第9話 進むべき道
本日2話目です。
前話を読んでいない方は前話をお読みください。
模擬戦が終わり、広樹は先程のメタリカの話を思い浮かべていた。そんな広樹に、気まずい気持ちでサイが声を掛ける。
「あー広樹、その……勝った、な」
「……うん、勝った。でも考えることができた」
「……そっか」
先程の会話はサイも聞いていた。これまでと言っても一年前になるが、広樹と一緒に戦ってきて、広樹の笑みや絶望的な状況でも必ず何とかしてくれるという安心感に救われたこともあって、メタリカが話した内容にあまり心当たりはなかった。
だからなにも言えなかった。それでも広樹はこの模擬戦に勝ち、メタリカの試験に何とか認められたということは喜ばしく思い、広樹自身もメタリカの言葉を受けて前に進もうとしている事に安心していた。
「さて広樹君、当初の目的である能力の再使用にどれくらい進歩出来た?」
あの殺し合いですっかり忘れていたが、元々この模擬戦は実戦による荒療治を目指していた物である。実際はメタリカが広樹の事を試すための建前だったが、一応にも広樹の能力である『強化』の発現を確認していたのだ。
「……あの激痛を耐えて耐えて耐えきった先に、ようやく能力を出せた」
「広樹やったじゃん!」
「普通の強化で一秒未満しか持続出来ないけど」
「……あー、いやあの」
「もうサイちゃん、一喜一憂し過ぎ」
そんなサイに苦笑いをした学園長は、次にどうして広樹が能力を出せたのか真剣な表情で考察を始める。
「……スピリットという破壊級エネミーに能力を封じられようとした瞬間、広樹君は頭痛を感じた」
だが後に広樹の能力により、スピリットの能力を封じる力を上回る程までに抵抗力を強化。完全に封じられる前に隙をついてロードに一矢を報いた後に帰還したというのが、広樹が一年間昏睡状態に陥るまでの状況である。
そして帰還した広樹は、その強化された自己治癒能力により外傷は見受けられなかったが、幾ら万能を誇る広樹の強化能力でも破壊級エネミーレベルの攻撃に完全に回復することはなかったのだ。
「その証拠が能力の使用不可って訳だな」
「サイちゃん、正確に言うと能力は使用できるけど効果が発揮するまで強烈な頭痛により能力が途切れるというのが正しいわね」
「だが俺はこの戦いでようやく発現できた」
「恐らくヒントは広樹君の『強化』能力の発動条件である、集中する事とイメージする事が重要ね」
そしてこれがこれまで数々の超能力者を見てきた学園長の見解である。
「能力使用時に起きる頭痛の際、広樹君は頭痛による能力の中断を防ぐために集中を継続。そして同時に自分が、強化を意地でも発動させるという強烈なイメージをし続け、やがてそのイメージを反映するように強化能力は徐々に後遺症を凌駕し始めた」
その結果、広樹の回転蹴りに強化が付与されメタリカの首を抉ったという。
その学園長の見解を聞いた広樹は、早速自身の能力を発動しようとする。もし学園長の予想が正しければ、今の広樹は例え一秒だけでも能力を使えるはずである。
果たしてその結果は……。
「『強化』………………ッ痛!?」
成功である。但し使用間隔は予想通り一秒。普通の強化であれば事足りるが、これが全身を強化させる『全力強化』や、一点のみに全力で強化する必殺技『一点全力強化』では一秒だけでは足りないのだ。
「そうシリアスにならないで広樹君。貴方には強化された異常な学習能力がある。それによりこれから能力を使用する度にどんどん使用時間が延びるかもしれないわ」
「まぁそうだな、訓練ならいつでもオレの所で受け付けるから思う存分試せばいいし」
能力は使用できたが制限が出来た。だがそれでも改善出来る余地があるため、広樹はここまで協力してくれる二人に感謝の気持ちを抱かずにはいられなかった。
「さぁこれから夏休みが終わるまで後半月よ。それまでに何とか改善していきましょう!」
「……そうだな」
頷く広樹の脳裏には能力の制限の他に幾つか思い浮かべる物があった。
破壊級エネミーの脅威。己に生じた矛盾の信念。そして、幼き頃に拐われた義理の妹の行方。
一年の空白を得て、広樹の歩みはここから進み始めた。
◇
日本のとある場所。深い森の奥に日本家屋が建てられており、その縁側を一人の少女が歩いていた。
「……お兄ちゃん」
そう呟く彼女の名前は斉藤まゆり。
斉藤広樹の義理の妹であり、かつて親を亡くしながらも大好きな兄と共に静かに暮らしていた矢先に、突如烏丸家と名乗る黒服の男たちに拐われた少女であった。
拐われた理由はただひとつ。
「烏丸まゆり。ただいま参りました」
「おお! 彼女が例の『重力使い』か!」
まゆりが辿り着いたのは一つの応接間。
そこにはまゆりの事を重力使いと呼んだ往年の男性と、何を考えているのか分からない老人がいた。
「まゆりよ。こちらの方がまゆりを『嫁』にしたいと申し込んだ雉島家の次期当主じゃ」
「そうですか」
つまりはお見合いである。だがまゆりはそれを何ともないように答えた。
「重力の能力持ちは非常に貴重だ。烏丸家の当主が私とまゆり殿の縁談を許可していただけるとは思っていなかった」
「ほっほっほ、まゆりが貴殿と結婚すれば我が烏丸家の威光が高まるもの。これを拒否する理由はござらん」
本人を前にして隠さずにこれは政略結婚という事を言い放った老人、烏丸家の当主にまゆりは目を細めた。
「善は急げ、是非私との結婚式を始めようじゃないか」
「僭越ながら」
急ぐ男性の言葉を遮るようにまゆりが言葉を紡ぐ。
「私はこの縁談を辞退したいと思います」
「は?」
「はぁ……」
そのまゆりの言葉に、雉島家の次期当主はポカンと目を見開き、烏丸家の当主はまたかとため息を吐いた。
通常政略結婚に本人の意思は必要なく、家の代表者が定めればその通りに従う必要があるのが政略結婚である。
だがまゆりはその事を知ってか知らずか、辞退する意思を明確に表したのだ。それもこれから夫となる相手の目の前で。
「貴様……一体どういう権利で辞退すると」
「見知らぬ男性、それも加齢臭臭い男は誰でも嫌です」
「なっ!? 貴様、私が下手に出ればなんという侮辱の数々……ッ! 貴重な重力使いの上、容姿が良いだけで何でも許されると思うなよ小娘風情が!」
「雉島殿」
「止めるな烏丸家御当主! 政略結婚に小娘の意思は必要ないとその身体に教え込んでくれるわ!」
「ええ、どうぞ」
女性をもの扱いする男性にまゆりは怯えひとつも見せず、あろうことか余裕をもって両腕を広げてその場に佇む。
「触れるもんなら」
まゆりの挑発を聞いて、激昂した雉島家の男性は腕を伸ばしてまゆりに襲い掛かる。男性の腕がまゆりに近付いたその瞬間。
男性の腕が何もない所であらゆる方向に曲がり、潰れた。
「ぎゃあああああ私の腕がああああ!!!」
「はぁ……おい長政」
「はっ、ここに」
「当主殿……! た、助け……助け――」
「殺せ」
その一言により雉島家の次期当主の命は潰えた。
「まゆりよ、何故挑発した。これで十八回目だぞ。お主がわざと挑発し相手を再起不能にしてきたのが」
「だったらもう二度とこのような事を止めるべき」
「まぁ次期当主がいなくなった家を操る事で実質的に烏丸家の力が上がって来ているがな」
(このクソジジイが……)
つまりこれからも止めるつもりは無いらしい。目の前の老人が意図することを察したまゆりは、そのあまりの酷さに普段罵倒の言葉を言わないにもかかわらず内心目の前の老人に対する罵倒を思い浮かぶ。
「それでまゆりよ。まだその症状は治らないのか?」
「まだ」
老人が言う症状、それは今現在まゆりの能力が暴走状態にあり、まゆりの半径一メートル圏内に入った生物無機物を問答無用で重力の奔流により潰すという事になっていた。
原因は烏丸家の人間がまゆりを拉致したその日。唐突過ぎる兄との別れ、見知らぬ人間の登場。たった一日で起きた出来事に幼いまゆりの能力が暴走したのだ。
それ以来数年間能力の制御に力を入れ、今では制御すれば生物でも無機物でも潰されることは無くなっていた。
だが依然制御をするという意思がなければ、彼女の能力は暴走したままである。
「……なら良い。治ったら言ってくれ」
だが周囲の人々には、この暴走状態は無機物のみに対して無害になるように制御出来たと告げてある。それはひとえに自身の貞操のため。
彼女の能力を狙う政略結婚に対してあくまで不可抗力による事故であると見せなければ結婚されてしまう。
(それにお兄ちゃんは必ず助けに来る……)
まゆりは未だに自身の兄が助けに来てくれるという希望を持っていた。
事実、これまで烏丸家に協力する条件として兄の近況報告を聞き、兄が未だにまゆりを助けるために情報を集めていたことや、まゆりが任務のために隠れていた隠れ家の場所を暴き隠れ家に突入したという出来事があった。
だがその前に事前察知する能力者により隠れ家を離れていたため、未だに兄との再会は果たしていないが、このような出来事が数年間起きていたという事があり、まゆりは必ず兄が助けに来てくれるという確信があった。
烏丸家の当主があることを言うまでは。
「なぁ……まゆりよ。非常に残念な知らせがある」
「……何?」
「お主の兄……斉藤広樹が亡くなった」
「……え?」




