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ブーストアッパー ~加速する強化の先で~  作者: クマ将軍
第一章 失った時間を取り戻すために
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第7話 殺伐な模擬戦 前編

本日二話目の更新です。

『命に関わる戦いを経て、また能力者生命に関わるほどの損傷を受けたお主に、生温い方法で自身の能力が使えるとどうして分かる? 逆に考えるんじゃ、自身の生命に関わるほどの出来事に遭遇せねば、能力が戻らないだろうと。古来より続く最も適切且つ確実な治療法がこれじゃ。これは荒療治なのじゃよ小僧』


 言っている事は滅茶苦茶のそれである。まるで一昔前の、壊れたテレビがあれば叩くと治るというような方法を、人間に実践しようとしているのだこの筋骨隆々の老人は。


 しかし広樹が選択できるのは、受けるという選択肢しかなかった。もしこの方法がダメならば学園長もしくはサイが即座に反論するはずである。ただ二人はメタリカの言葉を聞いても何も言わない。いやそもそもこの二人が広樹をこの訓練館に連れて来たということは、既に了承済みである可能性が高いのだ。


『あぁ分かった。その提案を呑むぜ』


 こうして広樹とメタリカは模擬戦を行なうことになった。二人の邪魔をしては拙いので、学園長とサイは訓練館の観客席に移動し、今この広場にいるのは広樹とメタリカの二人となった。

 二人の距離は約三メートルほど。二人共直立に立ち身体中に気力を練りながら、学園長の合図を待つ。


 一瞬の間が空き。


「――両者、構え」


 そして一斉に構えを取る広樹とメタリカ。広樹の構えはアクション映画で見た構えの見様見真似だ。それ自体は別に問題ないが、メタリカが取っている数々の経験から裏打ちされた構えを見るとどうにも迫力が劣っているように見えた。


「――始め!!」


 その言葉とともに、メタリカは一気に広樹との距離を詰める。対する広樹は、エネミーとの戦いから相手をぶち殺している感覚は身についているものの、不良みたいな人間はともかく、こうして何かしら戦闘に通じている人間と対決するのは初めてであり、学園長の合図を聞いて一瞬の躊躇を取った。


 勿論その隙を逃すメタリカではなく、メタリカは一切の躊躇を見せずに広樹の心臓・・の部分に拳を繰り出した。その狙っている先に広樹は一瞬驚愕するも、冷静さを取り戻す。


 メタリカの移動速度は捉え切れる。拳の速度もそれほど速くない。広樹は冷静にメタリカの拳を下から拳を押し当て受け流そうとする。


 受け流そうとして……後悔した。


(――重、い……!?)


 広樹の受け流す力よりもメタリカの拳の威力の方が上だったのだ。このままでは上から力で捻じ伏せられ、広樹の心臓へと到達するだろう。その事を予感した広樹は、その前に身体ごと捻りメタリカの拳をこじ開けながら懐に入っていく。


「なっ……!?」


 メタリカの驚愕したかのような声が聞こえた。その声を無視して、広樹はメタリカの鳩尾へと肘を突きつけた。メタリカの距離を詰めるための突進に、広樹の体重ごと突き出した肘は、そのまま威力を高めながら鳩尾に突き刺さり、メタリカは苦悶の声を発しながら吹き飛んでいった。


「……クリーンヒット、何だけどなぁ」


 だが肘から感じた大よそ人間とは思えない筋肉の硬さに広樹は驚き、顔を顰めた。事実、吹き飛んでいったと思われるメタリカだが、その実吹っ飛んだ距離は約三メートル程度。最初の位置とほぼ同じ距離だ。それもメタリカの笑みを浮かべた様子を見る限り、大したダメージを与えられていないことは予想に容易いことだった。


「やるのぉ小僧……反射神経はワシのを優に超えている、が」


「…………」


「ちと威力が足らんのぅ」


 世界最硬の鉱石でさえも素手で砕く広樹に、威力が足りないと発するメタリカ。しかし鳩尾に何も痕が無いことからメタリカの言っていることは事実としか思えない広樹は、舌打ちをした。


「さぁ来い小僧。――まだ始まったばかりじゃぞ?」


 瞬間、メタリカから敵愾心と殺気を感じた。


(どうして、目の前にいるジジィは俺に敵愾心を向ける?)


 少なくとも広樹は、メタリカに何か恨まれるような事をした覚えは無い。だが広樹に向けられた敵愾心や殺気。そして先程の広樹の心臓に向けて放たれた攻撃。これらのことから、目の前にいるメタリカは広樹を殺そうとしていることが分かる。


(――ウダウダ考えても仕方が無い)


 次は広樹からメタリカに向かって仕掛けに行った。狙うは顔面。そのまま拳を突き出しその後の対応を見て、臨機応変に対処する。未だにメタリカの戦い方を理解していないため、取りあえずの様子見で対応を見ようと考えた広樹の戦術だ。だがメタリカが次に行動した内容によって、広樹を目を見開いた。


 メタリカは、そのまま頭を突き出し広樹の拳を防いだのだ。


(これでも俺の異常な力は理解している。だがそれを頭突きで防いだ? 正気なのかこのジジィ?)


 身体検査で学園長とサイの何回も愚痴を聞いたため、広樹は自身の異常さについて理解している。それを未だに能力が使えない状態でも、現状出せる全力で殴ったにも拘らず、頭蓋骨にヒビの一つでも出れば危うい頭部を、一切の躊躇無く防ぎに使ったのだ。このメタリカという男は。


「――やはり威力が足らん!!」


「グッ……!?」


 押し返される。そう感じた広樹は、即座に拳の力を抜き後ろに倒れる。そしてそのまま腕の力で飛んで跳ね起き、メタリカにドロップキックを食らわせる。


「ぬんっ!!」


 だが腹筋に力を入れたメタリカにより、広樹は逆に吹き飛ばされてしまう。


(反射、反応、判断、速度。先ず間違いなく身体能力は俺の方が高い。だが威力が通じない)


 それ即ち、メタリカの頑丈さが広樹の膂力を凌駕しているということなのだ。


「ウォオオオオオオ!!!」


 体勢を立て直した広樹に、メタリカの飛び蹴りが襲う。広樹は瞬時に膝を折り曲げ、仰向けにしゃがみながら回避。


「ふっ!!」


 右、左。交互に拳を放つ広樹に、メタリカもまた交互に拳で相殺する。メタリカの一撃一撃が広樹の拳よりも威力が高いが、広樹は自身の拳が押し負かされる寸前で拳の軌道を捻じ曲げ、メタリカの拳をはじき返すことで、一見互角の戦いを演じていた。


(軌道は見える。だけど一撃が重すぎる。タイミングよく弾き返さないとこちらが殺られる……ッ!?)


 ここで広樹に頭痛が走る。意図せぬメタリカという強者との戦闘により、広樹は図らずも集中してしまったのだ。そしてそれが能力を発動するキーなのだ。能力を使うと頭痛が起きてしまう後遺症は、戦闘中でも依然残っているまま。そして頭痛が起き、隙を生じた広樹を逃すメタリカではなかった。


「ちぇえすとぉぉおおお!!」


 瞬間的に広樹の懐に入ったメタリカは、腰に力を入れ渾身の拳を放つ。朦朧しながらも広樹は、両腕を十字に構えて防御する。


「ぐぅお!?」


 ミシ……ミシ……。嫌な音が、広樹の両腕から聞こえた。そのまま広樹は吹き飛ばされ観客席付近の壁にぶち当たる。


「……痛ぇ」


 見れば防御した両腕は、青く腫れていた。


「腫れるだけで済むような攻撃を加えた訳じゃないが……ワシと負けず劣らずの頑丈さを持っておるのぉ」


 徐々に晴れていく砂埃の中から、メタリカの呆れていた声が聞こえる。強化によって感情の制御ができている広樹は、自身の腕から感じる痛みに顔を歪めていなかったが、砂埃の先で見たメタリカの突き出した拳を見て、目を細める。


「それが、ジジィの能力か……」


 メタリカの肘から先、それには黒い光沢を放つ鋼のような皮膚が見えたのだ。


「『硬化』能力……それがワシの能力じゃ」


 そして模擬戦が始める時に取った構えを取るメタリカ。次の瞬間、メタリカの腕にある黒い皮膚が全身に回り始める。その際メタリカが着ている上半身のスーツは、硬化によって膨張した筋肉により、上半身の裸体が露わになる。そこには過去に戦い、受けた傷が赤く光り、黒く染まったメタリカの身体にヒビのようなラインが浮かび上がった。


「『その』状態でワシに勝てると思うなよ小僧」


 それはつまり、メタリカは広樹に『強化』の能力を使って戦わないと勝てないと、そう暗に言っている。メタリカの全身に放たれる威圧と殺気が、赤く煌くメタリカの瞳に乗せて広樹を射貫き、闘気を更に練り上げる。


 広樹は考えていた。この模擬戦での勝敗はどのように決するのかを。通常の模擬戦は、相手の降参か気絶のどちらかが主だ。だがこれまでの戦い、メタリカの攻撃は全て広樹の急所を狙っていた。それは即ち、メタリカは広樹を殺す意思を持っているということ。


 そしてこの訓練館の死んでも生き返るという特性から、この模擬戦の勝敗は双方のどちらかによる死亡が勝ち負けを決める方法という可能性が高い。いや、実際にメタリカが広樹を殺そうとしている時点でその可能性で合っているのだろうと、広樹の強化された直感が告げているのだ。


「……やってやろうじゃねぇか」


「……ッ!」


 メタリカは、広樹から発せられた呟きを聞き、広樹の顔を見ると息を飲んだ。


(そう、その笑みだ……!)


 思い出すのは、遠隔支援室で見た広樹と災害級エネミーとの闘い。その本来であれば絶望を感じさせる戦いに、広樹は笑みを浮かべていた。それも見るものを恐怖させる残酷な笑み。まるで敵を徹底的に嬲り殺すと感じさせるような冷酷な笑み。


(見極めなければならん……こやつがこの超能力世界に相応しいか否かを)


 そして広樹もまた、目の前の人物について考えていた。メタリカはこの超能力社会の英雄である。メタリカはこの超能力学園の教師である。だが今は、自身の命を奪おうとする『敵』である。


(もしこやつが相応しくなかった場合――)


(このジジィは俺の敵だ。敵は――)


『――殺すのみ』


 奇しくも同じ発想に到達した二人は、再び闘気を燃やす。


 第二ラウンドが、始まる。

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