹と接触したことを確認したことから始まった。


 この事から烏丸家の諜報部は、斉藤広樹が超能力に目覚めたのではないかと推測をした。

 その事を聞いたまゆりは兄が自身と同じ超能力者になったことに歓喜し、烏丸家の面々は新たな脅威に警戒を強めたのだ。

 何故なら超能力を持っていない時点でどこから入手したか分からない情報で烏丸家が任務のために潜んでいた隠れ家を暴き出し、あと一歩でややこしい事態になると戦慄していたのだ。

 それが超能力が覚醒したということは即ち、まゆりを取り戻す確率が上がり、裏世界で笑い者になる恐れがあるということ。


 そのため烏丸家はこれまで以上に警戒を敷くことになるが、超能力を得た斉藤広樹の行動は異常の連続だった。


 何せ諜報系超能力を持つスペシャリストでも追跡出来ないほどの移動速度により見失ったこと数回。

 それほどまでに動いたにも関わらず朝早くから何やら行動し、諜報部の面々を疲れさせたという出来事もあった。

 しかしその直後に前代未聞のエネミー襲来が起きたのだ。お陰で斉藤広樹以下超能力者二名の行方は知れず、ようやく掴んだ情報は、月の地下世界内の病院に昏睡状態で入院しているという事が、潜入していた諜報員からの情報であった。


 それから一年。


 その間、月では破壊級エネミーという尋常ではない力を持ったエネミーが二体襲来するという事件を得ながらも斉藤広樹を隠れながら見張っていたのが烏丸家の諜報部が活動していた内容である。


 まゆり自身も兄が入院しているという情報は聞いていた。だが事前に聞いていたのは兄の容態は安定しており、外傷も見当たらないと聞いていたのだ。


「お兄ちゃんが……死んだ? そんな……どうして……」


「恐らく過去にエネミーと戦った時に出来た傷により息を引き取ったのじゃろう」


「デタラメな事を言わないで。諜報部の人は外傷は見当たらないと言っていた」


「それが内部だったら? 実は儂らは一年前のエネミー襲来によりどうして斉藤広樹が昏睡状態に陥っていたか調べていたんじゃ。その結果……エネミーとの戦いから帰還した斉藤広樹には脳が損傷するほどの怪我を負っていたと分かった」


「……それが何? あそこには『時空』の能力を持つクロノスがいる。例え死んでいたとしても彼女ならお兄ちゃんを生き返らせることができる」


 そう言って烏丸家の当主を睨むまゆり。幾ばくの睨み合いが続いた後、烏丸家当主がため息を吐いた事で終わる。


「……賢くなったのう、まゆり。素直に信じていれば良いものを」


「嘘にも満たない話に信じる要素はあるの?」


 だが実際は死んだと聞かされた瞬間、まゆりは心臓を掴まされる程の不安と動揺を感じていたが、何とか表面に出さないことに努めていただけである。


「どうしてその様なことを?」


「まゆりが絶望すれば扱いやすくなると思っていたからじゃよ」


「そんなことを微塵に思っていない事は分かっている。早く要件を言って」


 苛立ち混じりの問い詰めを目の前の老人に叩き付け、まゆりの苛立ちと共に周囲の重力が軋みを上げた。そんな状況にいるにも関わらず、目の前の烏丸家当主は余裕をもってまゆりの顔を見る。

 そして次第に目の前の老人は笑い声を上げた。


「くっくっく……かーっかっかっかっ!! ならば要件を言おう! まゆりよ、お主……兄の命と『あやつら』の命……どちらを選ぶ?」


 その言葉を聞いた瞬間。まゆりの思考が真っ白に染まった。


「な……どうして……あの人達が出てくるの……?」


「実は先日、お主の兄が目覚めたという情報が入った」


「答えて……あの人達は関係ないはず!」


「そして今日、お主の兄がメタリカと模擬戦を行い勝利したという情報が入った」


「なっ……!?」


 メタリカに勝利。その言葉を聞いた瞬間、まゆりは目の前の老人が何を考えているのかを察した。

 メタリカの名前は超能力者の歴史を学べばクロノスという名前の次に出てくる生きる伝説である。


 屈強な身体はどのような攻撃をも通さず、その拳は幾万の兵隊を凪ぎ払ったというクロノスの配下にして盟友。クロノスから『時空』の加護を得た不老不死の存在。

 その様な相手に模擬戦でありながらもまゆりの兄が勝ったという。それが事実なら烏丸家がどのような判断を下したのかは想像に容易い。


「私に……お兄ちゃんを殺せというの?」


「お主の兄には幾度も驚かされたものよ。超能力を持っていないにも関わらず、あと一歩で烏丸家に近付いたという事実。しかも今度は超能力が覚醒し、あのメタリカ相手に勝利したというではないか!」


 今でもまゆりを助けようとするその執念に、そして巨大な力をも凌駕する力をもった存在に。

 彼と敵対している烏丸家なら当然、斉藤広樹という存在はこの上なく脅威に値すべき存在であった。


「私が……その任務を受けると思う?」


「受けるさ……お主には守るべき存在がいるのだから」


「ッ……私は……!」


「拒否権はない。あったらこうも露骨に脅す訳が無かろう?」


 つまり拒否した瞬間、彼らはまゆりが大事にしている存在を殺すということ。兄の命か、『彼女ら』の命か。幾ばくかの時が過ぎ、まゆりはゆっくりと口を開いた。


「分かりました……その依頼……受けます」







 場所は月の地下世界、アンダームーン。

 そこに超マンモス校である『超能力学園』の学園長室にて、超能力学園の学園長であり、この超能力社会を牽引した生きる伝説であるクロノスがいた。


 彼女は今コーヒーを飲みながらこれからの事を思い馳せていた。『時空』という強力な能力を持つ彼女であっても万能ではなく、どのような使い方であっても必ず一点だけ制限されているのが『時空』の正体である。


 かつては自身の能力についてかなりの自信があった彼女だが、それは破壊級エネミーの襲来により砕かれ、久しぶりの無力感と初めての恐怖を味わった。

 数世紀を生き、レアな能力も強力な能力をも見てきた彼女だが、未だに自身の能力を越えるほどの能力を見たことがなく、このままでは万が一彼女がいない状態に陥れば、誰が代わりに皆を守るのか生まれて初めて焦りを感じ始めたのだ。


 しかしそんな彼女の脳裏にとある一人の少年が浮かび上がった。名前は斉藤広樹。類を見ない異常な性能を誇る強化能力を持ち、助けが来れない状況にいるにも関わらず破壊級エネミーから生還出来た能力者。

 事実、戦闘能力であれば盟友の中でトップクラスの実力を持つメタリカに勝利した実力を持っているのだ。


 メタリカの言うように矛盾した信念を抱えている不安要素もあるが、彼ならばと自身の後継者になれるかもと密かに期待していた。

 そんな今後のことを思い浮かびながら、彼女はふと、サイから頼まれていた情報を思い出す。


「烏丸家……ね。まさか違法集団の一つが地球に潜んでいたとは」


 かつて幼い能力者を拉致し、家の利益のために使い捨てる事件があった。当然そんな非人道的な行いを見過ごすクロノスではなく、瞬時に取り締まりを行ったがどうやらその取り零しがいたらしいということが、広樹が寝ている間に集めた情報である。


「しかし日本という国に潜んでいる事は掴めたけど、探知系能力者でも正確な居場所を突き止められないというのは変ね……」


 アンダームーンにいる能力者を探す系統の能力者は贔屓目無しでかなりの優秀であると自負しているが、そんな彼らでも見つからないというのはかなりの異常である。


「もしかして裏に誰かが協力してる? あの子達の能力を掻い潜る程の隠密系能力者があちらにいるのかしら……。一刻も早く使える情報を集めないと広樹君に悪いわね……」


 そう言って頭を抱える学園長だが、突如廊下に通じるドアからノックの音が聞こえる。


「学園長、斉藤広樹です」


 どうやらドアをノックしたのはつい今しがた別れた斉藤広樹からだった。


「あら、どうぞ入って。今日は模擬戦で疲れたでしょうから休憩しようって言ったのにどうし……本当にどうしたのそれ?」


 広樹がやって来たことに疑問を覚える学園長だが、広樹が部屋に入った瞬間に驚きの感情を露にした。

 何故なら広樹が部屋に入ると同時に、広樹は部屋の中央に向けて簀巻きにした人間を投げ入れたのだ。


「むーっ! むーっ!」


 しかもご丁寧に口も縛られていた。


「……広樹君、どうして彼女を簀巻きスタイルにしたの?」


 見れば外見は若い女性であり、服は事務員の格好をしていた。クロノスも彼女の事を事務員の一人と記憶しており、何故広樹が彼女にこのような事をするのか混乱している頭を冷静にして質問をする。

 だが広樹から答えられた内容は驚愕に値するものだった。


「彼女、烏丸家のスパイです」


「は……? ……え?」


 学園長は驚愕のあまり口を開き、呆然とスパイと断定された事務員を見ると、彼女は動きを止めて目を見開きながら広樹の顔を見ていた。

 そのような反応を見た学園長はこれまで見てきたスパイが見せる僅かな動揺をしている光景を思いだし、彼女がスパイであることに確信をもった。


「嘘でしょ……」


 まさか頭を悩ませていた物がこうも都合よく早く進展するとは思ってなかった学園長は、呆然とそう呟いた。

それでは皆さんよいお年を!

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