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ブーストアッパー ~加速する強化の先で~  作者: クマ将軍
第一章 失った時間を取り戻すために
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第6話 英雄メタリカ

「まさか……これほどとは……」


 身体検査が終わり、サイは今手に持っているレポートを見てそう呟く。それは広樹の身体検査で得られたデータが載っているレポートで、それに載っているデータは実に驚異的なものだった。


「どれもこれも、人間の限界を超えているわね……」


「それ専用の機械でさえもギリギリ耐え切れるレベルを、生身で余裕とか……」


「能力無しでも十分上級能力者と渡り合えるレベルだわ」


 人間の限界を超えた重力負荷を生身で耐え切り、最硬鉱石を拳で粉砕、あらゆる自然災害を模した状況にも無傷で潜り抜け、思考能力はコンピューターを遥かに上回り、記憶力は絶対。まだまだ測定で得られたデータは他にもあるが、どの結果を抜き取っても、同じような能力を持つ能力者と渡り合えるレベルの身体能力を持っていたのだ。


「これもう能力要らないんじゃないか?」


「確かにその気持ちは分かるけど、この程度・・じゃあ破壊級エネミーに勝てるレベルじゃないのは、サイちゃんでも分かるでしょう?」


「つくづく規格外だよなぁ……」


 今広樹は休憩室で休んでいる。いや正確には休憩室で待っているといったほうが正しいか。人間は疎か、それよりも頑丈な能力者でさえも測定というレベルを超えた、最早拷問と言っていいほどの測定を受けても尚、広樹には余裕があった。

 そのため休憩室で待っていると言うのは、数々の測定に疲れたから休んだのではなく、測定で得られたデータでどうやって広樹の能力を取り戻すのかを話し合っている学園長とサイを待っているということだ。


「能力の影響が凄すぎて、どうやって通常使用に戻せるのかまったく見当がつかないわね」


「身体に異常らしい異常は見当たらないからなぁ……いやまぁ別の意味で異常があったけど」


 これらの身体検査の目的は、今の広樹の身体に何か異常がないかという物を調べるのが目的だ。過去にも能力が使えない能力者の例はあり、それの大体が精神に何らかの異常が見つかったことや、身体に何かしらの異常があった場合が殆どだ。


 例として、過去に他者の身体に乗り移る憑依という能力者がいた。その能力者は、とある任務帰りで能力の使用が出来ない状態になっていた。任務の内容は、とある能力者の保護だったらしい。だがその能力者は自身の身体が常に変化している系統の能力らしく、その能力の特徴として、人間には見えないほどの異形な姿に変化していたらしい。


 憑依の能力者はその保護対象を探す際に、同僚である探知系統の能力者と一緒に探していた。そして探知系統の能力者は漸くその保護対象を見つけ、憑依の能力者はさっそくその保護対象に憑依をした。何故なら事前に貰った情報では、その保護対象は苛烈な苛めを受けていて、何時死に晒されるか分からない状態にいたのだ。


 だが憑依した時には既に何もかもが手遅れだった。保護対象は四肢をもがれ、あらゆる薬によって激痛を味わいながら実験を受けていたのだ。憑依した能力者は当然、その状態を精神にフィードバックされ、その直後に研究者らしき人間の手によって殺された。


 幸か不幸か、憑依先の保護対象は死んだが憑依しただけの能力者にとっては憑依先の肉体が死んだだけだ。憑依能力者の身体は無事だったが、直前に味わった激痛や死のショックにより暫くは廃人同然の精神状態だったらしい。


 仲間の治癒系統の能力によって徐々に回復していったが、その憑依の能力者は精神に重篤な損傷を受け、自力で憑依の能力を使用することが出来ない状態になった。酷い精神状態だったため、一時期は引退を勧められていたが、本人の希望により治療を始めたという。


 睡眠系統の能力によって、憑依したときの悲惨な状況を忘れるようになった後、その能力者は無事に憑依という能力を使えるようになった。だがその能力者の希望により、悲惨な状況を忘れても復讐心や執念などの感情を植えつけるようにお願いしたらしく、復帰したその能力者は、かつての保護対象を殺した研究者共に復讐をした。


 例として出した内容はかなり重い話だったが、このことから能力が使用出来ない状態になった場合、使用出来ないきっかけを探し、治せば今まで通りに能力の使用が出来るということだ。


 だが広樹の場合、身体的な異常は強化された身体能力によって逆に見つけることが困難になり、能力を使用した際に生じた頭痛から、脳の検査を行なったが異常は見つからず、それどころか通常の脳よりもかなり発達しているという結果が分かったという始末だ。


「きっかけが分からないんじゃあ、治しようが無いわね……ん?」


 とそんな時である。広樹の能力について悩んでいた学園長の元に、一通の着信がきたのだ。その通信の相手はメタリカ、と電話の画面に出ていた。


「もしもしメタリカ? ……ええ、彼は起きているわよ。でも今は問題が起きていてね――」


 それから暫く広樹の容態についてメタリカに話した学園長は、メタリカからとある提案を受けた。そしてその提案を聞いた学園長は、数瞬の思考の後、受け入れたのであった。




 ◇




「で? 今度は何をやるんだ?」


 休憩室で待っていた広樹は、学園長とサイによって再びどこかへと連れて行かれる。連れて行かれた先は、大きな文字で『訓練館』と書かれていた場所だった。大きさは大体日本武道館と同じだろうか。そんな場所に連れて行かれた広樹は、その大きな建物に目を見開きながら周囲を見渡し、前述の言葉を呟いたのだ。


「実は、貴方に会いたい人物がいるのよ」


「俺に会いたい人?」


「そ、貴方が出会ったことのある人物よ」


 そう言って学園長は訓練館の中に入る。サイも中に入ったところで、過去に出会ったことがある人物を思い出そうとした広樹は、自身が一人になったことに気付き慌てて中に入った。


 日本武道館とほぼ同等の大きさを持つ建物だったが、中の構造はそれよりも遥かに広かった。まるで外と中とでは空間が違うような感覚だ。そのことを学園長に話したら、学園長はよく気が付いたわねと言い、種明かしをする。


 どうやらこの訓練館は、エネミーや外敵などと戦う訓練を行なうために作られた施設で、学園長自らこの訓練館を作り上げたらしい。中と外の大きさが違うのは、地下世界中の能力者に対応する為に学園長は、自身の空間操作能力を使って広げているらしい。そしてこの建物の時間も弄っているため、万が一死人が出ても時間が巻き戻り死ぬ以前の状態に戻す機能も搭載してあると言う。


 とそこまで聞いて、広樹は訓練館にある広場の中央に、誰かが立っていることに気付く。


「久しぶりじゃなぁ……小僧」


 その声、そしてその大柄な体格。ここで広樹は思いだした。

 広樹にとっては数時間前の出来事だが実際は約一年前の出来事。ロードという、エネミーの襲撃事件の出来事だ。その時の事件に、援軍として来てもらった能力者がいることに広樹は思いだしたのだ。


「待たせたわねメタリカ」


 メタリカ。それは過去に学園長であるクロノスと盟友の証を誓い、クロノスによって不老と化している能力者世界の英雄の一人。そんなプロフィールをあの分厚いパンフレットに載っていたことも思い出した広樹は、無意識に唾を飲み込む。

 約一年前、様々な事件が起きていたため、援軍に来たメタリカの姿を良く見ていなかった広樹は、漸くその目で見ることが出来ることに緊張を感じたのだ。


 それは約二メートルにも及ぶ筋骨隆々の大柄な体格。それにフサフサな髭に、頭には牛の兜。


「……ん?」


 まさしくそれはヴァイキングと形容するのに相応しい姿。そんな彼が、スーツをピッチピチに着こなしていたのだ。


「何でスーツ!? ってか何でヴァイキング!?」


「ヴァイキングはワシの故郷の誇りじゃ。それにスーツじゃないと教育に悪いじゃろ?」


「その体格でピッチピチは逆にアカンて!?」


 図らずも微妙な方言で突っ込みを入れる広樹。そしてこの瞬間、広樹の中にあるメタリカという英雄像は儚くも崩れ去った。


「そんな……パンフレットに書いてあった英雄に期待してたのに……」


「時の流れは残酷じゃな」


「あんたに言われたくねーよ!?」


 そんな漫才をやっている広樹の後ろには、苦笑いを浮かべながら遠い目をしているサイと、腹を抱えて笑っている学園長がいた。


「うん……期待してたんだけどな……うん……」


 どうやらサイは、過去に広樹と同じ気持ちになったことがあるらしい。そんなサイに学園長は益々笑いが止まらなくなっていく。


「フフフ……ヒィ、ヒィ……あー面白かった。次の公演は何時になるの?」


「漫才じゃねーよ!」


「取りあえず、用件を済まそうか」


 この緩んだ空気をぶった切って、メタリカは広樹を呼んだ件について話を始めようとする。広樹も先程の行いを反省して、メタリカの話を聞こうと態勢を整えた。


「話は学園長から聞いた。小僧、お主は現在能力が使えないという状態だったな」


「まぁそうだな。能力を使用しようと集中すると、何故か頭が痛くなるんだ」


「それで検査をやって能力が使えないきっかけを探しているわけじゃな」


「まぁそんなことかな」


「――言っとくが、このままではお主は一生能力が使えないままだぞ?」


 その言葉に、広樹は目を見開く。


「エネミー襲撃という異常な状況。異常な強敵に、能力が使用出来ないと言う異常事態。そんな異常だらけな小僧が、お主基準で生温い測定とやらできっかけが見つかると思うか?」


「何が言いたい?」


「なーに、ただワシは提案しているだけよ。……お主、このワシと模擬戦をしないか?」


 模擬戦。その言葉に、広樹は眼を鋭くした。

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